今日の一曲!Le☆S☆Ca「ひよこのうた」【2019年上半期・ナナシス振り返り】 | A Flood of Music

今日の一曲!Le☆S☆Ca「ひよこのうた」【2019年上半期・ナナシス振り返り】

 【追記:2021.1.5】 本記事は「今日の一曲!」【テーマ:2019年のアニソンを振り返る】の第一弾です。【追記ここまで】


 今回の「今日の一曲!」は特別編です。記事タイトルの墨付括弧内にある通り、2019年上半期にリリースされた『Tokyo 7th シスターズ』関連のCDを網羅するレビュー内容となります。去年の暮れにも同様のエントリーをアップしていますが、今年は上半期までで既にライブCDを含めてアルバムが2枚とシングルが5枚も世に出ており、年末に全てをまとめて振り返るとなると骨が折れそうなので、前半の時点でプレイバックしておこうとの目論見です。ただし、記事のスタイルはあくまで「今日の一曲!」であるため、当該楽曲以外は雑多にふれることになります。

 2019年上半期の『ナナシス』は割と激動で、七花少女のデビューにThe QUEEN of PURPLE初のアルバムリリースとワンマンライブ、AXiSの急襲とそれを受ける777☆SISTERSのニューシングルと、軸として書けそうなトピックは多くあるのですが、個人的にはまさかの新生Le☆S☆Ca誕生が色んな意味でショックだったので、そこから敢えてのc/w「ひよこのうた」をメインで取り立ててみる次第です。表題曲の「ミツバチ」については後回しでの言及とし、その他のディスクに関しては更に以降にリリース順で紹介していくとします。





 さて、2019年2月28日付のお知らせ「上杉・ウエバス・キョーコ役 について」の文言を目にした瞬間、ドキっとした支配人も多いのではないでしょうか。本記事をご覧の方に説明は不要と思うため詳細は省きますが、吉井彩実さんの声優業引退は非常に残念です。音楽大全本『Tokyo 7th シスターズ COMPLETE MUSIC FILE』(2018)の特集記事の中でも、僕は「Behind Moon」(2015)の項に吉井さんのお名前を出していて、近しいセンスの持ち主であることを喜んでいただけに、喪失感も一入でした。とはいえ、ご本人の健康面に関することは何よりも優先されて然るべき事項なので、寂しいけれど割り切ることは出来たのです。

 …が、この後に追い打ちをかけるようなお知らせが来るのは完全に予想外で、4月22日付の「荒木レナ役 藤田茜様 キャスト活動終了のお知らせ」を見た途端、思わず「は?」と声に出てしまいました。またも詳細は省きますが、経緯の性質上こちらは今でも消化しきれていないでいるのが本音です。まあ何にせよ、こういう「前例」が出来てしまうことは誰も望んでいなかっただろうと、お茶を濁してこの件は終いとします。


 ということで、キャストの2/3が入れ替わるという大事に見舞われたレスカの新作には、良くも悪くも期待が集まっていたことでしょう。ホノカ役を務める植田ひかるさんの心中は誰よりも複雑でしょうが、キョーコのCVには井上ほの花さん、レナのCVには飯塚麻結さんが、それぞれ新たに迎えられました。

 飯塚さんについては殆ど存じ上げておらず申し訳ありませんが、井上さんについては過去に『ソラとウミのアイダ』関連の楽曲レビューで二度お名前を出していますし()、加えて『八月のシンデレラナイン』でも馴染みがあったので、人選の是非はともかく「そうきたか」と思っています。ゲーム内ボイスの差し替えは来月11日以降のため、キョーコの声としての評価は現時点では差し控えるものの、井上さんの声そのものは聴き慣れているからか、少なくとも歌声としては嫌いではありませんでした。飯塚さんについても、レナの声云々は抜きにした歌声は悪くないと感じます。

