若者無関心、親中派独占へ 香港立法会選挙 3人に1人が投票棄権 | 中国情報ジャーナル ディープな香港・中国・台湾

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若者無関心、親中派独占へ 香港立法会選挙2021
3人に1人が投票棄権 世論調査

香港では12月19日、立法会(議会・定数90)選挙が投開票される。立候補者153人の約9割が親中派で占められた中国式の管理選挙に一変し、民主化を切望してきた有権者は反発と失望感から投票を棄権するか白票を投じる動きだ。北京冬季五輪への欧米諸国の外交的ボイコットが鮮明になる中、中国政府や香港政府は同選挙が国際的に正当であることを印象操作するために投票率上昇に腐心するが若年層の投票反応は鈍い。(深川耕治)

 

投票日の交通機関無料に賛否
投票率低迷で民心掌握困難


▲12月14日、香港島・北角(ノースポイント)の香港立法会選挙投票所の模擬投票現場を視察する香港選挙管理委員会の馮驊主席(右)


「投票時につけるマスクの色に制限はない。ただし、選挙管理委員会の職員は黄色のマスクは着用してはならない」。12月14日、選挙管理委員会トップの馮●(馬ヘンに華)主席は大半の有権者が政治的中立性を遵守しているとしながらも違法行為は取り締まることを強調した。

黄色は香港の民主化を求める民主派の政治的シンボルカラー。職員が黄色のマスクをつけることを禁じながらも民主派の合い言葉となった「香港加油(香港がんばれ)」の文字が入った衣服やマスクを着用して投票することには「不必要な騒動や争いを引き起こすような表現の場合、外套などで職員が覆い隠すこともあり得る」と慎重に言葉を選んだ。


今回、民意を反映されやすい直接選挙枠10区(各2議席)では3~5人が立候補。直接選挙枠の登録された有権者数は約447万人で630カ所の投票所で投票する。前回(2016年)選挙では候補者の4割以上が民主派など親中派以外の勢力だったが、今回は候補者の9割超が親中派。

市民が投票できるのは直接選挙枠20議席のみで各区で2議席とも親中派の独占が確実なため、有権者の関心は低く、前回までのような親中派と民主派が実力伯仲する緊張感はなく、冷めたシラけムードが漂う。投票率も過去最低の30~40%台になるとの予想も出ている。

 




香港では習近平指導部が主導する「愛国者治港(愛国者による香港統治)」を徹底させるため、選挙制度が5月、民主派を事実上排除する管理選挙に変更された。元々、親中派に有利な選挙制度だが、候補者が行政長官選挙委から一定数の推薦を得る必要があるほか、「愛国者」かどうかを審査する資格審査委員会が「中国香港への忠誠心」などを基準に出馬の可否を判断。民主派の台頭を防ぐ網が何重にも張られている。

 

▲香港最大の親中派政党・民建連の立法会選挙立候補者たち22人が登壇し、決起集会

民主党や公民党など主要な民主派政党が参加を見合わせざるを得ない中、届け出時点で民主派を名乗ったのはわずか4人。自らを親中派でないと主張する中間派は9人で、知名度が低く、一部は中国当局から立候補を促されたとの観測もあるほどだ。

 


香港中文大学アジア太平洋研究センターの最新世論調査(18歳以上の有権者712人に電話調査)結果によると、今回の立法会選に「関心がない」と答えた人は過半数の52.8%、「関心がある」(41.3%)を上回った。「投票に行かない」と答えた人は32.8%、「投票に行く」(30.8%)を上回り、3人に1人が投票に行かない傾向にあることがわかった。

▲2021年12月19日は香港立法会選挙のため、香港内の鉄道、バス、トラムは交通費無料


香港政府は投票率アップのために有権者に総力戦で投票行動に動くようにPR。とくに際だったのは投票日当日(12月19日)は香港内の公共バス、トラム、鉄道は無料にすると決定したことだ。これまで立法会選や行政長官選で公共交通機関を無料にすることはなかっただけに中国政府の面目をかけて投票率アップを促し、是が非でも中央政府の信認を得たいところだ。さらに1冊43ページのフルカラーで編集された立法会選挙の投票を呼びかける小冊子を300万世帯に印刷して郵送するなど、従来の立法会選とは意気込みが違う。

 


▲香港島・北角(ノースポイント)の香港立法会選挙投票所の模擬投票現場


親中派の劉兆佳全国香港マカオ研究会副会長は「投票に行くか行かないかは、当日の投票心理、候補者との関係、選挙制度への思い、交通手段など多くの要因があり、政府が有権者の信頼を得るために交通手段への配慮をしたことは選挙行動にプラスには働くだろう。ただ、交通機関の乗車無料を打ち出しても、投票率を高めるには限界がある」と分析している。

