中国式管理選挙に一変 香港立法会選挙2021 親中派の党別争い激化 | 中国情報ジャーナル ディープな香港・中国・台湾

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1997年7月1日に英国から中国に返還された香港。1997年から香港に駐在したフリーランスライターが現場取材をもとにディープな香港、中国、台湾の最新情報を書き尽くしていきます。

中国式管理選挙に一変 香港立法会選挙
主導権争い、党別で激化へ 親中派
無投票で投票率激減の抵抗 民主派
少数議席獲得で生き残りへ 中間派

 

愛国者による香港統治を徹底するために民主派を事実上、排除する新選挙制度下となる香港では12月19日、立法会(議会・定数90)選挙が投開票される。立候補を届け出た154人の約9割が親中派で占められ、親中派各党の党首らが直接選挙枠で闘うことで各得票数が親中派内の主導権争いを激化させている。排除された民主派は立候補辞退と投票ボイコットによる抵抗を決め込み、中間派は生き残りをかけた選挙戦を展開している。(深川耕治)

 

▲左から香港親中派の主要政党である民建連の李慧●(王偏に京)主席、工連会の呉秋北理事長、新民党の葉劉淑儀(レジーナ・イップ)党首


立候補を届け出た154人のうち、親中派は140人、中間派は10人、穏健民主派は4人。前回の2016年選挙では、定数70のうち30議席を民主派が確保していたが、選挙制度が中国式管理選挙に一変。立法会はほぼ親中派一色となる一国二制度を骨抜きにする形式的な選挙構造に様変わりした。
 

今回、民主党や公民党など民主派の主要政党が候補者を擁立しなかったのは、届け出に一定数の親中派の推薦が必要であること。さらに資格審査委員会が「香港への忠誠」を基準に立候補資格があるかどうかを審査して審査でふるい落とされる可能性が極めて高く、立候補自体が無意味だと判断したからだ。今後、審査が進めば立候補した民主派4人も、過去の言動に遡って「愛国的でない」との理由で立候補失格の烙印を押されかねない。

 

 


 

立法会定数90のうち一般市民の投票で決まる直接選挙枠はわずか20のみ。業界別の職能枠が30、親中派の行政長官選挙委員会が互選で決める選出枠が40。
 

香港中文大学政治行政学系の蔡子強講師は「中国共産党に忠誠を誓う全人大代表、政協委員など『国家隊』の候補が増え、新人候補が乱立して親中派、新政府派内の競争が激烈になってきている。中心的役割は北京(中央政府)だ」と分析。選挙戦がヒートアップしている雰囲気を醸成させることで投票率を引き上げて新選挙制度の正統性を内外に示したいとの中国政府の思惑も透ける。
 

今回の立候補者の特徴は立候補者154人のうち新人が106人で68%を占める。33人(21%)が2019年の区議会選で落選した親中派。香港の民意とは逆行したリベンジで、親中派の新人が圧倒的に多く、親中派の世代交代が中国政府の意向を強く反映する形で大きく進みそうだ。

 


 

親中派の主要政党は、第一党の民建連が22人、工連会が10人、経民連9人、自由党6人、新民党6人となっており、各党の党首は直接選挙枠で出馬するケースが多く、職能別を含め、親中派同士の接戦も予想される。とくに民建連と工連会の候補者は直接選挙枠3区で競合。民主派に対抗する選挙協力ができない事態に陥っている。各政党の候補者が得票数をどこまで伸ばせるか、親中派内の権力バランスと中国政府からの信任を得るバロメーターとなりそうだ。
 

主流の民主派から離脱した民主派の政治団体「民主思路」と「新思惟」は2人ずつ立候補し、存亡をかけた闘いとなるが、親中派の推薦に阿(おもね)る政治姿勢は従来の民主派とは異質とみる人が多く、非親中派(中間派)を名乗る10人も含め、香港市民の視線は冷たく、支持は極めて限定的だ。
 

中国政府は「民主的な選挙」を演出するため、あえて少数の非親中派の立候補を容認、選挙ムードを上げて投票率アップを図る構えだ。

 


 

立法会選は香港返還後、親中派に有利な仕組みだった。それでも民主派は民意を反映しやすい直接選挙枠で存在感を示し、その部分では民意が反映されてきた。民主派は19年の大規模デモに続く20年の香港国家安全維持法(国安法)で厳しい状況に追い込まれ、辞職や資格取り消しによって立法会の民主派議員はゼロになる異常事態になった。民主派が85%を占めていた区議会(地方議会)でも、そのうち8割にあたる300人以上が議会を追われ、民主的な議会から中国の厳しい監視と管理による選挙に激変している。

 

▲英国に亡命している許智峯・前香港立法会議員

 

多くの民主派支持者は今回の立法会選の投票をボイコットするか、白票を投じる動きだ。英国に亡命した許智峯・前立法会議員を中心に白票を投じる「如水計画」を呼びかけ、民主的な選挙ではないことに抗議する動きが広がっている。香港政府は投票棄権や白票の呼びかけに「許智峯は香港破壊分子だ」(鄧炳強保安局長)と猛反発し、警戒を強めている。9月12日に行われたマカオの立法会選挙でも民主派の立候補が禁止され、投票率はポルトガルから中国に返還された1999年以降で最低(42.4%)だった。

 


 

民主派支持者の投票ボイコットで前回の直接選挙枠での投票率58%が今回は急落するのではないかという民主派寄りの見方に対し、親中派の劉兆佳全国香港マカオ研究会副会長は「新制度では大部分の議席が親中派の手中にあるが、親中派支持の有権者が必ず投票に行くとは限らないが基礎票を見ると、直接選挙の投票率は30~40%ぐらいには達しそうだ」と分析している。