 キャストで応援していたファンにはつらいものがあるでしょうが、レスカのストーリーは地続きとなっているので、作品およびキャラクターのファンとしては、受け容れる以外の選択肢はありませんでした。「新しい旅立ち」へと羽を広げた新生レスカを描いた記念すべき第一弾が、表題曲の「ミツバチ」およびc/wの「ひよこのうた」となります。下掲の動画で、両曲ともに試聴が可能です。




 昨年の4thライブでの告知をソースとすると、何もなければレスカの新規シングルは元々4月にリリースされる予定だったため、両曲とも歌詞内容的には「春」や「新年度」を窺わせるものとなっています。しかし、今回紹介する「ひよこのうた」については描き方が独特で、歌詞に"あぁ気がつけば/20代もあと少しで"とあることからも窺えるように、言わば「擦れた新年度」にフォーカスしていると思える点が、実に『ナナシス』らしい変化球だと感じました。

 Ci+LUSの「アイコトバ」(2018)をレビューした際にも近いことを書きましたが、c/wだと歌詞内容の自由度が一層上がるからか、「アイドルのその後」の領域に踏み込んでいくような、チャレンジマインドが強められている気がします。まあ「アイコトバ」に関しては、後のゲーム内実装時の楽曲説明文によって、解釈を誤っていたことが判明したんですけどね。笑

 ともかく、ifスト―リー的だと換言しても構わない、アイドル延いては芸能界とは無縁の「一般の社会人」としての描かれ方が、本曲に於いてはあまりにもリアルなのです。特に冒頭の"ハワイ土産"のくだりは、作詞者たるカナボシ☆ツクモさん(茂木伸太郎総監督)の情景描写力の高さに多大な衝撃を受けました。『ナナシス』の歌詞世界が他とは一線を画しているという事実はこれまでに何度も述べきたことですが、中でもレスカの楽曲に関しては一段と神懸っている印象で、過去に絶賛した「Behind Moon」の"ミントティー"のライン、および「ひまわりのストーリー」(2018)の"キス"のラインに匹敵するレベルの奥深さが、"ハワイ土産"のくだりにもあると主張します。


 当該の歌詞は、"三年前辞めた会社の/上司に貰った/「あっち向いてもこっち向いても/人生はジェットコースター」/なんて文字が書かれた/ハワイ土産のコースター/駅前パルコで見かけて/Ring Ring やべ遅刻だ!"です。一連のフレーズの何処にリアルさを見出すかは人それぞれでしょうが、僕が特に称賛したいのは、元上司側のバックグラウンド;即ち「贈る側」の描かれ方なのです。

 まずこの文脈に於ける"駅前パルコで見かけて"を、Ⅰ.「"ハワイ土産"は嘘だった」か、Ⅱ.「"ハワイ土産"には違いないが身近でも手に入る代物だった」の、いずれかを決定する一節だと解釈します。どちらであろうと素直に受け取って、単に元上司の残念エピソードで片付ける理解も勿論あるでしょうが、僕はここから更に上司の行動原理を推測してみました。すると、"ハワイ土産"かどうかの真偽はともかく、背景に「Ⅰ.またはⅡ.の不都合がバレても構わない」との思いが透けて見えきて、その嫌なリアリティに舌を巻いたのです。


 なぜこう言えるのかと問われれば、お恥ずかしながら経験則となります。家族でも友人や恋人でも恩義のある相手でも'ない'人に対してプレゼントをする場合、つまり付き合いや社会通念上の決まり事に基いて不特定多数(e.g. 同部署内の人間)に贈り物をする必要に迫られた場合、一応は貰う側の立場を慮ってそれなりのものを用意するだけの思案は巡らせますが、結局のところ「単価が安くて在庫が潤沢なもの」を選ぶのが現実的であるので、その安易な入手先として「通勤圏内の駅ビル(内にある各店舗)」を選んでしまうのは、定番・あるあるかと思います。

