音楽大全本発売記念!『Tokyo 7th シスターズ』特集 Part.1/2 | A Flood of Music

音楽大全本発売記念!『Tokyo 7th シスターズ』特集 Part.1/2

 今回の記事は特別編です。記事タイトルの通り、『Tokyo 7th シスターズ』(以降、『ナナシス』)の音楽について熱く語ろうじゃないか!という趣旨になっています。一記事に収めるつもりが、思いが溢れ過ぎたため連載記事となりました。

 なぜ今なのか?それは『ナナシス』が2018年2月19日を以て4周年を迎えたからというのも勿論ありますが、それを記念して同日に発売となった音楽大全本『Tokyo 7th シスターズ COMPLETE MUSIC FILE』の存在、これこそが本記事の執筆動機になったと言っても過言ではないほどに重要です。


 この書籍、リットーミュージック社から刊行されています。僕が同社の主力雑誌のひとつ『サウンド&レコーディング・マガジン』の愛読者であることは、過去記事を検索するなりしていただければわかると思いますが、その信頼と贔屓目も込みで…と断りを入れつつも、「同社から作品の音楽を特集した本が出る」というその事実だけで、「いかに『ナナシス』の音楽が優れているか」を証明するには充分だという理解です。

 余談且つ謝罪ですが、小林郁太さんによる著で同社より刊行されている『アニソンが持つ中毒性の秘密』(2015)を去年の暮れに購入したものの、所謂「積読」になってしまっています。他の音楽関連の書籍も数冊溜まっているため順番待ちというだけなのですが、専門的な見地からアニソンを正当に評価している(=そういう本を出版している)点でも、同社は信頼の置ける出版社だと言えるでしょう。

 それら積読本は後回しにして、先に本書を読了しました。楽曲制作陣や各キャストへのインタビューなど、掲載内容の全てが作品理解の一助となったため大変面白かったです。本記事執筆のためにメモを取りつつ読み進めたので詳細な書評にすることも出来ますが、濫りな引用を避ける意味合いでもここではある一点についてのみ感想を書きます。


 それは「茂木伸太郎総監督/総合音楽プロデューサーの音楽的なルーツ」に係る点です。端的に言って非常に驚きました。なぜなら僕の持つそれとあまりにも共通点が多かったから。道理で僕は『ナナシス』の音楽が好きなわけだと、得心がいき過ぎる程に納得で怖いぐらいです。笑

 その「ルーツ」を雑に要約すると、【小学生時代にTKサウンドに行かなかった → 中学でサザンミスチルスピッツ → その後洋楽に手を出しつつも根は邦楽好き → 同時にアニメにも真剣になる(この辺りから音楽興味の幅が広がる+歌詞の良さに着目するようになる) → 高校のバンド活動ではJパンク傾倒(しかしミスチルスピッツ好きは変わらず+アニメ劇伴も好きで菅野よう子も一例) → 大学でロックのルーツ/古いバンドに迫る(しかし邦バンドやメジャー洋バンドも好み) → 卒業後は洋楽に傾きジャズやエレクトロニカも聴く】…というような感じになります。加えて時期は不明ですが「中田ヤスタカの作るアイドル像は作家性が弱くなくて良い」という趣旨の記述もありましたね。

 乱暴なサマリーですみませんが、これを知って僕は正直興奮しました。「こんなに自分と似通った好みの人がいたのか!」と。茂木さんの洋楽への興味は主にロックにあったことが読み取れますが、僕はここがテクノだったというだけで、その他の部分(特に邦楽やアニメ劇伴への嗜好)は殆ど一緒です。

 当ブログ上でもちょこちょこ自分の音楽ルーツに迫るような話は書いているので、過去記事を漁ればその証明となるような記述も拾えるかと思いますが、自分でも何処に何を書いたか不明瞭なので、以下にざっと「僕のケース」を記します。

●小学時代:globeは数枚聴いていて好きだったが、ヒットチャートを賑わせていたTKサウンドには食指が動かなかった。いちばん好きだったのは浜崎あゆみかも。

●中学時代:ミスチルスピッツにドはまりして歌詞の良さにも目覚めたのは完全に同じ。ここに椎名林檎とB'zも加わる。初期のcapsule(ヤスタカサウンド)に手を出したのもこのあたりか。

