朝令暮改の地方政府、混乱と焦燥なお 中国の武漢肺炎 | 中国情報ジャーナル ディープな香港・中国・台湾

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朝令暮改の地方政府、混乱と焦燥感なお 中国の武漢肺炎
習「一強」の求心力低下 上に政策あれば下に対策あり
ネット通販、医療は活況 免税を悪用、数値操作も

 

中国湖北省武漢市が感染源の新型コロナウイルスの感染拡大が中国以外で増加ぶりが顕著になる一方、中国内では新規感染数が減り始め、習近平指導部への不満増大をよそに世界に拡散した責任論よりも終息後の景気回復へ注力する動きが加速している。(香港・深川耕治)

 

▲3月2日、北京の清華大学医学部をマスク姿で訪れて研究員と談笑する習近平総書記

 


「武漢で勝利すれば湖北省で勝利できる。湖北省で勝利すれば全国の各省各市で勝利できる」。1日、湖北省指導組織副組長として中央から武漢入りして感染防止対策を行っている陳一新党中央政法委員会秘書長は武漢市内の新型コロナウイルスの感染拡大ピーク期がすでに過ぎたことを表明した。


陳氏は「武漢での感染初期は感染者の発病後、一週間で重症化し、感染拡散したが、全国から3万5千人の救護医チームを動員して新たな受け入れ病院の建設開院を急ピッチで進め、患者の病床数不足をカバーしたことで感染拡大のピーク期は過ぎたが、なお複雑な状況で決して楽観視できない」と話している。

 

▲「タイム」誌の表紙を飾った中国の習近平国家主席のマスク姿


中国の習近平総書記は3月2日、北京の軍事医学研究院や清華大学医学部をマスク姿で訪れ、新型コロナウイルスの感染防止対策強化へ向けて難題を速やかに克服し、高度な医療装備を実現できるよう指示した。


だが、武漢ウィルスを通し、2期10年の任期期限撤廃が行われた国家主席の終身持続を可能にした習近平「一強体制」の長期化は大きく揺れ始めている。

 

▲北京市内を視察するマスク姿の習近平総書記

 

2002年、03年の新型肺炎(SARS)の情報隠蔽体質を繰り返さないとする党中央の方針や教訓は生かされず、感染初期段階での対策を見誤ったのは武漢市や湖北省の地方指導者だとしてトカゲの尻尾切りの処分で終始する動きに不満が渦巻いているからだ。習総書記は公式的には武漢への現地視察も行なっておらず、中央政府トップの習総書記の責任論に引火して中国指導部の求心力低下を憂慮するあまり、習氏の動向を限定的にしか発表していない。


天安門事件の元学生リーダーで台湾の国立清華大学助理教授の王丹氏は「武漢肺炎の失策で党内には習近平氏への不満が沸点に達している。現実的には党総書記を辞任できないだろうが、辞任する選択肢もある状態になった」と分析。英国カーディフ大学(冷戦など国際関係が専門)のセルゲイ・ラドチェンコ教授も「習近平氏は毛沢東や鄧小平のように党最高ポストからたとえ引退しても権力を掌握し続ける」と見る。

 

▲新型コロナウイルスの発生源の一つとされる湖南省武漢市内の華南海鮮卸売市場


中国政府の発表によると、3月2日時点で新型コロナウイルスの感染者数が中国本土で累計8万26人、死者が2912人。湖北省以外の新たな感染者が減少傾向にあるものの感染が終息するには道がなお険しい。地方政府は都市封鎖による感染隔離で急速に減退する地場経済を一日も早く復旧する措置を取り、中央政府からの景気回復の再評価を得るために苦闘による焦燥感が増している。


2月24日午前11時(日本時間同正午)、武漢市では新型コロナウイルス疾病予防指揮部の通達で市内の車輌や人の出入りの封鎖を解く通達が出されたが、わずか4時間後に取り消された。現場の行政が混乱していることを表す朝令暮改だとして批判され、党機関紙「人民日報」の中国版LINE「WeChat(微信)」によると、「一人の(武漢)副市長が署名して発効した」としている。


市民が大量に生活用品を買い込む動きとなった広東省汕頭(スワトウ)市でも1月27日、市内封鎖通達が発表された二時間後には解除され、中央政府と地方政府の防疫指示に行き違いがあったとの疑いが出ている。

 

▲北京市内のビル一階では保安用員が各企業の業務再開の登記を確認する身分確認を厳格に行っている

 

 

2019年9月26日付の湖北日報によると、9月18日、武漢天河空港で新型コロナウイルス感染処理の緊急シミュレーション演習が行われているとの報道も懸念材料として残っている。中国新聞網によると、奇しくも同9月25日、武漢大学で日本の鳩山由紀夫元首相が武漢大学名誉教授に就任し、竇賢康学長から任命書を手渡され、現地でスピーチを行った。

 


