
2019年下半期ナナシス振り返り+6周年おめでとう!記事
【追記:2021.1.5】 本記事は「今日の一曲!」【テーマ:2019年のアニソンを振り返る】の第九弾です。【追記ここまで】
更新が一ヶ月以上滞っていたので久々の新記事です。空白の理由は色々あって、先月の成人の日に外出してからずっと軽微な風邪様の症状が続いていて「COVID-19の軽症例なのでは…?」と不安でいたり(受診の目安である発熱や倦怠感がないため実際は花粉症デビューしたのだと思います)、『DRIFT SERIES 1』(2019)のBOX版が届いて「これUnderworld第二の黄金期来てるわ!」と独りはしゃいでいたり(これのレビューは次に記事化する予定)、自分で書いた『SHOW BY ROCK!!』総括記事に当てられてタイアップバンドの音源を深掘りした結果「補遺としてPt.3を執筆したい」と思えるほどにツボな存在が複数出てきたり(特にウソツキとカラスは真っ白とSILHOUETTE FROM THE SKYLITとBIGMAMAと明日、照らすは評価が爆上がりしました)、良くも悪くも新たなインプットに振り回されていた一ヶ月だったと顧みます。
―
こうしてインプット過多になるとアウトプットが疎かな現状がむず痒くなってくる性質なので、【2019年のアニソンを振り返る】に組み込んでおきながら上半期分だけの更新で宙ぶらりんになっていた、『Tokyo 7th シスターズ』関連楽曲レビューの下半期分を更新することにしました。前出の記事は「今日の一曲!」を利用したスタイルで書き上げましたが、今回は2019年の7月以降にリリースされたディスクについて通時的に言及するスタイルで書き進めていきます。また、記事タイトルにもあるように去る2020年2月19日に『ナナシス』は6周年を迎え、そのことに祝辞を述べたくてこのタイミングでの更新となった面もあるため、2019年の振り返りという範囲からは逸脱しますが、6周年の日までを本記事に於ける言及の対象とさせてください。
というのも、2019年下半期~今日までの『ナナシス』の動向を一言でまとめろと言われたら、個人的には「シナリオの質量に圧倒された期間」と表したい心持ちでいるので(多くの支配人さん達が同様に感じたことでしょう)、EPISODE 5.0までのメインストーリーの動きを総括出来る区切りにしたほうが都合が好いのです。その軌跡を通時的に並べると、【7月5日:4.0の第13話公開 → 10月17日~30日:0.7の前中後編公開 → 翌1月9日~2月13日:5.0の第1~6話公開】となり、中でもオートでの視聴目安時間が1hを超えるお話の実装(4.0の第13話と0.7の後編)には、「これ半分劇場版だろ」と読む前から謎の感動が押し寄せてくるほどでした。笑 全話を合計すると、【4.0が4h55m、0.7が2h16m、5.0が2h35m】の都合9h46mもある大長編になりますからね。4.0の最終話に関しては、データ実装が間に合わずに公開が1日遅れた不手際さえ、期待を高める演出としてプラスに働いていたと言えます。この間にリリースされた新曲も、その殆どがエピソードに根差した楽曲であったので、やはり通時的な言及が最適と考えた次第です。
―
さて、エピソードに纏わる前置きから始めておいてなんですが、リリース順に並べるとなると初手に紹介するのはライブCDになります。それがこの『t7s 4th Anniversary Live -FES!! AND YOUR LIGHT- in Makuhari Messe』(2019)で、一昨年の10月に幕張メッセにて開催された4thライブの模様がCD4枚組の大ボリュームで収められています。上半期分の記事で武道館のライブCDを簡単にレビューした際のスタイルに倣い、本記事でもベストセレクション的に一曲を選んで語るとしましょう。
僕が同盤の中で最も気に入っているのは、DISC 2に収められている4Uの「TREAT OR TREAT?」です。DISC 4でも同曲を聴くことは出来ますが、Day2よりもDay1のテイクのほうが好みだったので敢えて択一にしてみました。「トリトリ」は元々ライブ映えするアッパーチューンでありながら、4th初日のそれは過去最高にはっちゃけたプレイが印象的で、とりわけ2番サビ前からのシークエンスが至上です。"するべきことが/あるでしょ?ほら!ねえ!?"の歌詞以上に感嘆符がマシマシの歌唱(「するべき!ことが!!あるでしょー!!!ほら!ねぇーー!!!!????↑↑↑↑」ぐらいの勢い)、"ちょっと演技好きなくらいだわ"の語尾裏返り、バックコーラスの[ha]の息切れ感とセクシー加減、タイムリーな「ハッピーハロウィン♪」の可愛さと、生ならではの弾けたパフォーマンスの畳み掛けにシビれてしまいました。
ちなみに、僕の中で紹介候補として最後まで競っていたのは、DISC 3に収録されているThe QUEEN of PURPLEによる「PUNCH'D RANKER」で、他ユニットのカバーが披露されるというサプライズには特筆性がありますよね。本記事は音源への言及に絞って書いているので映像作品は軽くふれる程度で済ませますが、QOPの手に成るカバー(楽曲解釈)の素晴らしさに関しては、ライブBD『“I'M THE QUEEN, AND YOU?”』(2020)に詳しいです。
―
「EPISODE 0.7 -Melt in the Snow-」のエンディングテーマとして配信限定で急遽リリースされた、七咲ニコルの1stシングル曲「光」(2019)。発売日の少し前に訳あってCVおよび歌唱を務める水瀬いのりさんに関連する記事をアップしていたため、曲名だけならリンク先で一足早く出していました。