●高校時代:高校生らしく洋楽に興味を抱きつつも(e.g. テクノ四天王)、根が邦楽好きなのは変わらない。ただしJパンクは当時から好きではなかった。同時に第一次アニヲタ期がスタートし、当然アニソン/アニメ劇伴にも造詣が深くなる。菅野よう子が手掛けた『攻殻機動隊』のサントラを聴きまくっていたのもこの時期。

●大学時代:「ルーツ」を意識し出すのは大学生として当然。興味がテクノだったためクラフトワークや古い電子音楽を深堀りする。しかし依然邦バンドはベテラン若手問わず好きだし、アニメからは一旦離れるもののアニソン好きは密かに継続。英語の授業の一環でジャズの歴史も少し齧る。

●卒業後(院時代も含む):更に雑食と化す。当ブログの雑多なラインナップをその証左としたい。数年してアニヲタにも出戻ったため、こうして『ナナシス』にも出逢えた。


 似ている箇所を中心に抽出したのでやや恣意的ではあるのですが、こうして並べると興味の対象や通ってきたルートが近いということがわかるかと思います。僕が『ナナシス』の音楽を好きにならない理由を探すほうが難しいというくらいには。

 だからこその話ですが、茂木さんへのインタビューの内容は僕にとっては非常にわかりやすかったです。文中に出てくるアーティストや音楽のことをよく知っているため、何を言わんとしているのかもよく理解出来るので。烏滸がましいですが、単純に嬉しかったのでそう表現させてください。




 以上が『Tokyo 7th シスターズ COMPLETE MUSIC FILE』に対する感想、つまり書評パートです。以降は『ナナシス』の音楽について網羅的に紹介していくパートとなるので、扱いとしては旧譜レビューになります。本格的なレビューに入る前に、本記事執筆の意義を過去記事の紹介も兼ねて記しておきますね。

 今までに当ブログ上で『ナナシス』に対する直接的な言及を行った記事は全部で5本あり、参考までにリンクと簡単な解説を附記しておきますが、ここでは「『ナナシス』という作品自体に対する説明は過去に行ったので、本記事に於いては舞台やキャラ解説を省略する」ということを最低限おさえていただければ大丈夫です。『ナナシス』を知らない人が本記事を見るとは思いませんが、一応。

1. 2016年アニソンよろず記事の一部:最初の言及記事。2ndアルバムの名前を出し、『ナナシス』に興味を持った旨を記載。

2. Le☆S☆Ca「Behind Moon」:「今日の一曲!」にて選曲。初の本格的な言及且つ網羅的な内容の記事。しかし主に「歌詞」にフォーカスしているため、レビューとしては限定的。

3. The QUEEN of PURPLE「Fire and Rose」:リニューアル後の「今日の一曲!」にて選曲されたため記事化。

4. 4U『The Present "4U"』:新譜レビュー記事。

5. 2017年アニソンよろず記事の一部:現状最新の記事。セブンスシスターズの2ndシングルに言及。

 今ここで重要なのは「2.」の記事です。解説に書いた通り、当該の記事も一応「網羅的な内容」には違いありませんが、「『ナナシス』は特に歌詞の良さが群を抜いている」というのをテーマにして書いたので、音楽的なファクターにはあまりふれることが出来ませんでした。要するに本記事は、そのリベンジを兼ねているというわけです。


 歌詞が素晴らしいという点は、先のルーツのくだりでも書いた通り肝要な部分であるため、本記事に於いてもガンガン言及していきますが、作編曲や歌唱に係る箇所についても同様にがっつりふれていくことを手段とし、「真の意味で網羅的な内容にする」という目的を果たしたいと思います。




 さて、真面目過ぎるのではないかというくらいに外堀を埋めまくった前置きとなりましたが、ここからはストレートに「『ナナシス』音楽の良さ」について書いていきます。

 言葉自体は好きではありませんが肯定文脈で使うので許していただくとして、『ナナシス』楽曲には所謂「捨て曲」がないため、やろうと思えば全曲レビューも可能ではあるのですが、ブログ記事としての限度があると思いますし、既にここまでで相当長くなっているため、ここでは「どうしても言及したい曲」に絞って、「現実でのリリース順」にレビューしていくことにします。