 本当に旅行土産だったケースでも、前述した現実的な選択に適うのは「大量生産の商品」になり得るため、それが運悪く身近で売られているということも、そこまで珍しくはないでしょう。地域物産展や輸入品フェアは、対象地域を変えながら常時開催されているようなものですからね。ただ、本曲の場合は三年越しでの発見なので、バレずに持ったほうでしょう。"コースター"という実に絶妙なチョイス(=無難は無難だが微妙な品という意味)である点も含めて、本曲の主人公を取り巻いていた嘗ての環境のディテールが、冒頭部の歌詞だけで一気に深まる高度な描写力に、見事以外の感想があるでしょうか。

 長々と分析的に書きましたが、上述したことは割と普遍の経験則であると認識しています。贈る側の心情としては勿論、貰う側もこのようなことは暗黙の了解の内であるため、態々異議を唱える人は少ないであろうと。ゆえに「バレても構わない」の慢心を推測して、「嫌なリアリティ」と評し、「定番・あるある」とまで言ってのけたのです。ただ、僕自身や周囲の人間が薄情な奴だと誤解されるのは不本意なので再度強調しておきますと、ここで想定している贈り先は「社会生活上でだけ付き合いのある人」のことで、親しい仲にある人への贈り物を考える場合とは全く異なりますし、上司や部下でも特別な恩義を感じていれば全く別のプレゼント選びをすることになります。


 ここで言及を止めると、社会の苦い面を描き出すためのエピソディックな歌詞だったんだなとの感想で終わってしまいますが、贈り物の出自や出発点はどうであれ、その性質が貰う側の心持ち次第で好転していく様まで描かれているのが、"ハワイ土産"のくだりの真骨頂です。

 少し間を空けて、この続きにあたる歌詞がCメロ(2番Bの後)に登場します。"駅前なんとなくで買っちゃった/ハワイの海の素に/肩まで浸かって考えてたら/いつか怒られた失敗の意味が/ようやく分かって/泡浮かべた"。このフォローを受けると、何もかもが報われたような気になりませんか。この気付きが元上司と関係するものかどうかは明示されていないものの、"ハワイ"をキーとして元上司のことだと類推するのが、作詞上も収まりが良いでしょう。ストーリーとして伏線回収の手腕を褒めているわけですが、それなら再び"コースター"を登場させればいいと考えそうなところで、モチーフを入浴剤にスライドさせている点がこれまた巧く、きちんと「意識の流れ」が考慮されている言葉選びに脱帽です。

 このように感心しきっていたら、最後の最後に"コースター"要素が、それもそのものではなく「書かれていた文字」のほうに着目した歌詞が出てきて、纏め方の鮮やかさに鳥肌が立ちました。冒頭部を再引用しますと、書かれていたのは"「あっち向いてもこっち向いても/人生はジェットコースター」"という、陳腐で何も響くものがない格言めいた文章でした(=これは敢えてくだらなくしたフレーズであるとの理解)。これが最後には、"あっち向いてもこっち向いても/どっちも結局 空ね"と、悩みの果てに行き着く晴れやかな心模様の描写へと化けており、まさに言葉の昇華が起きていると大絶賛です。


 ここまでで文字化したかったことの9割は消化出来たとはいえ、表題の「ひよこ要素」が薄いレビュー文となっているので、もう少し歌詞解釈を続けさせてください。鶏の雛としての"ひよこ"と、未熟者としての"ひよっこ"を掛けたテーマ自体は別段珍しくないというか、後者の語源が前者なので当たり前ではあるのですが、ガーリー且つユニークな表現方法にオリジナリティが見出せると補足します。

 特に1番サビの"ダメなひよっこだけど/難しいものね人生は/殻を被ったままで/歩けたなら良かったのに"は、"殻を被ったまま"と付してあるのが素晴らしく、単に「ひよこのまま」と表現するよりも、被庇護欲が顕著に映って情緒纏綿だと思いました。加えて、大人になったレスカの3人でこの状況を想像してみると、殊更にキュートな画が出来上がるのも評価ポイントです。笑 ラスサビの"ダメな私だけど/わからないものね人生は/白と黄色だけじゃ/終われないのが/ミソみたい"もお気に入りで、2/3が新規キャストとなったレスカの現状がユニットのイメージカラーと絡めて歌われているようで、色んな意味でうるっときてしまいました。

