A Flood of Musicの説明書 (メロディの区分について) | A Flood of Music

A Flood of Musicの説明書 (メロディの区分について)

最終更新日:2022.5.16 記事作成日:2016.9.29

※ 2022年5月に内容を大幅に改訂したため、他の記事に引用した際の文章とは表現やニュアンスが異なるかもしれません。とはいえ大意は変えていないつもりです。



 本記事は「A Flood of Musicの説明書」という記事の一部(3.2.1~3.2.5.2)を独立させたものですが、単体でも読み物として成立するようにしてあります。


目次

3.2.1 メロディの区分をどう表現するかの問題
3.2.2 「サビ」について
3.2.2.1 サビに関連する用語
3.2.3 「Aメロ」について
3.2.3.1 Aメロにならない特殊なケース
3.2.4 「Bメロ」以降について -次のメロディに移ったと判断する基準-
3.2.4.1 メロディの移行に関する補足
3.2.5 「Cメロ」について
3.2.5.1 呼称の問題
3.2.5.2 Cメロにならない特殊なケース


3.2.1 メロディの区分をどう表現するかの問題

 ある曲のメロディを区分する;楽曲の構成について言及する際には、「Aメロ」や「サビ」などのパートを表す言葉を用いるのが一般的かと思います。音楽レビューを書く上でも便利なので当ブログにはこれらの用語が頻出するけれども、人によって各語の定義や解釈が異なるせいで混乱を生じたり、楽想の複雑さ次第で同じ言葉でも指す範囲が変わったりと、何のエクスキューズもない場合は共通理解を得られ難くなるとの認識です。

 音楽業界に携わっている方の所感をひとつ紹介しますと、小林郁太さんは自著『アニソンが持つ中毒性の秘密 J-POPとは異なる進化を遂げるアニメソングの作曲分析』(2015)の中で、「曲のセクションを表す言葉は音楽現場でもかなりフレキシブル …中略… ミュージシャン同士のコミュニケーションに齟齬が出ることもあります」と述べています。これはプロの現場に於いても、表記に統一されたルールが存在しないことを窺える発言です。

 そこで本章ではメロディの区分に係る語群について、それら言葉の定義や示す範疇をなるべく詳細に、当ブログ上での使用例を交えながら解説していきます。当然ながら全て僕の独自研究であるため通有性の保証は出来かねますし、他者の区分方法を正す意図も一切ありません。矛盾点や不都合な例が出てきたらその都度例外を設けていくパワープレイが随所に散見され、とても整理された内容ではない点をご寛恕ください。


3.2.2 「サビ」について

 どこをサビと見做すかは本来とても難しい問題ですが、これを最も優先的に同定すべきとの立場を取りたいため、叩き台ないし取っ掛かりとして次のように定義します。サビとは「メロの起伏の激しさやオケの鳴りの強さなどから作編曲上のダイナミクスを強く意識させられる」および「通常複数回登場して特に曲の終盤に多く繰り返される」を共に満たすパートのことです。

 感覚的な理解に頼っておりこれでは定義として失格なのは重々承知していながら、実際は上述の楽典を煙で巻いたような文言に基づき判定しているわけではなく、もっと素直に「聴いてそうだと思えるほどに目立ったパートをサビとする」のが常なので、その逃げ道を敢えて残したものだとお含み置きください。メロディに関する話ゆえに楽想で判断するのが原則ですが、曲名や歌詞を根拠に「表題に纏わる言葉が出てくるところがサビ」と補うこともあります。


★ 定義により同定されたサビの例

■ 相対性理論「BATACO」(2013)

 1番サビ:"バタバタわたしバタ足まじりで"~
 2番サビ:"ジャカルタまではしょうがない"~
 ラスサビ:"バタバタわたしバタ足まじりで"~
      "ダバダバ ダバダ ダバダバダバダバ"~ [繰り返し分]

※ 当該のパートが本曲で最も盛り上がりを感じる部分で、都度三回登場して最後には多く繰り返されています。
※ 歌詞に曲名と直接関連した言葉が出てくる点も根拠です。


3.2.2.1 サビに関連する用語

◆ ラスサビ

 曲中で最も後発の時点:ラストに登場するサビのことなので、上掲の例をタイムで表しまして[0:56]~が1番サビで[2:05]~が2番サビとすると、最後にくる[2:53]~がラスサビに位置付けられます。これは[3:07]~の繰り返し分も含めた包括的な呼称です。


◇ 繰り返し分

 これは当座の説明のためだけに用意した表現で、従前のサビ(普通は1番のものを指す)をひとつのまとまりとして捉えた時に、そのまとまりが以降に複数回出てくることがあれば、それぞれを登場順にn回目, n+1回目…と記します。上掲の例で言えば1番のサビを基本の型としてラスサビではそれが複数回繰り返されるため、[2:53]~が一回目で[3:07]~が二回目ということになり、後者が繰り返し分に該当するわけです。



◆ 落ちサビ

 サビの中でも音像が控えめのものを指し、殆どの場合でラスサビの一部を構成する形で出現します。繰り返し分のない曲ではその前半部のみを、繰り返し分のある曲ではその内の一回目をこう表現することが多いです。説明のために分けて表示していますが、認識としては落ちサビの部分も含めた全体をラスサビと捉えています。


★ 繰り返し分のない例

■ Base Ball Bear「不思議な夜」(2015)

 落ちサビ:"不思議な夜がもうすぐ明けてくよ"~ [前半部|3:33~]
 ラスサビ:"素敵な明日が目の前に広がるよ"~ [後半部|3:49~]


