シトラスは片想い / Ci+LUS | A Flood of Music

シトラスは片想い / Ci+LUS

 Ci+LUSのデビューシングル『シトラスは片想い』のレビュー・感想です。本作は『Tokyo 7th シスターズ』(以降『ナナシス』と表記)関連のディスクとなります。


 当ブログに於ける『ナナシス』記事は、音楽大全本の発売を記念して書いた特集記事以来です。先々月に発売された当該書籍は、これまでの『ナナシス』の軌跡を音楽を中心にまとめたものだったので、記事の内容も網羅的で非常に濃いものとなりました。

 便宜上「ひとつの区切りを迎えた」としてもいいくらいの良書でしたが、先述の通り本作は「デビューシングル」です。つまり、ひとつの区切りを越えて尚拡大を続ける『ナナシス』世界の、新たな一ページを象徴する一枚でもあるわけですね。


 デビュー即ち新ユニットということで、Ci+LUSとはナナスタ所属のアイドルのうち、玉坂マコト(CV:山崎エリイ)と折笠アユム(CV:田中美海)からなるデュオを指す名称です。ナナスタ発の新ユニットの登場は2016年のThe QUEEN of PURPLE以来、(正式な)二人組に限れば2014年のNI+CORA以来となるので、CD帯の「待望」にも納得。

 ここでわざわざニコラの名前を出したのは、「二人組」というのが重要なファクターであるからで、そのことはシトラスの結成秘話にまつわるエピソード(3.0-011)でも語られていました。一人頭の負担の大きさや対称性の問題等について言及がありましたが、それらを今後どうクリアしていくのかという、成長可能性に期待出来るユニットだと言えます。


 最低限の前置きとしては以上ですが、以下の文字サイズが小さいセクションは、レビュー本文に直接つながるタイプの前置きです。シトラスというユニットの意義について、ニコラと対比させつつ自分なりにまとめてみました。

 こういう考察を嫌う層はわざわざレビューを読むこともないと思いますが、真っ新なユニットに変な色を付けられたくないとお考えの方は、以下のセクションは読み飛ばしたほうが吉かもしれません。一応の注意喚起ですが、別に批判的なことを書いたわけではないのでそこは安心してください。では、続けます。


 現時点でのニコラとの違い…というかシトラスならではの特色は、公式サイトにあるユニット紹介文の内容をそのままに理解していればいいと思いますが、エピソードの中で支配人が感じ取っていたように、「片想いを思わせるユニット」とするのが最もわかりやすい表現であると考えます。マコトは自覚あり/アユムは自覚なしということで異なる片想いのケースをしっかりと抑え、しかしニコラほどの大人っぽさは出さずに差別化を図るという、このような意図が(メタ的に見れば)窺えそうだという意味です。

 メタ視点ついでに乱暴なカテゴライズに基づく自論を披露すると、ニコラも含めてナナスタ内のデュオは全員「支配人LOVEガチ勢(ポテンシャル込み)」で構成されているという認識を持っています。支配人が応じない以上はニコラの二人にも「片想い」が適用されてもいいはずですが、スースとムスビにはワンチャンありだと思える一方、マコトとアユムにはそのイメージが沸かないので、「両想いの実現可能性」という観点で両ユニットを区別出来るのではないでしょうか。

 これを踏まえた上で、シトラスの真骨頂はその先にあると思っています。どういうことかと言うと、上に出した「そのイメージが沸かない」というフレーズがキーです。イメージとは、つまるところ単なる先入観ですよね。「この人とは付き合うビジョンが見えないなぁ」…そう思っていた相手ほど、パートナー候補に挙がって来た時の驚きが大きくありませんか?エピソードのラストで、ムスビがアユムのことを「ダークホース」と表現してスースに注意を促す場面がまさに好例ですが、片想いを自覚すらしていない人が、猛烈にアタックをかけ続けている人に勝るという展開、得てして起こることだと個人の感覚ではそう思います。