0.7はセブンスシスターズ解散の真相が明かされる重要な過去編で、「世界の仕組み」に容赦なく曝されながらも、「愛」や「希望」などといった未来志向の概念に帰着する結論を得た、弱さを抱えてなお強く前を向こうとする人々(セブンスの面々だけでなく、ミトの祖母もサダモトさんも初代支配人も含めて)の生き様を、陳腐に振れずに纏め上げた名シナリオだったと絶賛します。ニコが歌う本曲のジャケットが笑顔のミトであること、その楽曲が「光」と題されていること、延いては「Star☆Glitter」(2014)がセブンスのラストシングルに位置付けられていること、歌い出しが"いつも愛はそれと知らずに"であること、それら全てに強い説得力を与えるだけの熱量を持った物語は、なるほど'Melt in the Snow'を冠しているだけはあるなと得心がいきました。
ミト視点で話が進む点についても、公式同人誌『ハジマリノヒノスコシマエ ver 8.12』(2014)の表紙でミトだけがこちらを向いている理由を知っていたので(その詳細は同人誌内ではなく、発行に際して『ファミ通App』上で語られた茂木総監督の言にあります)、プレイヤーに近しい感覚を持った存在としてすんなり受け入れられましたし、「ハジマリノヒノスコシマエ」が「だいたい3年くらい前」と明かされていて、時系列でこの次に来る「始まりの日」がエピソード番号で言えば1.0になるため(ゆえに「スコシマエ」が0.7なのでしょう)、同人誌に描かれているイラストから窺えた予感と、プレイヤーが二代目支配人を襲名する1.0の軽いノリの裏にある重みが、0.7によって全部繋がるという構成力の高さに、ただただ脱帽するばかりです。
話を音楽に戻しまして、これほどの質量を有したお話を締め括るテーマソングとなると、変に凝った楽曲よりはストレートなつくりの楽曲のほうが響くのは当然と思うので、「光」が持つメロディラインの正しさとアレンジの優しさは、楽典上の単純さとは裏腹に複雑な感情の発露を読み手に喚起させる類の、素晴らしいシンプルさであると言えます。この観点でひとつ意外に感じたのは、同じく旋律の素直さこそが最大の魅力と評せる「またあした」(2016)や「ハルカゼ~You were here~」(2017)がそうであったように、この手のワークスは茂木総監督が手ずから作曲する領分だと予想していただけに、クレジットにkzさんの名前を認めた時にはやや驚きました。「セブンス関連のナンバーならkzさんだろ」とセルフツッコミを入れる自分がいる一方で、作中で重要な楽曲且つソロ名義であるならば或いはと思う自分もいたわけです。
最後に水瀬さんの歌声にふれておくとすれば、芯の強さと包み込まれるような愛おしさが両立したその質感が、メロディに宿る美しさを効果的に引き立てて、本曲を一層の名曲の座に押し上げているとベタ褒めします。別作品からの例示で恐縮ですが、今期のTVアニメ『ソマリと森の神様』の主題歌である「ココロソマリ」(2020)も水瀬さんが歌うナンバーの中では高く評価しており、溌溂な歌い方や棘のある歌い方にも確かな魅力がある傍ら、バラードも表現力豊かに熟しているところで、歌手としての才も十全であることを改めて意識させられました。
―
お次はエピソードのことを一旦忘れまして、七花少女とCASQUETTE’Sのスプリットシングル『マイ・グラデイション/SCARLET』(2019)のレビューです。後発のユニット同士で比較をすると、Ci+LUSは順当にナンバリングを重ねたシングルをリリースしていましたが、七花とキャスは一枚のディスク上で2ndが発表される形になりました。…と、少し意地悪な書き方をしてみたものの、これまでに両ユニットの楽曲を手掛けてきたMICON STUDIOによるワークスをまとめた作品だと考えれば、安易な抱き合わせでないことは理解出来ます。
七花による「マイ・グラデイション」は、上半期分の記事内でレビューした過去曲「花咲キオトメ」(2019)に対して「文化系の頑張り」と、同じく「スノードロップ」(2019)に対して「文学少女」という形容を持ち出した路線を受け継ぐようなナンバーで、小説じみた言葉繰りと素朴なメロディラインが印象的な、ユニットのイメージを強化して「らしさ」を確立させつつある仕上がりだと感じました。この文脈で注目していただきたいのは「させつつある」の部分で、曲名に「グラデイション」(段階的に変化するもの)が含まれることや、歌詞に"混ざりかけだけど/意外といいね"といった曖昧への肯定が見られるところからも察せる通り、過渡期の自分達を良しとする姿勢は、本曲の世界観に照らしても作中もしくは現実世界に於ける七花の立ち位置(デビューから一年未満である点)を考慮しても、このタイミングだからこそ好く響くメッセージ性だと受け止められます。
一方で、前出のそれらとは対照的な概念を持った"塗りつぶした黒の良さなど/大人になって分かればいい"は、これ単体でも自分が大人であるからこそ心揺さぶられた名フレーズと絶賛しますが、先に4.0と0.7で世の中の暗部を見せられているだけに、どうか少女達を染め得る"黒"は悪意に満ちたものではなく、歌詞中で"本物"とされるところの自然なものであってほしいと、現ナナスタ支配人(プレイヤー)の心理で願うばかりです。
キャスの「SCARLET」も、ユニットのイメージを強化するナンバーといった観点では、実に「らしい」アウトプットになっていると言えます。本曲も過去曲というか過去記事に書いた文章を引き合いに出すなら、「SHOW TIME」(2018)に対する「サウンドはラグジュアリー志向」と「マスカレード・ナイト」(2018)に対する「アレンジの怪しさ」を折衷させた趣があると形容可能で、「淑女の魅力」を演出したいのであれば本曲のタイトルが象徴しているように、差した紅の力で華麗に世を渡っていく強い女性のビジョンも確かに求められるファクターです。"ここで逃げたら/世界はこのままよ"が端的に刺さる一節で、理性と談笑している暇がない場面での思い切りの良さに関しては、経験上女性のほうに分がある気がしますね。
―
