動く、動く | More One Night / チト、ユーリ
チト(CV:水瀬いのり)、ユーリ(CV:久保ユリカ)によるシングル『動く、動く』及び『More One Night』のレビュー・感想です。両A面というわけではなく、2作品を同時に扱います。両作とも現在放送中のTVアニメ『少女終末旅行』に関するディスクで、前者にはOP曲が、後者にはED曲及び挿入歌が収録されています。
当初はOPシングルだけ買うつもりだったのですが、EDシングルのc/wに「雨だれの歌」が収録されると知り、同時購入に踏み切りました。それならば特典狙いだということで、アニメイトでスリーブケース(二方背/筒形)をゲット。デザイン等はアニメ公式サイトで確認出来ます。
『少女終末旅行』は今期の中ではかなり好みの作品です。原作は持っていないので、観る前にタイトルだけを聞いた時はもっと暗い作品かと思ったのですが、意外にもほのぼの癒し系の作品で、金曜の夜(最速の場合)にはぴったりという感じですね。
余談:日を跨ぎますが『キノの旅』の2017年版も金曜深夜なので、このフライデーナイトロードムービー枠とでも表現したくなるような流れが楽しみになっています。笑 僕はMXで観ていますが、AT-Xだと本当に連続しているみたい。
ディストピアというか文明崩壊後の世界を扱っている作品には違いないのですが、鬱屈とした雰囲気は感じさせず、主人公sの行動力と楽天性や終末世界ならではの映像美とが相俟って、寧ろ生のエネルギーに満ちていると表せるところが素敵です。
タイトルに偽りなしで、きちんと「旅行」しているのも良いと思います。主人公sが移動を続けているのは実際的には生存のためであって、決して観光や慰安が目的ではないのでしょうけど、それでも行く先々で旅の空を楽しんでいるのが伝わってきますし、何よりカメラを入手してからは「思い出を形に残す」という概念が芽生えているので、これは確かに「旅行」ですよね。
アニメの話はこのくらいにして、ここからレビュー開始です。ボーカルクレジットは同じなので先に書いておきますが、以降で紹介する4曲は全て、チト役の水瀬いのりさんとユーリ役の久保ユリカさんの人気声優2名によって歌われています。
上に埋め込んだ動画ではその4曲を全て試聴することが可能で、OP/ED映像と併せて堪能出来るようになっているので、観ておくと以降のレビュー内容がいくらかわかりやすくなるかと思います。
ということで、まずはOP曲収録シングルの『動く、動く』から。ブログテーマはひとつしか選べないので便宜上「アニソン(格好良い系)」に分類していますが、OP曲もED曲も「格好良くて可愛い曲」だと思うので、「アニソン(可愛い系)」の要素もありでお送りしますね。
TVアニメ「 少女終末旅行 」オープニングテーマ「 動く、動く 」/久保ユリカ

¥1,296
Amazon.co.jp
01. 動く、動く
TVアニメ『少女終末旅行』OP曲。今期の主題歌が一通り出揃った段階で最も好みのものだったので、リリースを心待ちにしていました。何と言ってもダンスの素晴らしさですよ。楽曲のみについて言えば、底抜けにダンサブルなところが非常に僕好みだったということになります。
作詞も作編曲も全て毛蟹さんによるワークスです。細かくてインテリジェンスが感じられる凝ったアレンジや、切なさと嬉しさを自在に行き来するかのようなリバーシブルなメロディの素晴らしさも然ることながら、歌詞;正確にはその表記法が意外だったので、まずはそこからふれていきます。
意外な表記法、それは「日本語で歌っているかと思いきや表記上は英語の個所がある」ことです。例えばタイトルの「動く、動く」は歌詞の中では"we go walk, we go walk"という形でも出てきますし、「軋む」が"kick she mood"、「踊り出せ」が"on dreaming that's said"と、ひねったこだわりが感じられます。
英語っぽさよりは日本語らしさを優先しているように聴こえるので、表記の方が後付け(或いは後の歌唱指示が日本語)なのではないかと推測します。古いですが、SOPHIAの「HARD WORKER」(2002)を思い出しました。英語日本語逆なら、岡崎体育の「Natural Lips」(2017)も同系ですかね。