★ 繰り返し分のある例

■ パスピエ「DISTANCE」(2017)

 落ちサビ:"一人きりのディスタンス"~ [一回目|3:24~]
 ラスサビ:"一人きりのディスタンス"~ [二回目|3:40~]


★ 折衷例

■ 鬼束ちひろ「書きかけの手紙」(2020)

 落ちサビ:"自分を探し出せなかったあの街や"~ [前半部/一回目|4:28~]
 ラスサビ:"貴方に優しく出来なかったあの頃や"~ [後半部/二回目|4:44~]

※ ラストが1番サビの前半部+2番サビで構成されているような曲は、繰り返し分に照らすと言わば一回半となるので表記に揺れが生じます。


★ ラスサビの一部にならない例

■ SawanoHiroyuki[nZk]「gravityWall」(2017)

 落ちサビ:"I'm screaming something to you."~ [前半部|1:40~]
 2番サビ:"I'm screaming something to you."~ [後半部|1:49~]
 ラスサビ:"I'm screaming something to you."~ [2:29~]

※ 2番サビの前半部だけが落ちサビとなっており、ラスサビとは離れた位置での出現です。
※ 本例のような場合に限り、落ちサビとラスサビを明確に分けて処理します。


◇ 落ち

 落ちサビから派生させた用法です。音像が控えめになるパートを総じてこの言葉に委ねて、例えばオケにそのような性質を備えたAメロが出現した際に、そこを落ちAメロもしくはAメロの落ちの部分などと表現します。なお、結びや結末を意味したい時には普段からカタカナでオチとあてているため、楽想に対して仮にオチの部分と書かれていたら、それはクロージング付近の展開について言った別の用法です。

 当ブログでの使用例を振り返ると、落ちAメロはMr.Children「終わりなき旅」(1998)avengers in sci-fi「Before The Stardust Fades(2010)などに、落ちBメロはカラスは真っ白「秘密警察」(2013)Run Girls, Run!「never-ending」(2019)などの記事に認められ、いずれもラスサビ前にタメを作る狙いを感じさせます。どこのメロを持ってこようとラスサビの入りを落ちパートにするのは王道のアレンジなので、こうした言葉でわざわざ形容しないケースも間々ありです。

 これ以外のパターンとしては、MEG「WEAR I AM」(2012)に於ける「間奏の前の落ちのパート」は従前のメロに言及せずオケの大人しさだけを根拠にしていますし、4U「メロディーフラッグ」(2017)では「2番A頭の落ちの部分」とラスサビ前ではない位置で使っています。後に説明する概念を先取りしますが、Le☆S☆Ca「ひよこのうた」(2019)での「落ちのパートをBでもサビメロでもなくフックに担わせている」は換言して落ちフックの例です。



◆ ドロップ/フック

 どちらも特定の音楽ジャンルでサビを表し得る言葉で、前者はEDM/後者はラップミュージックでの使用が目立ちます。とはいえドロップは必ずしもサビとイコールではないと考えていますし、フックは後述する別の意味での使用のほうが当ブログでは多いので(先の落ちフックも然りです)、サビと対応しているかどうかは文脈で判断してください。わかりやすくサビとドロップを重ねて書いた例としてはPerfume「無限未来」(2018)の記事が挙げられ、リンク先にはEDMのマナーをJ-POPに適用した場合の一考が載せてあります。

 サビとドロップを連続的なものとして扱った例にはセブンスシスターズ「SEVENTH HAVEN」(2016)があり、各サビ後の間奏部がドロップであるとの理解です。単なる間奏との違いは正直感覚的なもので、曲のジャンルがEDM的且つインストだけでもサビの定義を満たすほどの特筆性を有していればドロップと見做しています。この語が未だ広く市民権を得ていなかったエレクトロの時代では書き方にも迷い、capsule「Starry Sky」(2007)のアッパーな間奏部については、「そのメロディアスなライン自体をサビだと認めたい …中略… 後年のEDM用語を使えばドロップ」と述べていました。

 普通ならサビが担う役割を完全にドロップに任せている例もあり、女王蜂「火炎」(2019)BURNOUT SYNDROMES「ʘcean」(2020)の楽想にふれた際には、そもそもサビを設定していない或いは設定していても先述の定義に即したものではありません。一見すると最優先規定を無視した悪例に映りますが、このタイプではインスト部分をドロップという言葉で真っ先にサビの代置としているのです。サビ前のパートをビルドアップと表現していることも含めて、独自研究の向きがあると重ねて断っておきます。


 他方でラップのサビをフックに置き換えた例は当ブログ上にそう多くなく、RIP SLYME「DIG DUG」(2006)の記事に於ける使用が最もストレートでしょう。ラップに関してはそもそもAメロ-サビ形式の表記が適さない楽想が多いため、ヴァース-フック形式を基本として敢えてパート名を書く場合には、ある程度のスタンザごとに区分して【ヴァース1 → ヴァース2 → フック …】と数字を通時的に振っていきます。RADWIMPS「へっくしゅん」(2005)はこれに倣って表記した一例と言えますが、非常に込み入ったケースなので本記事の解説を全て把握してからでないと理解が難しいはずです。


◆ コーラス(α)

 現段階では単にサビを英語に翻訳したものと押さえていただければ結構です。当ブログに出てくるコーラスには複数の用法があって非常にややこしいので、サビと関連するものには(α)を付して区別します。とりわけヴァース-コーラス形式(V-C形式)という表現の下ではこの用法での理解が原則で、一切の詳細な説明は以降で行います。取り敢えずの例示として最適な、Justice「TThhEe PPaARRtTYY」(2007)の記事にリンクしておきましょう。


