
音楽大全本発売記念!『Tokyo 7th シスターズ』特集 Part.2/2
Part.1からの続きです。記事の趣旨や注意点についてはお手数ですがリンク先をご覧ください。また、Part.1にて文字数省略のために示した「以降、○○」の効果は本記事でも有効なので、いくつかの固有名詞は最初から略称で書くことを断っておきます。
『SEVENTH HAVEN』(2016)
01. SEVENTH HAVEN
セブンスの1stシングルで、『ナナシス』の代表曲と言っても過言ではないくらいのアンセムと化しているナンバー。少し前にこの記事で「ダンスミュージックに於ける僕のアンセム観=その必要条件」についてふれましたが、それをしっかりと満たしている納得の「忘我の音楽」です。
多くの言葉を弄するよりも、「聴けばわかる!」と感覚に丸投げしてしまったほうが、この曲の魅力を伝えるには適しているのではと思うくらいに、その衝撃性には特筆すべきものがあります。以下、この点を個人的な体験も含めて掘り下げ。
僕はこの曲で『ナナシス』を知りました。この記事でちらっとふれている通り、出逢いは2ndアルバムリリースのTV SPOT(CM)だったので、時間にすれば15秒か30秒に過ぎなかったと記憶していますが、そこで流れていた「SEVENTH HAVEN」を聴いて、身体に電撃が奔ったのを覚えています。サビというかドロップとすべきかもですが、EDMの攻撃性が最も剥き出しになるそのパートのサウンドは、中二病的な表現をすればまさに「ホンモノ」であると、本能で理解したといった感覚。たとえばこの記事が参考になりますが、僕はダンスミュージック好きなれど基本的には「アンチEDM(狭義的解釈)」なので、ここの匙加減には拘りがあるのです。
それが理由になるかは微妙ですが、何の予備知識もなかったこの段階では、『ナナシス』は現実のアイドルかと思っていました。ややこしいですが、露出を二次元存在に肩代わりさせているタイプかと勘違いしていたという意味です。なぜならあまりにも楽曲がガチだったので、「単なる二次元アイドル作品でこのクオリティの高さはありえないだろう」という心理が働き、「楽曲は本気路線だけど、顔出しNGのグループなのかな?」と、現実準拠で勝手に整合性を取ってしまったという経緯。ここでは逆説的な称賛として、「そのくらい音楽の質が高い、従来の作品とは一線を画す凄みを感じた」とご理解ください。
こういった革新性に係る話は、『CMF』の中でもトラックメイキングを務めたkz (livetune)さんによって熱く語られています。茂木さんによるライナーノーツと共通で出てくるキーワードは「狂気」で、作中に於けるこの曲(セブンス)の位置付け、現実に於ける『ナナシス』の展開、もっとマクロで見た場合の音楽界/アニメ・ゲーム界に対するカウンターパンチ、そういった諸々の感情が増幅された結果が「SEVENTH HAVEN」なのだと解釈しました。この「狂気」に「踊れる+泣ける=忘我の音楽」が全て内包されていると思うので、アンセムにならないほうが可笑しいという気がします。
先述の通り、楽曲の中身に対して「多くの言葉を弄する」のは得策でないと判断したため、外部要因にフォーカスして「衝撃」を説明するスタイルのレビューとなりました。従ってここで切り上げてもいいのですが、主観体験に寄り過ぎた内容になっている節があるので、怒りと哀しみに切り刻まれた後のようなAメロの静かなる苛烈さと、血と涙を垂れ流しながらそれらを浄化していくかの如きドロップのシンセリフが至高であると、抽象的ながらトラック自体にも言及しておきます。
『Are You Ready 7th-TYPES??』(2016)
続いて2ndアルバムを紹介。これまでにも書いている通り、僕が『ナナシス』にハマったのは最初に手を出したこのアルバムのおかげなので、個人的にも思い出深い一枚です。
Part.1の中盤からシングル/EPレビューが続いていましたが、c/wも含めてここまでの既出曲は全て本作に収録されている(ドラマトラックは除く)ので、ここでは未だ言及していない楽曲を取り上げます。そうしたらDISC 2(通称「青盤」)に偏ったため、以降の曲番号は青盤のものとご理解ください。
04. ラバ×ラバ
WNo4によるキュートなポップナンバー。言葉遊びが軸となった歌詞も可愛らしく、『CMF』の中で茂木さんがふれているように、「歌詞もキレイにメロに乗っていなくてもいい」という遊び心のおかげで、絶妙な中毒性を誇っているところが気に入っています。
だからこそと言っていいかはわかりませんが細かいところが好きで、たとえばサビの"テリトリー"の部分の脱力感とか、Cメロの"パッと"でボーカル処理が少しきつくなる箇所とか、常にちょっとした違和感が醸されているように思えるところが魅力ではないでしょうか。
嫌な勘違いですが、まだまだ聴き始めで作品理解なぞ何もしていない段階では、「デジタルウィッチ」というWNo4のコンセプトも露知らずだったので、コーラスの"Witch"は"Bitch"かと思っていました。笑 …いや、そんな歌なわけがないだろうとは思いつつも、ブリブリしたシンセベースと重なっているのか破裂音に聞こえたんですよ。
歌詞で気になっているというか一瞬理解が止まったのが、2番Aの"デートの前/駅で気がつく/靴が前回と同じ(泣)/ない袖は触らない私"という部分です。「触」の漢字がどうこう言いたいのではなく、"靴が前回と同じ"なのは"私" or "あなた"のどちらなのかという疑問。僕の読解力は深読みをする方向にお粗末なので、以下の歌詞解釈は生温かい目でご覧になっていただければ幸い。笑
"デートの前/駅で"というのが二人が落ち合う前か後かで変わってくる気がしますが、前なら「あっ、前と同じ靴で来ちゃった!…でもお金もないし仕方がない」という"私"解釈、後なら「うわっ、こいつ前回と靴同じじゃん!恋人として意識されていないのかな…」という"あなた"解釈が出来ません?後者は「足元に気を使わない男に幻滅する」ようなあるあるに基いていて、"ない袖"というのはマネーのことではなく、"あなた"からの脈のことを指しているのではないかという理解です。文の人称が不自然になる気がしますが、「高望みしない」的な意味合いならOKじゃないかなぁと。これは遠回しながら、"Lover(ラヴァー)になりたい"がゆえの冷静な品定めで、だからこそ脈無しからの"Robber(ラバー)"にはなりたくないという、複雑な乙女心の表れではないでしょうか。