「EPISODE 4.0 AXiS」の劇伴を完全収録した『t7s オリジナルサウンドトラック 2.0「-The Things She Left-」』(2019)。過去のサントラ『t7s オリジナルサウンドトラック「The Things She Loved」』(2015)および「t7s OST 1.5 -FORGET ME NOT-」(2018)(『THE STRAIGHT LIGHT』のDISC 3)には、アプリ内で聴く頻度の高い汎用的なBGMも多く収録されていましたが、本作は4.0のために書き下ろされた楽曲のみで構成されているので、より専門性の高い一枚となっています。
本作に封入の小冊子には茂木総監督と音楽を手掛けた岡ナオキさんによる対談形式のインタビューが載っており、制作意図や秘話については同書をご覧いただくのが何よりも正確です。そこに書かれている情報が先んじたわけではないと主張はしつつも、僕が同盤で特に好みだった楽曲を収録順に並べてみると、03./04.「紅い宴」(「~享~」/「~楽~」)、13.「ハルカゼ -アイの調べ-」、16.「青空まで歩いてきた」を候補としてリスト出来、これらはインタビュー中で総監督が「キー」ないし「テーマ」という言葉に絡めて語っているトラックでもあるため、懸けられた熱意の大きさを感じ取ったからか、いちリスナーである僕も甚く気に入ったのだと分析します。
03./04.は共にハードな音遣いが耳に残るつくりで、ギターの重厚感とノイジーな電子音の鬩ぎ合いが、アクシズの苛烈さそのもののようです。13.は曲名の通り「ハルカゼ~You were here~」のピアノアレンジで、コニーからハルへの「最後の授業」に一層の説得性を付すものとして、プレイヤーはメタ的に劇伴からもフォローアップを受けられるという、この選曲自体が素晴らしいの一言に尽きます。「ハルカゼ」こそが当該シーンに於ける最適解と導き出されるまでに複数のボツ曲があったという裏話については、冊子内のインタビューで語られている通りです。16.は777☆SISTERSが折れずにここまで歩んで来たからこそ奏でられた希望の旋律で、打ち込みっぽさが残るバンドサウンドの軽快さは翻って心地好く、ストリングスとピアノが紡ぐ切なくも明るい展望のラインは実に前向きで、円陣の中心に満ちていくエネルギーを更に増幅させる効果がある名曲だと評します。
上半期分の記事をアップした段階ではまだ4.0が完結していなかったため、同エピソードのエンディングテーマである「NATSUKAGE -夏陰-」(2019)のレビュー文では、「『ナナシス』史上類を見ないほどの重苦しさに満ちた同エピソードが、どのような結末を迎えるのかを予言めいて提示する、陽炎の如き儚さを携えたナンバー」と、示唆的な書き方に終始していました。天神ネロの襲来で風雲急を告げた4.0は、程無くして公開された最終話によって、六咲コニーの失踪という結果を残して閉じられます。再びセルフ引用をすれば、ED曲が「不穏なグリッチによる強制的な幕切れ」を起こすというのも、この結末なら然もありなんのアレンジです。
この展開を受けて脳裏に過ったのは自分でも意外なところで、ドラマトラック「セブンスシスターズ2031 ~夏のコミジェネ・伝説のゲリラライブの巻~」(2016)の中で、不可解な行動を取っていた迷子に対するニコとルイの考察;「自分から迷子になったのかもね。」「なんとなく、そういう時あるじゃん?女の子ってさ。」「だけど戻りたくなって、でも、戻るのも怖くなって…ってことか。」でした。4.0の第12話でコニーが吐露していた「そして私も……本当に……ただの女の子だったんだ。」に繋がりそうな点と、公開順的には後の0.7でマナが過去のニコの行動様式を「ボイコット、という名の行方不明もあったわよ。」と振り返っているのも材料と言える、性分として放浪癖を持っている点が、同時に表れた台詞だと感じたから思い出したのでしょう。
当人なりの美学は尊重したいと擁護も可能でありながら、大切な人が何も語らずに「失踪」という結果のみで意思表示をしてきた場合、残されたほうはその意味の解釈に長く苛まれるということを、嫌でも意識させられる幕切れに胸が痛くなったのもまた事実です。この辺りの機微(残された側の描写)に関しては後の5.0で期待通りに描かれており、完結編にあたる6.0で真意の部分がおそらく明かされると思うので、「EPISODEシリーズ」(この言い回し自体も気になる)をどう着地させるのかは今後の楽しみとしておきます。
―
ここから2019年の振り返りを超えて、2020年の作品に言及するセクションです。と言ってもCDのリリースは現時点で一枚だけで、それがこれから紹介するSEASON OF LOVEの1stシングル『Fall in Love』(2020)です。表題曲は「EPISODE 5.0 -Fall in Love-」の主題歌ですが、同エピソードでプレイヤーの視点はまさかの9年後にジャンプしたため、本作は2043年にナナスタから誕生した新生ユニットの楽曲という、異色の文脈から放たれたディスクと相成っています。
5.0のトレイラーを初見した際の衝撃は4.0のそれ以上で、ポップな書体の'9 years later'と共に矢継ぎ早にコドモ連合(cf. EVENT.047)の成長した姿を見せられて理解が追い付かないうちに、「芹沢モモカ (24)」「2代目敏腕ジャーマネ」でトドメを刺されました。過去記事でも明かしていますが、誰か一人を選べと言われたら僕はモモカ推しを宣言するようにしているので(アプリ内の称号もモモカ担の「超一流支配人」と7th LIVE JACKイベでいちばん頑張った時の「1X位」にしています)、彼女がナナスタの2代目マネージャーに就任した未来に、思わず「正妻…!」と口にしかけたことを白状します。笑
5.0の意味合いについては、先に述べた「残された側の描写」であることに加えて、777☆Sから明暗を共に受け継ぐ立場にある未来のユニット・SOLが'真に'結成されるまでの物語でもあり、中でもメンバーのひとりであるマノンの葛藤には、これまで特に意識していなかったキャラクター(元よりマノン推しの方すみません)の成長と内面が提示されることで俄に魅力的に映るタイプの発展性が感じられたので、プロジェクトが長く続いているからこそ出来た良い掘り下げだったと高く評価したいです。とりわけ感動を覚えたのは第5話のムービーで、KARAKURI 2039の楽曲をバックにルイとマノンのデートが描かれるという演出は、『ナナシス』史上最高にハイセンスな見せ方であるといくら喧伝してもし足りません。仮に去年の自分が未来の自分からこのシーンをネタバレされたとしても、そういう状況に至る合理的な理由付けを全く行えないであろうことは想像に難くなく、誰も予想していなかった場面が提示されたことに賛辞を贈ります。