01. シトラスは片想い

 ということで、「片想い」をテーマとするこの曲の歌詞には、先に記したような恋の駆け引きが描かれているとの理解です。色々なアタックを仕掛けてみても無反応の"キミ"に対して、"一度も味見をしないで/友だちだなんて決めないでね"や、"試しにひと噛みしてみて/まだ酸っぱいだなんて言わないでね"と願うのは、「ダークホース」に繋がるたとえをするならば、「出馬表に名前があるのに気付いて!」といったいじらしさを感じます。

 たとえが男性的で恐縮ですが、2番では"一度も空振りしないで/見送りだなんて決めないでね"と、野球がモチーフに使われていますし、昔から異性の好みの幅のことを「ストライクゾーン」とも表現するように、一般に男性的な趣味が由来の言葉でも色恋沙汰とは高い親和性を誇りますよね。それはおそらく作中の2034年でも同様だということでセーフとしましょう。笑

 …いや、他にも"キュッ☆ぼん☆キュッ☆ぼん☆"とか、"ビクともしないのー(泣)!!"/"あきらめちゃうぞー(怒)!!"とか、わざとおっさん的なレトロな表現をしているのかな?と思うような言葉遣いがなされているので、取り立てるべき事柄かなと思った次第。誤解しないでほしいのですが、こういう表現も統一感があれば嫌いではないという誉め言葉のつもりです。


 時代感覚の話の流れでお次は曲調に言及しますが、聴けば瞭然の王道アイドルソングの趣がありますよね。勿論サウンドやアレンジは現代向けになっていますが、メロディライン自体はなかなかに往年感のあるものだと思います(テンポを落とせば一層)。だからこそ、上に書いたような言葉選びも敢えてかなという気がします。

 それにしても、『ナナシス』にとってはこのタイプの直球アイドルソングは久々じゃないですか?ゲーム内実装で判断すると「ハネ☆る!!」(2016)以来では?単に「キュートなナンバー」であればこの間にも存在しますが、4UとQOPはバンドだし、KARAKURIとセブンスシスターズは基本格好良い路線だし、Le☆S☆Caは王道でも切ない系だし、肝心の777☆SISTERSは2017年のリリース楽曲の全てが真面目な印象だったしで、僕は正直この手のアイドルらしさを持つナンバーに飢えていました。アイドル育成要素のあるリズムゲームとして見た時の『ナナシス』の異端ぶりが窺えるので、これでいいんですけどね。

 ゆえに「シトラスは片想い」のトレーラーが公開された時は、通常以上に楽曲がガツンと心に響いたのですが、ひねくれた表現をすれば「媚び媚びの」、二次元ということも加味すれば「萌えソング」としてもいいくらいのあざとさを持ったこの曲を、マコトとアユムが歌うのは適材適所というか、この二人に実にぴったりだなということも同時に思いました。

 その理由は、マコトもアユムも「非常にわかりやすく二次元的な記号化がなされたキャラクター」だという認識だからです。支配人(プレイヤー)のことを「お兄ちゃん」と呼び慕ってくるヤンデレ気質の娘に、独特の語彙を使う不思議ちゃん枠で支配人のことは「ご主人さま」と呼ぶメイド喫茶で働く女の子、ヲタクに偏見を持った人が想像するヲタクが好きそうなキャラ像との一致を見せてもおかしくはないと感じます。僕はヲタクでありながらこの手の良さは昔からいまいちピンとこない人間なので回りくどい書き方になりましたが、こと音楽に限れば「楽曲が求める歌い手像」にまで思考と嗜好が及ぶので、「シトラスは片想い」に最も相応しいのはマコトとアユムであるということに異論はありません。


