初動不備、SARS教訓生かせず 中国・武漢肺炎 | 中国情報ジャーナル ディープな香港・中国・台湾

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1997年7月1日に英国から中国に返還された香港。1997年から香港に駐在したフリーランスライターが現場取材をもとにディープな香港、中国、台湾の最新情報を書き尽くしていきます。

初動不備、SARS教訓生かせず 中国・武漢肺炎
遅きに失した移動規制

ハイテク・車の武漢封鎖は大打撃
総力戦で愛国高揚、不満封じ

 

中国湖北省武漢市で発生した新型コロナウイルスによる肺炎は年末から春節(旧正月=今年は1月25日)前の「異変」を見逃し、中国政府の初動対応のまずさで感染拡大を防ぐ手立てを失った。感染情報の隠蔽体質が露呈した02年、03年の中国広東省での重症急性呼吸器症候群(SARS)の反省が生かされず、世界的な感染拡大だけでなく、自動車部品製造やハイテクの中核都市である武漢市が封鎖されたことで中国内外の経済への打撃は深刻だ。(香港・深川耕治、写真も)

 

 

 

▲宿泊したホテルから見た武漢市内の風景


新型コロナウイルスの発生源である湖北省の省都・武漢市は、人口約1090万人の中国中部の最大規模の工業都市、文教都市。殷代の都市遺跡が残り、周・春秋戦国時代の楚(そ)文化の発祥地であり、三国志で登場する赤壁も近い。

 

1911年10月10日に武昌(武漢市の一部)で武昌起義が発生し、辛亥革命が勃発。1912年1月1日、孫文を大総統(大統領)とする中華民国臨時政府が成立し、同年2月に清朝は崩壊している。現在、台湾で中華民国建国を祝う双十節は、この日を祝っていて、中国でも台湾でも双十革命(10月10日で10が重なっている)とも表現している。阿片戦争による清朝の腐敗が終わりを告げ、新しい民主国家樹立を成した誇りのような気概が武漢市内のあちこちで見られた。

 

▲武漢市内の武昌起義軍政府跡。1911年10月10日深夜に発生した武昌起義で辛亥革命が起こり、清朝が終わり、中華民国が樹立した。中華民国臨時大統領となった孫文の銅像が建っている


記者(深川)は辛亥革命100周年の時、現地を初めて訪れたが、市民は辛亥革命による中華民国建国は武昌蜂起がきっかけとの誇りを持ち、大学の数(国公立31、私立23)や学生数(約100万人)は広州市に次いで中国2位。中国版「鉄の女」と評される呉儀元副首相、世界ランク2位までいった元・女子プロテニスの李娜選手など有能な人材が多数輩出している。

 

▲辣腕を振るった中国の呉儀元副首相は武漢出身


武漢市は大河川の長江と漢江の合流地点にある中国内陸部の交通の要衝。北部の北京と南部の広州の中間地点にあり、南北を結ぶ高速鉄道や高速道路など陸路と長江で東西を結ぶ水路が交わり、電機や自動車部品の製造・物流の一大拠点だ。

 

▲武漢市内を流れる長江(揚子江)にはフェリーが往来し、水陸の交通の要衝である武漢市内の発展ぶりがよくわかる


自動車産業、ハイテク関連企業が集積しているため、1月23日から交通封鎖が始まり、湖北省内の主要都市も封鎖されたことで人とモノの移動制限が厳しくなり、供給網が寸断される深刻な事態に陥っている。供給網の乱れは中国経済全体に大打撃となり、長期化すれば世界経済への悪影響は大きく、海外企業は供給網の見直しも迫られそうだ。


日系企業が約160社進出しており、ホンダや日立製作所、ダイキン工業などは工場再開を春節明けから大幅に遅延させている。

 

▲武漢随一の観光名所、黄鶴楼。日本の中学生用の国語教科書(漢文)にも出てくる李白の代表的な漢詩「黄鶴楼にて孟浩然の広陵に之くを送る」で有名

 

▲武漢市内の観光地である東湖。朝日や夕暮れ時が素晴らしい

 

▲武漢市内の観光地である東湖。武漢肺炎でペットも大変だろう


武漢は湖が多く、淡水魚の料理が発達。海鮮市場で仕入れた料理は人気があり、広州と同じく、野生動物を食する野味料理も好むため、感染源としてコウモリなどが疑われている。中国での初期の感染者らは武漢市内の華南海鮮市場に出入りしていたため、同市場は1月1日に閉鎖。2002年末、広東省で新型肺炎(重症急性呼吸器症候群=SARS)が発生した際、やはり、野味料理を好む広東人がハクビシンを通して感染したとする説が濃厚となったように、今度はコウモリが疑われている。

 

中国や香港、台湾では新型コロナウイルスを「武漢肺炎」と表記し、日本のように、かなり言葉をソフトにするようなことはせず、伝えている。

 

▲新型コロナウイルスの感染源として疑われている武漢市内の華南海鮮市場


英文の週刊医学専門誌「ランセット」によると、第一感染者(男性)は武漢市内で昨年12月1日に確認されている。武漢市内の華南海鮮市場には訪れていないという。死亡した感染者は感染後、5日後に死亡。武漢市内の華南海鮮市場へ頻繁に往来し、妻も感染。1月2日までに41人が感染していたが、うち27人が同市場を訪れていたという。