◆ サビ前半/サビ後半

 特に専門的なことを意識せず便宜上サビを二分して語る際にも、一般的な語彙使用の範疇でこれらの表現が出てくることは勿論あります。しかし目下で取り立てたいのは、独立性の高い複数のセクションが合わさってひとつのサビを構成していると描写可能な、特殊なサビに於ける前半/後半です。3.2.2に紹介した「BATACO」が実はこの一例で、歌詞に照らせば"バタバタ"~が前半で"カタルシス"~が後半に属します。これに関しても具体的な解説は以降に行うため、今は頭の片隅に留めておいてください。


◆ 大サビ

 後回しばかりですみませんがこの語についてはCメロと絡めて語るのがベターなので、ここには見出しを立てるだけにして追って説明します。


3.2.3 「Aメロ」について

 サビに次いで優先的に同定すべきはAメロです。何はなくとも定義付けますと、基本的には「曲中で最も早くに登場するパート」をAメロと見做します。しかし実際は定義通りに事が運ぶ単純な曲ばかりではなく、寧ろAメロよりも前に位置付けるパートを想定したほうが据りの好い、定義に沿わない特殊なケースが存在するのです。この手の例外は全て「○○始まり」という概念で説明出来るため、本項ではこれを以ての消去法でAメロのコアを明らかにします。


★ 定義により同定されたAメロの例

■ サカナクション「多分、風。」(2016)

 1番Aメロ:"ほらショートヘアをなびかせたあの子"~ [0:26~]
 2番Aメロ:"ほらショートヘアをなびかせたあの子"~ [2:08~]

※ 当該のパートが本曲で最も早くに登場し、メインメロディないしボーカルラインの起点もここです。
※ ちなみに2番のそれは落ちAメロと言えます。


3.2.3.1 Aメロにならない特殊なケース

◆ サビ始まり

 文字通りサビから始まる曲にそのままAメロの定義を当て嵌めようとすると、冒頭のサビをAメロと誤認することになるためまずはこれを除外します。サビは先に同定したのだから除いて考えるのは当然だろうといった発想は、ごく当たり前だからこそBメロ以降について解説する場面で改めて記述させてください。


★ サビ始まりを除外した例

 坂本真綾「光あれ」(2003)

 サビ始まり:"もしもまだこの声が誰かに届いてるなら"~ [0:00~]
 1番Aメロ:"ひとりじゃいられない時ほど"~ [0:14~]

※ 現実にタイムが早いのはサビ始まりのほうですが、これを除外するので最も早くに登場する[0:14]~のパートがAメロです。


◆ コーラス(β)始まり

 3.2.2.1でふれたコーラス(α)とは別の用法で、○○始まりと関連するものには(β)を付して区別します。ずばりこうだ!と説明しにくいので多様な表現に努めますと、そもそも歌詞カードに載っていなかったり載っていても括弧書きで示されていたりするパート、ボーカルは存在するけれどもメインのそれと比べると音量が控えめだったり特殊なエフェクトが施されていたりするパート、オケに重なる形で楽器的な使われ方をしている断片的なボーカルトラックを含むパート、ふたつの主旋律を繋ぐ役割を持った短めのパート、…等々がコーラス(β)で表され得るものです。

 これらはサビやAメロと同じく楽想中に独立して存在しているため、主旋律の裏に据えられるような所謂ハモりやバックコーラスを指しているわけではありません(その用法はαでもβでもないので仮にγとします;これは覚えなくて結構です)。とはいえサビやAメロをその存在感の確かさからメインと置くと、前述の例示通りコーラス(β)はどれも補助的な趣を感じさせるものばかりなので、曲の最初にこの類のサブパートが据えられていたとしても、それをAメロと扱うことはないと言えます。


★ コーラス(β)始まりを除外した例

■ KOTOKO「421-a will-」(2005)

 コーラス(β)始まり:"Thank you for your sincere engagement"~ [0:00~]
 1番Aメロ:"桜色のブーツが"~ [0:33~]

※ 現実にタイムが早いのはコーラス(β)始まりのほうですが、これを除外するので最も早い[0:33]~のパートがAメロです。
※ [0:00]~は歌詞カードに非記載で、聴き取りゆえに内容は不正確かもしれません。


★ サビ始まりとコーラス(β)を除外した例

■ WITCH NUMBER 4「ラバ×ラバ」(2016)

 サビ始まり:"動き始めた恋のミステリー"~ [0:02]~
 コーラス(β):"Oh Yes!"~ [0:12]~
 1番Aメロ:"デートの後"~ [0:26]~

※ 現実にタイムが早いサビ始まりを除外してなお次点のコーラス(β)も除外されるため、最も早い[0:26]~のパートがAメロです。
※ [0:12]~は歌詞カード上の表記や聴こえの観点からはコーラス(β)と認識しづらいものの、サビ始まりと1番Aメロに連続性を与える補助的な機能を重視しています。


◆ フック始まり

 3.2.2.1で説明したラップのフックとは異なる用法です。感覚的な理解としては第二のサビと言い換えられるもので、サビの定義を満たせるようなパートを二種類内包する曲に於いて、サビと同定しなかったほうをフックと呼んで区別します。ラベリングの順番と楽想上の位置関係の逆転がややこしさを助長しますが、フックはサビよりも前に出てくる場合が多いです。


★ フックの典型例&フック始まりを除外した例

■ 777☆SISTERS「Cocoro Magical」(2015)

