avengers in sci-fiのₙC₅「Nowhere」「Crusaders」ほか | A Flood of Music

avengers in sci-fiのₙC₅「Nowhere」「Crusaders」ほか

 

はじめに

 

 自作のプレイリストからアーティストもしくは作品毎に5曲を選んでレビューする記事です。第11弾は【avengers in sci-fi】を取り立てます。普通に読む分に理解の必要はありませんが、独自の用語(nの値やリストに係る序数詞)に関する詳細は前掲リンク先を参照してください。

 

 これまでに当ブログでアヴェンズをメインとした記事は9本とそこそこ多くあり(1本はThe Departmentのものです)、そのうち以下の2本は特集的な内容なのでリンクカードを貼っておきます。

 

 

 

 その他関連のある言及をした記事や単に名前を出しただけの記事も読みたいという方は、当ブログのID指定ありの検索結果ページを以下にリンクしておくので辿ってみてください。なお、本記事の選曲に於いては過去にレビュー済の楽曲をなるべく除く形にしました。

 

 

 前置きは以上で、ここからアヴェンズのₙC₅を書き始めます。現時点でのnの値は60/3[=20*3]、レビューするのは「Summertime」「Nowhere」「Hooray For The World」「Crusaders」「Odd Moon Shining」の5曲です。現時点でフルのオリジナルアルバムに収録されていない楽曲のみのマニアックな布陣にしました。リリース年の新しいものから遡っていきます。

 

 

「Summertime」(2019)

 

 

 ここ数年はライブ活動はあれど音源のリリースがないため、現状の最新曲を紹介するにしても未だテン年代なのが残念な1曲目に据えるは「Summertime」です。当時の音楽ナタリー(外部リンク)からメンバーによるセルフキャプションを引用すると「フレンチハウスと山下達郎をAIが間違った解釈で融合した感じ」で、この手の形容はその意味合いが今日までにかなり変わってしまった;より一層の真実味*1を帯びてしまったところに僅か5年で隔世の感を覚えます。

 

 *1 音楽生成AIの発展が目覚ましい現在では上記を基にバリエーションを作ろうと思えば出来てしまうのが、楽曲制作に於ける可能性の拡充に照らして喜ばしいようなクリエイティビティの不健全な芽生えに資して虚しいようなアンビバレントな心持ちです。昨年暮れの記事(最後の雑感)で「Suno怖い(誉め言葉)」と驚いたばかりなのに程なくしてUdioのリアルな出音に衝撃を受け、更にSonautoのFull Song Control実装で『これって先の雑感で危惧した「イラストのi2iに相当するm2m/s2s/t2t(music/song/track)的なもの」じゃん!』と動揺し、本格的に人間の良識が問われるフェーズに入った気がします。

 

 だからこそ「間違った解釈で」という部分に人間らしさの発露を見るのが肝要で、立ち上がりの"歩くと決めた"が宣言する通りタイパの時代にあって急がば回れにプレシャスを感じるオクシモロンなスタンスや、2番サビ後間奏の俄にノイジーなライザーに剥き出しの若さが迸ってフレンチないしヤマタツの瀟洒なタッチを吹き飛ばしていく意外性が、血の通った生物(なまもの/いきもの)たるバンドの手に本曲が成っていることの証左です。

 

 とはいえ直近のワークスはフロア志向のものが多くバンドサウンドが鳴りを潜めているのも事実で、フィルターで魅せるアナログシンセならではの陶酔性を主軸にしたトラックはしっかりダンサブルですし、"dun-bee-dan"から浮かぶのは大瀧詠一だけれどシティポップつながりで据りの好いメロディアスなボーカルラインはきちんと和製ポップスで、言わば「正しい解釈」のほうでも狙った雰囲気を醸せています。

 

 

「Nowhere」(2019)

 

 

 続いて同じく2019年から2ndEP表題曲「Nowhere」にフォーカスです。近年のナンバーに限らず過去曲を比較対象にしても個人的ベスト5に入るくらいには愛聴しています。高評価の理由は主に次の二点で、サンプリングボイスの楽器的な使用を徹底しているところと、幸福性希死念慮とでも表現したい独特な歌詞世界に共感を抱けるところです。

 

