無症状感染者に「抜け穴」 中国武漢 封鎖解除で恐々 | 中国情報ジャーナル ディープな香港・中国・台湾

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無症状感染者に「抜け穴」 中国武漢
強権管理、感染再来へなお戦々恐々
4月8日に封鎖解除、勇み足で新感染も


新型コロナウイルスの発生源である中国湖北省武漢市は4月8日から封鎖措置を解除する。すでに湖北省の他都市は3月25日から封鎖が解除され、人とモノの動きが再開することでパンデミック(世界的流行)からの早期回復の象徴としたい習近平政権の政治的思惑が透けて見えるが、無症状感染者による再感染爆発や外部からの感染再来「第二波」に戦々恐々としており、一党独裁の強圧的管理で情報も一括統制し、勇み足で封じ込めようとの動きに市民は翻弄されている。(香港・深川耕治)

 

市民は政府の隠蔽、統計不信 翻弄される苦悩
国民の不満沸点 正常化で政権の求心力保てるか

 

▲武漢市内の商店街で新型コロナウイルス対策のために消毒作業を行う人々

 

 

新型コロナウイルスの感染源エリアである湖北省当局は、3月24日、武漢市を除く他地域について同25日から人とモノの出入りを可能にする封鎖解除を行い、武漢市についても4月8日から解除することを発表した。


中国当局は感染拡大を抑え込むため、1月23日、人口1100万人の大都市・武漢市を封鎖し、湖北省内も封鎖した。武漢市内の交通機関もストップし、感染者数や死者数などに隠蔽の有無が疑われるにせよ、当局の発表通りなら、一党独裁の強権指導で新たな感染者数が大きく減ったように見える。

 

▲封鎖解除前の武漢市内の商店街ではマスク姿の人々が目に見えない威圧や緊張を抱えながら出入りする


3月25日、武漢市内の公共交通機関が約二ヶ月ぶりに動き始め、同市を除く湖北省内の高速鉄道も再開。3月28日には鉄道も他都市から武漢市に乗り入れ可能となり、4月8日には武漢市出発の鉄道も再開され、空の便も4月8日以降に運航される見通しだ。


早期回復の朗報ばかりが先んじて中国共産党政権が「決戦の地」ととらえる武漢でウイルスとの闘いに早期に大きく一時突破した印象づけを優先している。企業の本格的な操業再開を促し、経済回復による都市正常化を内外に早くアピールしたい焦りすら見え、党の威信を保とうとする「瀬戸際」で、すでに綻(ほころ)びも出てきている。


封鎖解除措置で湖北省から3月28日時点ですでに約280万人以上が同省外に流出し、異変が起き始めてている。

 

▲湖北省から出境するためにスマホでコロナウイルスに感染していないことを示す緑色のグリーンコード(緑碼)を持つ人


湖北省外に移動許可が得られているのは、国家健康QRコードでコロナウィルスに感染していないことをスマホなどで示す過去2週間の行動データが入った緑色のグリーンコード(緑碼)を持つ人のみ。感染者(レッドコード=紅碼の所持者)や感染者との濃厚接触者(イエローコード=黄碼の所持者)は出境できない。

 

▲湖北省内で移動許可が得られるのは国家健康QRコードのグリーンコードの緑碼(右)。黄碼、紅碼は移動できない。もともと、この健康コードは本社が浙江省杭州にある中国IT大手のアリババが杭州市内用に開発したシステムで、湖北省は全面適用した

 


だが、3月29日、甘粛省蘭州市で湖北省威寧市からグリーンコードを所持していた男性(29)がコロナの陽性であることが判明。威寧市は過去37日間、感染者ゼロを更新していたことを公表していた。3月31日付の香港紙「星島日報」などによると、さらに広東省仏山市では威寧市から来たグリーンコードを得ていた男性(51)がコロナ陽性であることが判明。威寧市へ特派された専門家によると、男性は無症状感染であり、感染者は同市の感染ゼロ更新情報に慢心し、大多数が集まる場所での飲食を繰り返し、マスクもしていなかったという。

 