いい加減音楽レビューに戻りましょう。SOLの「Fall in Love」は、敢えて言いますが777☆Sっぽいナンバーだと感じました。シンジュの存在も理由のひとつではあるけれども、たった4人で12人分と同等のオーラを放っていると解せたのは、【ニコ/コニー → ハル → シラユキ・マノン】延いては【セブンス → 777☆S → SOL】のラインで受け継がれていった精神が、2043年になってもナナスタの中に生き続けているからだと解釈しています。出入りする人間は移り変わろうとも、「場」の役割さえ変質しなければ継承を促す機構としての意義は失われないため、だからこそナナスタを守っていたモモカと、自画自賛になりますが支配人は偉いよなぁと感慨も一入です。
勿論SOLにはSOLならではの魅力がしっかりとあって、「『ナナシス』といえば夏!」のイメージを超えて季節が秋へと進んでいること然り、メンバーの年齢層が10代後半~20代前半で子供とも大人とも断じにくい幅にあること然り、両者を統合して端境期の妙があると形容します。歌詞内容が秋にフォーカスしていることは読めば瞭然ですし、印象的なギターを含めてバンドサウンド全体に付与されている乾いた質感は、まさに秋のスケープが意識されたディレクションだと主張したいです。ベタですが"Fall"の掛詞も素敵で、"輝きの季節に/恋して生きるの/たとえば真実の恋に/いつか落ちちゃっても"は、SOLの世界観を端的に捉えた表現だと言えます。
c/wの「コドーモ・デ・ヒーロ」はコドモ連合名義での楽曲で、「Fall in Love」の後に聴くと宛らアルバム(過去の写真)を見ているかのような気分に浸れます。ロバート・デ・ニーロを捩ったと思しき遊び心のある曲名に反して、本曲はトレイラーで聴いた段階から名曲の予感を覚えており、本記事を「今日の一曲!」のスタイルで書くならメインに据えるつもりでいたくらいには大のお気に入りです。フック("GUWA♪GUWA♪で"~のパート)のチャイルディッシュなラインの微笑ましさ、数々の"イタズラ"("をしてるつもりはまるでなーい"のはともかく)に翻弄されるAメロの裏で多彩なプレイを披露しているギター、つんのめるようなメロディに子供の奔放さが表れていると感じたBメロの技巧性、ポップゆえに気付きにくいですが口遊んでみるとかなりの美メロだとわかるサビ、独特なコード感の間奏を経て影に傾くかと思いきや直ぐに上向きの調子を取り戻すCメロと、何処を切り取ってもツボな要素がたくさんでした。
歌詞の完成度も非常に高く、本曲でもしっかりと"愛"が謳われている点で、SOL(ユニットコンセプトである「愛の季節」)への布石が打たれていると結び付けられます。子供の好き放題の理由を、"だけどそんな未来の話じゃなくて/私たちの愛を知って/たぶんそれはほんの少し/怪獣みたいな気持ち"と説明されて、「うるっときちゃうだろうが…」と涙腺が緩んだ自分は、もう充分に大人だなと実感しました。同じく伏線的な立脚地から大絶賛したいのは2番Aの一節で、"綺麗な夜景見たって/フレンチのフルコースだって/よくわかんないし全然もう響かなーい"と思っていた女の子が、9年後それによって元気付けられるという5.0での展開を、見事と言わなければ嘘だろうと敬嘆です。デートプランの構築や財力に表れた余裕は、29歳のルイがきちんと大人の務めを果たしたことの証左と言えるでしょう。それにしても、ここに来てマノンがこれほど奥深いキャラになるとは完全に予想外でした。5.0の途中まで「やはり魔法少女要素のある娘は曇らせたくなるのがトレンドか」と、くだらないことを考えていた自分を猛省します。笑
―
以上、2019年下半期+6周年の日までの『ナナシス』楽曲振り返りでした。今回は音楽レビューというよりシナリオレビューの向きが強いと自覚はしていながら、当該期間の主要トピックはメインストーリーに大きな進展があったことに尽きると考えているので、半年以上溜めこんでいた思いの丈を発信してすっきりしたかったのです。4.0より前の段階でも、『ナナシス』は他の類似ゲームに比べてキャラがしっかりと生きているし、舞台および時代の設定もかっちりとしていて、文脈や背景を大切にしている作品だとの評価はしていましたが、【4.0 → 0.7 → 5.0】の畳み掛けを経てからは、最高峰を知ってしまったがゆえの嬉しさと怖さ(相対的に他が劣って見える視座)を覚えてしまっています。
元より音楽のクオリティに関しては、『ナナシス』は類似ゲームどころか他の多くの二次元作品を比較対象としても、更に言えば音楽界を相手取っても群を抜いた存在であると神格化していたものの、これからはストーリーについても近い認識を持たなくてはならないかもしれません。おおっぴらにはされていない情報にもヒントがあったということに意識を向けてほしくて、本記事では敢えて入手先が限られていた公式同人誌やドラマCDの内容にも言及してみましたが、最後に残した『OMOIDE IN MY HANDS』(2017)の後記に載っている茂木総監督の言葉に絡めて総括を書くならば、「作品至上主義」の下で「物」を優先してきたからこそ、『ナナシス』は名実相伴った高品質を達成出来ていると、いちファンとしてリアクションしておきます。
…で、満を持して7年目で新作長編アニメ化ですよ。今日まで応援してきて本当に良かったとしみじみ思うのと同時に、本作ならばファンを未だ見ぬ地平へと連れて行ってくれるだろうとの期待を、共に噛み締めつつ記事を終えます。