 ここからは具体的に好みのポイントを挙げます。Try The New Numberで飽きるほどプレイしたから…というのを理由にすると他意がある気がしますが、何度聴いても1番Aメロの"占いならどうやら"の部分のフロウの良さがお気に入りです。流れるようなメロディとマコトの催眠的な声質(とリズムゲーのSEが重なっていたこと)も相俟って、きちんと歌詞を見るまでここは「うらら」を3回繰り返しているのか思っていました。"わん♪うぇい♪らぶ♪"に続く形で、恋や春のルンルン感を表現しているのかなと。笑

 跳ねたリズムのサビメロ(前半)も素敵で、間奏でも同じ旋律がブラスによって奏でられているため、疾走感と中毒性がありますね。"けっこう☆"や"YES/NO?"などの同一フレーズが3回繰り返されるところにも、思わず口遊みたくなってしまうような楽しさが宿っていて好きです。

 "わん♪"からをサビ後半としますが、前半とは打って変わって可憐なメロディへと転身を遂げるので、このギャップも技巧的で良いと思います。とりわけ好きなのはラスサビ("Kiss me♪"が出てくるパート)で、ここはバックのブラスがサビ前半のフレーズをなぞる形で登場し、前半の弾ける勢いと後半の甘酸っぱさを同時に味わえるため、「これぞまさにシトラス!」としか言いようのない、最適な結びのアレンジであると絶賛です。


02. アイコトバ

 c/wにも可愛らしいナンバーが収められています。イントロのピアノというか歌詞にない"ぱっぱや"のフレージングに、どこか01.のAメロを彷彿させるところがあると感じたので、前曲からの流れを上手に汲んでいると受け取りました。ライブではノンストップで繋げてほしいような感覚と説明すればわかりやすいでしょうか。

 特に好きなのはBメロで、"「あのね……そのね……」/君のアイコトバ"の部分は、旋律の綺麗さに酔いしれそうになるほどです。メロの美しさで言えば、サビ後半の"ら・ら・ふぅ"のパートもなかなかに好みで、同一フレーズの2回目の歌い出しが若干早くなっている(ような気がする)独特の譜割りが耳に残ります。


 前置きで「片想いを思わせるユニット」と表現しておいてなんですが、この曲の歌詞は両想いの関係を描いているように僕には映ります。たとえば"すれ違いをしてた/三度目の春なんかすごく不安でした"というフレーズは、三年目のジンクスを意識したものだと思いますし、"思春期よりもしかしてイタイとか/思うけど"とあるのを考慮すると、ある程度年齢的・精神的に成熟した関係性が浮かんできませんか?

 この観点では2番サビ前半部の"誕生日"のくだりがまるまる好きで、特に"でもときどきふと怖くなることは/その次の言葉が出ないことさ"という一節は、幸せに怖さを覚えるステージにまで進まないと出てこないものですよね。

 まとめると、想いの方向が一方向だろうが双方向だろうが、愛の言葉を伝え続けることは常に大事だということが歌われていて、これを片想いに絡めて解釈するなら、この曲は「片想いの果ての歌」なのだろうと捉えました。「ユニットの最終目標」的な感じかな。


03.~04.は、01.~02.の「-OFF VOCAL-」です。


05. シトラスは花嫁修業中

 25分半あるドラマトラックです。ネタバレになるので詳しいことは書きませんが、デビューを控えたシトラスの二人が、合宿という形で花嫁修業に励むという内容。

 これだけだと目的と手段がちぐはぐに映るかもしれませんが、【デビュー曲のテーマが片想い → 片想いと言えば花嫁修業】というマコトの理論に基づいているので、まあOK…でしょう。笑



 収録内容は以上です。総評的なことはむしろ前置きに書いてしまったため、重複し得る内容を改めてここに載せることはしませんが、明るさを伴ったアイドルらしいナンバーのお披露目の場が、シトラスの存在によって今後増えそうなのは喜ばしいことであると、個人的な嗜好を多分に含んだ感想でもってまとめと代えさせていただきます。


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