07. セカイのヒミツ
歌詞の流れでお次はサンボンリボン(以降、サンボン)のこの曲を。といっても歌詞の魅力については既にこの記事の中で過不足なくふれているため、ここにはリンクをするだけにとどめ、以下にはユニット自体に対する所感を書きます。
サンボンは「三姉妹×商店街(=日常)」という、元から持ち合わせている要素だけでも普遍的な魅力があると思っていて、とりわけ「商店街」というのが味噌だという認識です。「街/町」ほど大きくなく「家庭」より小さくない視点で、自分達を取り巻く"セカイ"を綺麗に切り取っているのが等身大で良い。意識しているかは不明ですが、変な意味ではなく物理的に「学校」とは距離を置いた描き方をしているとも感じていて、そこのひねり方も素敵だと思います。今でもそうなりつつある気がしますが、2034年という時代考証をした時に、「学校が10代の日常の全て」という考えは文字通りオールドスクールではないかな。
これも時代に鑑みた考察ですが、「商店街」が「寂れた」や「廃れた」などのネガティブな意味合いで使われていないのも未来志向で好きです。現実には逆行する表現ですが、16年後にどうなっているかはわかりませんからね。Part.1で書いた「古き良き」ではないけれど、価値が見直された世になっているかもしれないという希望はあっても良いでしょう。
『ナナシス』世界のように「特別行政経済特区」(ゲームにも出てきた用語かもしれませんが、とりあえず漫画版から引っ張ってきました)として、いくつかのエリアが主要産業を絞ることで強制的に先鋭化していくというのは、現実でもありえなくはないなと思います。それも「技術革新による」といったポジティブなものではなくて、「そうしないと国や自治体が維持出来ない」といった必要に迫られてそうなりそう。道州制の議論も絡んでくるでしょうが、今の47都道府県制が永遠に続くということは、哀しい哉、無い気がします。脱線していますが、『ナナシス』にはSF作品としての考察余地もあるということの補足でした。
『Winning Day / Lucky☆Lucky』(2016)
「ハロウィン」を冠していた1stとは違い、単にNew EPという扱いなのが味気無いですが、続いてKARAKURIと4Uによる2枚目のEPをレビュー。まずはKARAKURIサイドから。
01. Winning Day
KARAKURI史上…いや、『ナナシス』史上最もハイクオリティなナンバーであると個人的には高く評価しています。この類の賛辞は先に「SEVENTH HAVEN」の項でも行っていますが、同曲は細かく聴いていけば技術的にも趣向が凝らされているとわかるものの、表層的にはシンプルでそれこそが魅力というタイプでした。しかしこの「Winning Day」は、聴いた人の多くが「複雑で格好良い」という感想を持つのではと推測可能なほどにインテリジェンスに満ちていて、同じダンスミュージックと言えどアイドル対アーティストの差別化に成功していると思います。
ゲームで高難度の譜面をプレイしていればより実感出来るでしょうが、複雑なリズムで構成されているため、漫然と聴いているとボーカルラインとトラックのリズムパターンが乖離してしまい、いまいちノリきれないといった感想になる人もいる気がするくらいには込み入っています。音ゲー/リズムゲーをプレイするような人種ならば大丈夫だと見込みますが、変にボーカルとバックトラックを区別せず、全ての音に対して身を委ねていく感覚でいれば、リスニングもゲームプレイも捗るでしょう。
とはいえ、サビの印象はなかなかにキャッチーですよね。声の甘さ(良い意味です)をあまり意識しなければ、二次元嫌いな音楽好きを騙せそうなくらいには、ディーバ系の女性歌手やヒップホップが売りのダンスグループの曲にもありそう。不用意なディスで逆説的に絶賛しているわけですが、これは表現媒体次第で音楽自体をまともに評価しなくなるという勿体無い考えを持つ音楽好きに対するアンチテーゼだと思ってください。比較対象として出したアーティスト像が嫌いなわけではありません。
今し方「声の甘さ」という言葉を出しましたが、これだけでは言葉足らずでして、正確には「声色の変化が自在」というのが言わんとしていることでした。甘く感じられるところも刺々しく感じられるところもあって、この歌い分けがもしかしたらヒトハとフタバの個性なのかもしれませんが、現実的にはCVと歌唱を務めている秋奈さんの歌唱&表現力が秀逸だとしておきます。…というのも、『CMF』のキャストインタビューを読む限り、「声で差はつけないでほしい」との指導が入っているみたいなので、それと折り合いをつけるために秋奈さん自身を評価する書き方にしました。
声質をなぜにこんなにも掘り下げているかというと、ボーカルとトラックの対比の話で、甘い部分はグリッチなパートに、刺々しい部分はクリアなウワモノにと、互いが互いを補完しているように感じられるところが、実にKARAKURIらしいとまとめたかったからです。
ゲーム内のエピソードとリンクした楽曲のため、タイトルや歌詞の意味はそれを読めば一層深い理解が出来ます。ネタバレになるので詳しくはふれませんが、日本語と英語の言語的な特性を巧みに活かし、全体的に多国籍(或いは飽和して無国籍)の趣が醸されている点が魅力的な歌詞ですね。
メロとの兼ね合いで好きなポイントを挙げると、Aメロの"妖姫"の[ki]の音の孤高さも推したいところですが、やはりBメロが最も芸術的だと思います。"それは禍津華の陰の様/紅く染まる涙の傘の様/兎角、常世は定を漂う/鳴かぬ不如帰"。「-Zero」の歌詞でも思いましたが、茂木さんの頭の中どうなってんだ?と脱帽。
02. Lucky☆Lucky