 わざわざ「現実での」と書いた理由は、シングル曲のナンバリングがゲーム内リリースと現実では異なるからです。加えて、ゲーム内を基準にすると物語上の時間軸との兼ね合いで更にややこしくなってしまうので、混乱を避けるためにも本記事のナンバリングは全て現実に準拠させているとご理解ください。

 また、以降でも『Tokyo 7th シスターズ COMPLETE MUSIC FILE』の内容に言及することがありますが、書籍タイトルが長く文字数を食ってしまうため、
引用の際には『CMF』という略式表記を使用します。




『t7s Longing for summer』(2014)


 ということで、まずは1stミニアルバムからレビュー。後に配信のみでリリースされた『t7s Re:Longing for summer』(2015)も収録曲目は同じなので、レビューは共通です。ジャケ写表示のためのアフィリエイトリンクがないのもこれに起因します。


03. PRIZM ♪ RIZM

 ここではWITCH NUMBER 4(以降、WNo4)によるナンバーを代表としてピックアップ。こんなキャッチーな曲に対して「なぜ?」と思われるかもしれませんが、僕の中では所謂「スルメ曲」だったので特筆性があります。以下、かなり失礼なことを書くので注意。

 『CMF』によれば、茂木さんとしても初の作詞曲であり、篠田みなみさん曰く「最初のレコーディング」だそうなので、そういった諸々の手探り感のひとつだとは思うのですが、正直ミックス(かマスタリング)がおかしいと感じていて、全体的に音がシャリシャリで主旋律の良さが霞んでしまっている…と、暫くの間はそれが気になってあまり好きな曲ではありませんでした。これは『ナナシス』に限らず「1stアルバムあるある」でしょうけどね。

 それでも何度か聴いているうちに、薄れていたメロディの綺麗さに気付くことが出来、段々と好きになっていったというわけですが、ライブ音源ではそれが更にわかりやすくなっていたため、最終的に「大好き」という評価に傾いたのは、後発の音調整のおかげだという気がしますね。

 特に芸術的だと感じるのは、サビの"Rin☆Don☆Ri☆Don"の部分です。歌詞の上でも"Rin"と"Ri"で差別化が図られているのがわかりますが、聴こえた通りにカタカナ表記にすると「リードン、リードオン」と、「1回目は英語っぽく、2回目は外来語っぽく」歌っているように聴こえ、このメロディ(というか譜割り?)の微妙な変化が堪らなくツボでした。

 落ちサビの"ずっと"のメロ変化もクセになりますし、ラスサビ最後の"見てる"が連続するところも愛おしく、デジタルで派手なアレンジの裏に可愛らしい旋律が潜んでいたというのが、この曲ひいては「電子の妖精」たるWNo4の魅力だとまとめます。



『H-A-J-I-M-A-L-B-U-M-!!』(2015)


 お次は1stフルアルバムをご紹介。言及したい曲が多いので長いセクションとなります。


05. SAKURA

 WNo4の流れでまずはこの曲から。過去記事の中で「いちばん好き」という言葉を出している通り、とても大好きなナンバーです。歌詞の素晴らしさについてはリンク先で既に語ってあるので割愛するとして、ここでは作編曲に話題を絞ります。

 メロディの美しさは言わずもがなですね。一分の隙もない、最初から最後まで完璧な旋律。非常にキャッチーで王道ゆえに、下手すると陳腐に響いてしまいそうなものですが、歌詞と交わることで一層強くなっている旋律自体の儚さ、痛みを伴いながらも維持されているボーカルの透明感、過去~現在~未来のどのタイムラインに視点を移してもなお覚えることの出来る懐かしさ…それら諸々を内包した「普遍的な切なさ」こそが、安っぽい形容を拒否しているといった印象を持ちました。