ここからはいつものように時系列に沿って書きます。イントロ~Aメロ前半は、音の隙間(ミュート)が効果的に使われているのが印象的です。曲調は全然違いますが、ひとつ前にレビューしたアニソンでも同じような点を誉めたばかりなので、要は僕の好みなのでしょうね。笑
ピコピコしたサウンドを軸にして、生じた隙間にはギターを宛がうという編曲には、デジタルとナチュラルが混在した心地好い違和感が宿っていて、少し聴いただけで「好きなタイプだ」と確信出来たほど、名曲の予感に満ちた素晴らしい立ち上がりであると絶賛します。
Aメロ後半でキックがインし、俄にダンサブルに。[ku]で韻を踏んだ歌詞がポップなメロディにのせて歌われているので、ラップのようなフロウの良さを感じます。特に"とりとめないTalk どこまでも続く/さよならさ孤独"の部分は、作品に寄り添った言葉の温かさと旋律の流れの美しさが、相乗効果によって一層心に響くようになっていると思いました。涙腺にきたとも言う。
続くBメロではそんな切ない側面の方が前に出てきます。センチメンタルなピアノの音に引きずられて落ちていくような感覚になりますが、不安に感じるのは僅かな間だけで、歌詞の"難解"→"何回"の言葉遊びにあわせるように、アレンジは一転してサビへと向けた盛り上がりの展開を見せるので、作品が持つ未来志向な趣に勇気付けられた気になりますね。
そしてサビ。繰り返し書きますが「底抜けにダンサブル」これに尽きます。思わず身体が動いてしまうグルーヴィーなバックトラック、迫る切なさを振り切って喜びに触れようとしているような跳ねたメロディ、逡巡の果てに辿り着くタイプのポジティブさがあるシンプルな歌詞、素直で子供らしいキュートな2人の歌声、その全てが「踊れ」と訴えかけてきます。
細かいツボを挙げると、"今日も明日も昨日も変わらない"の"明日も"の[ta]の部分の旋律が耳に残る沈み方をしているので好きです。あとはベタな変化の付け方ですが、2回目の"ならば1・2・3で"の"3で"のところのメロの変え方も王道で良いと思いました。
"きっとそれが A A A A Answerさ"と軽やかに結ばれ、再びイントロと同じ静かな編曲に戻るというのも、動静のメリハリが鮮やかで聴き惚れてしまいますね。
2番Aのバックアレンジは1番より更に凝っていて好みでした。少しダーティーなシンセベース(ケッテンクラートのイメージ?)が加わることで若干のEDMっぽさ或いはインダストリアル感が醸されていたり、無音部という意味ではなくギターのテクとしてのミュート(と言ってもおそらく打ち込みですが)による疾走感が気持ち良かったり、それを素早く左右にパンさせているのが技巧的であったりと、更に増した複雑性にインテリジェンスを感じずにはいられません。
もう一つ2番Aで個人的に言及したいのは、"動く、動く"のところのユーリの歌声(1回目の方)が妙にセクシーなところです。笑 声優としての嗜好も入ってきますが、どちらかと言えば水瀬さんの幅広い声の方が普段は好みではあるものの、久保さんの声も改めて特徴的な可愛さがあるなと思いました。
最後に特筆したいのはアウトロです。サビの項では詳しく書かなかったのですが、「グルーヴィーなバックトラック」という形容を引き出していたのは、サビのバックで奏でられているピアノのリズミカルさのおかげだと分析していました。感覚的な表現をするなら、『自在に闊歩(「ゆったり歩く」方の意)しているかのようなピアノ』のことです。
ラスサビでも当然このリズミカルなピアノは堪能出来るのですが、"(1・2・3で動き出せ)"のコーラスと共に突き進むアウトロでは、一層ハッピー感の増したピアノを聴くことが出来る(=コーラスのみなのでバックに集中出来る)ため、ラスサビの頭からずっとピアノだけを耳で追っていると、多幸感が増幅して脳内にセロトニンが溢れ出しているような気になってきます。
あとは地味にビートがダンスミュージックしているのが格好良いです。擬音表現ですみませんが、4:12~の「ズン・ツ・タ、ズンズン・ツ・タ」×2からの、4:20~のクラップ「パッ・パッ・パッパッ・パ」×2に移行するところが凄く好き。