 フック:"右手からドキドキ"~ [0:00~]
 1番Aメロ:"ふたりで立てた予定"~ [0:30~]
 1番Bメロ:"ダメだね!"~ [0:57~]
 1番サビ:"Co・Co・Ro"~ [1:14~]
 フック:"右手からドキドキ"~ [1:46~]
 2番サビ:"Co・Co・Ro"~ [2:45~]
 落ちサビ:"Co・Co・Ro"~ [前半部|3:47~]
 ラスサビ:"いつか話してくれた"~ [後半部|4:02~]
 フック:"わたしからマジカル"~ [4:20~]

※ 解説

 本曲には作編曲上のピークを担えるパートが二種類あり、その両方が複数回登場してサビらしく振る舞っています。Aメロより前のそれをサビと見做す(サビ始まりと仮定する)と、Bメロ後の感覚的にはサビに相当する部分を呼称する術がなくなるので、楽想上は後置の[1:14]~をサビとしてから、前置の[0:00~]をフックとすれば問題はクリアです。すると現実にタイムが早いのはフック始まりということになりますが、これを除外するので最も早い[0:30]~のパートがAメロに位置されます。

 曲によってはコーラス(β)との区別が曖昧な場合もあるけれど、フックはサビやAメロと同等にメインの流れを汲むパートとの認識であるため、傍流か否かで一応の線引きは可能です。ただ、どちらにせよ冒頭のそれをAメロと扱わないことには変わりないので、○○始まりの文脈では違いを気にしなくても構いません。反対に両者に共通する捉え方としては、各コーラス(β)/フックが何番に属すのかについて特に定めないという点が挙げられます。ゆえに上掲の例には数字を与えておらず、特定の部分に言及したい時には「1番Aメロ前のコーラス(β)」や「1番サビ後のフック」と具体化が必要です。


◇ フックに関するコラム

 フックが出現しやすいジャンルとしては、アニメソングやアイドルソングが最有力候補に挙げられます。印象的なポイントを一曲の中に複数設ければ、音源としての訴求力が高まりライブでも好く映えるからでしょう。キャッチーで耳に残る点が語義の「引っ掛かり」に即していることと、サビが別に存在するせいでその言葉は使えないけれどサビと関連のある用語で表したいといった立脚地から、フックこそが最適な語彙選択だと考えています。なお、単に気に留まった部分について言う際にもこの語を一般的な意味で使用することがあるので、楽想の話かどうかで判断していただければ幸いです。

 この用法でフックを使うのは長らく自分くらいだと思っていたのですが、2019年に購入した2012年の刊行物の中に全く同じ意味合いと言っていいであろう他人の使用を発見しました。雑誌『SWITCH』の特別編集号「ソーシャルカルチャーネ申1oo The Bible」で、トラックメイカーのmochilon氏が七森中☆ごらく部「ゆりゆららららゆるゆり大事件」(2011)を例に取り、「ポップスの楽曲形式がサビ頭からフック頭へ移りゆく」と形容しているのです。この場合の○○頭が当ブログで言うところの○○始まりで、同曲冒頭の"ゆりゆららららゆるゆり"~のパートは僕の区分法でもフックと扱い、サビの"桜咲き"~とは分けて表示します。

 また、3.2.1に紹介した小林さんの著書でもこの観点は取り上げられており、高橋洋樹「魔訶不思議アドベンチャー!」(1986)を例に、サビは"つかもうぜ!"~と"Let's try try try"~のどちらなのかが分析されていました。詳細は同書をご覧くださいと丸投げして、氏は後者をサビ/前者をテーマと扱うことで区別を付けています。加えて両者をリズムとメロディで対比させる聴き解き方も披露されていて、その文脈では前者が「リズム・フック主体で瞬発力がある[C]がいわゆる“掴み”を果たし」と表現されているため、やはりフックという言葉は直感的な普遍性を備えているとの理解です。フックの使い方が特徴的な曲の例に赤き誓い「スマイルスキル=スキスキル!」(2019)があり、リンク先には本コラムを下敷きにした解説があるので興味があれば辿ってみてください。



3.2.4 「Bメロ」以降について -次のメロディに移ったと判断する基準-

 サビとAメロ(およびこれらに付随する特殊なケース)を優先的に同定した後は「Bメロ」以降を順繰りに処理していくだけなので、本項に示す基準は以降どれだけアルファベットが進もうとも;【Cメロ → Dメロ …】と続こうとも変わらないものです。直前のメロと比較をして、旋律の楽典的な性質が明らかに異なり始めたら、そこからを次のメロと見做します。


★ 定義により同定された【(Aメロ →)Bメロ】の例

■ 東京事変「金魚の箱」(2007)

 1番Aメロ:"もうなんか"~
 1番Bメロ:"あなたがあたしを泳がせる"~

※ 楽典的と書きましたが、実際の運用はサビの同定と同じく感覚優先です。


3.2.4.1 メロディの移行に関する補足

◆ 除外

 3.2.3.1に提示した除外の概念を一部おさらいをしますと、サビ始まりの曲に於いて「曲中で最も早くに登場するパート」は当然冒頭のサビだけれど、これはAメロを同定する定義であり整合性が取れなくなるため、冒頭のサビはないものとして扱うという話でした。○○始まりのケースだけならこうして例外的に済ませてもいいのですが、メロの移行を判断する場合にもこの問題にぶつかるので、ルールとして「あるパートを同定する際には既に同定済のパートを除外する」を設けます。