 この高評価にはアレンジによる下支えも大きい。バックトラックだけ聴くと上質なエレクトロポップの趣で、1番Aメロバックの小刻みなシンセのハネ感だけでもダンスミュージックとしての機能は充分ですが、2番Aでそれがごっそりと消えてシンセベースが目立つ展開になるというところまで考慮すると、Ken Itoさんの目指した楽曲の方向性に妥協がないということがわかるので、好感が持てます。それがWNo4のコンセプトにもマッチしているのがまた良い。

 要所要所で挿入される木管的な役割を持つシンセの音が、「和」或いは「桜」を演出しているのも巧いですね。「木管的」というのは共感を得られるか微妙な表現ですが、「風を感じられる=舞い散っていく情感が付与されているサウンド」という意味での比喩です。Aだと"まぶた焼きついてる"の後、Bだとバックでビルドアップ的な使われ方、サビ~間奏のはフィルイン的というかリフ的というか…耳をくすぐるようなピロピロした音のことを指して言っています。また、役割ベースで話しているので、全てが同じ音ではないであろうことにも留意してください。


02. Cocoro Magical

 続いてレビューするのは777☆SISTERSの代表曲のひとつであろうこの曲。『ナナシス』はアイドルを扱った作品にしては変化球まみれ(誉め言葉)のイメージですが、この曲は明るくポップなアイドルソングとしての、ストレートな魅力が宿っているところが素晴らしいと思います。

 とりわけ気に入っているのは「サビではないけどキャッチーな部分*」で、歌詞で言えば"右手からドキドキ"~"ココロ×マジワル!!"の部分です。ここはボーカルラインがストリングスと呼応するように展開していくのがキュートで、グルーヴィーというかステップを踏みたくなるリズム感で構築されているのが素敵。

 *アニソンやアイドルソングには特に多い印象ですが、僕は便宜上こういうパートを「フック」と呼んでいます。元はヒップホップに於いてサビを示す用語ですが、冒頭や終盤などの印象的なポイントに出てくることが多く文字通り「引っ掛かり」であることと、サビは別に存在する(=「サビ」という言葉が使えない)ことを加味すると、「フック」という表現が個人的にはしっくりくるのです。

 そのフックが印象的だったせいか、聴き始めの頃は「サビ("Co・Co・Ro"~)が地味なのが残念」と思っていました。しかし繰り返し聴くうちに、それは僕の理解不足だったと気付きます。サビメロの伸びの良さが解放感の演出に繋がっているという理解を前提としますが、フック→A→Bとポップに積み重ねてきたものがサビ前で飽和を迎えた結果、サビには多幸感だけが満ち満ちていた…だからこそのこのふわっとした旋律なのだと、認識を改めたという経緯です。

 これだけでは「何言ってんだこいつ」と思われた方が大半でしょうが、歌詞の世界観と照らし合わせて考えると、もう少し理解を得られるかと期待します。歌詞は端的に言えば「恋の多幸感」がテーマだと解釈していて、サビ以外で具体的な描写(e.g. "受話器の声"、"冬に見たい映画")がなされている一方、サビの歌詞は抽象的というか、精神世界の描写にように受け取れますよね。

 「心」が重要なモチーフであると考えれば至極自然な表現だと思いますが、"You&me ココロ混ざる未来へ"という歌詞の通り、理由もなく幸福な瞬間とその連続である未来へと思いを馳せている感じが、歌詞だけでなくメロディにも反映されていると思う、それを指して「多幸感だけが~」と形容したのだと補足しておきます。

 小難しくなってしまったので、最後はわかりやすくボーカルのツボを載せることにしますが、2番Bの"いいよね! ほらこんなテンポで"と、Cメロの"ね☆ なくたって伝えるんだ"の部分が個人的はとても好きです。過去にも書いた気がしますが、僕はモモカ推し且つCVの井澤詩織さんの独特な声質のファンなので、耳に素敵なギャップを残してくれるところが常に魅力的だと思っています。


10. B.A.A.B.

 ここで一旦ライバルへとフォーカス。『ナナシス』世界に於いて、アイドルではなくアーティストという役割を振られているのがKARAKURIの特徴ですが、その独立性にも大いに納得だと言えるほどに、彼女達の楽曲は気合いの入り方が別次元だという認識でいます。