02. Endless Journey
c/wは作詞が坂井竜二さん、作編曲がTomgggさんによるナンバーで、クレジットからも楽曲制作にかける本気度が窺えますね。
坂井さんの作詞に関しては、当ブログ上で言及している範囲だと、『くまみこ』ED曲/『ガヴリールドロップアウト』ED曲/『フレームアームズガール』OP曲と、意外とあったので驚きました。笑 紹介していないものだと『魔弾の王と戦姫』のOP曲も好きです。このラインナップのバラバラさからも、幅広い作詞能力を備えた方だとわかります。
歌詞の内容は、チトがユーリを或いはユーリがチトを描写するといった相棒愛にあふれたものになっています。だとすると、サビに据えられた"ケッテンクラート"は言わば互いの「第二の相棒」ということになりますかね。
作編曲者のTomgggさんについては、つい先月にも中島愛さんの楽曲のレビューにてお名前を出したばかりですが、この曲でも彼らしい編曲のセンスが光っているなと思いました。
上のリンク先の記事中でも書いた「反響が綺麗」系統の音、それがこの曲にも認められるので、これは「流行りの音」がどうこうと言うよりは、Tomgggさんが好きなサウンドなのかなという印象に変化。
この辺りの詳細はリンク先(とそのまたリンク先)を参照していただけると助かるのですが、要するに一音一音に対するこだわりが感じられるところに好感が持てるということを言いたいのです。流石マスター出身といったところでしょうか。
03.~04.は、01.~02.の「(instrumental)」です。
総評は最後にまとめて行うので、続いてED曲収録シングル『More One Night』をレビューします。冒頭ではc/w目当ての旨を書いてしまいましたが、表題曲も高く評価しているので誤解なきようお願いしますね。笑
ここで試聴動画に再び戻って欲しいのですが、漫画の原作者であるつくみずさんの頑張りが凄いED映像も必見です。どのくらいの仕事量が反映されたクレジットなのかはわかりませんが、「エンディングアニメーション」に単独でお名前が載っているぐらいなので、ソロワークなのではないかと思います。
TVアニメ「 少女終末旅行 」エンディングテーマ「 More One Night 」/久保ユリカ

¥1,296
Amazon.co.jp
01. More One Night
TVアニメ『少女終末旅行』ED曲。タイトルは歌詞の"もう終わんない"に掛かっているので、「動く、動く」の項で書いた歌詞の遊び心と同じタイプの仕掛けが施されていると言えますね。
作曲のみヒゲドライバーさんと共作ですが、作詞・作編曲の全てにemon(Tes.)さんがクレジットされているナンバーです。個人的には両者共に『Tokyo 7th シスターズ』関連の楽曲にてクリエイターとしての能力の高さは把握していたので、安心して聴くことが出来ました。
クイズ番組のジングルっぽい(回答直前に鳴りそうなやつ)イントロで幕開け。"(終わるまでは終わらないよ)"というトートロジーじみているけれど真理をついている台詞が印象的です。「動く、動く」の"「知りたい」を知るから"という歌詞もそうですが、フックとなるような言い回しが巧いですよね。ユーリっぽさがあるというか。
続く"Po Pa Po Pa Po Pa Pan"のリピートで、早くもダンスチューンだとわかるワクワク感のある始まり方は流石です。というか最初はタイトルを「One More Time」に空目していて、「おっ、ダフトパンクか?」と思って、踊れるトラックであることにやけに納得していました。笑
Aメロはメインメロディがなかなか美しいと思う。ポパポパパートと続くBのノリノリパートに挟まれているので、美メロっぷりが際立っているのかもしれない。加えてこれは曲全体にも言えることですが、鍵盤によるグルーヴがとにかく素敵だということもここでよくわかりますね。
歌詞通り"ノリノリ"のBメロは、ED映像の可愛さも相俟って非常に癒されます。歌詞が"ましょう"(~しましょう)の連続なので、少し子供番組の音楽っぽさがあるとも思いました。もしくはエクササイズに適した曲?バックのピアノのコードに合わせて身体を動かしたくなる感じは、ダンスはダンスでもシンプルな反復がメインであるような気がしたので、ダンスエクササイズかなぁと。