続いて4Uサイド。この曲に関しては、収録曲ではないもののミニアルバムをレビューした際に少しだけ言及しました。それでも引用するには長いので詳細はリンク先をご覧いただくとして、ここではもう少し細かいツボを列挙します。
まずコーラスの"ラッキラ"が可愛すぎる。これがなかったらこの曲の魅力は半減するとさえ思っています。笑 その流れからエネルギッシュなプレイを挟んで突入するハッピーなサビを聴いて、「なるほどこういう明るい路線か」と思ったら、サビが終わるなり予想外のコード感にシフトし、ひねくれた悪戯っぽい歌詞が登場するという、このギャップにやられました。
1番は"そこかしこチャンスを逃した君"、2番は"またしても懲りずにフラれた君"、そんな残念な"君"に対してかけられる言葉が、まさか"Lucky!!"×4だとは誰が思うでしょうか。破壊は次なる創造的な励まし方だと思いますが、ものの見方を自体を揺さぶってくるような人は、歌詞にあるように"真理(ほんもの)"を知る人だと敬意を表したい。
"赤か黒なら白が好みよ"や、"7か8なら4が好みよ"などの一見支離滅裂な表現も、4Uのキャラクター像(とりわけウメとエモコの)を知っていれば、有無を言わさぬ説得力があるように感じられるので、これはある程度キャラに深みが出てからではないと書けない歌詞だと言えますね。
『トワイライト / タンポポ』(2016)
レスカの2ndシングルは期待以上の出来で驚きました。Part.1の『YELLOW』の項で、「レスカの持ち曲は全てが神懸り的に良い」という旨のことを書きましたが、その評価には当然このシングルに収められている2曲も貢献しています。黒レスカの艶っぽさ全開の「トワイライト」も至高ですが、本記事では白レスカの「タンポポ」をピックアップします。
02. タンポポ
同じく春の花がモチーフだということも関係している気がしますが、WNo4の「SAKURA」に匹敵するレベルで、メロディの流麗さと歌詞の美しさに惚れ惚れしてしまったナンバーです。片や恋の終わり、片や恋の始まりで方向性は全く逆なのですが、根底にある儚さは共通だなという気がします。
「春」と言ってもこの曲で描かれいるタンポポは綿毛の頃なので、時期としては初夏に寄っているとしたほうが正確かもしれませんが、"春待つホーム" → "春の小雨"とあるのでざっくり3月下旬~5月上旬として、"高く高く高く続く空へと/舞う飛び方を/教えてくれたのは君だよ"と、「タンポポ」という言葉を直接使わずにその特徴を巧みに落とし込んでいるのが鮮やかだと思います。『ナナシス』に限りませんが、タイトルによって意味が確定する歌詞は大好物です。
全編を通して印象的なシンセの音が、ややチープであるのも味があって素敵だと思います。タンポポを悪く言うつもりはありませんが、花屋に展示されているような多くの人が愛でる花々ではなく、ふとした瞬間に道端で健気に咲いているのに気付くと一層輝いて映る花だと思うので、そんな解釈を思わせるサウンドスケープなのかなと妄想が捗る。
同時に昔のアイドル楽曲っぽさもこの音によって演出されているという認識なので、最新鋭の音だけ使えばいいってもんじゃないという、ichiさん及びSigNさんのセンスが感じられる音遣いであると絶賛します。SigNさんに関しては、「Winning Day」とのギャップで殊更に敏腕トラックメイカーだと評するほかありませんね。
歌詞では特に2番Aが丸々好きです。"友だちが話した/実った恋の結末"が出てくる場面ですが、これを本筋("わたし"の恋)と直接利害関係のある話と取るか否かで、複雑な解釈をすることも出来るような曖昧さがニクイと思います。"少し嘘だった"というのを、祝福(="笑って聞いたけど")に対する嘘とするか、無自覚(="昨日のわたし";恋に気付く前の自分)に対する嘘とするか、或いはその両方という場合も想定出来ますが、利害関係アリ(祝福解釈)と捉えて、「"恋"を自覚した時点で状況的には既に失恋していた」というストーリーのほうが、情緒纏綿で奥深いのではないかな。
『The Present "4U"』(2017)
最後は4Uの1stミニアルバムを紹介します。既に新譜レビューとして単独記事を作ってあるので、本来であれば本記事で取り上げることもないのですが、『CMF』に大変興味深い情報が載っていたナンバーがあっため、その曲のみ再レビューします。
02. Crazy Girl's Beat
茂木さんによるこの曲のライナーノーツに、スピッツの「花泥棒」(1996)が「みたいな感じ」として挙げられているのを認めた瞬間、点と点が線で繋がったような感覚になりました。同曲は数あるスピッツのナンバーの中でも、草野マサムネさんが作曲したもの'ではない'曲として有名ですが、ナチュラルにそれを参考情報として提示出来るあたりガチ勢だなと、同じスピッツファンとしてにやにやしてしまったことを打ち明けます。
「花泥棒」を意識して聴くと、コーラスの"Crazy girl's beat"の連呼パートなんかはまさにと思いますよね。上掲の記事中では「ややダーティーなリピート」や「音楽的にも剥き出し(汚さも含めて」という形容をしましたが、楽曲から漂う泥臭さは共通のエッセンスだなという感じです。「跳ねたドラムのスピード感」も同じく。手前味噌ですが、意外と過去の自分が感じた印象は間違っていなかったということが保証されたみたいで嬉しかったです。
以上、2016年以降にリリースされた作品の中から、数曲を抜粋したレビューでした。
過去に記事を作って言及したことのある楽曲については、基本的に本記事に於いてはスルーしてしまったのですが、Part.1で書いた「どうしても言及したい曲」という観点を大事にするならば、The Queen of Purpleの「Fire and Rose」(2016)と、セブンスの『WORLD'S END』(2017)収録の二曲は、本記事で項目を立てても良かったかなと思っていることを補足しておきます。
