領海領空、中台の新たな火種 金門島沿岸で中国漁船拿捕 | 中国情報ジャーナル ディープな香港・中国・台湾

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1997年7月1日に英国から中国に返還された香港。1997年から香港に駐在したフリーランスライターが現場取材をもとにディープな香港、中国、台湾の最新情報を書き尽くしていきます。

領海、中台の新たな火種 中国漁船が金門島沿岸で違法操業拿捕
金門島遊覧船に立入 中国当局報復

 

台湾が実効支配する金門島の沖合で台湾海洋当局の追跡から逃れようとした中国漁船が2月14日、転覆して2人が死亡、生き残った2人が取り調べ後に中国に送還された。台湾総統選で中台「現状維持」路線でありながら中国側が「独立勢力」と警戒する民進党政権の続投が決まり、中国は領海、領空の解釈を変えながら5月20日発足予定の台湾の頼清徳次期政権に揺さぶりをかけ、台湾海峡の緊張が続く。

 

「禁止水域」対立、尖閣諸島の日本にも
中台上空の民間機航路も変更 中国

 

▲2月14日、台湾の金門県海上保安庁が拿捕、転覆した中国漁船を捜査する人々(台湾金門県海巡署提供)

 

▲2月14日、台湾の金門県海上保安庁が拿捕した中国漁船を捜査する人々(台湾金門県海巡署提供)

 

春節期間(旧正月=今年は元旦2月10日から2月18日)で中華圏では故郷での春節行事が行われている2月14日午後、台湾が実効支配する金門県で中国漁船の転覆事件が起き、波紋を広げている。金門県(最大の島は大金門島)は人口14万人、台湾本島から約200キロ離れ、対岸の中国福建省アモイ市から数キロの距離にある。

 


 

金門島東沖合で違法操業していた中国漁船が台湾海洋当局の取り締まりを拒んで逃走、追跡されて転覆し、乗組員4人のうち2人(いずれも四川省の男性)が搬送先病院で死亡が確認された。残り2人(重慶、貴州省の男性)は台湾当局から取り締まりを受け、2月20日、中国側に送還された。

 

▲2月20日、中国福建省アモイから金門島に高速艇で到着した中国漁船水死遺体を引き取りに来た中国人遺族たち
 

台湾の海巡暑(日本の海上保安庁に相当)の統計によると、2016年7月から23年11月までに台湾当局が取り締まった中国漁船は9100隻。うち約400隻が拿捕(だほ)、臨時検査などを受けた。違法な漁獲、土砂盗掘、密輸などで拘留、罰金刑などを受けている。今回の拿捕は、「禁止水域」をめぐる領海対立が再燃する恐れがある。
 

台湾で対中国政策を所管する大陸委員会は「中国漁船が台湾側の禁止水域に入って操業し、取り締まりを逃れようと蛇行するうちに転覆した」として通常対応を遵守したとしている。金門島は1949年以降、台湾当局が実効支配し、沿岸に中国船が許可なく進入するのを禁じる「禁止水域(干潮時の外延4キロ以内)」や「制限水域(干潮時の外延4キロ~6キロ海域)」を設定して取り締まりを続けている。

 

 


 

中国政府で台湾政策を担当する国務院台湾事務弁公室は事件当日、「悪質な事件だ」と強く非難。2月17日には「『禁止水域』や『制限水域』などというものはそもそも存在しない」と台湾の管轄権すら否定する談話を発表し、中台双方に1992年合意で暗黙の了解があったとされる「禁止水域」や「制限水域」の形骸化を一方的に図り、民進党政権に圧力をかけている。
 

中国海警局は2月18日、「福建省アモイと金門島周辺の海域でパトロールを常態化し、海域秩序と漁業者の保護をさらに進める」と表明、対抗措置を取った。

 

▲2月19日、台湾の金門島遊覧船「初日号」に強制的に乗り込んで臨検する中国海警局員たちを心配そうに見る乗客たち(写真は乗客提供)
 

2月19日、中国海警局は6隻以上の船を出して金門島周辺海域をパトロールし、同海域を航行していた台湾の観光船「初日号」(乗組員11人・乗客23人)に強制的に中国海警局員6人が乗り込み、約30分の臨検を行った。台湾メディアは「生きた心地がしなかった」「台湾に戻れないのかと怖かった」など乗船者の声を紹介。台湾当局の発表では、20日、金門島水域に中国海警局の艦船が入り、無線と放送で退去を求める台湾当局の船と一時にらみ合いになり、同艦船は1時間後に領海の外に出た。

 

▲2月19日、中国海警局から臨検された後、台湾の観光船「初日号」から下船して生きた心地がしなかったという台湾人乗船者たち

 

▲春節の行事のため神輿を運ぶ陳福海県長(中央)、県幹部たち

 

▲台湾の金門県で発行されている日刊紙「金門日報」

 

▲地元紙「金門日報」(2月21日付)には学生向けに英文中国語訳で事件の経緯を紹介

 

同事件で板挟みの苦境となっているのが地元、金門県(陳福海県長)だ。遺体の引き渡しを手厚く対処し、地元紙「金門日報」(2月21日付)には学生向けに英文中国語訳で事件の経緯を紹介。小三通(金門、馬祖両島に限定した中台間の通信、通商、通航)で中国人観光客向けの観光産業振興を進め、生き残りを賭ける県民の心理は複雑だ。1月の立法委員(国会議員)選挙金門区で当選したのは最大野党・国民党の陳玉珍氏。陳福海県長は第二野党・民衆党所属だ。

 

▲2月1日、台湾立法院(国会に相当)の立法院長(国会議長)に就任した最大野党・国民党の韓国瑜氏


今回の事件に対する対応について立法院(国会に相当)でも与党・民進党と野党・国民党、民衆党で温度差があり、法律戦で厳しい対中論議を進めたい民進党、対中融和路線の国民党、民衆党は動きが遅い。立法院では最大野党・国民党の韓国瑜氏が立法院長に就任し、与野党のねじれ現象が法案成立にも大きな壁となっており、与党主導の対中政策に関する法案も通過しづらい状況に直面している。
 

台湾の邱国正・国防部長(国防相)は2月20日、戦争回避のため軍は積極介入しない意向を表明し、海上での中台の偶発的な軍事衝突を「非常に懸念している」と危惧している。
 

中国は今後、臨検を常態化させ、管轄権が中国にあることを着々と既成事実化していく統一戦略を加速させる。尖閣諸島(沖縄県石垣市)の沖合で中国海警局の船が日本の領海に侵入したのは2023年だけでも34回。中国が尖閣諸島を実行支配していくために既成事実化を積み重ねる動きは金門島周辺の臨検常態化と同様の手法だ。

 

▲中国が2月1日から変更した民間航空機の航路(赤い点線のライン)
 

中国当局は領海への解釈を一方的に変更するだけでなく、領空についても変更している。中国が2月1日から台湾海峡の民間航路を中台間の事実上の停戦ラインである中間線寄りに一方的に変更させ、台湾側に通達した。台湾当局は「一方的発表で政治的にも軍事的にも不当な企てだ」と猛反発。

 

 


 

中国側は「両岸(中台)は同じ一つの中国に属し、『中間線』は存在しない。(変更は)航空の安全を守るためだ」と中間線すら骨抜きにすることで領海だけでなく領空でも一方的変更を行うことで台湾に揺さぶりをかけている。5月20日、頼清徳氏が台湾総統に就任するまで外交内政だけでなく、領海、領空でも中台のつばぜり合いは続くだろう。

 

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