サビはポップ&キャッチーでアニソンとしては申し分ないです。しかしこうして音源で聴くと、「あれ?サビってこんなに短かったっけ?」という疑問が浮かんできました。…が、それはTVサイズではラスサビを先に持ってくるアレンジになっていたからですね。
ということでこのサビメロは、後半(大サビとしてもいいですが)の"もう終わんない"のリピートパートがくっつくことによって完成するという感じがします。この焦らしからの畳み掛けはまさにダンスミュージックだと言わんばかり。
他に特筆すべきは、まずは合いの手の可愛さについてです。全体的にキュートなのでどれに言及しようか迷いますが、冒頭の"(foo)"と"(Yeah)"のユルさ、Bメロの"(イェイ イェイ)"のガールズ感(映像込み)、サビの"(グルグル)"の子供っぽさあたりは癖になります。
次のこれも合いの手が絡む部分ですが、2番後の"終末旅行がはじまるぞ"連呼パートは、3回目の"(ん~まだまだ!)"の入り方が独特なおかげで、音頭のような空気感が出始めているのがツボ。笑
02. 雨だれの歌
c/wはTVアニメ『少女終末旅行』5話の挿入歌です。もう少し情報を加えると、サブタイトル「雨音」のエピソードで流れた特殊ED曲ですね。冒頭でも書いた通り、EDシングルはどちらかと言えばこの曲が目当てで購入しました。作詞・作編曲全てbakerさんによるトラックです。
エピソードの良さも込みの評価なので少し補正が入っているのですが、このお話はサブタイが「音楽」でもよかったんじゃないかと思えるほど「音」にフォーカスされていたので、音楽好きとしては気に入ること必至だったのです。「三要素を満たしていなければ音楽ではない」などと野暮なことは言いません。笑
アニメでの使用(雨音が缶にあたるSEからED曲への自然な移行)を再現したイントロで、心地好い雨音を暫し堪能したのちにコーラス(「るるるー」)が始まります。
そんな二人の癒しのコーラスをバックにして、"今世界が動き出したあらゆる音楽と共に"と歌われる序盤。ここは作品の終末設定のことを思うと胸が締め付けられます。「そうか、二人は音楽を聴いたことがないのか」という単純な寂しさと、「書物や絵画と違って音楽は残りにくいよな」という現実でもあてはまるもどかしさ。こうして二人で歌っているのが奇跡のように思える。
曲の構成は【A→B→サビ→A】でワンセットというタイプ。悪い意味で言うわけではないのですが、どこをとっても教科書的で綺麗なメロディだと思います。しかしきちんとCメロもありますし、雨音をベースとたバックトラックの複雑さのおかげもあって、単純な曲だという感じはしません。
歌詞には「繰り返し」や「循環」に言及した部分が多いのですが、それに倣ってこの曲のみを何度もリピート再生して聴いてみたところ、瞑想状態になるというか眠くなるというか…水の音と女性のハーモニーのシナジーは凄いと思わずにはいられませんでした。疑似科学の向きが強いかと思われますが、α波が出ているという感じです。あくまでも表現上の語彙使用ということでご容赦を。
03.~04.は、01.~02.の「(instrumental)」です。
以上、2作品全4曲(インスト除く)の紹介でした。全曲ハイクオリティ且つ僕の嗜好ともマッチしていたので大満足です。
しかし何と言ってもやはり「動く、動く」の名曲っぷりを強く推したい。歌詞、メロディ、アレンジの全てが「これぞダンスミュージック」を主張していて、そのシンプルなメッセージ性とトラックの作り込みの深さとのギャップが、互いをより高い次元に昇華させていると思いました。だからこそ、ここまで中毒性の高いトラックになっているのだと確信します。
「More One Night」もダンスミュージックの要素が強いのでなかなか好みでした。こちらは「あまり小難しいことは考えずとにかく踊ろうぜ!」の向きがあるので、終末旅行で塞ぎ込まないためのハウツートラックだとまとめます。笑
