ne! ne! ne! / STARTails☆ | A Flood of Music

ne! ne! ne! / STARTails☆

 STARTails☆(スターテイルズ)によるシングル『ne! ne! ne!』のレビュー・感想です。表題曲は現在放送中のTVアニメ『スロウスタート』のOP曲となっています。

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 スターテイルズは作中主要キャラ4名のCVを務める声優陣からなるユニットで、メンバーは近藤玲奈・伊藤彩沙・嶺内ともみ・長縄まりあです。

 キャラ名で書けば(掲載順に)一之瀬花名・百地たまて・十倉栄依子・千石冠となり、以降は基本的にキャラ名を使って書き進めていくので、この点に留意していただけると助かります。




 『スロウスタート』は今期のきらら系作品(のひとつ)ですね。本放送前の番宣を観た段階では「まんまごちうさじゃん」と思ったり、タイトルから想像するに「ゆるい雰囲気が売りのよくある日常系だろう」と斜に構えていたりもしたのですが、1話はラストのさらっとした衝撃発言によって作品名の意味がわかるというつくりだったので一気に惹き込まれました。笑

 本来であれば「中学浪人」というワードが出てくる直前の「一之瀬花名、17歳。」の段階で「えっ?」と思わなければいけないのですが、アニメ1話の冒頭or末尾にありがちな主人公の自己紹介モノローグが始まったのだろうと何気に観ていたので、余計に驚きました。こういうメタ的なことを意識しているのかはわかりませんが、もしそうならば巧い演出ですよね。

 最新話(3話)の花名が「同い年」という何気ない言葉に涙するシーンが顕著でしたが、不意に波風が立ってしまうような危うさを常にはらんでいるところが物語として良いと思います。今後隠し通すのか否かで展開も変わってくるでしょうが、優しい世界観の作品とはいえ少し外してきているところが好印象です。


 この「少し外してきている」というのは楽曲に対しても思ったことなので、この点を軸にしてレビューを進めていきます。


01. ne! ne! ne!



 TVアニメ『スロウスタート』OP曲。作詞者は当ブログ上で幾度かお名前を出して絶賛している岩里祐穂さんで、今回も歌詞のクオリティは安定して高いという印象です。

 岩里さんにしては素直過ぎるというか、もう少し乱暴に言えば「きらら系に寄せたあざとさ」が目立っているような気はします。決してそれが嫌いという意味ではありませんが、"ぷるるパチパチ"とか"(わっしょい!)"とか"いいね!ね!ね!"あたりの、「漢字を使わない[擬音/擬態語・掛け声/合いの手]の使用+感嘆符が目立つ」点を指して「あざとい」という表現です。

 しかし、僕が今から行うのは「だからこそ、そうでない部分の歌詞の素敵さが際立っている」という主張なので、この対比を技巧的なものだと捉えていることに留意してください。


 たとえばサビ中盤のフレーズ、"校庭から地球の先 ひとっ飛び"或いは"プールから深海まで ひと潜り"は、学校という身近なシーンから視点がいきなり未踏の領域へとパンしていて、これは若人の無限の可能性を思わせる鮮やかな表現だと思います。スロウスターターに対するこの上ないエールではないでしょうか。

 2番Aの"息したら吸いますよね"のくだりも巧いと感じていて、ある意味自分本位なことを生理現象にたとえることでマイルドな印象にしているのが素敵です。"好きになったら/好きになってくれなきゃ"というのは、書き方次第でプレッシャーになりますからね。

 …と、このように表現自体は全く難しくなく使用語彙も単純ではありながら、それよりも更にシンプルな部分(先述の「あざとい」箇所)が存在するおかげで、「そうでない部分」の歌詞が相対的に味わい深く感じられるようになっているところが流石岩里さんだとまとめておきます。


 続いてはメロディとアレンジについて。直近だったため余計に驚いたのですが、作編曲者は藤澤慶昌さんです。ちょうど一週間前にレビューした『宝石の国』のサントラを手掛けた方ですが、作風の落差が激しいですよね。「落差」と言うと語弊がある気がしますが、このスタイルの自在さこそがプロだよなと尊敬しているという意味です。

 幕開けは爽やかなロックナンバーを思わせるサウンド。具体的には思い出せませんし他意もないのですが、このイントロには既聴感があります。その後ストリングスやベル系の音が入ってはくるものの、Aメロまでは基本ロック調だという感じですね。メロディもポップゆえ軽快で気持ちの好い聴き心地。

