今日の一曲!勇者パーティー「えんどろ~る!」 | A Flood of Music

今日の一曲!勇者パーティー「えんどろ~る!」

 【追記:2021.1.5】 本記事は「今日の一曲!」【テーマ:2019年のアニソンを振り返る】の第二弾です。【追記ここまで】


 今回の「今日の一曲!」は、勇者パーティー[ユーシャ(CV:赤尾ひかる) セイラ(CV:夏川椎菜) ファイ(CV:小澤亜李) メイ(CV:水瀬いのり)]の「えんどろ~る!」(2019)です。TVアニメ『えんどろ~!』OP曲。


 今年の冬アニメの楽曲を今更取り上げるのには理由があります。当該曲については本来であれば、年末年始にかけて更新予定のアニソン振り返り記事(参考:2018年分へのリンク)でふれるつもりでした。しかし、約二年前にアップしたこの記事と、二ヶ月ほど前にアップしたこの記事が、ここ数日で立て続けにAmebaの公式ハッシュタグ#水瀬いのりで1位を獲得したので、それを記念して彼女が参加しているナンバーを急遽ピックアップすることにしたのです。最低限のタイムリー期間として、2019年にリリースされた楽曲の中から選ぶ目算で。






 僕にとって最も身近ないのりんワークスは『Tokyo 7th シスターズ』関連ですが、同作品に関しては上半期の末に一足早く振り返り記事をアップしていたため、ここからの選曲は見送りました。実はお誂え向きなことに、明日の0時に七咲ニコル(CV:水瀬いのり)のソロ曲配信がアナウンスされていたものの、情報解禁がサプライズゆえにこれを知ったのは既に本記事を9割方書き終えた段階であったので、そちらの紹介はまたの機会とします。次点で身近な『戦姫絶唱シンフォギア』関連でも、前出の1位獲得記事からあまり更新間隔が空いていませんし、12月にはアプリ版の新曲を収めたアルバムの発売が控えており、こちらも別記事を立てる公算が大きいため、シリーズではない単発作品にまで対象を拡げることにしました。

 そこで白羽の矢を立てたのが『えんどろ~!』です。主要キャラクターの一人であるメイザ・エンダスト役でアニメに出演しており、OP曲にもED曲にも参加している点を勘案しました。後者は本人名義の楽曲「Wonder Caravan!」(2019)なので、趣旨的にはこちらをメインとするべきだったのでしょうが、前者の名曲ぶりには特筆性があると放送当時から温めていたレビュー意欲があるため、これを発信するならば今が好機と思い至った次第です。笑




 ということで、対象曲「えんどろ~る!」の魅力を存分に語っていくとしましょう。OP曲に「エンドロール」を冠したナンバーが据えられていることにまず意識がいくかと思いますが、これは作品のプロットに由来するユニークさです。前提の部分なのでネタバレというほどではないものの、これから視聴予定の方が本記事をご覧にならないとも限りませんし、そも視聴済みの方には説明が不要であるため、アニメ語り的な解説は省略とします。ただし、以降の記述には歌詞解釈として終盤の展開へ言及したものがあることに留意してください。ここでは歌詞中の"エンドロールじゃあ終わらないんだよ/続くファンタジーのプロローグ"が、丸々示唆的な一節として機能しているとだけ言っておきましょう。


 "ぱぱぱぱん ちゅちゅちゅ らぱぱぱ~ん"と、可愛らしいコーラスで畳み掛けられる立ち上がりには、イントロダクションに相応しい高揚感が宿っています。歌詞内容がファンファーレのオノマトペであることに加え、アレンジ面でもストリングスにチャイムにブラスにファイフといった、実に「らしい楽器」で編成された音作りが印象的で、これから始まる新たな冒険譚の序章を飾りしサウンドスケープの提示として完璧です。