c/wの2曲は両曲とも作中のシーンを鮮やかに切り取っていて、「少女」「終末」「旅行」の各ファクターが絶妙なバランスで配合されているなと思いました。原作を読みながら聴きたいトラックという感じですかね。
当初はOPシングルだけ買うつもりだったのですが、EDシングルのc/wに「雨だれの歌」が収録されると知り、同時購入に踏み切りました。それならば特典狙いだということで、アニメイトでスリーブケース(二方背/筒形)をゲット。デザイン等はアニメ公式サイトで確認出来ます。
『少女終末旅行』は今期の中ではかなり好みの作品です。原作は持っていないので、観る前にタイトルだけを聞いた時はもっと暗い作品かと思ったのですが、意外にもほのぼの癒し系の作品で、金曜の夜(最速の場合)にはぴったりという感じですね。
余談:日を跨ぎますが『キノの旅』の2017年版も金曜深夜なので、このフライデーナイトロードムービー枠とでも表現したくなるような流れが楽しみになっています。笑 僕はMXで観ていますが、AT-Xだと本当に連続しているみたい。
ディストピアというか文明崩壊後の世界を扱っている作品には違いないのですが、鬱屈とした雰囲気は感じさせず、主人公sの行動力と楽天性や終末世界ならではの映像美とが相俟って、寧ろ生のエネルギーに満ちていると表せるところが素敵です。
タイトルに偽りなしで、きちんと「旅行」しているのも良いと思います。主人公sが移動を続けているのは実際的には生存のためであって、決して観光や慰安が目的ではないのでしょうけど、それでも行く先々で旅の空を楽しんでいるのが伝わってきますし、何よりカメラを入手してからは「思い出を形に残す」という概念が芽生えているので、これは確かに「旅行」ですよね。
アニメの話はこのくらいにして、ここからレビュー開始です。ボーカルクレジットは同じなので先に書いておきますが、以降で紹介する4曲は全て、チト役の水瀬いのりさんとユーリ役の久保ユリカさんの人気声優2名によって歌われています。
上に埋め込んだ動画ではその4曲を全て試聴することが可能で、OP/ED映像と併せて堪能出来るようになっているので、観ておくと以降のレビュー内容がいくらかわかりやすくなるかと思います。
ということで、まずはOP曲収録シングルの『動く、動く』から。ブログテーマはひとつしか選べないので便宜上「アニソン(格好良い系)」に分類していますが、OP曲もED曲も「格好良くて可愛い曲」だと思うので、「アニソン(可愛い系)」の要素もありでお送りしますね。
TVアニメ「 少女終末旅行 」オープニングテーマ「 動く、動く 」/久保ユリカ

¥1,296
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01. 動く、動く
TVアニメ『少女終末旅行』OP曲。今期の主題歌が一通り出揃った段階で最も好みのものだったので、リリースを心待ちにしていました。何と言ってもダンスの素晴らしさですよ。楽曲のみについて言えば、底抜けにダンサブルなところが非常に僕好みだったということになります。
作詞も作編曲も全て毛蟹さんによるワークスです。細かくてインテリジェンスが感じられる凝ったアレンジや、切なさと嬉しさを自在に行き来するかのようなリバーシブルなメロディの素晴らしさも然ることながら、歌詞;正確にはその表記法が意外だったので、まずはそこからふれていきます。
意外な表記法、それは「日本語で歌っているかと思いきや表記上は英語の個所がある」ことです。例えばタイトルの「動く、動く」は歌詞の中では"we go walk, we go walk"という形でも出てきますし、「軋む」が"kick she mood"、「踊り出せ」が"on dreaming that's said"と、ひねったこだわりが感じられます。
英語っぽさよりは日本語らしさを優先しているように聴こえるので、表記の方が後付け(或いは後の歌唱指示が日本語)なのではないかと推測します。古いですが、SOPHIAの「HARD WORKER」(2002)を思い出しました。英語日本語逆なら、岡崎体育の「Natural Lips」(2017)も同系ですかね。