 パートの同定に優先順位があるのはこれまでに説明してきた通りで、楽想がよほど特殊でない限りは【サビ →(コーラス(β)/フック)→ Aメロ → Bメロ → Cメロ …】の順番で考えていくのが基本です。サビを最優先に同定するため(他の○○始まりがある場合にはそれらも優先)、その次にAメロを同定する時にはサビが考慮の外となります。これで仮に○○始まりがあっても難なくAメロが同定され、次いでBメロを同定した後に出現が予想されるのはサビですが、実は除外のルールがないと移行の基準に従うこととなり、サビで表されるべきパートがCメロになってしまうのです。また、1番サビから2番Aメロに戻る楽想を考える際にも、除外がないとアルファベットが進んで実態に反します。

 このような事例を回避するための大前提が、一度サビやAメロと同定したものと同じメロが再度登場してきた場合に、それを次のメロとは見做さないというルールです。これがあって初めて無秩序な移行を防げて、【○○始まり → 1番Aメロ → 1番Bメロ → 1番サビ → 2番Aメロ … Cメロ → ラスサビ】といった表記が可能になります。ここに記した視座は感覚的にはごく当たり前のことでしょうが、定義や基準を設けた以上はきちんと言葉で縛っておかないと不整合が生じるため、それゆえの回りくどさだと受け止めてください。



◆ 変則○○

 メロ移行の判断が実際には直感的であるのは明かした通りだけれど、それでも中には判断に迷うケースが出てきます。「旋律の楽典的な性質が明らかに異なり始めたら」が基準ならば、微妙に異なる形で出てきた場合にはどう扱うべきか?のクエスチョンです。先に説明した除外のルールは言い換えれば、1番のメロを基準として2番以降の同異を決定するものであり、例えば1番で同定済みのAメロと同一のメロが2番に出てきたとしたら、当該のパートは2番Aメロと表記されます。しかし全くの同一というわけではなく、微妙に変化を付けられたメロとして出てきたらどうでしょう。

 移行の基準を満たすほどの明らかな変化ではないけれど、従前のそれと同じとは言えないメロを持ったパートには、「変則○○」を与えて僅かに異なることを伝えます。2番Aメロがこれに該当するなら表記は変則Aメロとなり、基準である1番Aメロと共通の音運びやコード(この判断にはオケも利用します)を有しつつも、一部で差異が認められるならそこを取り立てて別記するということです。同様にラスサビで歌唱にフェイクが加わりクライマックスを演出するような展開に対しても、通常のサビを基準に発展させたものだと考えて変則サビと表記します。


★ 変則Bメロが登場する例

■ HoneyWorks meets TrySail「センパイ。」(2016)

 1番Bメロ:"釣り合わないの知ってる(ファイト!)"~
 変則Bメロ:"一途なとこ好きですが/私の入る隙間が"~

※ 入りは元のBメロと共通でも"私の"を境に微妙な変化を見せ、曲調も切なく転じて落ちBメロの側面があります。
※ リンク先では「変則Bから始まるCメロ」と書いており、これはメロの変化量が漸増していく点を捉えた折衷的な言い回しです。


★ 複数の変則○○が登場する例

■ 山崎まさよし「全部、君だった。」(2003)

 1番Bメロ:"些細なことからの諍いは"~
 1番サビ:"今ならあの夜を越えられるかな"~
 変則Bメロ:"どんなにやるせない気持ちでも"~
 変則サビ1:"やがて雨音は途切れはじめて"~
 変則サビ2:"雨も雲も街も風も窓も光も"~

※ 本例はかなり複雑で異論も想定されるため、リンク先にはこの他にふたつの区分案を提示しています。
※ 変則○○がひとつで収まらない場合は、末尾に番号を振って区別しますが滅多にない例です。


3.2.5 「Cメロ」について

 本来は「Cメロ」の同定も3.2.4に提示した基準に従って行われるだけですが、呼称の問題も含めて難儀なパートなので特筆大書する次第です。ここでは取り敢えず【1番Aメロ → 1番Bメロ … 2番サビ → Cメロ → ラスサビ】と、最もオーソドックスな形でCメロが登場する楽想を念頭に置いてください。AメロでもBメロでもサビでもない新たなパートが、2番サビとラスサビの間に出てくるパターンです。


★ Cメロの典型例

■ BUMP OF CHICKEN「(please) forgive」(2014)

 1番Aメロ:"あなたを乗せた飛行機が"~
 1番Bメロ:"いつまで続けるの"~
 2番サビ:"絶え間無く叫んで"~
 Cメロ:"求めない"~
 ラスサビ:"残酷な程自由だ"~

※ サビとAメロを同定した後に移行の基準を満たしたBメロが同定され、除外のルールに抵触せず更にもうひとつ基準を満たすパートがあればそこがCメロと同定されます。


3.2.5.1 呼称の問題

 当該のパートには呼び名が幾つかあってCメロのほかに、大サビ・ブリッジ・ミドルエイトといった言葉に聞き覚えのある方もいらっしゃるでしょう。当ブログでは原則的にCメロ呼びを採用していますが、曲の性質或いは文脈によってはその他の用語で表現したほうがベターなこともあるとの認識です。とはいえ基本的にCメロ以外の表現には不合理があると捉えているため、まずは主にデメリットに言及します。


◆ 大サビ

 この言葉は指し示す範囲が殊更に曖昧です。仮にCメロのパートについてのみ言っているのであれば置換も可能ですが、文字通りサビが含まれる点が意識されてか、Cメロ+ラスサビでひとつのパートを成しているという理解の使用例も見られます。その場合でも【Cメロ → ラスサビ】が表記のままに連続していれば、流れの全体を指して大サビと表すことも不自然ではありません。しかし両者が分断されて出てきた時には、これを大サビで表すことに抵抗がありませんでしょうか。


