スタートしてからここまで、いや、既に何日か前からここまで、私は自分を見失っていたことにようやく気づきました。「楽しんで走る」ということをすっかり忘れ、ひたすら緊張して走っていたのです。こんな走りをして収容バスに捕まったら、レース後の私の中には、北海道マラソンを走ったという充実感が残るでしょうか?残るわけがありません。何がなんだかわからないうちにバスに乗っていたという思い出しか残らないに違いありません。
「そうだ。たとえ5km関門で捕まったとしても悔いが残らないように、この夢にまで見た大舞台を楽しんで走らなきゃ」
そう思った瞬間、私の頬からこわばりが消えるのを感じ、肩の力も抜け、いつもの笑顔になれました。
ここまでは沿道の大観衆を見回す余裕もありませんでした。じっくりまわりを見回してみると、噂通りのものすごい大観衆です。小旗を降って、あるいは大きな拍手で、そしてとびきりの笑顔で私たちを迎え、送り出してくれています。なんで今まで気づかなかったのでしょう。そんな大声援も耳に入らないくらい緊張していたから、ここまでほとんど声援にも応えず、下を向いて硬い表情で走ってしまいました。
でもこんな走りは私本来の走りじゃありません。タイミング良くかけられる「頑張れ!」という声援に、私は「ありがとうございます」と元気に応え始めました。
5km関門をほぼ27分で通過しました。緊張した走りだった割に、ほぼ想定通りのペースだったことは助かりました。関門制限時間には約2分の余裕があります。あとはこのペースを維持して必要以上に速くならないように、必要以上に貯金を作らないように、注意しながら走ります。
でも、それはなかなか難しいことでした。序盤のコースは下っていますし、切れ目のない声援にテンションも上がり、自然とピッチも速くなります。
そんな気持ちを抑えながら10km、15kmと関門を越えていきました。ペースは想定通り、5kmごとに27分台で走っています。でも関門閉鎖までの貯金は3分ほどしかありませんから、失速をしたらあっという間に収容バスに飲み込まれてしまいます。
バックナンバー
1.無言の抗議
2.思い上がり
3.初フルでの挫折
4.ホームページ開設
5.北海道マラソン、奇跡の完走