 前者は所謂カットアップでリフを作るようなトラックメイキングについての言ですが、その多くが歌い手自身のボーカルを利用して間奏部を賑やかす序でに主旋律との連続性を維持するような使われ方であるのに対して(当ブログ独自の用語で表せば「コーラス(β)」的なもの)、本曲は大別して5パターン*2のボーカルトラックが間奏部に限らず主旋律のバックにも登場して複雑な音像を構築しており、文字通り「オケも歌っている」がゆえに新鮮な聴き味を供しています。幻聴めいて面白いと換言しても可。

 

 *2 a. イントロ[0:01~]とアウトロの「nowhere」の連呼("パーティーの彼方"~のスタンザにもうっすら聴こえる) b. イントロ[0:09~]と間奏部[3:08~]と"ずっと遊んでいよう"~の要所でいちばん目立つCreepy Nutsの「Bling-Bang-Bang-Born」(2024)みたいなやつ c. イントロ[0:33~]とサビ前[1:44~]と間奏前[2:49~]とアウトロにフィルイン的に挿入される逆再生系のもの d.  "神さまが居ないと"~の裏でリズムを刻む「tosh」的な聞こえのボイス e. 間奏部[2:52~]の少し素人っぽい発声の女性ボーカル

 

 種々のボイスを楽器的に扱うトラックそのものは電子音楽界隈で珍しくないけれど(過去に言及した範囲ではDÉ DÉ MOUSECrystal CastleBonoboが好例)、それをオケにして更にメインのボーカルが重なると尚の事ツボだったという話です。最近の楽曲で例示するならアニソンからで、IDOLY PRIDEの「風になっていく」(2023)には同種のハイセンスを聴きました。

 

 

 後者の歌詞に話を移して一般には褒められないであろう死生観の開示を注意喚起しまして、歌い出しの"ずっと遊んでいようって/俺はいかれたフリした/死んでしまいたいなって/言ってしまいそうな気がして/シラフになってしまうと/泣いてしまいそうな気がするんだ"は、僕の理想と現実を共時に捉えています。これで安易に「死にたがり」と思われるのは本意でない…というか文意を正確に掴めていないとの受け止めで、具に読めば「死にたい」とは言っていないし泣いてもいないと解るはずです。

 

 確かに"いかれたフリ"と酔中夢中にあって止まっているため危ういのだけれど、"ずっと遊んでいよう/一生遊んでいよう"と謳うのは生への強い動機付けに映るので、単なる希死念慮で片付けるのは違うと主張します。人が死にたくなるのは何も人生に絶望した時だけではありません。その全く逆の幸せの絶頂にある際に逆説的な言い回しとしてなら「今死んでもいい」が不自然でないように、充足しているからこそ悔いなく逝けるといった境地は普通に存在し得ます。これを生物的な寿命を迎える間際に思えるのが最も美しいものの、人生の半ばで来し方行く末を秤に掛けた場合に幸せの重みで過去に大きく傾くのならば、前向きに未来を棄てる選択をしてもそこまで可笑しいとは感じません。

 

 なぜなら僕は自分の人生にとても満足していて、絶対的にも相対的にも幸福を享受してきたとの主観なので、特に死にたいわけではないし生きる理由もたくさんあるけれど、杳として行方知れずのシュレディンガー状態が確約されるなら(=遺された人々に希望が残るなら)、消えてもいいと嘯けるほどには未練がないからです。これを端的に表したのが"もしも死んだらそうと決めたら"の名フレーズで、死への偶発的な遭遇と能動的な歩み寄りを等価に置くことで、刹那主義者の拠り所として「うっかり死んでもこれまで楽しかったからOK」と「いざとなったら死ねるの開き直りで寧ろ存えられる」を見事に浮かび上がらせています。

 

 

「Hooray For The World」(2018)

 

 

 次に紹介するのは1stEP『Pixels EP』(2018)収録の「Hooray For The World」です。「True Color」のレビューを中心とした全般的なディスク評は既にアップしているけれど、本曲に関しては曲名を出す程度だったのでここでフォローします。厳密にはリンク先で「この時代だからこそ書き下ろされた救いとなる名曲」との感想をTCとHFTWの双方に対して述べており、執筆した2019年当時は「SNS文化とサブスク」を意識した結果でTCの歌詞内容に重きを置いた短評でしたが、その後に訪れたコロナ禍と各地の戦禍を経た寸善尺魔の世界情勢に鑑みると、現下の比重はHFTWのほうが大きいというアイロニックな伏線回収を果たした次第です。

 