★ 大サビで表現しづらい例

■ fhána「青空のラプソディ」(2017)

 Cメロ:"ほんの小さな傷を"~
 変則コーラス(β):"chu chu yeah!"~
 間奏:[3:23 ~ 3:40]
 ラスサビ:"僕は君の翼に"~

※ 本例を大サビで説明しようとすると、それがCメロだけを指すのか或いは変則コーラス(β)まで広げるのか、将又ラスサビまでのシークエンスをまとめて言いたいのが不明瞭です。


◆ ブリッジ

 3.2.2.1でコーラス(α)にふれた際に提示した、ヴァース-コーラス形式という言葉を思い出してください。ブリッジもこの仲間で、パートを表す語群の英語版です。

 洋楽の歌詞カードに於いてサビの頭に(Chorus)と書かれているのを、もしくはラスサビでの繰り返し分が(Chorus)に置き換わっているのを見たことがないでしょうか。要するにこの文脈でのChorusは、サビをマークする言葉であるわけです。一方でサビ以外のパートがどう表されているのかというと、歌詞カードにそのまま記載があることは稀でしょうが、一般的にはVerseが使われていると思います。シンプルな構造の曲で単にVerseと言えばAメロに相当し、この対比が先のV-C形式という表記に繋がるとの認識です。移行先のメロが増えるにつれてBメロのことを2nd verseないしPre-chorusと書いたり、Cメロを指すためにBridgeやMiddle 8などの新しい概念を設けたりと、海外でもパートの表記に苦心していることが窺えます。

 これら洋楽由来の用語は日本にも外来語として輸入されており、ラップに於いてフック以外のパートをヴァースと呼ぶことや、試聴用として1番サビまでで終わっている音源を1コーラスバージョンと表現するのはその一例でしょう。正確には【ヴァース → コーラス】のまとまりを「コーラス」と呼称し、日本語で言う「番」にあたるとの理解です。これらのことと同じくCメロを表す意図でブリッジを使う人もおり、とりわけ古い洋楽について語るのであれば考証的にもそれが自然と言えます。しかしこの語は楽想次第でCメロを指せなくなってしまうのが難点です。


 日本語ネイティブの僕による恣意的な翻訳と浅学な音楽史観による時代錯誤のきらいがあると注意喚起しておきまして、Bridgeを決定付ける要件を調べてみると出てくる定義じみたものは、Chorusに繋がる部分だけれどVerseとは異なるパートというものです。これを邦楽の言葉で言い直すと、サビに繋がる部分だけれどA/Bメロとは異なるパートとなります。

 問題の単純化のためにVerse=A/Bメロと置きましたが、原義に近い理解で要件を適用するとBridgeが寧ろBメロを指すことになる場合も間々あり、これはおそらくシンプルなV-C形式が当たり前の時代では、Bメロが存在する楽想自体が真新しかったからでしょう。時代を経るにつれてBメロの新鮮味が薄れ、2nd verseやPre-chorusと従来のワードに取り込まれて表現されるようになった後に、今度はCメロが真新しさを担うパートと化したために、要件の適用範囲がズレたのだと推測します。

 話を戻して先掲の定義じみたものが正しいとするなら、多くの場合でそのパートとはCメロを指すことになるでしょう。ならばBridge=Cメロと結びつけても問題がないように思えますが、反例としてCメロが1番サビと2番Aメロの間に出現するような楽想、またはラスサビの後に初めてCメロが出てくるような楽想を想定すると、「サビに繋がる部分」の前提が成立しなくなります。


★ ブリッジで表現しづらい例①

■ Mr.Children「CENTER OF UNIVERSE」(2000)

 1番Bメロ:"どんな不幸からも"~
 1番サビ:"イライラして過ごしてんなら愛を補充"~
 Cメロ:"誰かが予想しとくべきだった展開"~
 2番Bメロ:"皆 憂いを胸に"~
 2番サビ:"クタクタんなって走った後も愛を補充"~
 Cメロ:"自由競争こそ資本主義社会"~
 ラスサビ:"イライラして過ごしてんなら愛を補充"~

※ 解説

 前者のCメロはサビではなく、2番Bメロに繋がっています(本例に2番Aメロはありません)。一方で後者のCメロはサビに繋がっていますが、1番と2番でその役割を果たしているのはBメロです。本例をブリッジで説明しようとすると、後者はコーラスに繋がるのでOKとしても、前者はセカンドヴァースに繋がるので定義に反します。また、前述した原義に近い理解をすれば本例のBメロをこそブリッジと表せるけれど、そうすると今度は前者のCメロを呼称する術がなくなりますし、後者のCメロもブリッジということになり混乱の元です。


★ ブリッジで表現しづらい例②

■ B'z「SNOW」(1996)

 ラスサビ:""壊してしまいたい""~
 Cメロ:"踊れ 雪よ"~

※ そもそも繋がる先を持たないCメロは、ブリッジという言葉で表現すること自体が不適格になります。


3.2.5.2 Cメロにならない特殊なケース

◆ Cメロ or サビ後半?