 KARAKURIの音楽を説明するのには、ついつい便利な「EDM」という言葉を使ってしまいたくなりますが、欧米の流行のシーンの音楽というよりは、日本を含めたアジアで独自に進化を遂げた情緒的なエレクトロといった趣が強いように感じられるので、茂木さんが『CMF』の中で述べているKARAKURI像にも非常に共感出来ました。作中の「2034年」に対する時代考証を何処まで真剣に行っているかはわかりませんが、現実に当てはめてみても「あり得る未来の音楽」っぽいところに、SF的な魅力があると主張したい。

 後発リリースの「-Zero」と「Winning Day」に比べれば、最初にお披露目されたトラックということもあって「B.A.A.B.」はシンプルなつくりなので、便宜的な説明に使うならEDMという形容もそんなに外してはいないかなという気がします。"keep in"のリピートでゴリ押しするBセクションや、シーケンスフレーズをバックにしてウィスパーなボーカルが色っぽいパート(e.g. 1番サビ後間奏の"Ah"×6、Cメロ後コーラス部の"break away"のチョップ)なんかは、EDMらしいマナーだと感じるので。


11. Sparkle☆Time!!

 非ナナスタシスターズの流れが出来ているので、続いてはレジェンドであるセブンスシスターズ(以降、セブンス)の「Sparkle☆Time!!」を紹介。ハマりはじめの頃から思っているのですが、この只管にハッピーな曲がセブンスのナンバーだということには未だに慣れません。笑

 後発リリースの楽曲と比べても異質な明るさだと感じるので、謎の多いセブンスの込み入ったバックボーンを感じさせない、まるで忘我のためのダンスチューンであると思えるところが解放的で素晴らしいと評します。『CMF』には書いてありますが、メタ的には「『ナナシス』の2周年を祝福」だからこそのポジティブネスみたいですけどね。

 ライブ映えが抜群だというのは現実に於いてもそうですが、仮に自分が作中のいちリスナーだとして、既に解散しているグループの在りし日を脳内にフラッシュバックさせるには充分な効果を発揮しそうだという意味でも、実にライブ映えするナンバーだと思います。ハッピーエンドに涙するような、切なくてあたたかい気持ちになれる。

 2番後間奏の中華っぽい旋律からのビルドアップを経て、ラスサビで爆発するというシークエンスが特に好きで、ここはまさに「Sparkle☆Time!!」、眩い煌めきと共にドーパミンがドバーっと放出されるような感覚に浸れるところが尊いです。


01. H-A-J-I-M-A-R-I-U-T-A-!!



 ここで再び777☆SISTERSの楽曲をピックアップ。こちらは「始まりの歌」ということで、11.と対比させてみました。メロディの綺麗さ、特にAメロのセンチメンタルさは特筆すべきものがあると絶賛しますが、ここでは歌詞に焦点を合わせて見ていくとしましょう。

 先に「対比」という言葉を出しましたが、この曲の歌詞は対比を鮮やかに使うことによって「狭間」を上手に描写しているところが素敵です。"輝いてた昨日と 忘れかけた明日"で"ひとりきりの世界"を、"何も知らない子供と/夢を捨てた大人の間"で"変わってく"自分を、"空と海"に挟まれて"彷徨う小鳥のよう"な"キミ"を。

 …文章に落とし込むために少し不自然な引用になってしまいましたが、どのフレーズも「勇気を持てば抜け出せる狭間」を描いていて、この歌ひいては777☆SISTERSがその後押しになっているという、自己言及的な面を持っているところが技巧的ですよね。応援歌として申し分ありません。


03. KILL☆ER☆TUNE☆R

 連続しますがまたも777☆SISTERSのナンバーを紹介します。全てが名曲だから仕方ないのです。笑 ライブで真価を発揮する曲だというのは、『CMF』での記述も含めて散々言われていることでしょうから、ここでは純粋に曲の魅力に迫っていきます。

 失礼ですが、初めて聴いた時は正直「ダサい曲」だと思いました。イントロのコールパートは狙い過ぎという印象でしたし、サビメロもなんだかコミカルだなぁと。歌い方もモーラが敢えて長めに維持されているというか、メロディに対して言葉がもっさりしているように感じていたんですよね。