 あとはサビ裏で繰り返されるコーラスについてですが、全て'Chicken or Beef?'ですかね?各サビとも2回目だけは'Chicken or Fish?'のような気もしますが、よく聴き取れません。これは鳥から発展させた飛行機要素(機内食の確認)か、それとも人生は選択の連続的な意味か、もしくはただのユーモアか、或いはその全てだろうかと、あれこれ考えてしまいます。


【追記:2019.8.19】

 イベント「第4回 GUERRILLA SONIC!! -ゲリラソニック-」にて本曲がゲーム内に実装されましたが、マイページの「お知らせ」もしくはイベントページの「楽曲紹介」から読むことの出来るメンバーメッセージの中で、ホノカが『「Chicken or Beef」のとこも可愛いし……』と言っているので、これが正解のようです。クエスチョンマークはなしでした。

【追記ここまで】


 最後は歌詞以外についての言及です。本曲はレスカ史上最も楽想が複雑で、説明のしづらい構成となっています。当ブログ上のメロディ区分の表示に関する詳細はこの記事をご覧いただくとして、リンク先のルールに則って本曲の楽想を区分するならば、【フック → ヴァース(ラップ)→ 1番Aメロ → 1番Bメロ → 1番サビ → フック → 2番A → 2番B → Cメロ → Dメロ → フック(落ち)→ ラスサビ → 変則フック】と、『ナナシス』に限らずあまり例のない区分となります。

 気になるであろう点を補足解説:リフ的に幾度か挿入される英語詞パートは全てフックとし、このうちラストのみ間に日本語詞が割り込んでくるので変則フックとしました。|冒頭の"三年前"~のセクションを本来はAとすべきですが、後の"自信"~をAとしたほうがわかりやすいため、ラップ調であることを考慮して前者は特別にヴァースの扱いです。|2番はBの後に間奏に入るので、2番サビは規定していません。|Cも入りはラップ調ゆえヴァース扱いにしてもいいのですが、次第に旋律性を帯びてくる点を考慮してメロと見做しています。|"ただの"~はDとして更に分割しましたが、Cの続きとしても子細ないでしょう。


 楽想が複雑=意外性が多いということで、A前のワンクッションにフックだけでなくヴァースも用いている点や、2番でサビに入らずCへと移行する点、更にはDと形容可能な発展性を持たせている点に、落ちのパートをBでもサビメロでもなくフックに担わせている点、そして最後のフックのみ変則的になる点などは、いずれもニクいひねり方だなと思いました。特にラストの変則フックが大のお気に入りで、メロディの間隙を縫うように畳み掛けられる"あっち向いても"~は、促音の多さも相俟ったフロウの良さが心地好いです。

 これはトラックメイキングの面とも関係してくることでしょうが、小刻みなビート構築と沈み込むベースラインによる爽快感が、ラップ調の旋律を求めるのだと分析します。だからこその冒頭ヴァース、C入りのメロディレスな質感、変則フックなのだと。敢えて解析的に書いているため、表現も難解になってしまい恐縮ですが、これだけ複雑に作り込まれていても、全体としてはポップ&キャッチーに纏まっているのが、本曲の美点であると言えるでしょう。小難しく捉えずとも、レスカの歴史にまた新たな名曲が誕生したことは、疑いようがないからです。


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 順番が前後してしまいましたが、ここからは表題曲「ミツバチ」のレビューとなります。本曲の特筆性は何と言っても、作曲者がUNISON SQUARE GARDENの田淵智也さんであることでしょう。事前に「作曲者にサプライズがある」といった旨のアナウンスはあったので、ネームバリューのある方が来るのだろうと期待はしていましたが、元より二次元界隈への親和性があるという意味でも、納得の人選で嬉しかったです。

