しかしここからはさらに地獄が待っていました。軽快に走っているトップランナーでさえ、30kmを過ぎるとガクンとペースが落ちることがあることをマラソン中継で見てきました。よく30kmの壁という言葉も聞きます。私の場合はその壁がちょっと早く現れたのだろうと思っていたのですが、ここまで感じていたものは壁などというものではなく、本当の壁というのはこういうものだということを間もなく思い知らされるのでした。
30kmを過ぎるとすぐに、急に膝が痛み出しました。しかも両側同時にです。両膝の外側の激しい痛み。これまでに感じたことがないような激痛に苦しめられます。耐えきれず給水所で立ち止まり、スポーツドリンクを飲みます。コールドスプレーもあったので使おうと思ったのですが、残念ながらもうほとんど残っていませんでした。まだ空腹は感じていませんが、バナナがあったのでこれを食べ、氷砂糖を口に入れます。そして気を取り直して走り出します。
ペースがおちているせいでしょうか、呼吸は楽です。心臓だって苦しくありません。空腹感も喉の渇きもありません。ただ足が痛いだけです。
「サブフォーは無理でも、このままゆっくり走り続ければ4時間15分くらいでは走れるだろう」
もうろうとする頭で残り距離とラップを計算して、そんなタイムを目標に走ろうと思うのですが、足の痛みはますます激しさを増し、耐えきれないほどつらく感じます。
「もう歩いちゃおうかな」
ほんの一瞬です。そんな思いがほんの一瞬頭をよぎったのですが、とたんに足が動かなくなりました。次の瞬間、私は走るのをやめていました。それまでは思い浮かぶことがなかった「歩く」という単語が頭に浮かんだとたん、私は歩き始めてしまいました。レース中に歩いたのは、親子ペアで息子についていけなくなったあの1998年のびえいヘルシーマラソン以来のことでした。いやでもあの日の屈辱感を思い出してしまいました。
バックナンバー
1.無言の抗議
2.思い上がり
3.初フルでの挫折