
今日の一曲!B'z「YOU & I -Mixture mix-」(+「さまよえる蒼い弾丸」)
レビュー対象:「YOU & I -Mixture mix-」(2000)

今回取り上げる楽曲は、人口に膾炙する和製ハードロックの稀有な担い手であるB'zの「YOU & I -Mixture mix-」です。元々の「YOU & I」は16thシングル『ねがい』(1995)に2nd beat(c/w)として収められていますが、聴こえや音像が異なるため対象はあくまで後述アルバムの別ミックスだとお含み置きください。
当ブログ上にB'zの単独記事を立てるのは【テーマ:平成の楽曲を振り返る】の連続更新企画で「もう一度キスしたかった」(1991)を対象にして以来何と6年ぶり;即ち令和になってからは初です。とはいえ実はその後2023年の旅行記に密かな言及があり、際しては「さまよえる蒼い弾丸」(1998)にフォーカスしています。同記事から係る記述のみをセルフ転載したものが本記事最下部にありますので、宜しければ本レビュー後に併せてご覧ください。
収録先:『B'z The "Mixture"』(2000)
キャリア初の公式ベスト盤『B'z The Best "Pleasure"』および『B'z The Best "Treasure"』(共に1998)に続く、接尾辞-ureシリーズ(或いはジャケットデザインから金・銀・パール)の三作目『B'z The "Mixture"』が本曲の収録先です。
有り体に言えばB面集だけれど実態はそれだけに留まらない充実のラインナップゆえ、マストアルバムなるニクい呼び方も存在しています。先に「聴こえや音像が異なる」と述べた通り、収録曲の殆どが再レコーディングないしリミックスされていて、c/w曲だけでなく既出のアルバム曲まで対象に取る幅広いブラッシュアップで意義深い一枚です。
僕は過去作についてアルバムは当然として8cmシングルもほぼ全て揃えているため聴き比べた上で書きますと、基本的には新しいバージョンがそのまま上位互換と言って良い仕上がりなので、Mixture styleには好き好きの余地があるでしょうがMixture mixに関しては素直に本作をこそ推奨します。用語の使い分けや大まかな差異は下掲Wikipediaの当該ページに詳しいです。
自作のプレイリストに照らすとB'zは30*3の全90曲編成で、同盤からは上位30曲までに「hole in my heart -Mixture mix-」「MOVE」「YOU & I -Mixture mix-」を、上位90曲までに「Hi」「あなたならかまわない」「だからその手を離して -Mixture style-」を登録しています。
このうち「MOVE」と「Hi」(および「FUSHIDARA 100%」と「The Wild Wind」)の4曲に限っては曲名が示すように元のままでの収録です。流れの中で本来の良さを発揮しているナンバーには下手に手を加えていない分別にも信を置けます。「hole~」は本アルバムに於いて次点のお気に入りなので、いつか単独でレビューするかもしれません。
「あなたなら~」はここが初出の隠れた良曲で、僕がベスト盤を語る際に度々用いる表現、「既出曲を揃えているファン向けの販促要素にされがちな未発表曲には中々どうして名曲が多い」に当て嵌まり流石です。「だから~」は打ち込み感顕なオリジナルも嫌いではないものの、ハードに生まれ変わったMixture styleを聴くとやはりこちらに軍配を上げたくなります。
歌詞(作詞:稲葉浩志)
何となく90年代前期~中期のトレンドだったような気がしないでもない、別れを乗り越えんと強がって見せるところに男の悲哀が窺える系譜です。槇原敬之の「もう恋なんてしない」(1992)を好例にMr.Childrenの「Over」(1994)やスピッツの「チェリー」(1996)も適例で、作編曲も含め一聴では状況に似つかわしくない明るさすら感じさせる部分を共通項に挙げられます。いつの時代も普遍的な描き方では?やら恣意的な選曲では?やらのツッコミはご容赦ください。
本曲の歌詞にはとかく「否定」が目立ちます。仰けの"きらいだ"からしてそうですし、サビの頭は毎回"いなくなってしまえ"です。先に後者から語りますと別れの文脈がある以上これは「肯定の裏返し」で、続くのが1番とラスサビでは"憂鬱といっしょに"、2番では"歓びもいっしょに"である点に鑑みると、感情の源泉が涸れることはつまり人間らしさ延いて"僕"らしさの消失であるため、この否定に至る背景には真逆の経緯があったのだろうと察せます。
係るコンテキストは勿論"あなた"との日々を指し、上記に続く"あなたがいなけりゃ"に今後訪れるであろうif without youの悲しい想像が予見されるも、これは要するにほぼ確定した現実なので非情です。1番では"楽な気持ちになれるだろ/何もかも 静かになって ああ眠れるよ"、2番では"悔しさに泣くこともない/何もない 思い切り 叫ぶことも"、ラスサビでは"あとは寂しさに耐えればいい/つまらない 毎日を 送ればいい"と、あなたと共に居られない未来が如何に無味乾燥であるかが連ねられます。
この絶望を端的に表したのが"もう何もない 意味さえない Yes, just YOU & I"で、この鮮やかで残酷なタイトル回収の手腕には唸るほかありませんでした。しかし同じthere is nothingの光景でも「端からない」のと「曾てはあった」のとでは大きな違いがあり、nothingの後にbut you & I(=not but 構文)が潜んでいるからこそ、"きっと良かっただんだろう 僕たちは めぐり会えて…"と仮令強がりでも前を向けるのでしょう。巡り会えなかった不幸に比べれば幸せだったとの合理化は、喪失を乗り越えるプロセスとして普遍的です。