 例の如く繰り返し聴いていたら段々とそのギャップがクセになってきたのと、オーディエンスのレスポンスが入るライブ音源でひとつの完成形を見たと思えたことで、今では大好きな曲に変わったというわけですが、『CMF』を読んだことでこれにもう少し具体的な理由付けが出来たので整理します。

 作曲者であるemonさんの言葉が茂木さんの記憶から語られているという構造で、「80年代よりも60~70年代のディスコサウンド」という表現が出てくるのですが、「なるほど、この妙なダサさは60'sまで遡るからなのか!」と、個人的には大いに納得出来た情報でした。80'sサウンド(特にアイドル歌謡)が僕の好みの一形態であることはこれまでにも度々書いていますが、それより前の時代に行くと一瞬構えてしまうのだと、遠回しに自分の嗜好を知れてラッキーです。笑

 ごちゃごちゃと書いていますが、要するに「ダサ格好良いところが気に入った」というだけの話でもあります。その観点で言えば、イントロの"2034"×2、Aメロの"タイシは抱くものでしょ!?"、1番サビの"Good? Bad?/いつもBest!/星屑ウェイブ ノっかって"あたりが気に入っていて、聴く度にちょっとだけぞわぞわするのが心地好いです。

 あとは意外と楽想がプログレッシブなのも魅力ですね。大雑把に言えば1番と大サビだけで構成されているような感じで、A/Bメロは1番にしか出てこない、1番サビ後はC→D→コールパートと展開、D("そうだ"~)は冒頭サビ後の間奏のメロが布石になっている、この辺の複雑さには攻めの姿勢が感じられ、リスニングにもしっかりと耐えうるインテリジェンスがあるとまとめます。「ダサい」から入ったとは思えない感想になりましたね。笑



『僕らは青空になる / FUNBARE☆RUNNER』(2015)


 ここから暫くシングル曲の紹介が連続します。僕が『ナナシス』にハマったのは2ndアルバムの発売後(2016年~)なので、厳密には当該のアルバムにて初めて聴いた;つまり本来はアルバムレビューの中でふれるべきなのですが、記事分割の都合上いくつかの楽曲はシングル自体を見出しに据えます。ということで、まずは777☆SISTERSの1stシングル(両A面)のうちの一曲をご紹介。


02. FUNBARE☆RUNNER


 ※これは「3周年記念動画」ですが、同曲がBGMに使われているため埋め込みました。

 『CMF』の中で作曲者のKUMAROBOさんが自ら絶賛している通り、Aメロの「ワクワク感」はまさに至高です。華麗にホップ・ステップ・ジャンプになっているところが素敵で、いちばん盛り上がる"Let's! Get's!! FUN☆晴れ!!!"の部分はエクスクラメーションの数も含めてわかりやすいですが、Aメロ(前半)全体で見ても、"走り出した"~がホップ、"Don't Cry"~がステップ、"Let's!"~がジャンプに相当するという、自己相似的な側面があるのが鮮やかですよね。

 このAメロが最もエネルギッシュであるため、他の部分(特にサビ)が相対的に地味に感じられるのではと危惧したのですが、それは杞憂だったと言えるほどにサビメロは爽やかで美しく、展開の多いメロディアスなフレージングであることで、跳ねるようなAとは異なる趣の盛り上がりを見せているところが流石。

 あとは『CMF』の中で茂木さんが言及している通り、ギターソロも聴き処と言えるでしょう。とても主観的な感想になりますが、少し南国風味のサウンドスケープを持っていて、90年代中盤のスピッツのナンバーにありそうな感じだと思いました。



『-Zero / TREAT OR TREAT?』(2015)



 続いてHALLOWEEN EPとして発売された、KARAKURIと4Uの楽曲を収めたディスクをレビュー。取り上げるのはKARAKURIの「-Zero」です。前にこの記事の中でも「歌詞の世界観が凄い」や「和漢っぽい空気感が嫌いじゃない」という趣旨のことは書きましたが、ここではもう少し突っ込んだ言及にします。