▲武漢市の中心街で新型コロナウイルス感染防止のフル装備マスクと眼鏡を装着した人


武漢市の衛生保健当局はコロナ感染者の大多数が治癒しているが、陽性反応が出ながら症状がない少数の無症状感染者から新たな感染者が出る可能性を示唆。香港誌「亜洲週刊」最新号によると、統計でカウントされていない数万人にリスクがあることを示しており、新たな二次感染のリスクが残っていると報じている。


中国のニュースサイト「澎湃新聞」によると、新たな感染者を出した威寧市威安区などでは出境する場合、グリーンコード以外に過去1週間以内の感染の有無を調べるPCR検査結果の陰性証明を求める決定を下したが、全省で徹底されるかは不透明で検査キッド不足で時間がかかり、無症状感染者の流出は歯止めがかかりそうにない。無症状感染者については、中国政府が4万3000人以上を統計から除外していたと香港英字紙サウスチャイナ・モーニングポストが報じ、政府統計数値に大きな疑念が向けられている。

 

▲封鎖解除前の武漢市内は喜び半分、不安半分のマスク姿の市民が多い


中国のSNS上では武漢の封鎖解除を示す「開城」の言葉があふれる。「新規感染者ゼロが続き、本当に封じ込めは成功したのか」と信じたい一方、「統計はゼロでも隠れた感染者はまだまだいるはず」「湖北省、とくに武漢市民は外に出れば差別と隔離の対象になるので市外に出ようとは思えない」との書き込みもある。中国メディア「財新」では武漢市のコロナ感染死者数累計(市当局発表は2548人)が過少改ざんされているとの医師らの告発を報じている。


無症状感染者の事例は最近では山東省徳州市、貴州省貴陽市、四川省綿陽市で域外からの流入感染が通知された。河南省漯河市では無症状感染者3人が共同で食事会をしていたことが明らかになった。これを受け、李克強首相は無症状感染者の動向を透明化するよう指示し、国家衛生健康委員会は4月1日から無症状感染者数の動向を毎日公布するよう義務づけた。


今後、無症状感染者が感染確認できた場合、二週間隔離し、その後、二十四時間以内にPCR検査を行って陰性が確認できれば、隔離を解除され、陽性であれば継続隔離措置となる。

 

▲陝西省西安市内の中高等学校は3月31日から、ようやく授業が再開。校内に入る前に検温検査を行い、感染防止に努めている

 

内外からの感染者数改ざん疑惑を受け、中国衛生健康委員会は3月31日、同30日までに無症状感染者は1541人、そのうち200人以上が居住地区以外に流出したことを明らかにした。例年、「高考」と呼ばれる中国全土で行われる大学入試は感染拡大の影響を受け、一ヶ月延期され、7月7日、8日に行うことが決定され、感染動向が懸念される湖北省と北京市では試験日を別途検討することになった。

 

▲香港や台湾のメディアでも3月10日、習近平総書記の武漢市視察は大きく報じられた


 重災地区への共産党トップの視察が不可欠なはずの今回のコロナショックでは、中国最高指導者である習近平氏の異例とも見えるほど遅い視察が3月10日、初めて武漢入りして行われ、遅きに失した。初動の致命的な遅延が春節(旧正月)での帰省移動と重なり、感染者の集団(クラスター)連鎖で世界各地へ感染が拡大。パンデミックを引き起こした責任は重い。

 

▲3月29日、浙江省杭州市内を視察する習近平総書記。浙江省党委トップから党総書記に昇進した習近平氏にとって政治の原点に立ち返ることができるか、瀬戸際だ

 

習氏は3月29日、古巣で浙江省トップを務めた浙江省を訪れ、安吉県余村を視察した。

 

15年前、浙江省党委書記に就任時、訪れた村で、その後の矛盾処理が功を奏した発展ぶりにご満悦。村役場の役人たちと交流し、「矛盾処理は国家、社会の長期的な基礎。問題解決こそ人民への服務であり、皆が満足すれば国家はますます良くなる」と述べ、コロナ対策も矛盾処理ができれば解決できるかのような自賛発言を繰り返した。