 但しこれは飽くまで後年から振り返った結果論の解釈なので、本来伝えんとしているのはもっとパーソナルでポジティブな「世界との邂逅」だと思います。本曲にもまた"シラフ"が出てきて"でいないでいる"状態が"最低な大人"と表現されるも、1番では「Nowhere」と同じく「~てしまう」を使って不本意を匂わせ2番では積極的に"シラフでいないでいよう/最低な大人になっていよう"と酔夢を肯定しているので、その道の先達たる"俺"から"君"へのエールとして「ようこそ、新世界!」的なメッセージが込められているとの理解です。歌詞カードに印字されている(Birthday)と共有ボタンも、未来志向の発展性から来るものでしょう。因みに前述した社会派の読み解きに基くなら、曲名の意訳は「大丈夫か、世界」にします。

 

 音楽面では力強く鳴り渡る祝福のピアノが蓋し「誕生」のサウンドスケープで快哉を叫びたくなり、別けてもBメロで主旋律とキメるプレイが格好良いです。随所にインサートされるロール&スクラッチ*3なフィルインにもイグニッションを感じて昂ります。アウトロの盛り上がりも素晴らしく、呱呱の声を上げるギターシンセに生まれ変わりを聴いて涙しそうになり、[2:35~]のキュートなピコピコに世界の煌きを幻視しては夢見心地です。

 

 *3 これは純粋にロール音とスクラッチ音を聴き取ったがゆえの語彙選択ですが、「&」で結ぶ表記はDaft Punkの「Rollin' & Scratchin'」(1995)に敢えて寄せています。というのも同EPに収録されている本曲のリミックス音源(外部リンク)がダフトっぽいのと、手掛けたのが先に名前を挙げたデデマウスであるという情報に結び付けたかったからです。

 

 

「Crusaders」(2013)

 

 

 4曲目にはベストアルバム『Selected Ancient Works 2006-2013』(2013)に新規収録の「Crusaders」をピックします。曾て別アーティストの記事に書いたベスト盤あるあるを持ち出せば、「既出曲を揃えているファン向けの販促要素にされがちな未発表曲には中々どうして名曲が多い」に当て嵌まる良曲です。オリジナルアルバムと対照させると本作は4thと5thの間にリリースされているため、曲作りのノウハウが反映されるとしたら4thまでに培ったものに根差すのが当然だけれど、今改めて聴くと5thと6thのスタイルも先取りされている印象を受けます。

 

 がっつりSFの世界観ながら現実的な立脚地でも解せる歌詞内容と(そも「十字軍」というタイトルがイデオロジカル)、フューチャリスティックでスペイシーな電子音とソリッドでセンチメンタルなバンドサウンドのマリアージュで、これぞアヴェンズの集大成と現時点でも言いたくなる総括的なアウトプットです。こういったカーテンコールを誘うような楽曲をベスト盤のラストに据えるのもまたあるあるというか定石だとは思うものの、それだけに止まらず仮に解散ライブで最後に演奏されたとしても得心がいくレベルで大団円の向きがあります。

 

 サイバーなシーケンサーとギラついたギターが織り成すのは何処かエマージェントなビジョンで、事実"沈みかけのマザーシップ"と差し迫った状況から幕を開けるわけですが、これに続くのが"掴まれ まだもつよ/旅は終わったのだと/僕等だけが知らない"とセカイ系な言葉繰りであるところから察せるように、危機の渦中で"僕等"ないし"二人"の関係性を楽しんでいるかの如き余裕も顕です。小刻みにパンするシンセと着実に刻まれるドラムスが、焦燥と沈着をそれぞれ奏でている感じのするギャップも鮮やかに響きます。

 

 オケが一段とラフ且つハードになって愈々危急存亡の秋、"この歌を捧げるよ/滅びた国の戦いに"と亡国の音を聞きながらの献奏が泰然と行われ、"少しだけ悲しいよ/だけど好きさ/昨日よりも本当に"と飾らない本音が漏れ出た後に楽隊が整列し、シンフォニックな進行で"さらばクルセイダーズ"と結ばれる総じてリチュアルなサウンドデザインに拍手喝采です。この方向性はクロージングの展開で一段と敷衍され、荘厳な演奏と神聖なコーラスワークを伴っての"グッドナイト グッドラック"に終わりと始まりを予感して、優しく歌われる"君とまだこの歌を/歌わせてほしいから/今もまだこの歌を/嫌いになれないから"に、遥か未来の遠い宇宙の何処かで再会出来ることを夢想します。