01. -Zero

 先にレビューした「B.A.A.B.」と同じくemonさんによるトラックなので、サウンドとしては同系統の格好良いエレクトロ…強いて言うならEDMです。それだけなら似たような曲が増えただけとしか思いませんが、あまりにも独特な歌詞が「-Zero」を唯一無二の楽曲へと押し上げています。

 公式サイトの楽曲説明には「孤独な都市をテーマに」と書かれていますが、2034年まで時代が進んで一層明暗の差が顕著になった近未来の、どちらかと言えばディストピアの側面を歌い上げているといった趣が感じられる歌詞です。場所は明示されていませんが、日本…少なくともアジアだということは察せますよね。

 これに関連して、実は「B.A.A.B.」の項で書いた「KARAKURI像」に係るくだりは、『CMF』の中では「-Zero」のライナーノーツにある記述に先にふれた形で、「日本を含めたアジア」という僕の言葉は、茂木さんの言う「中国には行ってもいいんだけど」という表現に裏付けられています。先述の「和漢っぽい空気感」というのも、このあたりの感覚をざっくりとまとめて出た言葉ですが、少なくとも「-Zero」に関しては、茂木さんのイメージ的には「和」を取り立てているようだと補足しておきます。影響をモロに受けているという意味では「和漢」でもそこまで大差はない気はしますが、誤解があってはいけないので。

 こういう世界観があってこそだと思いますが、メロディにも和の要素が存分に醸されており、それが只管に格好良いと言えます。正確には、日本語詞の部分は全て日本っぽい旋律、英語詞が絡む部分はR&B的或いはディーバ系とでも言いたくなるような舶来っぽいメロになっていて、この対比と混在こそが最大の魅力ではないでしょうか。



『YELLOW』(2015)



 本記事のラストは、ナナスタシスターズの中では後発ユニットであるLe☆S☆Ca(以降、レスカ)の1stシングル『YELLOW』に務めてもらいます。まずは表題曲から。


01. YELLOW

 レスカの持ち歌は今のところ4曲しかありませんが、その全てが神懸り的に良い曲だという理解で、「YELLOW」もその例に漏れない名曲です。…と言いつつ、実はその4曲の中では魅力に気付くのにいちばん時間がかかってしまったことを白状します。

 具体的に何処が気に入らないということもなく、初めて聴いた時から素直に良い曲だなとは思えていたのですが、なんだかすーっと耳を滑り落ちてしまったというか、ぶっちゃけあまり印象には残っていませんでした。しかし、流し聴きをしていてある日ふと、「あれ?もしかしてとんでもなくメロディが綺麗?」という気付きの瞬間が訪れ、そこからは今までスルーしていたのが嘘のように楽曲の虜になったという流れです。

 余談ですが、こういうパターンで好きになるというのは、またも名前を出しますがスピッツの楽曲に多いと感じていて、普遍的過ぎて直視出来なかったものにある日突然向き合えたかのようなこの感覚は、常に愛おしいものだなと思います。これは所謂「スルメ曲」とはまた違うケースなのですが、語り出すと長くなるので割愛で。

 A・B・サビ・Cの何処の旋律をとっても綺麗で、この流麗な連続性を隔てて紹介するのは難しいくらいですが、敢えて一点を選ぶならば、サビの"叶えたい出来事が"("変わらない朝日が")の、特に"出来事が"("朝日が")の部分が芸術的だと絶賛します。ここだけメロディが若干詰まるような感じになるというか、文字にならない促音(=1モーラ未満の音)が潜んでいるような気がするのが個人的にはツボです。

 随分マニアックな…と思われたかもしれませんが、僕にはこれが若さゆえの勢いの表現に感じられたので、「爽やか微炭酸系の青春アイドルユニット」という肩書き(キャッチ?)に恥じない素晴らしいメロディであると高く評価している、これが言いたかったのでした。このつんのめるような旋律の究極系が、ラスサビの"煌めきたつYELLOW"の部分だと思うので、このための伏線になっていたと考えれば、楽想的にも据りが良いと思います。