 3.2.2.1で後述とした特殊なサビに関係する視点です。独立性の高い複数のセクションが合わさってひとつのパートを成しているようなサビは、時に前半と後半に二分することが出来ます。サビ前半+サビ後半と連結した形を基本としつつも両者が切り離されている場合もあり、サビ始まりに使われるのが前半或いは後半だけとか、1番サビが前半だけで終わっていて2番サビで初めて後半が登場するとかの楽想が好例です。

 ここで問題となるのはサビ後半のほうで、それぞれの独立性が高いと見做しているのであればメロを移行させるべきではないのかと、つまりサビが前半+後半で構成されているのではなく、素直に【サビ → Cメロ】と捉えればいいだけではないのかとの疑問が生じます。結論から述べると定義の上ではどちらも間違いではなく、最優先で同定したサビがどこからどこまでを指しているかで認識が変わるという話です。


★ 1番サビが前半だけで終わる例

■ スピッツ「歌ウサギ」(2017)

 1番サビ前半:"今 歌うのさ"~
 2番サビ前半:"今 歌うのさ"~
 2番サビ後半:"「何かを探して何処かへ行こう」とか"~
 ラスサビ前半:"今 歌うのさ"~
 ラスサビ後半:"敬意とか勇気とか生きる意味とか"~

※ 解説

 本例で僕が最優先に同定したサビの範囲は2番の"今 歌うのさ ~ 歌い続ける"まで、要するに前半+後半でひとつのパートを成しているとの理解です。この場合に特殊な扱いを受けるのは1番サビで、前半しか出てきていないと判断します。もし仮にサビの範囲を1番の"今 歌うのさ ~ 君と繋いだから"までと同定していたら、そもそも前後半の見方はなくなりサビ前半は単にサビと、サビ後半はCメロと表記されるだけです。リンク先にも書いてある通り、本例の楽想の特殊さは付属のライナーノーツでも語られています。

 補足を兼ねておさらいをしますと、独立性の高い複数のセクションが合わさってひとつのパートを成しているとの考えは、サビ以外を対象とせずあくまでサビの中で完結する問題であるのが前提です。一聴してそのように思えるセクションが連続で登場していたとしても、一方はサビを構成するものではないと捉えたのならば、それは3.2.3.1に記したようなサビ or フックの対立である可能性が高いと言えます。

 どちらの解釈をしても障りないならわざわざサビ後半という概念を持ち出す必要はないけれど、サビ後半とトレードオフの関係となるCメロとは別に、典型的なCメロの出現位置にも異なるメロが存在する場合は厄介です。上例で説明すれば、2番サビ後半とラスサビ前半の間にも新たなメロが出てきたらという想定で、典型と描写した通りその楽想でCメロと言えば感覚的には当該の挟まれたパートを指すでしょう。サビに前後半の概念があればそこは【2番サビ後半 → Cメロ → ラスサビ前半】と直感に即した表示が出来ますが、ないと【2番サビ → Cメロ → Dメロ → ラスサビ → Cメロ】と書くことになり、典型的な理解から遠ざかります。


★ 1番サビが前半だけで終わる&典型的なCメロも存在する例

 avengers in sci-fi「Departure」(2016)

 1番サビ前半:"ユーリ聴かせてよ"~
 2番サビ前半:"ユーリ聴かせてよ"~
 2番サビ後半:"アディオスと言え"~
 Cメロ:"君は今破裂をした"~
 ラスサビ前半:"ユーリ聴かせてよ"~
 ラスサビ後半:"アディオスと言え"~

※ 本例に対しCメロと言った時には"君は"~を指していてほしいところですが、サビを前後半に分けていないと"アディオス"~のパートも候補となります。


◆ Cメロまで展開しない曲

 ここで取り立てたいのは単にCメロがない曲ではなく、Cメロらしい振る舞いのパートがあるのにも拘らず、楽想上アルファベットがCまで進められない曲です。先にCメロの典型的な出現位置を2番サビとラスサビの間と仮定しましたが、確かにその場所に新規のパートが存在するのに平歌がAメロしかないせいで、メロ移行の基準に従うとBメロと書くしかなくなってしまうものが当て嵌まります。このような場合に限り、本来はBメロとなるパートを大サビないしブリッジで表現する次第です。

 大サビで置き換えるケースでは、3.2.5.1で不合理とした【Cメロ → ラスサビ】の理解を敢えて適用します。実際はCメロまで展開しないため正しくは【Bメロ → ラスサビ】だけれども、【2番サビ → Bメロ → ラスサビ】と書くと直感的な理解に反するので、【2番サビ → 大サビ】とアルファベットを用いない表記に言わば逃げるのです。


★ 大サビで表現した例

■ RADWIMPS「Mountain Top」(2018)

 1番Aメロ:"'Obey the way you truly believe'"~
 2番サビ:"I'm alone on a mountaintop"~
 大サビ:"I'm a dreamer,"~

※ 別の捉え方として上記のサビをBメロにそして大サビをサビと見做せば、全体で一度しかサビが出てこない曲の楽想で扱えます。
※ その場合の問題は、サビの定義からの逸脱をどれだけ許せるかです。


 ブリッジで置き換えるケースでは、3.2.5.1でふれたV-C形式を利用します。Cメロまで展開しないということは即ちA/Bメロとサビだけで構成されているわけで、サビをコーラスと置きAメロをヴァースと置いたなら残るBメロはブリッジで表してしまえという、Bridgeの旧来の用法に寄せた理解です。典型的なBメロをブリッジに言い換えると現代に於いてはややこしくなってしまう点は先に述べた通りですが、Cメロらしい振る舞いをするBメロについて言うのであればアリかなと考えます。


★ ブリッジで表現した例

 林原めぐみ「今際の死神」(2017)

 ヴァース:"さあ悲しみの亡者は湿やかに啜り泣き"~
 コーラス:"人生はいつも一人きり分ち合へないの"~
 ブリッジ:"ぶつつけ本番の大博打、伸るか反るか"