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視点を冒頭に戻しまして、"きらいだ"はあなたへ対する言ではなく"あなたといるときの僕が"に繋がります。その理由は"たまらなく情けなくて"で、釣り合いや似合いを意識して自己嫌悪に陥った結果、元来のパフォーマンスを出せないというもどかしさには僕にも覚えありです。これが2番では文法上でのみ否定形の"きらいじゃない"に変化し、"あなたと楽しむ僕は"とフォローされます。
この周辺の歌詞は特に稲葉節が炸裂しているとの受け止めで、"生きてることを感じられるような/ドロッとした時間を過ごせる"に於ける「濃密」の表現は冴え渡っていますし(序でに言うと性的な匂わせも巧い)、"つきあいがいがありすぎて/身も心もくたくたになる"に窺える独特な「過ぎる」への接続もまたフックとして耳に残る言い回しで大好きです。
さて、マッキーの曲名は例外としてここまでは「恋愛」だの「失恋」だのといったワードを敢えて用いませんでした。これは本曲の歌詞世界は必ずしも色恋沙汰に限定されないと解釈したからで、"あなた"が親友やライバルであってもいいですし師弟関係や上司と部下の間にすら成立する内容だと思います(その場合先の「性的な匂わせ」は無しで)。想いが一方通行か双方向かも問わない自由度の高さで、別れを意味あるものと捉えたい時には力強い応援歌です。
メロディ(作曲:松本孝弘)
先述した「状況に似つかわしくない明るさすら感じさせる」の印象に作曲面で寄与しているファクターは純粋に旋律の美しさにあります。別けてもサビメロの流麗さは胸を打つものがあり、その見かけ上は投げ遣りな歌詞内容に沿って放り出すような音運びから入って、次第に感極まった進行になり感傷のピークを迎えた後に、脱力を思わせるフレージングで終止するという、不安定な心の動きと連動したナラティブなメロディラインに神韻を聴きました。
Aメロは良くも悪くもあなたと過ごした履歴だからか音の展望は明るく爽やかです。しかしそれが帰らぬ日々であると認めた途端に決壊までのカウントダウンが始まるので、時間稼ぎで迂回する作曲上の意図が感じられるBメロの渦巻く趣で以て性質の異なるAメロとサビメロを見事に繋いでいると言えます。
アレンジ(編曲:松本孝弘・稲葉浩志)
何処かラテン風の淋しさを漂わせたサウンドに別離のビジョンを見る意外性から幕を開けるも、程なくしてハードなギターリフによるB'zらしさが出てきて馴染みのある音像を見せるというのがイントロの概略です。AメロBメロも編曲面ではこの流れを引き継いでいます。
再びの意外性はサビ前フィルからで、ホーンセクションの登場で俄に豊かさを得る変わり身に驚きです。サビメロの間隙を縫うようにアンサンブルが鳴り渡り、それも含めて一つの旋律として聴くと尚一層主旋律の流麗さが際立ちます。入れ替わって鳴り出すストリングスの情緒纏綿さは、メロディの項に述べた「脱力」を下支えして失った側の尊厳を何とか維持しているみたいで健気です。
間奏のギターソロは言わずもがな素敵で、歌詞に照らせば感情と動機を失くした僕の代わりに悔しさに泣いて思い切り叫んでくれているに違いありません。ラスサビ前グリッサンドでピアノにも意識が向いて愈々感情表現ビッグバンドが勢揃いし、タイトル回収を含む歌詞のメッセージ性を一段と高らかに伝えています。
旅行記に埋もれた「さまよえる蒼い弾丸」のレビュー
以降は旅行記と音楽レビューを組み合わせたこの記事から「さまよえる蒼い弾丸」への言及部分のみを抜き出したセルフ転載です。体裁や文面は多少変更するものの前後の文脈を説明しませんので詳細はリンク先でご覧ください。
早速沖縄へ!と言いたいところですが、今回に限って東京に前泊しなければならない事情があったため、その日のことを書くついでに旅行前の心構えについて語らせてください。
家族の大病とコロナ禍をひとまず乗り越えて久々の本格的な旅行に期待と不安が入り混じっていた折に、DAPのランダム再生という偶然により我が意を得たりと思わせてくれた楽曲がありました。それはB'zの「さまよえる蒼い弾丸」です。
"風の強い日はアレルギー そんなのかまっていられない/無菌状態に慣れ過ぎ みんなあちこち弱ってる"の立ち上がりは、そのまま病理的な意味でも精神性の話としても2020年代の人類には殊に刺さるのではないでしょうか。
ここ数年の免疫獲得機会逸失のせいか目下種々の感染症が流行していること然り、燻っていた戦争の火種がいざ燃え上がるとこうも心は無防備かと思い知らされること然りです。
なればこそ"飛びだしゃいい 泣き出しそうな 心を蹴って"で身も心も外に出すことが肝要で、"旅すりゃいい 僕はさまよう 蒼い弾丸"と無軌道な若さで風を切ってこそ得られる強さがあるのでは…否、あったのではと想起を迫られました。
イントロから迸る灼熱感に資するシタールの空間演出力が鮮やかで、当ブログ内を同楽器名で検索した際にコロケーションを見せるオノマトペが「ギラギラ」または「ジリジリ」であるのと同様に、一気に渇き切った世界へと意識を飛ばしてくれるサウンドスケープです。
そんな熱風荒ぶ景色を征くに相応しいのはハードロックしかないよなと言わんばかりの、即ち源流にあるブルースをエレキとシャウトの絡み合いでマッシブに敷衍したプレイにどうしようもなく滾ります。