 あとは地味にAメロバックのピアノも好きです。ドラムカウントだけでほぼイントロがないこの曲に、のっけから少女らしい奥行きが付与されているのは、この鍵盤のおかげかなと思います。いちばん目立っているであろうドラムの格好良さに耳を奪われがちですが、全編を通して実はピアノが陰の主役なんだと言えるようなアレンジが巧いですね。


02. Behind Moon

 冒頭にもリンクしましたが、一度「今日の一曲!」でそこそこ詳細にレビューしているので詳しくはリンク先をご覧いただくとして、ここでは補足を。

 最初にレビューをした時は、「自分が80年代風の曲が好きだからこんなに刺さったんだろうな」としか思っていなかったのですが、どうやらかなりの人気曲だということを後から知って驚きました。この曲を検索する人自体が多く、同時に当ブログへの流入も多い(どちらもサーチコンソール調べ)ことからなんとなくは察していましたが、決定的だったのは年末年始の投票イベ「Tokyo 7th 歌合戦!」にて、同曲が常に上位に食い込んでいたことです。ちょうど今開催中のイベでその報酬として限定譜面が配信されていますが、ここまで人気なのは意外でした。ちなみに投票で選ばれた他の2曲は「SEVENTH HAVEN」と「SAKURA」だったので、「支配人(達)の音楽センス高ぇ!」と言わざるを得ませんね。笑

 今時の若い人…と言っても自分の世代でもある20代後半~30代のことだと思いますが、80年代への懐古趣味が流行っていると聴いたことがあります。特に音楽に関しては自分がまさにそうなので、このブームが真実ならば喜ばしいことです。「古き良き」という表現のおそらく元であろう'good old days'という英語の表現、これは60'sあたりを指しているという認識なのですが、時代が進むにつれてこの言葉も意味合いが変わって、今は80'sあたりに「良き」が来ているのかもしれないと思いました。拙いですが、人気の理由を自分なりに分析した結果がこれです。


 脱線気味なので話を戻します。先掲の記事の中で僕は歌詞に於ける"ミントティー"のくだりをベタ褒めしているのですが、キョーコのCVを務める吉井彩実さんもそのラインを甚く気に入っている旨が『CMF』に書いてあったので、なんだか嬉しくなったということを付け加えておきます。吉井さんは20代後半ですし、もしかしたら80'sが好きな同志かもしれませんね。





 以上、2015年までにリリースされた作品の中から、数曲を抜粋したレビューでした。書き始めた段階では全てをひとつの記事に収める予定でしたが、筆が乗りに乗りまくってドン引きする長さになってしまったので、ここまでをPart.1として一旦切り上げます。

 2016年以降にリリースされた楽曲に関しては、続くPart.2のアップをお待ちください。本記事の熱の入りようから察せるかもしれませんが、執筆にはそこそこの時間を要すると思うので、気長にお待ちいただければと思います。総評…をする必要があるかは微妙ですが、まとめ的な文章もPart.2に書きますね。

 上の動画はライブ映像作品のダイジェストで、2015年の公演が収められたものなので参考までに埋め込んでおきます。しかしこうしてメドレーになっているものを聴くと、「あぁ、あの曲もレビューするべきだったかな」と思ってしまうくらいなので、本記事でふれていないナンバーにも良曲がたくさんあるんだぞ!ということを補足して、記事を締め括ります。


【追記 2018/2/26】

 Part.2をアップしたのでリンクしておきます。

【追記 2018/2/28】

 『YouTube』上にオフィシャルに動画をアップしているチャンネルとして、『ナナシス』公式とVictor Entertainmentの他に電撃オンラインがあることも発見したので、「H-A-J-I-M-A-R-I-U-T-A-!!」の項にプロモムービーを追加しました。

 同チャンネルにはリズムゲーム最初期(ソロステージ時代=2レーンよりも前)のプレイ動画もあって驚きです。笑 僕は2レーンの時に始めたゆえ未知の世界ですが、今の7レーンスタイルは三代目にあたるんですね。

 また、『ナナシス』公式チャンネルの「3周年記念動画」に「FUNBARE☆RUNNER」が使われていることにも気付いたので、その旨を書いて当該の項に動画を埋め込んでおきました。