 単独記事を立てたことはありませんが、ユニゾンの名前を間接的に出している記事ならば過去に二本あります()。このうち後者は【テーマ:春】で「今日の一曲!」を書いていた頃のもので、その中には「春が来てぼくら」(2018)への言及があるのですが、先に記した通り『ミツバチ』は元々4月のリリース予定であったため、春の曲つながりで同曲のことが自然と頭に浮かんできました。

 春のセンチメンタルを多幸感で塗り替えていくサウンドスケープは両曲に共通していて、春を幻視するような仕掛けが随所に鏤められていると感じます。Bメロのコーラス「らんらんらん♪」の麗かさも然り、サビ裏のマーチング然としたドラムスによる高揚感も然り、落ちサビでギターが奏でているライン(3:26~3:30)の遊び心も然りで、いずれもなぜだか涙が出そうになるほどです。

 サビメロも技巧的で、伸びやかで流麗な幕開けから("元気でいるかしら"~)、僅かに翳が射す切ない転身を経て("笑顔でいるのなら"~)、結びの"ミツバチの便りを出す/春のうららに"で弾んだクロージングを迎えるというシークエンスに、春の情感の全てが込められていると評します。この未来志向の締め方が、2番のサビには出て来ないおあずけを食った後で、ラスサビで更なる発展形として、"この大空を泳ぐように/あなたに届くように"と、新規の旋律で畳み掛けられるカタルシスも、流石田淵さんのセンスだと惚れ惚れしました。





 昨年の7月に日本武道館で行われたメモリアルライブの模様を収めたライブCD、『Tokyo 7th Sisters Memorial Live in NIPPON BUDOKAN “Melody in the Pocket”』。これについて詳細に言及し出すと記事がもう一本書けてしまうため、ここでは抜粋としてDISC1に収録されている「タンポポ」を紹介します。レスカの流れを受けての選曲ですが、当然ながらこちらは旧レスカのパフォーマンスで、結果として伝説になってしまいましたね。

 楽曲自体のレビューは、本記事の冒頭にもリンクした大全本書評のPart.2に載せてあるので、参考までにご覧ください。リンク先でも述べている通り、僕は本曲の編曲面に対するツボを、音源では「ややチープなシンセサウンド」に求めていましたが、ライブでは「雄弁なギターサウンド」に求められると認識しているため、評価も全く違ったものとなります。

 ギタープレイの中で殊更に好みなのは、Bメロに挿入される助奏的なラインと、ラスサビ終盤の一節"教えてくれたのは"を継いで主旋律へと躍り出るソロです。このアレンジは3rdライブでも披露されていましたが、今回の武道館のほうがより洗練されている気がします。3rdのは3rdで、パワフルなドラムスが格好良くて捨て難いんですけどね。それにしても、こういう名バンドアレンジを聴かされると、元の音源を物足りなく感じてしまうのが宿命で、終いには脳内で勝手に幻聴の楽器が鳴り出すので困りものです。笑





 七花少女のデビューシングル『花咲キオトメ』。777☆Sに次ぐナナスタ発の大型ユニットということで、メンバーは7人と大所帯です。777☆Sがナナスタ外まで進出したため、ナナスタ内に新たな主軸をといった経緯で生まれた妹分ですが、ということはここから更に分割ユニットが組まれる可能性もあるのだろうかと、期待が膨らみます。

 表題曲の「花咲キオトメ」は、デビュー曲に相応しい初々しさと弾ける勢いを宿したナンバーで、総合的には快活なイメージのある777☆Sの楽曲とは異なり、文化系の頑張りといった健気さを感じさせる仕上がりが印象的です。ユニットコンセプトたる「野の花」の普遍性と強かさを、確かに覚える一曲だとまとめましょう。



 c/wの「スノードロップ」も非常にハイクオリティなナンバーで、両A面にしても良かったのではと思っています。トレーラーで聴いた段階から名曲の予感はしていたのですが、フルで聴いたらあまりのエモさに想像以上の感動を覚えました。先に「文化系の頑張り」との形容を用いましたが、"読み掛けのサガンに栞挟んで"という歌詞に代表されるように、文学少女が内に秘めし宇宙、その開闢の瞬間に立ち会ったと錯覚するほどの機微を、言葉の端々から感じ取れます。




