サタデー・ナイト・クエスチョン / 中島愛 | A Flood of Music

サタデー・ナイト・クエスチョン / 中島愛

 中島愛の11thシングル『サタデー・ナイト・クエスチョン』のレビュー・感想です。歌手活動再開後としては第2弾にあたる作品で、表題曲は現在放送中のTVアニメ『ネト充のススメ』のOP曲となっています。

サタデー・ナイト・クエスチョン/FlyingDog

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 前置きで書きたいことが多く何から始めるか迷うのですが、まずはまめぐが音楽活動を再開してくれたことが喜ばしいということを記しておきます。

 あまり「ポスト」とか「第二の」という形容は好きではありませんし、現役で活躍している方と比較するのも如何かとは思いますが、まめぐは坂本真綾さんのような存在になっていく声優兼歌手という認識だったので、歌手活動無期限休止を知った時はとても残念でした。こういう時の「無期限」は方便であることも多いので、休止が解かれたこと自体が僥倖です。


 次に楽曲制作陣について。ブログテーマを「フジファブリック」にしているのは間違いではなくて、表題曲のクレジットが【作詞:加藤慎一 作曲:山内総一郎 編曲:フジファブリック】なので、これを優先させて「アニソン」扱いにはしませんでした。

 当ブログのプロフィール欄には一応その旨が書いてあるのですが、僕は第6期以降のフジの作品には手を出していません。従って10年代のフジについて言及するのは憚られるのですが、それでもまめぐ×フジというコラボにはわくわくせざるを得ませんでした。

 手を出していないといってもそれは気分的な問題によるところが大きく、聴いてみて嫌だったというわけではありませんしね。というか実は結構前から「第6期もいいじゃん!」とは思っていたのです。CM等で新しい楽曲を耳にする度、「志村さんを欠いてもフジはフジだな」という認識にシフトしていったのは事実。

 本作はフジの新譜というわけではありませんが、僕が第6期のサウンドにしっかりと向き合った作品としては初になるので、そのことも含めて詳しくは以降の楽曲レビューの中で書いていくことします。


 最後は『ネト充のススメ』という作品について。原作は未読で、アニメは今のところ切っていない程度には楽しんでいます。森子のCVが能登さんだということが僕の視聴動機の半分ぐらいを占めている気はしますが、(フィクションに於いては)森子みたいなキャラは嫌いじゃないので今後も見守りたいです。笑

 所謂オンゲらしいオンゲ(MMORPG?)をプレイしたことがないので、その界隈の用語も詳しくはわからないというレベルなのですが、アメーバピグ上での出会いや思い出は多くありますし、傷心から海外の某オンゲに一時期入り浸っていたこともあるので、作中で描かれていることや登場人物の行動には共感出来るところもあります。

 日本人同士ならではの距離感もいいですが、外国人の中で揉まれるのも悪くはありませんよ。上で出した某オンゲ(日本のプレイヤー人口が少ないので念のため伏せています)では日本鯖に入らず海外鯖をメインにしていたので、ロシアンガールとなぜか意気投合したり、国ごとに異なる煽りスタイルに国民性を見たりと楽しかったです。笑


 三方向から前置きを書いたため長くなりました。ここから漸くレビュー開始です。表題曲とc/wの2曲を見ていきます。


01. サタデー・ナイト・クエスチョン



 TVアニメ『ネト充のススメ』OP曲。イントロを聴いた瞬間、購入がほぼ決定していたと言ってもいいくらいそれ自体がツボでした。普段アニメ主題歌の事前情報等は何も調べないので、歌が始まったらすぐにまめぐだということはわかったのですが、まさかフジが楽曲提供しているとは思わず、「何だこの異様に格好良いイントロ!?」と驚いたのを覚えています。

 ゆえにOPクレジットでフジの名前を認めた途端、その質の高さが一気に腑に落ちたわけですが、そうやって瞬時に納得出来るほどのフジらしさを備えた実力派イントロですよね。キーボードとギターが絡み合って、焦燥感にも似たギラつきを宿すダンサブルなリフが展開されるというこのスタイルは、「まさに」と思います。