 "ふ~ ら~ぱぱっ!"で一区切りつけられ、歌始まりへ。トップバッターは主人公であるユーリア・シャルデットで、彼女のCVを務めた赤尾さんの「へにょへにょした歌声」の魅力については、以前にもこの記事(「Memories」の項)で語ったことがあります。笑 本曲でもその絶妙に気の抜けたボーカルは良いアクセントになっていて、伴奏のピアノの正しさと対比されることで一層に際立ったキュートさが好感触です。続くエレノワール・セイラン役の夏川さんによる歌唱が、キャラクターの性格に寄せて終始真面目である点も、ギャップとして効果的と言えます。

 このAメロ部では、次のファイ・ファイ役の小澤さんが歌うパートのラインが最も好みです。具体的には、"この夢 かなえた後は"の美メロっぷりがお気に入りで、先にユーシャが歌ったライン("このとびら開けたなら")と同じものが来るとの予想が、さりげなく裏切られるのも楽想上で技巧的だと高く評価しています。これもキャラに寄せて考えるのであれば、脳筋パワーキャラかと思いきや突如まともなことを言い出す、ファイらしい味のある変化なのかもしれません。最後はメイが作品のキャッチコピーを含む、"ありそでなかったその向こう/どこへ続くかなぁ?"と歌い上げ、期待と不安の入り混じった声の演技の上手さは、流石の水瀬さんと絶賛です。


 Bメロは王道のつくりで、Aとサビの橋渡しとして的確な仕事を熟しています。程無くしてふれますが、本曲のサビはイントロ~Aメロの明るさからは意外にも切ない向きが強くなるので、その間のワンクッションとして少し翳の入ったBを挿入するのは、楽曲の方向性にちぐはぐさを与えない優秀なガイドラインです。Bは言わば静のパートゆえ自然とリズム隊の存在感が顕になるのですが、サビで弾けるための布石が着実に打たれているとわかるベースとドラムスのプレイに期待が高まります。

 そして満を持してサビへ。鼓笛隊が楽曲を力強く先導し、冒頭のコーラスセクションに覚えたマーチングバンドのイメージがいよいよ鮮明になります。しかし、このアレンジの絢爛さに反して、先述したようにサビの旋律そのもの或いはコード感にはセンチメンタルな趣があるため、アレンジ上の勢いは切なさを増幅させるアンプとなり、これが「泣きのメロディ」の演出に寄与していると主張したいです。というのも、初聴時から本曲のサビメロには涙腺を甚く刺激されていまして、ブログテーマも「アニソン(切ない系)」にしようかと迷っていたぐらいでした。作品のイメージを優先して結果的には「(可愛い系)」にしていますが、一見して萌え系っぽい作品ほど温かな暗さ(悲観的な意味ではありません)を携えた主題歌が刺さるということは、以前にもこの記事で述べたことがあります。リンク先で取り上げた楽曲もまた、テーマの判断に迷ったからです。


 これら作編曲の妙味は、歌詞内容を「陳腐」ではなく「普遍的」なメッセージとして昇華させることにも成功しており、栁舘周平さんが歌詞に込めた優しさが、更に愛おしいものとなっています。頭の二行"手をつないで さぁ/物語の次のページへ進もう"だけならば、ファンタジーモノの主題歌としてはありふれた一節と評してしまいそうですが、これを受ける"まだ白紙の 一文字目/ここからはじめよ~!"(1番)と、"ほら表紙の できあがり/これからを綴ろ~!"(2番)は、語末の"~!"から醸される見かけ上の天真さとは裏腹に、非常に深く勇気付けられる言葉繰りです。一度何かを諦めて自身の物語を閉じてしまった者;有り体に言えば夢破れた者ほど、この「再起」のフレーズが金言として響くことでしょう。ただ、これは歌詞の文言のみを拾った言わば作品外での解釈なので、続いてきちんと作品内容と絡めた解釈も載せます。