TRICK(通常盤)TRICK(通常盤)
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 シトラスの2ndシングル『TRICK』。表題曲は「シトラスは片想い」(2018)を手掛けたMasaki Honda(本田正樹さん)によるワークスだけあって、安定の可愛さを誇るナンバーです。カジノゲームをモチーフとした歌詞内容も、小悪魔的なユニットイメージにマッチしています。

 c/wの「空色スキップ」は、軽快なサウンドに乗せられた歌い出しが、"晴れた日曜日を/ゴミ箱に捨てるような"で驚きました。知っている人には伝わると期待しますが、この倒錯感はスピッツの歌詞にありそうな気がします。"そっと永遠を誓うのさ/道端の石に"も同じく。初聴時はあまり印象に残らない曲だと思っていたものの、ポップさの底に潜んだ泥臭さが後から効いてきました。





 『ナナシス』初のエネミーユニット・AXiSによる衝撃の1stシングル『HEAVEN'S RAVE』。セブンスシスターズへの当て付けを隠さないタイトルが象徴しているように、表題曲は全てを灰燼に帰しても構わない攻撃性を孕んだ凶悪EDMです。「EPISODE 4.0 AXiS」のトレーラーで初めて本曲を聴いた時から、ドロップの良い意味での下品さに痺れていました。

 奇しくも最近の令和の大改訂でリビジョンした別アーティストの記事の中に、EDMに対する持論を述べるセクションがあったので、そこには当該の「HEAVEN'S RAVE」と、セブンスの「SEVENTH HAVEN」(2016)を対比させた短評を載せました。その趣旨は、両曲ともEDMに迎合したトラックメイキングではあるけれど、セブンスはフェスアンセム的なスタイルで、アクシズはクラブバンガー的なスタイルで、巧く差別化されているというものです。

 「アンセム」も「バンガー」も定義自体が曖昧な用語だとの認識ですし、場合や人によっては両者が同一の概念を指すこともあるでしょうが、個人的な区分法に基けば、前者には発展的でポジティブなナンバーを、後者は破滅的でネガティブなトラックを当て嵌めます。どちらもサウンドがアグレッシブで踊れる楽曲であることには違いないので、感情が伴うとしたら前者が「喜と哀」で、後者が「怒と楽」のイメージです。当ブログ内を「アンセム」で検索すれば、僕が過去にそう形容した楽曲が「SEVENTH HAVEN」を含めて幾つかヒットしますが、その際に決め手となるのは明るさと切なさが同居していることで、「優しい手引きでの忘我のダンスミュージック」であるとの分析に落ち着きます。一方で「バンガー」はこの面に乏しく、「激情と快楽に任せた暴力的な記憶消去術」といった表現をしたいです。後者は比較的最近の言葉だと思うため、当ブログでの使用は上掲記事と本記事のものしかありませんが、最近レビューしたトラックで例示するなら、The Chemical Brothersの「MAH」(2019)はバンガーに分類します。



 c/wの「COCYTUS」は、曲名の元ネタ的に表題の天国に対して地獄に位置付けられたナンバーだと解釈していますが、そのモチーフとは裏腹にクリアなサウンドであるのが、天神ネロのパーソナリティを加味すると翻って皮肉的です。端的に表して「良い曲」であること自体に当惑してしまうような、ガラス越しの希望を見せられている気分に陥りました。