 そんなエッジィな疾走感を纏ったままAメロへ突入。ヒリヒリとしたメロディが際立っていて、ジャケ写のイメージのようなシティー・ガール感があると表現したい。勤め人だった頃の森子の緊張感とでも言いましょうか。"時に林を森に隠して"という遊び心のある歌詞にも含蓄があります。

 そこから一転して変化のBメロは、"有りもしない仮面は外し"というフレーズが重みを伴って響いてきます。続く歌詞を考慮するとネット=仮面とそのまま解釈してもいいのでしょうが、本来の自分らしさという意味ではリアル=仮面ともとれますよね。この曖昧さがあるからこその"有りもしない"なのかな。

 表題の"saturday night"(2番では"クエスチョン")が出てくるのもここですが、流麗な旋律がリズミカルなフックによってポップにまとまるというのもフジが得意とするところだなと思います。作曲は山内さんですが、きちんと志村イズムを継承していると感じられるのがグッときますね。


 サビはBメロの空気を受け継いで、切なくメロディアスです。まめぐの透き通る声質にもよく馴染んでいて、ここまで来ると彼女の楽曲だなと素直に思えます。

 揺らいでいるのがわかる歌詞も素敵です。作中ではネット世界と現実世界での話が交互に描かれており、徐々に現実の人間模様にも変化が見えそうな展開になっていますが、真っ当な社会生活という意味で便宜上そちらを"光"とすると、そこから遠ざかってしまった自分(="夜")が再び光に向き合うための道筋が、本人の意思とは必ずしも関係なく形成され始めているという、予感めいたものを示す内容となっていますよね。

 最後にどうするか("次の扉開ける"のか)は本人に委ねられているわけですが、少なくとも"扉"が存在しているというのは救いだと思います。どんなに孤独になったつもりでも、一度築いた関係性が物語の伏線のように後々繋がってくるという経験は、誰しも多少なりとは持っているのではないでしょうか。訪問者と換言してもいいですが、それにもやはり"扉"がないとね。


 2番以降で特筆したいのは、2番Aではあの特徴的なリフが登場しないことです。"チャンス到来"のところで入ってくるかと思いきやそのままスルーなので、ここはもう脳内で鳴らすしかないですよね。笑

 あとはドラムを担当しているのがBOBOさんであるということにもふれておきます。つい先週にもパスピエの新譜『OTONARIさん』のレビュー記事の中でお名前を出したばかりですが、こんなに短期間で再び目にするとは。


02. はぐれた小鳥と夜明けの空

 ナチュラルなタイトルからは予想外のダンスチューンが飛び出してきたので驚きました。といことでc/wも実に僕好みのサウンドで満足です。こちらは作詞がボンジュール鈴木さんで、編曲がTomgggさん、作曲は両名の共作というクレジット。

 最近聴いた曲ということもあってまず連想してしまったのですが、Perfumeの「Everyday」(2017)っぽいなと思いました。全体的に似ているという意味ではなく、特にAメロとサビで印象的な反響が綺麗な木琴系統の音のことを指して言っています(詳しくはリンク先を参照してください)。流行りの音なのだろうか?

 自分が共通点を見出したというだけなので比較するのも妙な気はしますが、この曲での使われ方のほうがインテリジェンスがあって一層お洒落だなと思います。とりわけ1番Aのアレンジは、前半で醸されていたジワジワ感が後半で一気に解放されるというカタルシスをはらんでいるので、何度も聴きたくなる。

 ベースラインの沈み加減も非常に心地好いですし、ポップでキャッチーなサビメロもキュートな歌声とマッチしていて、思わず身体が動いてしまいますね。レビューの文章を書いている間は当該の曲だけをひたすらリピートしているのですが、延々と流していても全然耳が疲れませんし、どんどん楽しい気分になってくるので中毒性の高いトラックだと言えます。


03.~04.は、01.~02.の「-Instrumental-」です。



 以上、インストを除いて全2曲でした。2曲とも僕の好みを刺激してくれる楽曲であったため、個人的な満足度は高いです。

 01.はまめぐとフジ双方の新たな可能性を引き出したナンバーだと言えますし、02.のようなエレクトリックな路線もポテンシャルが高いと思います。まだまだこれからいくらでも道が拓ける存在でしょうから、今後も色々と貪欲に幅広い音楽に手を出してほしいですね。