 通常の作品であれば、この手の歌詞は「一度目の冒険に誘う内容」と解するのが当然です。しかし、『えんどろ~!』は歌詞にある通り、"エンドロールじゃあ終わらないんだよ/続くファンタジーのプロローグ"を描いた作品であるため、その理解は「(一度目の説得力が上乗せされた)二度目の冒険に誘う内容」となります。この背景によって、未来志向の歌詞が単なる希望や願望から出たものではなく、経験則から出た真の言葉だと受け取れる点が素晴らしいのです。尤も、作中で勇者パーティーは一度目の記憶を忘れてしまっているので、物語の序盤~中盤ではこの歌詞はイメージの域を出ませんが、記憶を取り戻してからの終盤の展開には見事にマッチしており、伏線的な手腕が鮮やかであると称賛します。


 歌詞の素敵さはこれだけに止まらず、真骨頂が発揮されているのは寧ろ2番以降です。2番Aメロの最たる特徴は、歌詞中に各キャラの名前が忍ばせてあるところで、ファイの"ふぁいてぃんぐぽ~ずで"のように分かりやすいものから、ユーシャの"その理由しゃべりながら"やメイの"高みを目指す"のように捻ったものもあります。敢えて最後に残したセイラの"キケンも生来の弱気が"が個人的には最も巧いと思っていて、続く"すぐに教えてくれるの"と文脈上の不自然がないことは勿論、"生来"という言葉自体はごく一般的ながら、ここまでの歌詞に於ける語彙レベルからすると登場しなさそうな語であることで一瞬過る違和感が、「名前が入っているのか!」の発見に繋がるからです。ファイのはあからさまなので、ともするとそこだけの遊び心だとスルーしてしまいそうになります。というか、それを狙った意図的なストレートさなのではないでしょうか。

 キャラ名インサートはCメロの歌詞にも見られ、2番Aメロのそれが小ネタ的な使われ方だったことに対して、こちらは歌詞の全文が作品内容の根幹に直結しており感動も一入です。"「わすれもの」思い出したよ"は、先に記した「記憶を取り戻してからの終盤の展開」の導入で、そのきっかけを作ったローナ姫の名前が"運命とかじゃないんだろ~な"で回収され(="運命"の否定でローナ姫が舞台装置の置物と化すのを防いでいる)、"迷子の/なかまを"で本来は敵であるはずのメイゴとマオの存在にふれ、"めでたしの奥には置いてかないから!"で魔王すら救おうとしてみせるこの姿勢は、超越的な勇者像の発現にほかなりません。

 特にラストの一節は作品外で解釈してもなお美しく、終盤の展開を知る前に聴いた段階(本曲の発売日は1月下旬)ですら、あまりの包容力の大きさにうるっときてしまったことを覚えています。メタ的に捉えても、"めでたし"と副えておけば全てが丸く収まったような気がしてしまう、ある意味では暴力的なクロージングが「いい話」とされる風潮に、しっかりとカウンターをお見舞いしているのは、確かに"ありそでなかったその向こう"ですね。


 落ちサビからのラスサビを経て、最後にまた可愛らしいコーラスパートが登場しますが、今度は"ぱぱぱぱん たびは つづくよ~!"といった具合に、意味がのせられていることに意表を突かれました。この変化によって同一のメロディラインであるにも拘らず、ラスサビ後のセクションでは歌詞の"ぱぱぱぱん ひびけ えんどろ~!"の通りに、アウトロダクションに見合う大団円の感に満ちています。これだけだと「なんだよ結局"めでたし"エンドじゃん」と判断してしまいそうですが、それを華麗に阻止するのが"ふ~ずっと..."で、一区切りがついてもそこで終わりではないという、永遠性を読み解ける結び方が秀逸です。2番サビの"エンドロールじゃ終わらないんだよ/巡るファンタジーのプロローグ"で示された循環性とあわせて、真のハッピーエンドが描かれていると言えます。