 

▲新型コロナウイルスの感染源として疑われている武漢市内の華南海鮮市場。2020年1月1日に閉鎖された


昨年12月初旬から、遅くても中旬までに感染情報を発表や感染防止に対する初動対応ができていれば、春節の帰省大移動での感染爆発を起こさず、ここまで後手にならずに済んだはずだ。


新型コロナウイルスの発生は昨年12月8日、武漢市の内部情報として伝わり始めた。当初、中国政府はこの内部情報を否定していたが、昨年12月31日、武漢市政府は原因不明の肺炎感染者を初めて公表。SARSの教訓からの感染防止の危機管理はまったく生かされていない。

 

▲武漢市医療救治センターは新型コロナウイルスの感染患者急増の対応で混乱した


武漢市トップの馬国強・共産党委員会書記は「地方は国から権限を委託されて初めて情報公開できる」とした上で「今は恥じ入り、自責の念を感じる。早く厳格な措置を取れば結果は今より良く、全国各地への影響は小さく、党中央や国務院(内閣)を心配させることも少なかった」と初動の遅れを認めた。

 

▲新型コロナウイルスの感染者急増で対応に追われる中国の医療現場


1月9日に専門家チームが新型コロナウイルスによる肺炎と判断してから、習主席が同20日に「まん延阻止」の指示を出すまで10日余りあった。中央が沈黙する間に、例年通り、春節(旧正月)の大移動が始まり、ウイルスは国内外に拡散していた。


中国共産党も2月3日、習近平総書記(国家主席)ら最高指導部の会議を開き、「至らなかった部分を補っていかなければならない。わが国の統治システムと能力にとって大きな試練となり、教訓をくみ取らなければならない」と初期対応の不備をようやく認めた。

 

新型コロナウイルスによる肺炎は5日時点で感染者が2万人を突破し、死者も400人を超えている。

 

▲香港で2月3日から続く医師や看護師らのストライキ

 

2月4日、新型コロナウイルスの感染が確認されていた香港在住の39歳男性が、死亡した。中国本土以外で死者が確認されたのはフィリピンに次いで2人目で、香港では初めて。男性は1月21日に香港から中国湖北省武漢市に渡航し、香港に戻った後の1月31日に感染が確認され、隔離治療が施されていた。


防疫対策の不足が指摘される香港政府への市民の不満は高まっており、2月3日から続く医師や看護師らのストライキも拡大している。

 

香港の医師や看護師らでつくる労働組合は2月4日、中国本土との境界を全て封鎖し人の流入を止めるよう政府に求め、2日目のストに突入。

 

▲新型コロナウイルスの防疫対策に追われる香港政府。記者会見でマスクをつけていなかった香港トップである林鄭月娥月行政長官(左)の防疫対策に厳しい目が向けられている

 

香港政府はこれまでに、主要な14カ所の出入境ポイントのうち10カ所を閉鎖したが、労組側は「不十分だ」とスト解除を拒否した。昨年6月から続くデモで蓄積された市民の政府に対する不満が形を変えて噴出した格好で、「感染を拡散させる」中国本土への反発も強まっている。

 

中国政府は、今後、感染拡大を防げなかったことへの国民の不満を総力戦で封じようとするだろう。新型コロナウイルス撲滅に向けて結束させ、SARSの感染収束対策と同様、各省市で感染終息宣言を出すように競わせ、愛国高揚で党の求心力回復を図る見通しだ。終息の見通しが険しい場合、内政優先となり、習近平国家主席の4月訪日も危ぶまれそうだ。

 

新型肺炎(武漢肺炎)をめぐる動き
【2019年】

12月1日、中国湖北省武漢市内で新型コロナウイルスの最初の感染者が出る
12月31日 湖北省武漢市、原因不明の肺炎27人発生を公表

2020年1月2日までに41人が感染し、うち27人が武漢市内の華南海鮮市場を訪れていた

 

※武漢市政府、湖北省政府、中国政府にとって2019年12月の一ヶ月間の初動の対処に重大な決断ミスがあり、2002年の重症急性呼吸器症候群(SARS)の重大な教訓をまったく生かせず、感染爆発を招いたと見られる


 【2020年】
  1月 9日 中国専門家チーム、新型コロナウイルスによる肺炎と判断
    11日 武漢市、新型肺炎による初の死者と41人の感染を発表
    20日 習近平国家主席「まん延阻止」を指示、専門家「人から人への感染」確認
    21日 中国政府が全国集計を初公表、感染者291人
    23日 武漢市を交通遮断で「封鎖」
    24日 春節(旧正月)連休始まる
   25日 春節元日に共産党指導部が対策会議、感染者1000人突破
    27日 李克強首相が武漢市を視察、海外への団体旅行を禁止
    28日 死者100人突破
    29日 感染者6000人突破
    30日 世界保健機関(WHO)が「緊急事態宣言」
    31日 世界の感染者1万人に迫り、重症急性呼吸器症候群(SARS)上回る
(注)感染者数、死者数は発表日基準。 

 

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