 

 

 
 

「Odd Moon Shining」(2011)

 

 

 最後にスポットを当てるのは隠れた名曲、2ndシングル『Sonic Fireworks』(2011)のc/w「Odd Moon Shining」です。先掲のベスト盤でも「Selected Ancient Mixes」の形でなら聴けますが、元のスタジオ音源はアルバム未収録となっています。人気曲投票(外部リンク)でも11位にランクインする健闘ぶりです。

 

 「はじめに」にリンクした特集記事では5thのナンバー「Soldiers」(2014)を例に取り、サビメロに実質的な意味を伴わない言葉(同曲の場合はla la la…)を乗せられる作り手はハイセンスであるという度々の持論*4を披露していて本曲もこれに該当すると言えます。実際のところは何かしら意味のある言葉の連なりにも聴こえるのですが、歌詞カードには載っていませんし他のリスナーも聴き取りに苦戦しているのが確認可能(外部リンク)です。笑

 

 *4 一度目:monobright「雨にうたえば」(2010)+同記事内でスピッツ「水色の街」(2002)とBUMP OF CHICKEN「supernova」(2005)も例示。二度目:上記アヴェンズ特集記事。三度目:〃「水色の街」(バンドのディレクターによる自説の補強もあり)+同記事内で由紀さおり「夜明けのスキャット」(1969)も例示。四度目:フジファブリック「Surfer King」(2007)。五度目:サカナクション「マッチとピーナッツ」(2019)

 

 本曲の魅力はメロディラインの美麗さと多彩さにあるとの認識で、ビッグスケールの情景描写をポップに支えるAメロ、アトラクティブに勢い付いてエモさ大爆発のBメロ、言葉の意味が解らないからこそピュアに韻律のみが際立つ応援歌みたいな趣のサビメロ、大きく展開して楽想に奥行を与える雄弁なCメロ、切ない余韻を残すのに誂え向きのビターなDメロと、何処を切り取ってもナラティブでキャッチーなので人気も頷けます。とりわけ2番Bの"スーパーサイズのレンズで見てたから泣きそう"には、不思議と万感交至って感動を覚えました。

 

 

おわりに

 

 以上、avengers in sci-fiのₙC₅でした。僕は元々横文字多用マンではあるものの、アヴェンズのアーティスト像的に許容されるであろうとの勝手な解釈で、本記事に於いては殊更その傾向を強めた節があります。音楽用語は代替が利かないので別として、修飾語の類は外来語としてよりも英単語のまま使っていると含み置いていただけると、意味を理解し易いと思いますし幸いです。

 

 メジャー期がVictor Entertainmentで、後に自主レーベルに移って活動がスローになったキャリアの共通性や、目下Spotifyの月間リスナー数が同程度であるとの客観的な数字から、自分の中でアヴェンズとAPOGEEは近しい存在としてマークされています。両者とも邦楽バンドではトップのワンツーを堅持し続けているほどに大のお気に入りなので、昔も今も「過小評価にも程がある…!」と歯痒く思ってばかりです。

 

 勿論新譜で注目されるのが理想だけれど、弾けるポテンシャルは過去曲にさえ充分にあると太鼓判を捺せるため、予想外のリバイバルでバズらないものかと常々期待しています。サウナコンピ『トトノウオト』(2021)への「Itsuka_Mata_Ucyu_No_Dokoka_De.」(2008)収録は嬉しかったですしね。同盤ではストレイテナーの「Lightning」(2009)も元々のフェイバリットで、前者を前半ラストの6曲目/後者を後半ラストの12曲目に置く冴えたオーダーを絶賛します。

 

 

【追記:2024.6.20】

 

 本記事アップから程なくの6月2日に放送された『EIGHT-JAM』でまさかのAPOGEEおよび永野亮さんの特集(「アーティストが語りたい4人の天才たち」をテーマにした川谷絵音さんのプレゼン)があった影響で、上述した「月間リスナー数が同程度」との認識は現状に即さなくなりました。「予想外のリバイバル」がこんなに早く訪れるのはまさしく予想外だったので、アヴェンズに対しても何処からか追い風が吹いて来ることを大いに期待します。本件は放送後直ちに追記したかった情報なのですが、今月はインターミッション記事で明かした通りの多忙ゆえに忙中閑ありのスキマ時間で遅蒔きの執筆となりました。