ここからはいつものように時系列に沿って書きます。イントロ~Aメロ前半は、音の隙間(ミュート)が効果的に使われているのが印象的です。曲調は全然違いますが、ひとつ前にレビューしたアニソンでも同じような点を誉めたばかりなので、要は僕の好みなのでしょうね。笑
ピコピコしたサウンドを軸にして、生じた隙間にはギターを宛がうという編曲には、デジタルとナチュラルが混在した心地好い違和感が宿っていて、少し聴いただけで「好きなタイプだ」と確信出来たほど、名曲の予感に満ちた素晴らしい立ち上がりであると絶賛します。
Aメロ後半でキックがインし、俄にダンサブルに。[ku]で韻を踏んだ歌詞がポップなメロディにのせて歌われているので、ラップのようなフロウの良さを感じます。特に"とりとめないTalk どこまでも続く/さよならさ孤独"の部分は、作品に寄り添った言葉の温かさと旋律の流れの美しさが、相乗効果によって一層心に響くようになっていると思いました。涙腺にきたとも言う。
続くBメロではそんな切ない側面の方が前に出てきます。センチメンタルなピアノの音に引きずられて落ちていくような感覚になりますが、不安に感じるのは僅かな間だけで、歌詞の"難解"→"何回"の言葉遊びにあわせるように、アレンジは一転してサビへと向けた盛り上がりの展開を見せるので、作品が持つ未来志向な趣に勇気付けられた気になりますね。
そしてサビ。繰り返し書きますが「底抜けにダンサブル」これに尽きます。思わず身体が動いてしまうグルーヴィーなバックトラック、迫る切なさを振り切って喜びに触れようとしているような跳ねたメロディ、逡巡の果てに辿り着くタイプのポジティブさがあるシンプルな歌詞、素直で子供らしいキュートな2人の歌声、その全てが「踊れ」と訴えかけてきます。
細かいツボを挙げると、"今日も明日も昨日も変わらない"の"明日も"の[ta]の部分の旋律が耳に残る沈み方をしているので好きです。あとはベタな変化の付け方ですが、2回目の"ならば1・2・3で"の"3で"のところのメロの変え方も王道で良いと思いました。
"きっとそれが A A A A Answerさ"と軽やかに結ばれ、再びイントロと同じ静かな編曲に戻るというのも、動静のメリハリが鮮やかで聴き惚れてしまいますね。
2番Aのバックアレンジは1番より更に凝っていて好みでした。少しダーティーなシンセベース(ケッテンクラートのイメージ?)が加わることで若干のEDMっぽさ或いはインダストリアル感が醸されていたり、無音部という意味ではなくギターのテクとしてのミュート(と言ってもおそらく打ち込みですが)による疾走感が気持ち良かったり、それを素早く左右にパンさせているのが技巧的であったりと、更に増した複雑性にインテリジェンスを感じずにはいられません。
もう一つ2番Aで個人的に言及したいのは、"動く、動く"のところのユーリの歌声(1回目の方)が妙にセクシーなところです。笑 声優としての嗜好も入ってきますが、どちらかと言えば水瀬さんの幅広い声の方が普段は好みではあるものの、久保さんの声も改めて特徴的な可愛さがあるなと思いました。
最後に特筆したいのはアウトロです。サビの項では詳しく書かなかったのですが、「グルーヴィーなバックトラック」という形容を引き出していたのは、サビのバックで奏でられているピアノのリズミカルさのおかげだと分析していました。感覚的な表現をするなら、『自在に闊歩(「ゆったり歩く」方の意)しているかのようなピアノ』のことです。
ラスサビでも当然このリズミカルなピアノは堪能出来るのですが、"(1・2・3で動き出せ)"のコーラスと共に突き進むアウトロでは、一層ハッピー感の増したピアノを聴くことが出来る(=コーラスのみなのでバックに集中出来る)ため、ラスサビの頭からずっとピアノだけを耳で追っていると、多幸感が増幅して脳内にセロトニンが溢れ出しているような気になってきます。
あとは地味にビートがダンスミュージックしているのが格好良いです。擬音表現ですみませんが、4:12~の「ズン・ツ・タ、ズンズン・ツ・タ」×2からの、4:20~のクラップ「パッ・パッ・パッパッ・パ」×2に移行するところが凄く好き。
02. Endless Journey
c/wは作詞が坂井竜二さん、作編曲がTomgggさんによるナンバーで、クレジットからも楽曲制作にかける本気度が窺えますね。
