さあ、あとはいよいよゴールを目指すのみです。私は早歩きでゴールを目指しました。
そんな私を、後ろからまた事務局長さんが一声かけて抜いていきました。
「頑張りましたね」
その一言で、私の視界が一気に煙ってしまいました。5年前のあの失態を、いま本当に許されたように思いました。ここまで頑張ってきたことを認めてもらえてよかった。この一言を聞いたとき、心からそう思いました。
99kmを過ぎ、関門閉鎖までの時間は10分以上あります。もう大丈夫、いよいよ最後のビクトリーロードです。沿道には多くの人が詰めています。その中には、すでにゴールした仲間たちの姿も大勢ありました。誇らしげに胸に完走メダルをぶら下げた仲間たちの中に、もうすぐ私も加わることができます。そんな仲間たちに声をかけられ手を振って応えながら、私の両目からは涙が溢れていました。
最後はゆっくりでもいいから走ってゴールしたい。そう思った私は、ゆっくり走り出しました。いよいよ最後のウイニングランです。
ゴールに近づくまでは、ものすごく遠く感じます。それはサロマばかりではなく、どのレースでも同じです。だけどこうしてゴールが近づいてくると、今度はゴールをするのが惜しくなります。早くレースを終わらせて楽になりたいと思う一方で、この至福のレースをいつまでも楽しんでいたいと思ってしまうのです。苦しみがいつの間にか至福に変わってしまっています。だから苦しい思いをしても、痛い思いをしても、走ることをやめられないのかもしれません。
はやる気持ちを抑え、右にカーブします。正面に夢にまで見たゴールゲートが現れました。沿道を埋め尽くす人はみんな拍手をしています。でも拍手の音も歓声も、何も聞こえません。なにがなんだかわからない渦の中を走っているようにさえ思えます。それでも沿道の人に手を振りながら1歩1歩ゴールに近づいていきました。でも、沿道の人の顔はぼやけて見えません。ゴールに掲げられている時計の数字もかすんでいるのでタイムもどのくらいなのかよくわかりません。
でも、もうどうでもいいんです。ついに・・・ついに・・・・・・ついに・・・・・・・・・。
「やったー!!!」
両手の握りこぶしを天に伸ばし、絶叫しながらゴールしました。自分の気持ちを、自分の喜びを表す手段として、それ以外にありませんでした。
12時間54分36秒。関門制限時間まで、わずか5分あまり。苦しんで苦しんで苦しみぬいて、ついに得た完走メダル。それはずっしりと重く感じました。
バックナンバー
1.無言の抗議
2.思い上がり
3.初フルでの挫折
4.ホームページ開設
5.北海道マラソン、奇跡の完走
6.そしてサロマへ・・・