更新が一ヶ月以上滞っていたので久々の新記事です。空白の理由は色々あって、先月の成人の日に外出してからずっと軽微な風邪様の症状が続いていて「COVID-19の軽症例なのでは…?」と不安でいたり(受診の目安である発熱や倦怠感がないため実際は花粉症デビューしたのだと思います)、『DRIFT SERIES 1』(2019)のBOX版が届いて「これUnderworld第二の黄金期来てるわ!」と独りはしゃいでいたり(これのレビューは次に記事化する予定)、自分で書いた『SHOW BY ROCK!!』総括記事に当てられてタイアップバンドの音源を深掘りした結果「補遺としてPt.3を執筆したい」と思えるほどにツボな存在が複数出てきたり(特にウソツキとカラスは真っ白とSILHOUETTE FROM THE SKYLITとBIGMAMAと明日、照らすは評価が爆上がりしました)、良くも悪くも新たなインプットに振り回されていた一ヶ月だったと顧みます。
―
こうしてインプット過多になるとアウトプットが疎かな現状がむず痒くなってくる性質なので、【2019年のアニソンを振り返る】に組み込んでおきながら上半期分だけの更新で宙ぶらりんになっていた、『Tokyo 7th シスターズ』関連楽曲レビューの下半期分を更新することにしました。前出の記事は「今日の一曲!」を利用したスタイルで書き上げましたが、今回は2019年の7月以降にリリースされたディスクについて通時的に言及するスタイルで書き進めていきます。また、記事タイトルにもあるように去る2020年2月19日に『ナナシス』は6周年を迎え、そのことに祝辞を述べたくてこのタイミングでの更新となった面もあるため、2019年の振り返りという範囲からは逸脱しますが、6周年の日までを本記事に於ける言及の対象とさせてください。
というのも、2019年下半期~今日までの『ナナシス』の動向を一言でまとめろと言われたら、個人的には「シナリオの質量に圧倒された期間」と表したい心持ちでいるので(多くの支配人さん達が同様に感じたことでしょう)、EPISODE 5.0までのメインストーリーの動きを総括出来る区切りにしたほうが都合が好いのです。その軌跡を通時的に並べると、【7月5日:4.0の第13話公開 → 10月17日~30日:0.7の前中後編公開 → 翌1月9日~2月13日:5.0の第1~6話公開】となり、中でもオートでの視聴目安時間が1hを超えるお話の実装(4.0の第13話と0.7の後編)には、「これ半分劇場版だろ」と読む前から謎の感動が押し寄せてくるほどでした。笑 全話を合計すると、【4.0が4h55m、0.7が2h16m、5.0が2h35m】の都合9h46mもある大長編になりますからね。4.0の最終話に関しては、データ実装が間に合わずに公開が1日遅れた不手際さえ、期待を高める演出としてプラスに働いていたと言えます。この間にリリースされた新曲も、その殆どがエピソードに根差した楽曲であったので、やはり通時的な言及が最適と考えた次第です。
―
さて、エピソードに纏わる前置きから始めておいてなんですが、リリース順に並べるとなると初手に紹介するのはライブCDになります。それがこの『t7s 4th Anniversary Live -FES!! AND YOUR LIGHT- in Makuhari Messe』(2019)で、一昨年の10月に幕張メッセにて開催された4thライブの模様がCD4枚組の大ボリュームで収められています。上半期分の記事で武道館のライブCDを簡単にレビューした際のスタイルに倣い、本記事でもベストセレクション的に一曲を選んで語るとしましょう。
僕が同盤の中で最も気に入っているのは、DISC 2に収められている4Uの「TREAT OR TREAT?」です。DISC 4でも同曲を聴くことは出来ますが、Day2よりもDay1のテイクのほうが好みだったので敢えて択一にしてみました。「トリトリ」は元々ライブ映えするアッパーチューンでありながら、4th初日のそれは過去最高にはっちゃけたプレイが印象的で、とりわけ2番サビ前からのシークエンスが至上です。"するべきことが/あるでしょ?ほら!ねえ!?"の歌詞以上に感嘆符がマシマシの歌唱(「するべき!ことが!!あるでしょー!!!ほら!ねぇーー!!!!????↑↑↑↑」ぐらいの勢い)、"ちょっと演技好きなくらいだわ"の語尾裏返り、バックコーラスの[ha]の息切れ感とセクシー加減、タイムリーな「ハッピーハロウィン♪」の可愛さと、生ならではの弾けたパフォーマンスの畳み掛けにシビれてしまいました。
ちなみに、僕の中で紹介候補として最後まで競っていたのは、DISC 3に収録されているThe QUEEN of PURPLEによる「PUNCH'D RANKER」で、他ユニットのカバーが披露されるというサプライズには特筆性がありますよね。本記事は音源への言及に絞って書いているので映像作品は軽くふれる程度で済ませますが、QOPの手に成るカバー(楽曲解釈)の素晴らしさに関しては、ライブBD『“I'M THE QUEEN, AND YOU?”』(2020)に詳しいです。
―
![]() | 光 250円 Amazon |
「EPISODE 0.7 -Melt in the Snow-」のエンディングテーマとして配信限定で急遽リリースされた、七咲ニコルの1stシングル曲「光」(2019)。発売日の少し前に訳あってCVおよび歌唱を務める水瀬いのりさんに関連する記事をアップしていたため、曲名だけならリンク先で一足早く出していました。
0.7はセブンスシスターズ解散の真相が明かされる重要な過去編で、「世界の仕組み」に容赦なく曝されながらも、「愛」や「希望」などといった未来志向の概念に帰着する結論を得た、弱さを抱えてなお強く前を向こうとする人々(セブンスの面々だけでなく、ミトの祖母もサダモトさんも初代支配人も含めて)の生き様を、陳腐に振れずに纏め上げた名シナリオだったと絶賛します。ニコが歌う本曲のジャケットが笑顔のミトであること、その楽曲が「光」と題されていること、延いては「Star☆Glitter」(2014)がセブンスのラストシングルに位置付けられていること、歌い出しが"いつも愛はそれと知らずに"であること、それら全てに強い説得力を与えるだけの熱量を持った物語は、なるほど'Melt in the Snow'を冠しているだけはあるなと得心がいきました。