 あとは冠ちゃんの"ぷるるパチパチ"があざと可愛い。というか長縄さんの声質自体が中毒性高い。『小林さんちのメイドラゴン』のカンナで虜になった方も多いと推測しますが、同じきらら系だと『ステラのまほう』のたまちゃんも印象的でした。と言いつつ、個人的には「4Uの佐伯ヒナの人」なんですけどね。笑


 Bメロ前半は実にBらしいBというかわかりやすい溜めのパートなので、殊更取り立てて書くことはありません。特筆性があるのは後半("もう少しだ"~)です。

 ここで弾けるような勢いが戻ってくるので、「このまま元気な感じのサビに雪崩れ込むのかな?」という気に一旦なります。しかしサビ直前の"追いつけるよ"まで進むと、メロディが揺らいでいる若しくは少し影が入ったと表現したくなる感じになり、聴き手の期待感に直結する類の良い違和感が矢庭に顔を出すという流れが出来上がる。


 そして肝心のサビ。「Bラストの違和感はこれの布石か」と得心がいくような、意外にも地味めの旋律です。ここまでの流れ(A→B→)、もっと言えばイントロの印象と比較するとなかなかに攻めた変わり身だと思います。…だがそれがいいんです。

 "いいね!ね!ね!わたしたち!/あのね!ね!ね!いっしょにね!"。文字に起こすとアホっぽいですが、ここの旋律の美しさこそが本作を買う動機となったくらいには高く評価しています。普通にポップなサビメロであったら、おそらくそこまで気に入らなかったでしょう。

 敢えてややこしい表現をしている気もしますが、要するに「サビメロに潜む切なさが至高」と言いたいのです。これは花名の立場や事情を解釈したアレンジだと思いますが、「少し外してきている」という表現を作品のみならず音楽にも適用した理由はまさにここにあります。作品に優しく寄り添った良いアニソンだと言うほかないですね。


 OP映像が楽曲の魅力を底上げしている面もあると分析していて、端的に言えば「涙腺にくる」タイプのアニメーションだと感じます。サビ前の両親を背にして歩き出す花名のカットはモロですが、サビの可愛いキャラ紹介パートも地味にうるっときました。キャラの好きなもの(象徴するもの?)が○枠の周囲にたくさん置かれているのがとりわけ素晴らしい。

 今回レビューするにあたって改めてまじまじと観てみたのですが、花名のところに誕生日プレゼントが置いてあったり、冠のところに栄依子の写真(だよね?)があったりするのに気付いて、一段とジーンときてしまいました。なんかもう歳だなと思います。笑

 初見時は「たまてがCHANを貼り付けているのが面白い」ぐらいにしか思っていなかったのに、これは話数が増えるほどに泣きポイントが増えるギミックなのではないでしょうか。原作は未読ゆえ、より一層惹き込まれた演出でした。


 ちなみに、ひとつ前のきらら系作品(『ブレンド・S』)のレビュー記事の中で書いた「きらら系アニメの主題歌に関する一考」で示した分類に従えば、この「ne! ne! ne!」は「スルメ曲タイプ」でした。割とすぐに味が出てきたパターンです。笑


02. 夕焼けといっしょに

 c/wは同じく岩里さん作詞のあたたかなナンバー。作曲は前山田健一(ヒャダイン)さんで、編曲は三好啓太さん。前山田さんに関して僕は「未だに評価が定まらない御仁」(詳しくはこの記事)という所感を持っていて、彼自身と彼の編曲が好きな方には申し訳ありませんが、個人的にはこうして作曲に徹してもらったほうが好みです。三好さんが前山田さんのメロディセンスを巧く活かしていて良い。

 拍子が複雑な曲をc/wに用意するという攻めた姿勢も大いに評価出来ます。不正確なことを書いていたらすみませんと言い訳をしておきますが、インスト部分とサビは6拍子で他は5拍子というつくりですよね。全体的な印象は「ワルツ'風'」だと言えますが、ともかく入りが難しいので歌う際には要注意となります。


03.~04.は、01.~02.の「(Instrumental)」です。



 以上、インストを除いて全2曲でした。両曲とも一応耳馴染みのあるクリエイターによる楽曲だったので、その魅力を再発見出来たことが嬉しい。

 ちなみに、BDには「ne! ne! ne!」のMVが収録されているのですが、収録内容がひとつだけなのにきちんとメニュー画面が作ってあることと、その画面でBGMとして流れるインストバージョンが1番コーラス終わりではなくフル尺だったことが丁寧な仕事だと思いました。