 

香港国家安全維持法をめぐる主な動き

【2019年】

6月9日 「逃亡犯条例」改正案をめぐり大規模な反政府デモ
8月30日 デモ参加者を扇動したなどの容疑で黄之鋒氏や周庭さんを逮捕(同日中に釈放)
11月24日 区議会選挙が行われ、民主派が圧勝。議席は8割超


【2020年】

6月30日 香港国家安全維持法施行
7月1日 デモの際に香港独立の旗などを所持した10人を国安法違反容疑で逮捕。同法施行後、初の逮捕
7月21日 抗議活動でデモのスローガン「光復香港 時代革命」を主張した区議会議員を国安法違反容疑で逮捕
7月29日 香港の独立を訴えた政治団体「学生動源」香港本部の元代表ら4人を国安法違反容疑で逮捕
8月1日 米国籍の民主活動家ら香港出身で外国在住の6人を国安法違反容疑で指名手配したことが明らかに
8月10日 民主派重鎮でリンゴ日報創業者の黎智英氏、周庭さんを国安法違反容疑で逮捕(12日までに釈放)
10月27日 米総領事館に亡命を求めようとした活動家を国安法違反容疑で逮捕
11月11日 中国全国人民代表大会の決定を受け、香港政府が民主派議員4人の資格?奪(はくだつ)。ほかの民主派議員15人も抗議の一斉辞職を表明
12月2日 無許可のデモを組織し参加者を扇動した罪で、周庭さん、黄之鋒氏らに実刑判決
12月11日 黎氏を国安法違反の罪で起訴


【2021年】

1月6日 元議員ら民主派53人を国安法違反の疑いで逮捕
2月28日 立法会選挙に向けた予備選に参加した民主派元議員ら47人を国安法違反の罪で起訴
3月30日 中国の全国人民代表大会常務委員会が民主派を排除する選挙制度改変案を可決。「愛国者」と認められなければ立候補できない仕組みに
4月16日 未許可デモの組織などの公安条例違反罪で黎氏に実刑判決
5月27日 香港の立法会が選挙制度改変の条例案を可決

6月4日 コーズウェイベイで例年行われてきた天安門事件の犠牲者を追悼するキャンドル集会がコロナ対策を理由に2年連続の中止

6月9日 大規模デモから2年が過ぎ、海外の香港人らは世界22の国・地域で抗議活動を展開

6月11日 国安法に基づき、映画に対する新たな検閲基準の導入を発表

6月12日 7ヶ月間服役していた民主活動家の周庭(アグネス・チョウ)氏が出所
9月19日 行政長官の選出などを担う選挙委員会の選挙
12月19日 香港立法会選挙


【2022年】

3月27日 香港行政長官選挙

 

学校現場で国安法遵守を要求 香港政府 教師の政治言動厳禁

 

慈善団体から民主派あぶり出し 香港 記者協会もターゲット

 

香港民主派団体が解散ドミノ化 国安法容疑、中国メディアが断罪

 

中国当局、若者の「低欲望主義」警戒 静かな抵抗「躺平」

国安法の検閲恐れる香港映画界 独創性阻む自己規制

香港の主要大学、中国本土の留学生が比率増 愛国教育を優位に

海外移民で退学者増 香港の有名小学校

残留か、亡命か 立法会選の出馬制限で苦境 香港民主派

 

中国共産結党百年、コロナ下の「春節」 中国

コロナ感染要因の春節厳戒 中国 北京五輪中止圧力も

欧米の支援不可欠な香港民主派 羅冠聡氏らの動向警戒 中国

 

議員立候補を「選別」、窮地の民主派 香港

 

大手学習塾、コロナ経営難で閉鎖破綻か 中国

 

中国軍機の台湾侵入飛行顕著 米台結束、中国の「武嚇」増幅

 

香港「二次返還」論が浮上 深圳経済特区40年

 

親中派与党、選挙延期で惨敗回避も 香港立法会選

 

反中デモ、民主派活動封じ込め 香港国家安全法

 

民主派躍進でも不安、移民増も 香港 国家安全法、民意は反対過半数

 

「中国の監督権」強化じわり デモ再燃封じの香港

無症状感染者に「抜け穴」 中国武漢 封鎖解除で恐々

朝令暮改の地方政府、混乱と焦燥なお 中国の武漢肺炎

初動不備、SARS教訓生かせず 中国・武漢肺炎

香港民主派、共闘へ堅い結束醸成 台湾選挙

香港問題が与党に追い風 台湾総統選 立法委員選は激戦

 

硬軟両様、台湾取り込み加速 中国 韓国瑜氏、総統選出馬か

 

LGBT票取り込みに躍起 台湾与党 住民投票でNO、なお新法

 

混迷する次期総統候補選び 台湾総統選2020

「韓国瑜現象」で国民党急追 高雄市奪還も 台湾統一地方選   

喜楽島連盟「独立」の是非どう交わす 台湾・蔡英文政権  

 

民主派が8割超の圧勝 香港区議会選 民意でも中国動じず

 

民主派、初の過半数獲得へ 香港区議会選

 

区議会選延期への方策か 香港 抗議の取り締まり強化

 

民意問う区議選へデモ休戦なるか 香港 過激化抑止できぬなら延期も

 

香港は持久戦、収束見えず景気低迷 区議会選で民意鮮明

 

建国70周年前に決着どこまで 香港デモ

 

白色テロ憎悪の連鎖、親中派も増幅 香港 民主派デモ隊に暴行

 

「熱血公民」の鄭松泰香港立法会議員に聞く

 

「香港の良心」陳方安生氏に聞く 指導力改め、真の一国二制度堅持を

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