ミト視点で話が進む点についても、公式同人誌『ハジマリノヒノスコシマエ ver 8.12』(2014)の表紙でミトだけがこちらを向いている理由を知っていたので(その詳細は同人誌内ではなく、発行に際して『ファミ通App』上で語られた茂木総監督の言にあります)、プレイヤーに近しい感覚を持った存在としてすんなり受け入れられましたし、「ハジマリノヒノスコシマエ」が「だいたい3年くらい前」と明かされていて、時系列でこの次に来る「始まりの日」がエピソード番号で言えば1.0になるため(ゆえに「スコシマエ」が0.7なのでしょう)、同人誌に描かれているイラストから窺えた予感と、プレイヤーが二代目支配人を襲名する1.0の軽いノリの裏にある重みが、0.7によって全部繋がるという構成力の高さに、ただただ脱帽するばかりです。
話を音楽に戻しまして、これほどの質量を有したお話を締め括るテーマソングとなると、変に凝った楽曲よりはストレートなつくりの楽曲のほうが響くのは当然と思うので、「光」が持つメロディラインの正しさとアレンジの優しさは、楽典上の単純さとは裏腹に複雑な感情の発露を読み手に喚起させる類の、素晴らしいシンプルさであると言えます。この観点でひとつ意外に感じたのは、同じく旋律の素直さこそが最大の魅力と評せる「またあした」(2016)や「ハルカゼ~You were here~」(2017)がそうであったように、この手のワークスは茂木総監督が手ずから作曲する領分だと予想していただけに、クレジットにkzさんの名前を認めた時にはやや驚きました。「セブンス関連のナンバーならkzさんだろ」とセルフツッコミを入れる自分がいる一方で、作中で重要な楽曲且つソロ名義であるならば或いはと思う自分もいたわけです。
最後に水瀬さんの歌声にふれておくとすれば、芯の強さと包み込まれるような愛おしさが両立したその質感が、メロディに宿る美しさを効果的に引き立てて、本曲を一層の名曲の座に押し上げているとベタ褒めします。別作品からの例示で恐縮ですが、今期のTVアニメ『ソマリと森の神様』の主題歌である「ココロソマリ」(2020)も水瀬さんが歌うナンバーの中では高く評価しており、溌溂な歌い方や棘のある歌い方にも確かな魅力がある傍ら、バラードも表現力豊かに熟しているところで、歌手としての才も十全であることを改めて意識させられました。
―
![]() | マイ・グラデイション/SCARLET【通常盤】(CD) 1,320円 Amazon |
お次はエピソードのことを一旦忘れまして、七花少女とCASQUETTE’Sのスプリットシングル『マイ・グラデイション/SCARLET』(2019)のレビューです。後発のユニット同士で比較をすると、Ci+LUSは順当にナンバリングを重ねたシングルをリリースしていましたが、七花とキャスは一枚のディスク上で2ndが発表される形になりました。…と、少し意地悪な書き方をしてみたものの、これまでに両ユニットの楽曲を手掛けてきたMICON STUDIOによるワークスをまとめた作品だと考えれば、安易な抱き合わせでないことは理解出来ます。
七花による「マイ・グラデイション」は、上半期分の記事内でレビューした過去曲「花咲キオトメ」(2019)に対して「文化系の頑張り」と、同じく「スノードロップ」(2019)に対して「文学少女」という形容を持ち出した路線を受け継ぐようなナンバーで、小説じみた言葉繰りと素朴なメロディラインが印象的な、ユニットのイメージを強化して「らしさ」を確立させつつある仕上がりだと感じました。この文脈で注目していただきたいのは「させつつある」の部分で、曲名に「グラデイション」(段階的に変化するもの)が含まれることや、歌詞に"混ざりかけだけど/意外といいね"といった曖昧への肯定が見られるところからも察せる通り、過渡期の自分達を良しとする姿勢は、本曲の世界観に照らしても作中もしくは現実世界に於ける七花の立ち位置(デビューから一年未満である点)を考慮しても、このタイミングだからこそ好く響くメッセージ性だと受け止められます。
一方で、前出のそれらとは対照的な概念を持った"塗りつぶした黒の良さなど/大人になって分かればいい"は、これ単体でも自分が大人であるからこそ心揺さぶられた名フレーズと絶賛しますが、先に4.0と0.7で世の中の暗部を見せられているだけに、どうか少女達を染め得る"黒"は悪意に満ちたものではなく、歌詞中で"本物"とされるところの自然なものであってほしいと、現ナナスタ支配人(プレイヤー)の心理で願うばかりです。
キャスの「SCARLET」も、ユニットのイメージを強化するナンバーといった観点では、実に「らしい」アウトプットになっていると言えます。本曲も過去曲というか過去記事に書いた文章を引き合いに出すなら、「SHOW TIME」(2018)に対する「サウンドはラグジュアリー志向」と「マスカレード・ナイト」(2018)に対する「アレンジの怪しさ」を折衷させた趣があると形容可能で、「淑女の魅力」を演出したいのであれば本曲のタイトルが象徴しているように、差した紅の力で華麗に世を渡っていく強い女性のビジョンも確かに求められるファクターです。"ここで逃げたら/世界はこのままよ"が端的に刺さる一節で、理性と談笑している暇がない場面での思い切りの良さに関しては、経験上女性のほうに分がある気がしますね。
―
![]() | t7s オリジナルサウンドトラック 2.0 -The Things She Left- 3,080円 Amazon |