総評と言うほど大したことではありませんが、『CMF』の発売を機に改めて『ナナシス』楽曲に向き合ってみたところ、そのクオリティの高さを再認識出来たという、至極当たり前の結論を抱けたことは喜ばしいことです。『CMF』の存在によって、制作陣の口から語られない限り知りようのない情報をいくつも知ることが出来たので、購入の価値は大いにありました。本記事でもいくつかの点に関しては引用を行いましたが、それらはごく一部に過ぎませんからね。
そんな『CMF』の中から、まとめの言葉として記事の冒頭か末尾に引用しようと思っていたものをここに載せます。それは…『「ナナシス最高! ナナシス知らないなんて遅れてるー!」』です。笑 これはモモカ役の井澤さんによる支配人(=ファン)向けのメッセージの中で出てくる言葉で、「って言ってください (笑)。」と締め括られているので、言いました。これは「口コミの力を信じている」という趣旨に基いたお願いなわけですが、作品の出来の良さに対する知名度の不均衡は、確かにもどかしいものがあるなとは思います。その一方で現状が良いバランスのような気もしているんですけどね。
「音楽好き」というだけでは、「Winning Day」の項にも少し書いた通り、二次元であるというだけで受け付けない層もいる。また、「二次元好き」というだけでも、必ずしも音楽が好きである必要はないので、これらワンウェイな人達のアンテナに引っ掛からないのはまあ当然でしょう。ただ「二次元趣味を持ち合わせている音楽好き」であれば、『ナナシス』に手を出していないのは確実に損であると僕は強く主張します。
アイドルが題材とは限りませんが、僕は『ナナシス』の他にも「音楽が主軸の一つ」である二次元作品にいくつか手を出しているので(当ブログに於ける「アニソン+」はそのマーカー)、あまり強い言葉を使うとその他の作品を下げることに繋がりかねないのですが、それでも『ナナシス』は別格であると表現せざるを得ないくらいに、その音楽性を高く評価しているのです。気持ち的には「アニソン+++」にしたいぐらい。笑
以下、『ナナシス』に対する批判は一切ありませんが、話の方向性がヘビー且つ表現もきつくなるので、不快耐性度を上げてご覧ください。音楽レビューとしては蛇足になりますが、この機会を逃すと書けなさそうなセンシティブな内容です。
ファンがファン層の分析をするのは下衆いとは思いますが、音楽に対して真摯な姿勢を持ち合わせている人が多いのも『ナナシス』の特徴であると肌感覚でそう思っているので、この点も他の類似作品とは雰囲気が異なり居心地が好いです。他に「アニソン+」に分類している作品の一部や、僕は手を出していませんが某先輩アイドルゲームや某新興バンドゲームのファンの中には、下手をすれば音楽に対する感慨は何も持ち合わせていないのでは…と疑ってしまうような愛し方をしている(それが悪いとまでは言いません)層が一定数存在する印象なのですが、『ナナシス』はそういう層の琴線には触れにくいのか、忌憚無く述べれば「ポル産の餌食になりにくい土壌が形成されている」とまで思っています。それは音楽に「媚び」や「甘え」が介入しないことに繋がるので、意義のあることだという認識です。
いきなり何を毒づき出したんだと思われるかもしれませんが、『CMF』には茂木さんが『ナナシス』を立ち上げる前のエンタメ業界に対する失望(「美少女キャラクター主義」や「ポルノビジネス」に対する反感)についての記述があるため、それに関連した意見表明なのでした。そのポリシーには単純に共感出来ると思いましたし、制作者側の精神性がそもそも二次元という枠に縛られていないというのは、ある程度の客観性の担保になり得るため、それが作り手側の事情よりもリスナーに近いところに音楽が届くプロセスの醸成に繋がっているのだなと、思想レベルで納得したことを記しておきたかったのです。
茂木さんは文中ではもっと具体的な言葉でこの考えを顕にしています。たとえば「男性の慰みもの」や「現実の逃げ場所」にはしないという表現、これは業界に於いてはかなり異端な発言だと思いますが、この宣言が心に響く二次元好き…というかエンタメ好きも世の中にはたくさんいるんだということを、『ナナシス』を通して実感出来ていたなら、それはとっても嬉しいなって。才能のある作り手が業界に絶望して消えていくという馬鹿みたいな体制がデフォルトであるならば、受け手の質もある程度は問われて然るべきだと考えています。エンタメに限らず、何事に於いてもそうであるのが理想的ではないでしょうか。考えない葦の増殖の果てには、根腐れしかないのだから。
特集本を読んでいるからとはいえ、ここまで真面目なことを語らせるという意味でも、『ナナシス』ひいては茂木さんは凄いなと思います。自分でも随分意識の高いことを書いたなと少し引き気味なぐらいですが、享受するエンタメ作品全てに対してここまで多くのことを考えてはいません。笑 上で批判の対象としたような愛し方を、僕も全くしていないとは決して言えませんしね。あくまでも程度の問題です。それに、そういう層の愛は購買力に直結することが多いイメージなので、業界的に一種の正義であるのを否定することも出来ないでしょう。
二記事に跨ってお送りしました『ナナシス』特集、いかがだったでしょうか。マニアックな言及や複雑な表現が多く、我ながら読みにくい文章になってしまったと思っているので、そう感じた方はどうか自分の感性の正しさを信じてください。笑
それと、「真の意味で網羅的な内容にする」と宣言しておきながら、SiSHとNI+CORAに言及していなくてすみません。もっと言えばはる☆ジカ(ちいさな)にもハルのソロ曲にも、更にはOSTにもライブ映像集にもふれていないのですが、記事の肥大化を避けようとしたら優先度が下がってしまったというだけで、本連載記事に名前を出さなかったナンバーも名曲揃いであるということをフォローしておきます。三ヶ月以上更新していませんが、「今日の一曲!」にて今後それらの楽曲が選ばれる可能性はあるので、そうなったらそこで存分に語る所存です。
さて、Part.1に埋め込んだ4周年特報動画には嬉しいお知らせが満載でしたが、個人的には「3rdアルバム発売予定」が最も心躍る情報でした。動画内の見せ方をストレートに受け取れば、「完全新曲6曲」というのは「ナナスタシスターズ内のユニットの」という意味だと思うので、各ユニットの世界観が更に広がるのが今から楽しみですね。
