今日の一曲!椎名林檎「闇に降る雨」 | A Flood of Music

今日の一曲!椎名林檎「闇に降る雨」

 【追記:2021.1.5】 本記事は「今日の一曲!」【テーマ:雨】の第五弾です。【追記ここまで】

 「今日の一曲!」は椎名林檎の「闇に降る雨」(2000)です。2ndアルバム『勝訴ストリップ』収録曲。

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 クレジットの表記に忠実に記しますが、弦一徹勝ち戦記念楽団による不吉ストリングスが印象的な、タイトル通りの暗く情感的なナンバーです。

 規則的に刻まれる弦楽器が雨の表現につながるという考察は、雨シリーズの第一弾および第二弾でも同様のことを書いていますが、後者の記事で出した「歌謡曲的な発想」という言葉は、本曲のようなものを念頭に置いて出したのだと補足しておきます。

 『椎名林檎 Special Site』を【回想録 → 「RAT」Vol.14 → 林檎ちゃん「勝訴ストリップ」全曲解説!】と進んでいくと 当該の盤の全曲セルフライナーノーツが読めるのですが(wikipediaの出典からも辿ることが出来ます)、本曲に対する本人評は「私の中での演歌的な部分を全部集めたような曲」となっていて、演歌と歌謡曲はイコールで結ばれるものではないでしょうが便宜的に同列に扱われることもあるため、本曲に於いては上掲の「歌謡曲/演歌的な発想」によるストリングスが、雨の表現のみならず楽曲自体のコンセプトにも合致しているとの分析です。


 雨に関する言及は、解説の中で林檎女史自ら絶賛している"貴方に降り注ぐものが譬え雨だろうが運命だろうが"というサビのフレーズと、その直前の"貴方の嫌う生温い雨に濡らされてゆく"という一節に登場します。1番Aの"余りの暑さ"や2番Bの"向日葵"を考慮すると、季節は夏でこの雨は夕立のことだと解釈出来ますが、何にせよ実際の雨と比喩的な雨がオーバーラップさせられていて、"貴方"に牙を剥いている;"あたし"は雨から貴方を"此の手で必ず守"りたいと思っている、という構図が鮮やかに切り取られている点を気に入っています。

 しかし個人的に最も好きな歌詞は、冒頭の"余りの暑さに目を醒ましさっき迄見ていた夢の中/東西線はあたしを乗せても新宿に降ろしてくれなくて"です。この"夢"というのが睡眠時の夢なのか白昼夢なのか僕の中で定まっていないのですが、何れにしても目的地に辿り着けないという焦りが、熱の描写によって一層息苦しいものになっているところを高く評価しています。

 自分語りになりますが、プロフィール記事にも書いてある通り僕は東京生まれです。別にここから個人情報が割れるような痕跡をネット上には残していないので更に開示しますと、産声を上げたのは何を隠そう新宿なのです。従って、新宿に辿り着けないというのを勝手に象徴めいたものに捉えてしまい、必要以上に心惹かれている節があると自己分析します。笑 それはともすれば、この曲に限らず女史のアーティスト像を魅力的に思う要因たり得ているかもしれませんね。


 最後にメロディについて語りますと、感覚的な説明になりますが、Aメロとサビの旋律はストリングス(=リズム)への寄り添いが強いため雨らしい質感を携えている一方、間に挟まれたBメロは自由度の高い美麗な旋律を有していると感じるので、このギャップこそが気持ち好いと主張します。

 あ、もう一点だけ。シタールのようなという喩えが共感を得られるかはわかりませんが、間奏のギラギラした感じのギターも気温上昇に一役買っていると思うので好きなアレンジです。