草野さんにしては分かりやすい歌詞だと思う、スピッツの「あじさい通り」を梅雨時にレビューしました。 | A Flood of Music

今日の一曲!スピッツ「あじさい通り」

 【追記:2021.1.5】 本記事は「今日の一曲!」【テーマ:雨】の第一弾です。【追記ここまで】

 「今日の一曲!」はスピッツの「あじさい通り」(1995)です。売れに売れた6thアルバム『ハチミツ』の収録曲なので、そこまでファンでなくとも聴いたことのある人は多いのではないかと推測します。

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 タイトルに紫陽花を含むことからもわかるように、僕の中では王道の梅雨ソングだという認識です。歌詞の内容はもちろんですが、怪しいシンセリフをつなぎとして規則的なギターにメロディアスなベースが絡み合っていくというアレンジ自体が、何時止むとも知れない長雨を表現しているようで上手いと感じます。


 歌詞は草野さんにしてはかなりわかりやすいほうではないでしょうか。主人公が置かれている立場の描写;"いつも 笑われてる さえない毎日"や、"だって 信じることは 間抜けなゲームと/何度言い聞かせたか 迷いの中で"などのフレーズは、一般的なJ-POPの歌詞にも割とありそうに思えますし、唯一の救いとなっている"あの娘"に関する描き方も、ピュアというか随分ストレートだなと受け取りました。とはいえ、シンプルさの中に複雑な情報を内包させるのが草野さんの十八番であることも重々承知しているため、独創性に乏しいなどというネガティブな評価をするつもりは毛頭ありません。

 歌詞を額面通りに受け取らずに深読みしようとすれば、"明日の窓"や"寄せ集めた花"や"名も無い街"などの言葉は意味深長なものとなって響いてきますし、何より2番Aの"愛と言うより ずっとまじめなジョークで/もっと 軽々と 渡って行けたなら/嘘 重ねた記憶を 巻き戻す"という一節は、"さえない毎日"を送っている主人公らしからぬ悟りっぷりというか、愛についての理想と現実をいい具合にブレンドした結果の産物だなという気がします。自分のことよりも"あの娘"のことを想って"この雨あがれ"と願っていますし、"今を手に入れる"と能動的な姿勢も認められるため、主人公が単なる朴念仁ではないと理解するのには充分です。


 その他細かいツボを列挙しますと、Aメロバックのシロフォンの可愛さと怖さ、2番後間奏の気が滅入ってしまいそうなギターソロ、アウトロの突き刺ささる光を錯覚させるようなパッド?からの物憂げな"Uh"コーラスなどは、言葉は不適切かもしれませんが、希死念慮が刺激されるほどに鮮やかな暗さであると絶賛します。

 これを踏まえた上で更に言及したいのは曲のクロージング部に対してで、フェードアウトしつつもきちんと演奏が終了するタイプ(感覚的に言えば「ジャーン」という締め方)なのですが、ここまでの曲の印象とは打って変わって明るいコード感で終わっているところが実に素晴らしいです。希望が見える終幕というか、それこそ"今を手に入れ"たのではないかと思えるようなつくりになっているところが未来志向で好感が持てます。