 

新型コロナウイルスについては「われわれは感染対策を通じて挙一反三(一を示せば三を理解できるという論語の一節)だ。中国共産党の成功は不断の教訓と経験による自己改革、自己善化だ」と共産党礼賛に終始した。

 

早期過ぎる武漢の封鎖解除は第二の大誤断となりかねないが、国内の反発を配慮し、遅まきながら武漢を現地視察し、自ら陣頭指揮する姿を示した形だ。しかし、国民の不満、党への求心力低下は否めない。習近平政権は党の求心力維持を何としても図りたい覇権維持の政治的野心と思惑が透け、内外の批判をよそに薄氷を踏む政権運営が続く。

 

新型肺炎(武漢肺炎)をめぐる動き
 

【2019年】

9月18日 中国紙「湖北日報」で武漢天河空港で新型コロナウイルス感染処理の緊急シミュレーション演習が行われたと報道

12月1日 中国湖北省武漢市内で新型コロナウイルスの最初の感染者が出る
12月31日 湖北省武漢市、原因不明の肺炎27人発生を公表

2020年1月2日までに41人が感染し、うち27人が武漢市内の華南海鮮市場を訪れていた

 

※武漢市政府、湖北省政府、中国政府にとって2019年12月の一ヶ月間の初動の対処に重大な決断ミスがあり、2002年の重症急性呼吸器症候群(SARS)の重大な教訓をまったく生かせず、感染爆発を招いたと見られる


 【2020年】
  1月 9日 中国専門家チーム、新型コロナウイルスによる肺炎と判断
    11日 武漢市、新型肺炎による初の死者と41人の感染を発表
    20日 習近平国家主席「まん延阻止」を指示、専門家「人から人への感染」確認
    21日 中国政府が全国集計を初公表、感染者291人
    23日 武漢市を交通遮断で「封鎖」
    24日 春節(旧正月)連休始まる
   25日 春節元日に共産党指導部が対策会議、感染者1000人突破
    27日 李克強首相が武漢市を視察、海外への団体旅行を禁止
    28日 死者100人突破
    29日 感染者6000人突破
    30日 世界保健機関(WHO)が「緊急事態宣言」、米国が中国への渡航禁止勧告
    31日 世界の感染者1万人に迫り、重症急性呼吸器症候群(SARS)上回る

 2月3日 日本政府が湖北省籍の中国人ら入国拒否を発表、武漢市で臨時専門病院「火神山病院」の使用開始

 2月6日 感染者が1万人を突破

 2月7日 武漢市で感染拡大に警鐘を鳴らして治療対策で感染した眼科医の李文亮医師が死去。

 2月8日 武漢市の臨時専門病院「雷神山病院」の使用開始

 2月13日 武漢市内で死者1千人超に

 2月20日 武漢市民に一日二度の体温測定を義務づけ、違反者に罰則

 2月24日 台湾の蔡英文総統の支持率が急上昇。台湾民意基金会の2月調査結果では2016年5月の初当選就任時の69.9%に次    ぐ2番目の高さ。蔡政権の防疫対策について75.3%が「80点以上」と評価

 3月3日 世界保健機関(WHO)の発表では新型コロナウイルスの感染者が世界全体で9万983人。中国以外での新規感染者の8割は、韓国、イタリア、イランの3カ国で発生。死者数は計3110人。

 3月10日 習近平党庄書記が新型コロナウイルス感染騒ぎが起きて中国の最高指導者として武漢市を初視察。

 3月25日 湖北省の武漢市を除く他地域を封鎖解除し、武漢市の公共交通機関や高速鉄道が再開。

 3月31日 中国政府の発表では新型コロナウイルスの感染者数の累計は中国国内で8万1518人になったと発表。新規感染者は全員、海外からの入国者。死者は湖北省で3305人。中国本土で治療中の患者は2161人で、うち528人が重症。既に7万6052人が退院

 4月8日 湖北省武漢市の「封鎖」措置を解除

 
(注)感染者数、死者数は発表日基準。 

 

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