坂井さんの作詞に関しては、当ブログ上で言及している範囲だと、『くまみこ』ED曲/『ガヴリールドロップアウト』ED曲/『フレームアームズガール』OP曲と、意外とあったので驚きました。笑 紹介していないものだと『魔弾の王と戦姫』のOP曲も好きです。このラインナップのバラバラさからも、幅広い作詞能力を備えた方だとわかります。
歌詞の内容は、チトがユーリを或いはユーリがチトを描写するといった相棒愛にあふれたものになっています。だとすると、サビに据えられた"ケッテンクラート"は言わば互いの「第二の相棒」ということになりますかね。
作編曲者のTomgggさんについては、つい先月にも中島愛さんの楽曲のレビューにてお名前を出したばかりですが、この曲でも彼らしい編曲のセンスが光っているなと思いました。
上のリンク先の記事中でも書いた「反響が綺麗」系統の音、それがこの曲にも認められるので、これは「流行りの音」がどうこうと言うよりは、Tomgggさんが好きなサウンドなのかなという印象に変化。
この辺りの詳細はリンク先(とそのまたリンク先)を参照していただけると助かるのですが、要するに一音一音に対するこだわりが感じられるところに好感が持てるということを言いたいのです。流石マスター出身といったところでしょうか。
03.~04.は、01.~02.の「(instrumental)」です。
総評は最後にまとめて行うので、続いてED曲収録シングル『More One Night』をレビューします。冒頭ではc/w目当ての旨を書いてしまいましたが、表題曲も高く評価しているので誤解なきようお願いしますね。笑
ここで試聴動画に再び戻って欲しいのですが、漫画の原作者であるつくみずさんの頑張りが凄いED映像も必見です。どのくらいの仕事量が反映されたクレジットなのかはわかりませんが、「エンディングアニメーション」に単独でお名前が載っているぐらいなので、ソロワークなのではないかと思います。
TVアニメ「 少女終末旅行 」エンディングテーマ「 More One Night 」/久保ユリカ

¥1,296
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01. More One Night
TVアニメ『少女終末旅行』ED曲。タイトルは歌詞の"もう終わんない"に掛かっているので、「動く、動く」の項で書いた歌詞の遊び心と同じタイプの仕掛けが施されていると言えますね。
作曲のみヒゲドライバーさんと共作ですが、作詞・作編曲の全てにemon(Tes.)さんがクレジットされているナンバーです。個人的には両者共に『Tokyo 7th シスターズ』関連の楽曲にてクリエイターとしての能力の高さは把握していたので、安心して聴くことが出来ました。
クイズ番組のジングルっぽい(回答直前に鳴りそうなやつ)イントロで幕開け。"(終わるまでは終わらないよ)"というトートロジーじみているけれど真理をついている台詞が印象的です。「動く、動く」の"「知りたい」を知るから"という歌詞もそうですが、フックとなるような言い回しが巧いですよね。ユーリっぽさがあるというか。
続く"Po Pa Po Pa Po Pa Pan"のリピートで、早くもダンスチューンだとわかるワクワク感のある始まり方は流石です。というか最初はタイトルを「One More Time」に空目していて、「おっ、ダフトパンクか?」と思って、踊れるトラックであることにやけに納得していました。笑
Aメロはメインメロディがなかなか美しいと思う。ポパポパパートと続くBのノリノリパートに挟まれているので、美メロっぷりが際立っているのかもしれない。加えてこれは曲全体にも言えることですが、鍵盤によるグルーヴがとにかく素敵だということもここでよくわかりますね。
歌詞通り"ノリノリ"のBメロは、ED映像の可愛さも相俟って非常に癒されます。歌詞が"ましょう"(~しましょう)の連続なので、少し子供番組の音楽っぽさがあるとも思いました。もしくはエクササイズに適した曲?バックのピアノのコードに合わせて身体を動かしたくなる感じは、ダンスはダンスでもシンプルな反復がメインであるような気がしたので、ダンスエクササイズかなぁと。