 

▲香港の選挙での中央集票現場

 

▲2021年12月15日、香港の世界貿易センタービルで発生した火災

 

▲2021年12月15日、香港の世界貿易センタービルで発生した火災で取り残された屋上退避の人々


親中系香港紙「星島日報」によると、香港のSNS上では「投票日を火魔日(放火日)にする」との書き込みがあり、公共交通機関が無料となるため、投票の有無に関係なくレストランや商業施設、娯楽施設で楽しむ人が増えることが予想され、香港警察当局は警戒態勢を強化せざるを得ない。

 

現実には、12月15日、香港島の銅鑼湾(コーズウェイベイ)にある世界貿易センタービルで火災が発生し、350人以上が屋上に取り残され、1300人以上が避難する大騒動となった。火災の原因は放火ではなく、1階の機械室から出火し、内部に煙が充満した。

 

 

▲中国のSNS百度で登場したネット名「好心的旅行者(親切な旅行者)」の発言内容が多くの中国の若者に支持され、躺平主義(寝そべり主義)が社会現象化し、中国本土から香港に逆輸入

 

▲香港にも躺平(とうへい)主義=寝そべり主義が流入。猫のイラストで風刺し、中国共産党の強権に屈する若者たちの行き着く先か選挙の投票に行かず、飲み食いして寝そべることか

中国の若者の間では昨年からあくせく働かず、結婚しない「低欲望」の草食系ライフスタイル「躺平(とうへい)主義」(寝そべり主義)が貧富の格差の矛盾で退廃的に広がっているが、香港にも中国共産党の強権に屈した民主派の挫折で逆輸入。SNS上では「12月19日は食べ回って寝て、食べて寝るぞ」「親中派を支持して投票しよう」「低投票率は政府にとって良いことだ」などの書き込みが散見されている。

 

▲香港立法会議場の全体風景。2022年1月1日から4年間が新たな会期となる

5年前(2016年9月4日)の立法会議員選では直接選挙枠の投票率は58%(前回比5ポイント増)で過去最高を記録。当時は定数70議席(直接選挙枠35、職能別35)。直接選挙枠35議席のうち、民主派が獲得した議席は13、本土派6、親中派16。職能代表枠35議席のうち民主派10、親中派24議席、無党派1議席。反中国勢力は合計30議席だった。 

 

▲12月14日、行政会議(閣議)前の記者会見を行う林鄭月娥行政長官

今回の選挙では「親中派の固定票だけで手堅く投票に行っても投票率は25%前後」(「星島日報」)と見られており、無党派層のうち、投票に向かう人がどれぐらいいるか、香港政府の投票行動心理を読む力量が中国政府にどう評価されるか、北京五輪を控え、来年3月の行政長官選を含め、民心掌握が問われることになる。

 

▲2021年10月25日、第6期香港立法会が閉幕して記念撮影する梁君彦・香港立法会主席(議長)ら親中派の立法会議員たち

 

香港国家安全維持法をめぐる主な動き

【2019年】

6月9日 「逃亡犯条例」改正案をめぐり大規模な反政府デモ
8月30日 デモ参加者を扇動したなどの容疑で黄之鋒氏や周庭さんを逮捕(同日中に釈放)
11月24日 区議会選挙が行われ、民主派が圧勝。議席は8割超

【2020年】

6月30日 香港国家安全維持法施行
7月1日 デモの際に香港独立の旗などを所持した10人を国安法違反容疑で逮捕。同法施行後、初の逮捕
7月21日 抗議活動でデモのスローガン「光復香港 時代革命」を主張した区議会議員を国安法違反容疑で逮捕
7月29日 香港の独立を訴えた政治団体「学生動源」香港本部の元代表ら4人を国安法違反容疑で逮捕
8月1日 米国籍の民主活動家ら香港出身で外国在住の6人を国安法違反容疑で指名手配したことが明らかに
8月10日 民主派重鎮でリンゴ日報創業者の黎智英氏、周庭さんを国安法違反容疑で逮捕(12日までに釈放)
10月27日 米総領事館に亡命を求めようとした活動家を国安法違反容疑で逮捕
11月11日 中国全国人民代表大会の決定を受け、香港政府が民主派議員4人の資格?奪(はくだつ)。ほかの民主派議員15人も抗議の一斉辞職を表明
12月2日 無許可のデモを組織し参加者を扇動した罪で、周庭さん、黄之鋒氏らに実刑判決
12月11日 黎氏を国安法違反の罪で起訴