中国国内では新型コロナウイルスのまん延で景気が冷え込む中、中国式の「宅経済(日本のオタクが由来の自宅中心の経済)」が異彩を放っている。中国内では地方政府を含め、厳しい人の出入りを制限する中で一般住民は八方塞がり。「上に政策あれば下に対策あり」で、会社に出勤できず、学校は休校という環境の中、自宅にいて、できることに予想以上のバブル需要が出ているのだ。

 

▲中国の電子商取引最大手アリババ集団傘下で医療関連のネットサービスを担う阿里健康。
アプリで問診・相談窓口にアクセスできるので人気

 


中小企業向けの中国版オフィスソフト、アリババ製の「釘釘(ティンティン)」は遠隔での出勤が可能となるため愛用者が増え、中国ネット通販2位の京東集団は武漢市内に医療物資を無人車を使って運ぶサービスを行って需要を伸ばしている。


生鮮食品ネット通販の「叮咚買菜(ディンドンマイツァイ)」は注文が三倍に急増、ネット医療業界も利用が伸び、医薬品ネット通販大手アリババ傘下の「阿里健康」、中国の通信教育大手「新東方在線(Koolearn)」、バイオ医薬品の創薬開発製造を行っている「薬明生物」の株価が急騰。中国大手のネット通販で注文が急増して人手不足となる一方、大半の伝統的なサービス業では、人々が外出を控えて自宅待機していることから従業員の仕事がない兵糧攻め現象が起きた。

 

▲生鮮食品ネット通販の「叮咚買菜(ディンドンマイツァイ)」は注文が三倍に急増

 

業界では一部で余った労働力を「人材共用」方式で危機的状況を乗り切ろうとする動きがあるが、あいまいな労使間の労務関係で賃金未払いなど労働者の権益保護ができないなど、労働法違反に抵触する問題があり、弱者共存の協力関係は醸成できそうにない。


香港紙「星島日報」3月4日付によると、中国本土で2月下旬以降、臨時休業を終えて通常業務に切り替える企業が急増する一方、浙江省の製造業を引き合いに、業務再開に合わせた電気空調費の免税措置を悪用して開店休業状態で免税を利用したり、申告数値を操作、社会保険料が膨れ上がっていると報じている。中央政府の景気回復圧力と感染防止対策の徹底の狭間で不正が地方で横行すれば政権基盤にも影響しかねない状況だ。

 

新型肺炎(武漢肺炎)をめぐる動き
 

【2019年】

9月18日 中国紙「湖北日報」で武漢天河空港で新型コロナウイルス感染処理の緊急シミュレーション演習が行われたと報道

12月1日 中国湖北省武漢市内で新型コロナウイルスの最初の感染者が出る
12月31日 湖北省武漢市、原因不明の肺炎27人発生を公表

2020年1月2日までに41人が感染し、うち27人が武漢市内の華南海鮮市場を訪れていた

 

※武漢市政府、湖北省政府、中国政府にとって2019年12月の一ヶ月間の初動の対処に重大な決断ミスがあり、2002年の重症急性呼吸器症候群(SARS)の重大な教訓をまったく生かせず、感染爆発を招いたと見られる


 【2020年】
  1月 9日 中国専門家チーム、新型コロナウイルスによる肺炎と判断
    11日 武漢市、新型肺炎による初の死者と41人の感染を発表
    20日 習近平国家主席「まん延阻止」を指示、専門家「人から人への感染」確認
    21日 中国政府が全国集計を初公表、感染者291人
    23日 武漢市を交通遮断で「封鎖」
    24日 春節(旧正月)連休始まる
   25日 春節元日に共産党指導部が対策会議、感染者1000人突破
    27日 李克強首相が武漢市を視察、海外への団体旅行を禁止
    28日 死者100人突破
    29日 感染者6000人突破
    30日 世界保健機関(WHO)が「緊急事態宣言」、米国が中国への渡航禁止勧告
    31日 世界の感染者1万人に迫り、重症急性呼吸器症候群(SARS)上回る

 2月3日 日本政府が湖北省籍の中国人ら入国拒否を発表、武漢市で臨時専門病院「火神山病院」の使用開始

 2月6日 感染者が1万人を突破

 2月7日 武漢市で感染拡大に警鐘を鳴らして治療対策で感染した眼科医の李文亮医師が死去。

 2月8日 武漢市の臨時専門病院「雷神山病院」の使用開始

 2月13日 武漢市内で死者1千人超に

 2月20日 武漢市民に一日二度の体温測定を義務づけ、違反者に罰則

 2月24日 台湾の蔡英文総統の支持率が急上昇。台湾民意基金会の2月調査結果では2016年5月の初当選就任時の69.9%に次ぐ2番目の高さ。蔡政権の防疫対策について75.3%が「80点以上」と評価

 3月3日 世界保健機関(WHO)の発表では新型コロナウイルスの感染者が世界全体で9万983人。中国以外での新規感染者の8割は、韓国、イタリア、イランの3カ国で発生。死者数は計3110人。


(注)感染者数、死者数は発表日基準。 

 

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