『SEVENTH HAVEN』(2016)
01. SEVENTH HAVEN
セブンスの1stシングルで、『ナナシス』の代表曲と言っても過言ではないくらいのアンセムと化しているナンバー。少し前にこの記事で「ダンスミュージックに於ける僕のアンセム観=その必要条件」についてふれましたが、それをしっかりと満たしている納得の「忘我の音楽」です。
多くの言葉を弄するよりも、「聴けばわかる!」と感覚に丸投げしてしまったほうが、この曲の魅力を伝えるには適しているのではと思うくらいに、その衝撃性には特筆すべきものがあります。以下、この点を個人的な体験も含めて掘り下げ。
僕はこの曲で『ナナシス』を知りました。この記事でちらっとふれている通り、出逢いは2ndアルバムリリースのTV SPOT(CM)だったので、時間にすれば15秒か30秒に過ぎなかったと記憶していますが、そこで流れていた「SEVENTH HAVEN」を聴いて、身体に電撃が奔ったのを覚えています。サビというかドロップとすべきかもですが、EDMの攻撃性が最も剥き出しになるそのパートのサウンドは、中二病的な表現をすればまさに「ホンモノ」であると、本能で理解したといった感覚。たとえばこの記事が参考になりますが、僕はダンスミュージック好きなれど基本的には「アンチEDM(狭義的解釈)」なので、ここの匙加減には拘りがあるのです。
それが理由になるかは微妙ですが、何の予備知識もなかったこの段階では、『ナナシス』は現実のアイドルかと思っていました。ややこしいですが、露出を二次元存在に肩代わりさせているタイプかと勘違いしていたという意味です。なぜならあまりにも楽曲がガチだったので、「単なる二次元アイドル作品でこのクオリティの高さはありえないだろう」という心理が働き、「楽曲は本気路線だけど、顔出しNGのグループなのかな?」と、現実準拠で勝手に整合性を取ってしまったという経緯。ここでは逆説的な称賛として、「そのくらい音楽の質が高い、従来の作品とは一線を画す凄みを感じた」とご理解ください。
こういった革新性に係る話は、『CMF』の中でもトラックメイキングを務めたkz (livetune)さんによって熱く語られています。茂木さんによるライナーノーツと共通で出てくるキーワードは「狂気」で、作中に於けるこの曲(セブンス)の位置付け、現実に於ける『ナナシス』の展開、もっとマクロで見た場合の音楽界/アニメ・ゲーム界に対するカウンターパンチ、そういった諸々の感情が増幅された結果が「SEVENTH HAVEN」なのだと解釈しました。この「狂気」に「踊れる+泣ける=忘我の音楽」が全て内包されていると思うので、アンセムにならないほうが可笑しいという気がします。
先述の通り、楽曲の中身に対して「多くの言葉を弄する」のは得策でないと判断したため、外部要因にフォーカスして「衝撃」を説明するスタイルのレビューとなりました。従ってここで切り上げてもいいのですが、主観体験に寄り過ぎた内容になっている節があるので、怒りと哀しみに切り刻まれた後のようなAメロの静かなる苛烈さと、血と涙を垂れ流しながらそれらを浄化していくかの如きドロップのシンセリフが至高であると、抽象的ながらトラック自体にも言及しておきます。
『Are You Ready 7th-TYPES??』(2016)
続いて2ndアルバムを紹介。これまでにも書いている通り、僕が『ナナシス』にハマったのは最初に手を出したこのアルバムのおかげなので、個人的にも思い出深い一枚です。
Part.1の中盤からシングル/EPレビューが続いていましたが、c/wも含めてここまでの既出曲は全て本作に収録されている(ドラマトラックは除く)ので、ここでは未だ言及していない楽曲を取り上げます。そうしたらDISC 2(通称「青盤」)に偏ったため、以降の曲番号は青盤のものとご理解ください。
04. ラバ×ラバ
WNo4によるキュートなポップナンバー。言葉遊びが軸となった歌詞も可愛らしく、『CMF』の中で茂木さんがふれているように、「歌詞もキレイにメロに乗っていなくてもいい」という遊び心のおかげで、絶妙な中毒性を誇っているところが気に入っています。
だからこそと言っていいかはわかりませんが細かいところが好きで、たとえばサビの"テリトリー"の部分の脱力感とか、Cメロの"パッと"でボーカル処理が少しきつくなる箇所とか、常にちょっとした違和感が醸されているように思えるところが魅力ではないでしょうか。
嫌な勘違いですが、まだまだ聴き始めで作品理解なぞ何もしていない段階では、「デジタルウィッチ」というWNo4のコンセプトも露知らずだったので、コーラスの"Witch"は"Bitch"かと思っていました。笑 …いや、そんな歌なわけがないだろうとは思いつつも、ブリブリしたシンセベースと重なっているのか破裂音に聞こえたんですよ。
歌詞で気になっているというか一瞬理解が止まったのが、2番Aの"デートの前/駅で気がつく/靴が前回と同じ(泣)/ない袖は触らない私"という部分です。「触」の漢字がどうこう言いたいのではなく、"靴が前回と同じ"なのは"私" or "あなた"のどちらなのかという疑問。僕の読解力は深読みをする方向にお粗末なので、以下の歌詞解釈は生温かい目でご覧になっていただければ幸い。笑
"デートの前/駅で"というのが二人が落ち合う前か後かで変わってくる気がしますが、前なら「あっ、前と同じ靴で来ちゃった!…でもお金もないし仕方がない」という"私"解釈、後なら「うわっ、こいつ前回と靴同じじゃん!恋人として意識されていないのかな…」という"あなた"解釈が出来ません?後者は「足元に気を使わない男に幻滅する」ようなあるあるに基いていて、"ない袖"というのはマネーのことではなく、"あなた"からの脈のことを指しているのではないかという理解です。文の人称が不自然になる気がしますが、「高望みしない」的な意味合いならOKじゃないかなぁと。これは遠回しながら、"Lover(ラヴァー)になりたい"がゆえの冷静な品定めで、だからこそ脈無しからの"Robber(ラバー)"にはなりたくないという、複雑な乙女心の表れではないでしょうか。