サビはポップ&キャッチーでアニソンとしては申し分ないです。しかしこうして音源で聴くと、「あれ?サビってこんなに短かったっけ?」という疑問が浮かんできました。…が、それはTVサイズではラスサビを先に持ってくるアレンジになっていたからですね。
ということでこのサビメロは、後半(大サビとしてもいいですが)の"もう終わんない"のリピートパートがくっつくことによって完成するという感じがします。この焦らしからの畳み掛けはまさにダンスミュージックだと言わんばかり。
他に特筆すべきは、まずは合いの手の可愛さについてです。全体的にキュートなのでどれに言及しようか迷いますが、冒頭の"(foo)"と"(Yeah)"のユルさ、Bメロの"(イェイ イェイ)"のガールズ感(映像込み)、サビの"(グルグル)"の子供っぽさあたりは癖になります。
次のこれも合いの手が絡む部分ですが、2番後の"終末旅行がはじまるぞ"連呼パートは、3回目の"(ん~まだまだ!)"の入り方が独特なおかげで、音頭のような空気感が出始めているのがツボ。笑
02. 雨だれの歌
c/wはTVアニメ『少女終末旅行』5話の挿入歌です。もう少し情報を加えると、サブタイトル「雨音」のエピソードで流れた特殊ED曲ですね。冒頭でも書いた通り、EDシングルはどちらかと言えばこの曲が目当てで購入しました。作詞・作編曲全てbakerさんによるトラックです。
エピソードの良さも込みの評価なので少し補正が入っているのですが、このお話はサブタイが「音楽」でもよかったんじゃないかと思えるほど「音」にフォーカスされていたので、音楽好きとしては気に入ること必至だったのです。「三要素を満たしていなければ音楽ではない」などと野暮なことは言いません。笑
アニメでの使用(雨音が缶にあたるSEからED曲への自然な移行)を再現したイントロで、心地好い雨音を暫し堪能したのちにコーラス(「るるるー」)が始まります。
そんな二人の癒しのコーラスをバックにして、"今世界が動き出したあらゆる音楽と共に"と歌われる序盤。ここは作品の終末設定のことを思うと胸が締め付けられます。「そうか、二人は音楽を聴いたことがないのか」という単純な寂しさと、「書物や絵画と違って音楽は残りにくいよな」という現実でもあてはまるもどかしさ。こうして二人で歌っているのが奇跡のように思える。
曲の構成は【A→B→サビ→A】でワンセットというタイプ。悪い意味で言うわけではないのですが、どこをとっても教科書的で綺麗なメロディだと思います。しかしきちんとCメロもありますし、雨音をベースとたバックトラックの複雑さのおかげもあって、単純な曲だという感じはしません。
歌詞には「繰り返し」や「循環」に言及した部分が多いのですが、それに倣ってこの曲のみを何度もリピート再生して聴いてみたところ、瞑想状態になるというか眠くなるというか…水の音と女性のハーモニーのシナジーは凄いと思わずにはいられませんでした。疑似科学の向きが強いかと思われますが、α波が出ているという感じです。あくまでも表現上の語彙使用ということでご容赦を。
03.~04.は、01.~02.の「(instrumental)」です。
以上、2作品全4曲(インスト除く)の紹介でした。全曲ハイクオリティ且つ僕の嗜好ともマッチしていたので大満足です。
しかし何と言ってもやはり「動く、動く」の名曲っぷりを強く推したい。歌詞、メロディ、アレンジの全てが「これぞダンスミュージック」を主張していて、そのシンプルなメッセージ性とトラックの作り込みの深さとのギャップが、互いをより高い次元に昇華させていると思いました。だからこそ、ここまで中毒性の高いトラックになっているのだと確信します。
「More One Night」もダンスミュージックの要素が強いのでなかなか好みでした。こちらは「あまり小難しいことは考えずとにかく踊ろうぜ!」の向きがあるので、終末旅行で塞ぎ込まないためのハウツートラックだとまとめます。笑
c/wの2曲は両曲とも作中のシーンを鮮やかに切り取っていて、「少女」「終末」「旅行」の各ファクターが絶妙なバランスで配合されているなと思いました。原作を読みながら聴きたいトラックという感じですかね。