【2021年】

1月6日 元議員ら民主派53人を国安法違反の疑いで逮捕
2月28日 立法会選挙に向けた予備選に参加した民主派元議員ら47人を国安法違反の罪で起訴
3月30日 中国の全国人民代表大会常務委員会が民主派を排除する選挙制度改変案を可決。「愛国者」と認められなければ立候補できない仕組みに
4月16日 未許可デモの組織などの公安条例違反罪で黎氏に実刑判決
5月27日 香港の立法会が選挙制度改変の条例案を可決

6月4日 コーズウェイベイで例年行われてきた天安門事件の犠牲者を追悼するキャンドル集会がコロナ対策を理由に2年連続の中止

6月9日 大規模デモから2年が過ぎ、海外の香港人らは世界22の国・地域で抗議活動を展開

6月11日 国安法に基づき、映画に対する新たな検閲基準の導入を発表

6月12日 7ヶ月間服役していた民主活動家の周庭(アグネス・チョウ)氏が出所
9月19日 行政長官の選出などを担う選挙委員会の選挙
12月19日 香港立法会選挙

【2022年】

3月27日 香港行政長官選挙

 

中国式管理選挙に一変 香港立法会選挙2021 親中派の党別争い激化

 

学校現場で国安法遵守を要求 香港政府 教師の政治言動厳禁

 

慈善団体から民主派あぶり出し 香港 記者協会もターゲット

 

香港民主派団体が解散ドミノ化 国安法容疑、中国メディアが断罪

 

中国当局、若者の「低欲望主義」警戒 静かな抵抗「躺平」

国安法の検閲恐れる香港映画界 独創性阻む自己規制

香港の主要大学、中国本土の留学生が比率増 愛国教育を優位に

海外移民で退学者増 香港の有名小学校

残留か、亡命か 立法会選の出馬制限で苦境 香港民主派

 

中国共産結党百年、コロナ下の「春節」 中国

コロナ感染要因の春節厳戒 中国 北京五輪中止圧力も

欧米の支援不可欠な香港民主派 羅冠聡氏らの動向警戒 中国

 

議員立候補を「選別」、窮地の民主派 香港

 

大手学習塾、コロナ経営難で閉鎖破綻か 中国

 

中国軍機の台湾侵入飛行顕著 米台結束、中国の「武嚇」増幅

 

香港「二次返還」論が浮上 深圳経済特区40年

 

親中派与党、選挙延期で惨敗回避も 香港立法会選

 

反中デモ、民主派活動封じ込め 香港国家安全法

 

民主派躍進でも不安、移民増も 香港 国家安全法、民意は反対過半数

 

「中国の監督権」強化じわり デモ再燃封じの香港

無症状感染者に「抜け穴」 中国武漢 封鎖解除で恐々

朝令暮改の地方政府、混乱と焦燥なお 中国の武漢肺炎

初動不備、SARS教訓生かせず 中国・武漢肺炎

香港民主派、共闘へ堅い結束醸成 台湾選挙

香港問題が与党に追い風 台湾総統選 立法委員選は激戦

 

硬軟両様、台湾取り込み加速 中国 韓国瑜氏、総統選出馬か

 

LGBT票取り込みに躍起 台湾与党 住民投票でNO、なお新法

 

混迷する次期総統候補選び 台湾総統選2020

「韓国瑜現象」で国民党急追 高雄市奪還も 台湾統一地方選   

喜楽島連盟「独立」の是非どう交わす 台湾・蔡英文政権  

 

民主派が8割超の圧勝 香港区議会選 民意でも中国動じず

 

民主派、初の過半数獲得へ 香港区議会選

 

区議会選延期への方策か 香港 抗議の取り締まり強化

 

民意問う区議選へデモ休戦なるか 香港 過激化抑止できぬなら延期も

 

香港は持久戦、収束見えず景気低迷 区議会選で民意鮮明

 

建国70周年前に決着どこまで 香港デモ

 

白色テロ憎悪の連鎖、親中派も増幅 香港 民主派デモ隊に暴行

 

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【香港立法会選挙2016 連載インタビュー 香港「自治」の行方 第1回~第10回】

 

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呉秋北全国人民大会代表(下) 香港「自治」の行方 識者に聞く 連載第4回  

新党「香港衆志」の羅冠聡党主席 香港「自治」の行方 識者に聞く 連載第5回
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梁家傑公民党名誉主席(下) 香港「自治」の行方 連載第8回

香港誌「前哨」の劉達文編集長(上) 香港「自治」の行方 連載第9回   

香港誌「前哨」の劉達文編集長(下) 香港「自治」の行方 連載第10回