07. セカイのヒミツ
歌詞の流れでお次はサンボンリボン(以降、サンボン)のこの曲を。といっても歌詞の魅力については既にこの記事の中で過不足なくふれているため、ここにはリンクをするだけにとどめ、以下にはユニット自体に対する所感を書きます。
サンボンは「三姉妹×商店街(=日常)」という、元から持ち合わせている要素だけでも普遍的な魅力があると思っていて、とりわけ「商店街」というのが味噌だという認識です。「街/町」ほど大きくなく「家庭」より小さくない視点で、自分達を取り巻く"セカイ"を綺麗に切り取っているのが等身大で良い。意識しているかは不明ですが、変な意味ではなく物理的に「学校」とは距離を置いた描き方をしているとも感じていて、そこのひねり方も素敵だと思います。今でもそうなりつつある気がしますが、2034年という時代考証をした時に、「学校が10代の日常の全て」という考えは文字通りオールドスクールではないかな。
これも時代に鑑みた考察ですが、「商店街」が「寂れた」や「廃れた」などのネガティブな意味合いで使われていないのも未来志向で好きです。現実には逆行する表現ですが、16年後にどうなっているかはわかりませんからね。Part.1で書いた「古き良き」ではないけれど、価値が見直された世になっているかもしれないという希望はあっても良いでしょう。
『ナナシス』世界のように「特別行政経済特区」(ゲームにも出てきた用語かもしれませんが、とりあえず漫画版から引っ張ってきました)として、いくつかのエリアが主要産業を絞ることで強制的に先鋭化していくというのは、現実でもありえなくはないなと思います。それも「技術革新による」といったポジティブなものではなくて、「そうしないと国や自治体が維持出来ない」といった必要に迫られてそうなりそう。道州制の議論も絡んでくるでしょうが、今の47都道府県制が永遠に続くということは、哀しい哉、無い気がします。脱線していますが、『ナナシス』にはSF作品としての考察余地もあるということの補足でした。
『Winning Day / Lucky☆Lucky』(2016)
「ハロウィン」を冠していた1stとは違い、単にNew EPという扱いなのが味気無いですが、続いてKARAKURIと4Uによる2枚目のEPをレビュー。まずはKARAKURIサイドから。
01. Winning Day
KARAKURI史上…いや、『ナナシス』史上最もハイクオリティなナンバーであると個人的には高く評価しています。この類の賛辞は先に「SEVENTH HAVEN」の項でも行っていますが、同曲は細かく聴いていけば技術的にも趣向が凝らされているとわかるものの、表層的にはシンプルでそれこそが魅力というタイプでした。しかしこの「Winning Day」は、聴いた人の多くが「複雑で格好良い」という感想を持つのではと推測可能なほどにインテリジェンスに満ちていて、同じダンスミュージックと言えどアイドル対アーティストの差別化に成功していると思います。
ゲームで高難度の譜面をプレイしていればより実感出来るでしょうが、複雑なリズムで構成されているため、漫然と聴いているとボーカルラインとトラックのリズムパターンが乖離してしまい、いまいちノリきれないといった感想になる人もいる気がするくらいには込み入っています。音ゲー/リズムゲーをプレイするような人種ならば大丈夫だと見込みますが、変にボーカルとバックトラックを区別せず、全ての音に対して身を委ねていく感覚でいれば、リスニングもゲームプレイも捗るでしょう。
とはいえ、サビの印象はなかなかにキャッチーですよね。声の甘さ(良い意味です)をあまり意識しなければ、二次元嫌いな音楽好きを騙せそうなくらいには、ディーバ系の女性歌手やヒップホップが売りのダンスグループの曲にもありそう。不用意なディスで逆説的に絶賛しているわけですが、これは表現媒体次第で音楽自体をまともに評価しなくなるという勿体無い考えを持つ音楽好きに対するアンチテーゼだと思ってください。比較対象として出したアーティスト像が嫌いなわけではありません。
今し方「声の甘さ」という言葉を出しましたが、これだけでは言葉足らずでして、正確には「声色の変化が自在」というのが言わんとしていることでした。甘く感じられるところも刺々しく感じられるところもあって、この歌い分けがもしかしたらヒトハとフタバの個性なのかもしれませんが、現実的にはCVと歌唱を務めている秋奈さんの歌唱&表現力が秀逸だとしておきます。…というのも、『CMF』のキャストインタビューを読む限り、「声で差はつけないでほしい」との指導が入っているみたいなので、それと折り合いをつけるために秋奈さん自身を評価する書き方にしました。
声質をなぜにこんなにも掘り下げているかというと、ボーカルとトラックの対比の話で、甘い部分はグリッチなパートに、刺々しい部分はクリアなウワモノにと、互いが互いを補完しているように感じられるところが、実にKARAKURIらしいとまとめたかったからです。
ゲーム内のエピソードとリンクした楽曲のため、タイトルや歌詞の意味はそれを読めば一層深い理解が出来ます。ネタバレになるので詳しくはふれませんが、日本語と英語の言語的な特性を巧みに活かし、全体的に多国籍(或いは飽和して無国籍)の趣が醸されている点が魅力的な歌詞ですね。
メロとの兼ね合いで好きなポイントを挙げると、Aメロの"妖姫"の[ki]の音の孤高さも推したいところですが、やはりBメロが最も芸術的だと思います。"それは禍津華の陰の様/紅く染まる涙の傘の様/兎角、常世は定を漂う/鳴かぬ不如帰"。「-Zero」の歌詞でも思いましたが、茂木さんの頭の中どうなってんだ?と脱帽。
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02. Lucky☆Lucky
続いて4Uサイド。この曲に関しては、収録曲ではないもののミニアルバムをレビューした際に少しだけ言及しました。それでも引用するには長いので詳細はリンク先をご覧いただくとして、ここではもう少し細かいツボを列挙します。