「EPISODE 4.0 AXiS」の劇伴を完全収録した『t7s オリジナルサウンドトラック 2.0「-The Things She Left-」』(2019)。過去のサントラ『t7s オリジナルサウンドトラック「The Things She Loved」』(2015)および「t7s OST 1.5 -FORGET ME NOT-」(2018)(『THE STRAIGHT LIGHT』のDISC 3)には、アプリ内で聴く頻度の高い汎用的なBGMも多く収録されていましたが、本作は4.0のために書き下ろされた楽曲のみで構成されているので、より専門性の高い一枚となっています。
本作に封入の小冊子には茂木総監督と音楽を手掛けた岡ナオキさんによる対談形式のインタビューが載っており、制作意図や秘話については同書をご覧いただくのが何よりも正確です。そこに書かれている情報が先んじたわけではないと主張はしつつも、僕が同盤で特に好みだった楽曲を収録順に並べてみると、03./04.「紅い宴」(「~享~」/「~楽~」)、13.「ハルカゼ -アイの調べ-」、16.「青空まで歩いてきた」を候補としてリスト出来、これらはインタビュー中で総監督が「キー」ないし「テーマ」という言葉に絡めて語っているトラックでもあるため、懸けられた熱意の大きさを感じ取ったからか、いちリスナーである僕も甚く気に入ったのだと分析します。
03./04.は共にハードな音遣いが耳に残るつくりで、ギターの重厚感とノイジーな電子音の鬩ぎ合いが、アクシズの苛烈さそのもののようです。13.は曲名の通り「ハルカゼ~You were here~」のピアノアレンジで、コニーからハルへの「最後の授業」に一層の説得性を付すものとして、プレイヤーはメタ的に劇伴からもフォローアップを受けられるという、この選曲自体が素晴らしいの一言に尽きます。「ハルカゼ」こそが当該シーンに於ける最適解と導き出されるまでに複数のボツ曲があったという裏話については、冊子内のインタビューで語られている通りです。16.は777☆SISTERSが折れずにここまで歩んで来たからこそ奏でられた希望の旋律で、打ち込みっぽさが残るバンドサウンドの軽快さは翻って心地好く、ストリングスとピアノが紡ぐ切なくも明るい展望のラインは実に前向きで、円陣の中心に満ちていくエネルギーを更に増幅させる効果がある名曲だと評します。
上半期分の記事をアップした段階ではまだ4.0が完結していなかったため、同エピソードのエンディングテーマである「NATSUKAGE -夏陰-」(2019)のレビュー文では、「『ナナシス』史上類を見ないほどの重苦しさに満ちた同エピソードが、どのような結末を迎えるのかを予言めいて提示する、陽炎の如き儚さを携えたナンバー」と、示唆的な書き方に終始していました。天神ネロの襲来で風雲急を告げた4.0は、程無くして公開された最終話によって、六咲コニーの失踪という結果を残して閉じられます。再びセルフ引用をすれば、ED曲が「不穏なグリッチによる強制的な幕切れ」を起こすというのも、この結末なら然もありなんのアレンジです。
この展開を受けて脳裏に過ったのは自分でも意外なところで、ドラマトラック「セブンスシスターズ2031 ~夏のコミジェネ・伝説のゲリラライブの巻~」(2016)の中で、不可解な行動を取っていた迷子に対するニコとルイの考察;「自分から迷子になったのかもね。」「なんとなく、そういう時あるじゃん?女の子ってさ。」「だけど戻りたくなって、でも、戻るのも怖くなって…ってことか。」でした。4.0の第12話でコニーが吐露していた「そして私も……本当に……ただの女の子だったんだ。」に繋がりそうな点と、公開順的には後の0.7でマナが過去のニコの行動様式を「ボイコット、という名の行方不明もあったわよ。」と振り返っているのも材料と言える、性分として放浪癖を持っている点が、同時に表れた台詞だと感じたから思い出したのでしょう。
当人なりの美学は尊重したいと擁護も可能でありながら、大切な人が何も語らずに「失踪」という結果のみで意思表示をしてきた場合、残されたほうはその意味の解釈に長く苛まれるということを、嫌でも意識させられる幕切れに胸が痛くなったのもまた事実です。この辺りの機微(残された側の描写)に関しては後の5.0で期待通りに描かれており、完結編にあたる6.0で真意の部分がおそらく明かされると思うので、「EPISODEシリーズ」(この言い回し自体も気になる)をどう着地させるのかは今後の楽しみとしておきます。
―
ここから2019年の振り返りを超えて、2020年の作品に言及するセクションです。と言ってもCDのリリースは現時点で一枚だけで、それがこれから紹介するSEASON OF LOVEの1stシングル『Fall in Love』(2020)です。表題曲は「EPISODE 5.0 -Fall in Love-」の主題歌ですが、同エピソードでプレイヤーの視点はまさかの9年後にジャンプしたため、本作は2043年にナナスタから誕生した新生ユニットの楽曲という、異色の文脈から放たれたディスクと相成っています。
5.0のトレイラーを初見した際の衝撃は4.0のそれ以上で、ポップな書体の'9 years later'と共に矢継ぎ早にコドモ連合(cf. EVENT.047)の成長した姿を見せられて理解が追い付かないうちに、「芹沢モモカ (24)」「2代目敏腕ジャーマネ」でトドメを刺されました。過去記事でも明かしていますが、誰か一人を選べと言われたら僕はモモカ推しを宣言するようにしているので(アプリ内の称号もモモカ担の「超一流支配人」と7th LIVE JACKイベでいちばん頑張った時の「1X位」にしています)、彼女がナナスタの2代目マネージャーに就任した未来に、思わず「正妻…!」と口にしかけたことを白状します。笑