 ※ Amazonのリンクがなぜか禁止タグで弾かれるので、楽天のものを表示しています。

 QOPの1stアルバム『I’M THE QUEEN』。過去に「Fire and Rose」(2016)をレビューした際にも書いたことですが、同バンドが目指す方向性は日本ではなく海外にあると、要するに洋楽的なサウンドメイキングこそが特徴だと言えるため、本作もそのベクトルが色濃いと受け取りました。2034年の時代考証をすると、往年の海外ロックは最早クラシックに片足を突っ込むレベルとなるのかもしれませんが、そのスピリッツをガールズが受け継いで奏でるという文脈は、ストーリーの上でも2019年に現実で活動するキャスト陣に於いても、意義深いと言えるでしょう。

 こう書き出しておいて何ですが、本作の中でいちばん気に入ったのはユメノがボーカルを務める「R.B.E.」で、QOPの持ち歌の中では最も邦楽ガールズロック的なナンバーであったことに、新鮮味を覚えて評価が上がりました。よく聴けば演奏はしっかりハードなのですが、やはりメロディのポップさと演じる山本彩乃さんのキュートなボイスが勝るからか、敢えて言えば4U的な魅力があります。

 歌い方にも妙な中毒性があり、サビの"綺麗"のねっとりとした発声も、2番Aの"この手を使ってくれよな"から窺える男言葉のぎこちなさも可愛らしいです。後者は歌詞内容も好きで、その前の"君の中に溜まってるなら/遠慮なく出して"から"見事にWin & Win"までは、全てのフレーズの最後に「(意味深)」が付きそうな言葉繰りにニヤニヤします。これはユメノのキャラだからこそ許される冒険心に映るため、改めて便利で役得な存在だよなと思いました。QOPのイベントならともかく、直接は関係のないエピソードイベやらドラマトラックやらにも、一時期頻繁にユメノが出まくっていた記憶があるので、ライターが話を転がすのに重宝するんだろうなと。笑

 この調子で書き出すとこれまた記事がもう一本書けてしまうため、本作への言及は以上とします。参考までにその他のフェイバリットを曲名だけ挙げると、「Purple Raze」「I AM」「DAYS」はリピート率が高いです。





 777☆Sのニューシングル『NATSUKAGE -夏陰-』。表題曲は「EPISODE 4.0 AXiS」のエンディングテーマの役割を背負っており、『ナナシス』史上類を見ないほどの重苦しさに満ちた同エピソードが、どのような結末を迎えるのかを予言めいて提示する、陽炎の如き儚さを携えたナンバーとなっています。

 先の「アンセム vs バンガー」の話を持ち出せば、本曲にあるのはアンセム寄りのサウンドスケープです。そこまでダンスミュージックではない気もしますが、間奏のグルーヴィーなシンセリフや、曲を通してバックで鳴り続ける壊れかけの機械のような断続的な電子音、極め付きは不穏なグリッチによる強制的な幕切れで、これらのエレクトロニックもしくはプラグドな質感を考慮に入れれば、ダンスチューンと見做すのが筋だろうと判断しました。

 全体的に切ない音遣いとメロディラインが優勢の中で、2番B直後のCからじわじわと上向きの感が強められていく楽想が堪らなく好きです。「4.0」ではつらい目に遭ってばかりの777☆Sですが、このセクションがあることで、星の瞬きが完全には失われていないと希望が持てました。



 c/wの「夏のビードロ☆シンフォニー」は、文字通り清涼剤の役目を与えられた一曲であると評します。メインストーリーのシリアスさに参っている人には、特に染み渡ったのではないでしょうか。




 以上、2019年上半期の『ナナシス』楽曲振り返りでした。半年分でこの分量は、リリースラッシュと言っていいですよね。とはいえ、ギリギリ7月になる前にアップが出来て良かったです。本記事が来る5thライブへの予習というか、作品世界の奥行を知る一助となれば幸いと結びます。

【追記:2020.2.24】

 かなり遅くなりましたが、2019年下半期分の振り返り記事をアップしました。モタモタしているうちに6周年の日が巡ってきてしまったため、リンク先には2020年分の言及も含まれています。

【追記ここまで】


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