まずコーラスの"ラッキラ"が可愛すぎる。これがなかったらこの曲の魅力は半減するとさえ思っています。笑 その流れからエネルギッシュなプレイを挟んで突入するハッピーなサビを聴いて、「なるほどこういう明るい路線か」と思ったら、サビが終わるなり予想外のコード感にシフトし、ひねくれた悪戯っぽい歌詞が登場するという、このギャップにやられました。
1番は"そこかしこチャンスを逃した君"、2番は"またしても懲りずにフラれた君"、そんな残念な"君"に対してかけられる言葉が、まさか"Lucky!!"×4だとは誰が思うでしょうか。破壊は次なる創造的な励まし方だと思いますが、ものの見方を自体を揺さぶってくるような人は、歌詞にあるように"真理(ほんもの)"を知る人だと敬意を表したい。
"赤か黒なら白が好みよ"や、"7か8なら4が好みよ"などの一見支離滅裂な表現も、4Uのキャラクター像(とりわけウメとエモコの)を知っていれば、有無を言わさぬ説得力があるように感じられるので、これはある程度キャラに深みが出てからではないと書けない歌詞だと言えますね。
『トワイライト / タンポポ』(2016)
レスカの2ndシングルは期待以上の出来で驚きました。Part.1の『YELLOW』の項で、「レスカの持ち曲は全てが神懸り的に良い」という旨のことを書きましたが、その評価には当然このシングルに収められている2曲も貢献しています。黒レスカの艶っぽさ全開の「トワイライト」も至高ですが、本記事では白レスカの「タンポポ」をピックアップします。
02. タンポポ
同じく春の花がモチーフだということも関係している気がしますが、WNo4の「SAKURA」に匹敵するレベルで、メロディの流麗さと歌詞の美しさに惚れ惚れしてしまったナンバーです。片や恋の終わり、片や恋の始まりで方向性は全く逆なのですが、根底にある儚さは共通だなという気がします。
「春」と言ってもこの曲で描かれいるタンポポは綿毛の頃なので、時期としては初夏に寄っているとしたほうが正確かもしれませんが、"春待つホーム" → "春の小雨"とあるのでざっくり3月下旬~5月上旬として、"高く高く高く続く空へと/舞う飛び方を/教えてくれたのは君だよ"と、「タンポポ」という言葉を直接使わずにその特徴を巧みに落とし込んでいるのが鮮やかだと思います。『ナナシス』に限りませんが、タイトルによって意味が確定する歌詞は大好物です。
全編を通して印象的なシンセの音が、ややチープであるのも味があって素敵だと思います。タンポポを悪く言うつもりはありませんが、花屋に展示されているような多くの人が愛でる花々ではなく、ふとした瞬間に道端で健気に咲いているのに気付くと一層輝いて映る花だと思うので、そんな解釈を思わせるサウンドスケープなのかなと妄想が捗る。
同時に昔のアイドル楽曲っぽさもこの音によって演出されているという認識なので、最新鋭の音だけ使えばいいってもんじゃないという、ichiさん及びSigNさんのセンスが感じられる音遣いであると絶賛します。SigNさんに関しては、「Winning Day」とのギャップで殊更に敏腕トラックメイカーだと評するほかありませんね。
歌詞では特に2番Aが丸々好きです。"友だちが話した/実った恋の結末"が出てくる場面ですが、これを本筋("わたし"の恋)と直接利害関係のある話と取るか否かで、複雑な解釈をすることも出来るような曖昧さがニクイと思います。"少し嘘だった"というのを、祝福(="笑って聞いたけど")に対する嘘とするか、無自覚(="昨日のわたし";恋に気付く前の自分)に対する嘘とするか、或いはその両方という場合も想定出来ますが、利害関係アリ(祝福解釈)と捉えて、「"恋"を自覚した時点で状況的には既に失恋していた」というストーリーのほうが、情緒纏綿で奥深いのではないかな。
『The Present "4U"』(2017)
最後は4Uの1stミニアルバムを紹介します。既に新譜レビューとして単独記事を作ってあるので、本来であれば本記事で取り上げることもないのですが、『CMF』に大変興味深い情報が載っていたナンバーがあっため、その曲のみ再レビューします。
02. Crazy Girl's Beat
茂木さんによるこの曲のライナーノーツに、スピッツの「花泥棒」(1996)が「みたいな感じ」として挙げられているのを認めた瞬間、点と点が線で繋がったような感覚になりました。同曲は数あるスピッツのナンバーの中でも、草野マサムネさんが作曲したもの'ではない'曲として有名ですが、ナチュラルにそれを参考情報として提示出来るあたりガチ勢だなと、同じスピッツファンとしてにやにやしてしまったことを打ち明けます。
「花泥棒」を意識して聴くと、コーラスの"Crazy girl's beat"の連呼パートなんかはまさにと思いますよね。上掲の記事中では「ややダーティーなリピート」や「音楽的にも剥き出し(汚さも含めて」という形容をしましたが、楽曲から漂う泥臭さは共通のエッセンスだなという感じです。「跳ねたドラムのスピード感」も同じく。手前味噌ですが、意外と過去の自分が感じた印象は間違っていなかったということが保証されたみたいで嬉しかったです。
以上、2016年以降にリリースされた作品の中から、数曲を抜粋したレビューでした。
過去に記事を作って言及したことのある楽曲については、基本的に本記事に於いてはスルーしてしまったのですが、Part.1で書いた「どうしても言及したい曲」という観点を大事にするならば、The Queen of Purpleの「Fire and Rose」(2016)と、セブンスの『WORLD'S END』(2017)収録の二曲は、本記事で項目を立てても良かったかなと思っていることを補足しておきます。
総評と言うほど大したことではありませんが、『CMF』の発売を機に改めて『ナナシス』楽曲に向き合ってみたところ、そのクオリティの高さを再認識出来たという、至極当たり前の結論を抱けたことは喜ばしいことです。『CMF』の存在によって、制作陣の口から語られない限り知りようのない情報をいくつも知ることが出来たので、購入の価値は大いにありました。本記事でもいくつかの点に関しては引用を行いましたが、それらはごく一部に過ぎませんからね。