5.0の意味合いについては、先に述べた「残された側の描写」であることに加えて、777☆Sから明暗を共に受け継ぐ立場にある未来のユニット・SOLが'真に'結成されるまでの物語でもあり、中でもメンバーのひとりであるマノンの葛藤には、これまで特に意識していなかったキャラクター(元よりマノン推しの方すみません)の成長と内面が提示されることで俄に魅力的に映るタイプの発展性が感じられたので、プロジェクトが長く続いているからこそ出来た良い掘り下げだったと高く評価したいです。とりわけ感動を覚えたのは第5話のムービーで、KARAKURI 2039の楽曲をバックにルイとマノンのデートが描かれるという演出は、『ナナシス』史上最高にハイセンスな見せ方であるといくら喧伝してもし足りません。仮に去年の自分が未来の自分からこのシーンをネタバレされたとしても、そういう状況に至る合理的な理由付けを全く行えないであろうことは想像に難くなく、誰も予想していなかった場面が提示されたことに賛辞を贈ります。
いい加減音楽レビューに戻りましょう。SOLの「Fall in Love」は、敢えて言いますが777☆Sっぽいナンバーだと感じました。シンジュの存在も理由のひとつではあるけれども、たった4人で12人分と同等のオーラを放っていると解せたのは、【ニコ/コニー → ハル → シラユキ・マノン】延いては【セブンス → 777☆S → SOL】のラインで受け継がれていった精神が、2043年になってもナナスタの中に生き続けているからだと解釈しています。出入りする人間は移り変わろうとも、「場」の役割さえ変質しなければ継承を促す機構としての意義は失われないため、だからこそナナスタを守っていたモモカと、自画自賛になりますが支配人は偉いよなぁと感慨も一入です。
勿論SOLにはSOLならではの魅力がしっかりとあって、「『ナナシス』といえば夏!」のイメージを超えて季節が秋へと進んでいること然り、メンバーの年齢層が10代後半~20代前半で子供とも大人とも断じにくい幅にあること然り、両者を統合して端境期の妙があると形容します。歌詞内容が秋にフォーカスしていることは読めば瞭然ですし、印象的なギターを含めてバンドサウンド全体に付与されている乾いた質感は、まさに秋のスケープが意識されたディレクションだと主張したいです。ベタですが"Fall"の掛詞も素敵で、"輝きの季節に/恋して生きるの/たとえば真実の恋に/いつか落ちちゃっても"は、SOLの世界観を端的に捉えた表現だと言えます。
c/wの「コドーモ・デ・ヒーロ」はコドモ連合名義での楽曲で、「Fall in Love」の後に聴くと宛らアルバム(過去の写真)を見ているかのような気分に浸れます。ロバート・デ・ニーロを捩ったと思しき遊び心のある曲名に反して、本曲はトレイラーで聴いた段階から名曲の予感を覚えており、本記事を「今日の一曲!」のスタイルで書くならメインに据えるつもりでいたくらいには大のお気に入りです。フック("GUWA♪GUWA♪で"~のパート)のチャイルディッシュなラインの微笑ましさ、数々の"イタズラ"("をしてるつもりはまるでなーい"のはともかく)に翻弄されるAメロの裏で多彩なプレイを披露しているギター、つんのめるようなメロディに子供の奔放さが表れていると感じたBメロの技巧性、ポップゆえに気付きにくいですが口遊んでみるとかなりの美メロだとわかるサビ、独特なコード感の間奏を経て影に傾くかと思いきや直ぐに上向きの調子を取り戻すCメロと、何処を切り取ってもツボな要素がたくさんでした。
歌詞の完成度も非常に高く、本曲でもしっかりと"愛"が謳われている点で、SOL(ユニットコンセプトである「愛の季節」)への布石が打たれていると結び付けられます。子供の好き放題の理由を、"だけどそんな未来の話じゃなくて/私たちの愛を知って/たぶんそれはほんの少し/怪獣みたいな気持ち"と説明されて、「うるっときちゃうだろうが…」と涙腺が緩んだ自分は、もう充分に大人だなと実感しました。同じく伏線的な立脚地から大絶賛したいのは2番Aの一節で、"綺麗な夜景見たって/フレンチのフルコースだって/よくわかんないし全然もう響かなーい"と思っていた女の子が、9年後それによって元気付けられるという5.0での展開を、見事と言わなければ嘘だろうと敬嘆です。デートプランの構築や財力に表れた余裕は、29歳のルイがきちんと大人の務めを果たしたことの証左と言えるでしょう。それにしても、ここに来てマノンがこれほど奥深いキャラになるとは完全に予想外でした。5.0の途中まで「やはり魔法少女要素のある娘は曇らせたくなるのがトレンドか」と、くだらないことを考えていた自分を猛省します。笑
―
以上、2019年下半期+6周年の日までの『ナナシス』楽曲振り返りでした。今回は音楽レビューというよりシナリオレビューの向きが強いと自覚はしていながら、当該期間の主要トピックはメインストーリーに大きな進展があったことに尽きると考えているので、半年以上溜めこんでいた思いの丈を発信してすっきりしたかったのです。4.0より前の段階でも、『ナナシス』は他の類似ゲームに比べてキャラがしっかりと生きているし、舞台および時代の設定もかっちりとしていて、文脈や背景を大切にしている作品だとの評価はしていましたが、【4.0 → 0.7 → 5.0】の畳み掛けを経てからは、最高峰を知ってしまったがゆえの嬉しさと怖さ(相対的に他が劣って見える視座)を覚えてしまっています。
元より音楽のクオリティに関しては、『ナナシス』は類似ゲームどころか他の多くの二次元作品を比較対象としても、更に言えば音楽界を相手取っても群を抜いた存在であると神格化していたものの、これからはストーリーについても近い認識を持たなくてはならないかもしれません。おおっぴらにはされていない情報にもヒントがあったということに意識を向けてほしくて、本記事では敢えて入手先が限られていた公式同人誌やドラマCDの内容にも言及してみましたが、最後に残した『OMOIDE IN MY HANDS』(2017)の後記に載っている茂木総監督の言葉に絡めて総括を書くならば、「作品至上主義」の下で「物」を優先してきたからこそ、『ナナシス』は名実相伴った高品質を達成出来ていると、いちファンとしてリアクションしておきます。
…で、満を持して7年目で新作長編アニメ化ですよ。今日まで応援してきて本当に良かったとしみじみ思うのと同時に、本作ならばファンを未だ見ぬ地平へと連れて行ってくれるだろうとの期待を、共に噛み締めつつ記事を終えます。
■ 同じブログテーマの最新記事