※ ブリッジ以外のパートもV-C形式の用語に改めています。


◇ V-C形式の補足

 当ブログに於いてV-C形式を用いるタイミングとはつまり、パートの順序を示すアルファベットが一般的な理解とズレそうな時です。従って先ほどは話題の外に遣ってしまった単にCメロがない曲も含めて、簡素な構成の曲について言及する際に出てきやすい概念であると補足しておきます。例えばブリッジすらなくヴァースとコーラスだけの楽想は、最優先に同定されるサビと起点となるAメロしかないことを意味するため、アルファベットを使って表さなくとも良いのです。

 今さらですが本記事延いては当ブログ上に展開されているV-C形式の説明には、僕独自の解釈が多分に盛り込まれている点に留意してください。海外の概念を日本のポップスに当て嵌めていることのそもそもの歪さ然り、2ndや3rdなどの序数詞やpre-やpost-などの接頭辞を使えば如何様にも応用が利くのに、ヴァースがAメロでコーラスがサビと一対一で逐語的に扱っていること然り、恣意的と指摘されたら返す言葉もありません。


★ V-C形式で表現した例

 P-MODEL「LEAK」(1985)

 ヴァース:"遠く動く"~
 コーラス:"LEAK! LEAK!"~

※ Aメロとサビを使って表しても子細なしです。
 

◆ プレコーラス

 実際に応用を利かせてV-C形式の用語を取り入れることもあり、別けてもPre-chorusは包括的な意味合いで使用することがあります。この語で説明されるのは文字通りコーラスの前、つまりサビの前にくるパート全般です。ラスサビへの布石としてその前に何かしらのワンクッションを置く楽想では、新たなメロを用意するパターン(Cメロや変則○○の挿入)も王道ですが、既出のメロを再利用するパターン(A/Bメロの繰り返しや落ちサビへの変化)もまた王道と言えます。この類のパートをまとめて表現したい時に便利なのがプレコーラスです。

 とはいえ上記の括弧内に具体的なパート名が示されているように、わざわざプレコーラスを使ってメロを区分せざるを得ない状況はそうそう訪れません。しかし中には楽想の独特さから他のパートの定義や基準では扱いきれなくなるケースもあるため、以降ではそれらの特殊例について考えていきます。本記事の内容を総括するような形で同定のプロセスを開示していくため、ある意味まとめのパラグラフです。


★ プレコーラス or フック or Cメロ?

 Wake Up, Girls!「恋?で愛?で暴君です!」(2017)

 プレコーラス始まり?:"こっち向いて"~
 1番Aメロ:"何と何とホンキスタート"~
 1番Bメロ:"ダイスキだーい"~
 プレコーラス:"こっち向いて"~
 1番サビ:"Why? 理由なんて知らない"~

※ 解説

 当該のパートは各サビの前に出現するので、取り敢えずプレコーラスと置いてみました。Bメロに出来ない理由は上記の通りで、既にA/Bメロが同定されている状況でメロ移行の基準に従うと、当該のパートはCメロとして扱うことになります。各サビ前に都度Cメロが出てくるというのは許容されない不自然さなので、別の概念を持ち込む必要があったのです。

 しかしこれにも問題があり、ここをプレコーラスとすると1番Aメロよりも前に登場するそれは一体何なんだということになります。ここだけはヴァースに繋がるためプレコーラスで表すのは不適格ですし、Aメロより前に位置付けるパートが想定されるならAメロにならない特殊なケースを考えるべきです。サビは別に存在しますしコーラス(β)の向きもないため、今度は当該のパートをフックと考えてみます。

 フック始まり:"こっち向いて"~
 1番Aメロ:"何と何とホンキスタート"~
 1番Bメロ:"ダイスキだーい"~
 フック?:"こっち向いて"~
 1番サビ:"Why? 理由なんて知らない"~

 フックの説明時に「サビよりも前に出てくる場合が多い」と書いたのは主にフック始まりを想定していたからで、以降のフックは「Cocoro Magical」の例がそうであったように寧ろサビに続く形での登場が典型です。上記の場合はフック始まりのみならず全ての位置でサビよりも前にフックが出現することになり、他の多くのフックとは微妙に振る舞いが異なってしまいます。

 この違和感を発端に別の言葉で置き換えたい心理が働くため、リンク先では「プレコーラスが独立して最初に出てきている」と例外的な書き方をしたのでした。同時に「Cメロ始まりという珍しい幕の開け方」とも書いていますが、これは真っ先に不自然とした理解を敢えて貫いたものです。

 Cメロ始まり?:"こっち向いて"~
 1番Aメロ:"何と何とホンキスタート"~
 1番Bメロ:"ダイスキだーい"~
 1番Cメロ?:"こっち向いて"~
 1番サビ:"Why? 理由なんて知らない"~
 2番サビ:"Cry! 涙が出ちゃうよ"~
 Dメロ:"Baby baby から"~
 3番Cメロ?:"こっち向いて"~
 ラスサビ:"Why? 理由なんて知らない"~

 本記事の内容を具に理解していれば、上記が直感的な理解に反した区分のオンパレードであることがわかるでしょう。このCメロ扱いが最も論外として、フック扱いでも出現位置の不自然さがサビの数だけ生じることに鑑みると、冒頭のそれのみに目を瞑ればいいプレコーラス扱いがいちばんスマートに済むので、最終的な表現手段に選ばれたというプロセスです。


3.2.6 ユニークな楽想の例(仮)

 2022年5月の改訂時に見出しだけ追加した項ですが、未だ本文は書いていません。ある程度内容が充実すればいつかは追記するつもりなれど、字数制限でどこまで書けるかも不明なのであまりあてにはしないでください。本記事の説明ではカバーしきれない曲もたくさんあるということが伝われば御の字です。