そんな『CMF』の中から、まとめの言葉として記事の冒頭か末尾に引用しようと思っていたものをここに載せます。それは…『「ナナシス最高! ナナシス知らないなんて遅れてるー!」』です。笑 これはモモカ役の井澤さんによる支配人(=ファン)向けのメッセージの中で出てくる言葉で、「って言ってください (笑)。」と締め括られているので、言いました。これは「口コミの力を信じている」という趣旨に基いたお願いなわけですが、作品の出来の良さに対する知名度の不均衡は、確かにもどかしいものがあるなとは思います。その一方で現状が良いバランスのような気もしているんですけどね。
「音楽好き」というだけでは、「Winning Day」の項にも少し書いた通り、二次元であるというだけで受け付けない層もいる。また、「二次元好き」というだけでも、必ずしも音楽が好きである必要はないので、これらワンウェイな人達のアンテナに引っ掛からないのはまあ当然でしょう。ただ「二次元趣味を持ち合わせている音楽好き」であれば、『ナナシス』に手を出していないのは確実に損であると僕は強く主張します。
アイドルが題材とは限りませんが、僕は『ナナシス』の他にも「音楽が主軸の一つ」である二次元作品にいくつか手を出しているので(当ブログに於ける「アニソン+」はそのマーカー)、あまり強い言葉を使うとその他の作品を下げることに繋がりかねないのですが、それでも『ナナシス』は別格であると表現せざるを得ないくらいに、その音楽性を高く評価しているのです。気持ち的には「アニソン+++」にしたいぐらい。笑
以下、『ナナシス』に対する批判は一切ありませんが、話の方向性がヘビー且つ表現もきつくなるので、不快耐性度を上げてご覧ください。音楽レビューとしては蛇足になりますが、この機会を逃すと書けなさそうなセンシティブな内容です。
ファンがファン層の分析をするのは下衆いとは思いますが、音楽に対して真摯な姿勢を持ち合わせている人が多いのも『ナナシス』の特徴であると肌感覚でそう思っているので、この点も他の類似作品とは雰囲気が異なり居心地が好いです。他に「アニソン+」に分類している作品の一部や、僕は手を出していませんが某先輩アイドルゲームや某新興バンドゲームのファンの中には、下手をすれば音楽に対する感慨は何も持ち合わせていないのでは…と疑ってしまうような愛し方をしている(それが悪いとまでは言いません)層が一定数存在する印象なのですが、『ナナシス』はそういう層の琴線には触れにくいのか、忌憚無く述べれば「ポル産の餌食になりにくい土壌が形成されている」とまで思っています。それは音楽に「媚び」や「甘え」が介入しないことに繋がるので、意義のあることだという認識です。
いきなり何を毒づき出したんだと思われるかもしれませんが、『CMF』には茂木さんが『ナナシス』を立ち上げる前のエンタメ業界に対する失望(「美少女キャラクター主義」や「ポルノビジネス」に対する反感)についての記述があるため、それに関連した意見表明なのでした。そのポリシーには単純に共感出来ると思いましたし、制作者側の精神性がそもそも二次元という枠に縛られていないというのは、ある程度の客観性の担保になり得るため、それが作り手側の事情よりもリスナーに近いところに音楽が届くプロセスの醸成に繋がっているのだなと、思想レベルで納得したことを記しておきたかったのです。
茂木さんは文中ではもっと具体的な言葉でこの考えを顕にしています。たとえば「男性の慰みもの」や「現実の逃げ場所」にはしないという表現、これは業界に於いてはかなり異端な発言だと思いますが、この宣言が心に響く二次元好き…というかエンタメ好きも世の中にはたくさんいるんだということを、『ナナシス』を通して実感出来ていたなら、それはとっても嬉しいなって。才能のある作り手が業界に絶望して消えていくという馬鹿みたいな体制がデフォルトであるならば、受け手の質もある程度は問われて然るべきだと考えています。エンタメに限らず、何事に於いてもそうであるのが理想的ではないでしょうか。考えない葦の増殖の果てには、根腐れしかないのだから。
特集本を読んでいるからとはいえ、ここまで真面目なことを語らせるという意味でも、『ナナシス』ひいては茂木さんは凄いなと思います。自分でも随分意識の高いことを書いたなと少し引き気味なぐらいですが、享受するエンタメ作品全てに対してここまで多くのことを考えてはいません。笑 上で批判の対象としたような愛し方を、僕も全くしていないとは決して言えませんしね。あくまでも程度の問題です。それに、そういう層の愛は購買力に直結することが多いイメージなので、業界的に一種の正義であるのを否定することも出来ないでしょう。
二記事に跨ってお送りしました『ナナシス』特集、いかがだったでしょうか。マニアックな言及や複雑な表現が多く、我ながら読みにくい文章になってしまったと思っているので、そう感じた方はどうか自分の感性の正しさを信じてください。笑
それと、「真の意味で網羅的な内容にする」と宣言しておきながら、SiSHとNI+CORAに言及していなくてすみません。もっと言えばはる☆ジカ(ちいさな)にもハルのソロ曲にも、更にはOSTにもライブ映像集にもふれていないのですが、記事の肥大化を避けようとしたら優先度が下がってしまったというだけで、本連載記事に名前を出さなかったナンバーも名曲揃いであるということをフォローしておきます。三ヶ月以上更新していませんが、「今日の一曲!」にて今後それらの楽曲が選ばれる可能性はあるので、そうなったらそこで存分に語る所存です。
さて、Part.1に埋め込んだ4周年特報動画には嬉しいお知らせが満載でしたが、個人的には「3rdアルバム発売予定」が最も心躍る情報でした。動画内の見せ方をストレートに受け取れば、「完全新曲6曲」というのは「ナナスタシスターズ内のユニットの」という意味だと思うので、各ユニットの世界観が更に広がるのが今から楽しみですね。
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