HoneyWorks meets TrySail「センパイ。」の感想。センパイ. 歌詞. 意味. | A Flood of Music

今日の一曲!HoneyWorks meets TrySail「センパイ。」

 【追記:2021.1.4】 本記事は「今日の一曲!」【テーマ:春|卒業/別離】の第二弾です。【追記ここまで】

 「今日の一曲!」はHoneyWorks meets TrySailの「センパイ。」(2016)です。前回の記事もそうなのですが、最近春めいてきたので、暫くの間「今日の一曲!」は「春」や「卒業/別離」をテーマに書こうと思っています。

 HoneyWorks meets TrySailは当ブログでは初登場です。「meets」でわかるようにこのアーティスト名は2組のユニットから成るものなので、両者について現在僕がどういう理解でいるかを記しておきます。この曲を好きになった経緯がややこしいので、状況整理も兼ねて。楽曲レビュー位置までスキップしたい場合はここをクリックしてください。



 まず声優ユニットのTrySailですが、初めて言及したのは今年初めのこの記事で、「adrenaline!!!」をレビューしました。「オリジナル。」にも少しふれています。そして続きにあたるこの記事では、「かかわり」を紹介しました。これら三曲は全て2017年の楽曲です。

 今期アニメの主題歌「WANTED GIRL」(2018・発売前)も気に入っていますし、上掲記事ではふれませんでしたが、実は初めてTrySailの楽曲に手を出したのは「High Free Spirits」(2016)だったので、4th以降のシングル曲は全て一定水準以上で好きだというくらいには、ユニット自体のファンです。更に言えば、再放送という形ではありますが、1st~3rdシングル曲が主題歌として使われたアニメも視聴した(最後まで観たとは言っていない)ので、一応シングル曲だけは網羅していると言えます。

 次にクリエイターユニットのHoneyWorksですが、つい最近までは「CHiCO with HoneyWorksの人」というぼんやりとした理解しかありませんでした。チコハニに関しては、「CM等で名前はよく耳にするけど何処の層に受けているのか不明」というややネガティブな印象を持っていたのですが、今期アニメの主題歌「ノスタルジックレインフォール」(2018)が良かったのと、それを受けてチコハニ特集回の「Rの法則」(Eテレ・2018/2/15)を観たことで、ようやくチコハニ及びハニワが何者なのかということと、10代女子を中心に流行っているということを知りました。




 ここから時系列が込み入ってきてややこしいです。今回紹介する「センパイ。」が収録されているハニワのアルバム『何度だって、好き。〜告白実行委員会〜』(2017)を聴いたのは、「Rの法則」の放送よりも後、つまりごく最近です。しかし「センパイ。」という楽曲に限れば、実はシングルリリース当初の2016年末からその良さを予感していました。ただし、この時点ではこの曲がTrySailにもハニワにも全く結びついていませんし、『告白実行委員会〜恋愛シリーズ〜』も何のことやらです。

 「じゃあ何処でこの曲を知ったんだよ?」と問われれば、ずばり「CMで」と答えます。映画のかCDのかは覚えていませんが、ともかくほんの数秒だけ流れたサビのメロディと歌詞を聴いて、「あれ?もしかして凄く良い曲?」という予感が過ったのです。先にリンクした「かかわり」のレビューがある記事(の一部)がまさにそれを特集したものですが、「CMで聴いただけで良いと思えるアニソン」というものが年に数曲はあって、「センパイ。」は2016年に於けるそれだったということになります。

 …ですが、迂闊なことに文字通り「過った」だけだったのか、「なんとなく良い曲な気がした」という思いだけがおぼろげに記憶に残り、それから1年以上忘れて過ごしてしまったのです。そんな薄れた記憶を鮮明にしてくれたのが「Rの法則」で、「そういやあの良さげな曲ってハニワじゃなかったっけ?」と思い出し、サビの歌詞を手掛かりに検索したところ、ビンゴだったという成行き。加えて、2018年のこの時点ではTrySailの良さは僕の知るところになっていたので、「ボーカルTrySailだったの!?」という二重の驚きに。笑





 ここからがようやく楽曲自体のレビューです。先に書いた通り、気に入ったそもそものきっかけは「サビの良さ」だったので、その点を中心に掘り下げます。ただし、メディア展開(MVやアニメ映画等)としての『告白実行委員会』に関する知識は、「Rの法則」で得た以上のものは持ち合わせていないため、あくまでも「センパイ。」という楽曲のみに対して思ったことを書きます。【追記①:2020.6.10】本曲がOPに起用されている映画『好きになるその瞬間を。~告白実行委員会~』を遅ればせながら視聴したので、本記事の最後にその感想を載せておきました。【追記①ここまで】


 第一に、歌詞が素敵です。"センパイ"に恋心を抱いていた"後輩"が、その想いを伝えられないままで"センパイ"の"卒業"の時を迎えてしまう。これが歌詞中で描かれているストーリーですが、この切なさを表現したものとして、サビの歌詞は天才的であると絶賛します。

 "少し先に生まれた好きな人が/少し先に恋をしてしまった"。このフレーズの何が凄いって、客観的事実しか書いていないのに非常に感情的だからです。厳密には"しまった"というのは書き手の心情が入った表現だと思いますが、それ以前の部分はファクトを書いているだけに過ぎませんよね。誰が悪いというわけでもなく、タイミングの問題で実らなかった恋というのはごまんとある認識ですが、そのどうしようもない切なさを過不足なく切り取った巧い一節だと評価します。特に10代に於いては1年の差でも大きいでしょうから。MVを観るに二学年差が想定されているようなので尚更ね。


 第二に、メロディの持つ激しさが素晴らしいです。半台詞的な"バカ"がとりわけキュートなAメロも、可憐な旋律とポップな合いの手とのギャップが心地好いBメロも好きですが、はちきれんばかりの想いを振り切るような疾走感を帯びたサビメロこそが、爽やかさと激しさの共存を演出していて美しいと思います。

 便宜上「サビメロは三部構成になっている」と表現して以下書き進めていきますが、二部にあたる"君と席が近くなって"以降が殊更お気に入りです。"君と"にピークが来て、そこから舞い落ちるような旋律で"席が近くなって"と続き、これが二回繰り返されるという、この緩急のある音運びに胸を打たれました。

 これを踏まえたラスサビは一段と鮮やかです。一部("言えないね")までは変わらぬ旋律なので、そのまま二部に突入するのかと思いきや、ここでメロ変化が起きて意表を突いてきます。歌詞の始まりは"君を"なだけに余計に驚く。ラスサビでのメロ変化は定石と言えばそうですが、それにも色々とパターンがあって、この曲は「挿入型」或いは「迂回型」とでも表現したい構成になっているのが好みです。

 ラスサビ以外のサビメロを仮に基本系とすると、ラスサビに於ける"君を困らせるから"~"居られるのなら"の部分は、基本にはなかったメロが「挿入」されている形ですよね。「迂回」というのもこれの見方を変えただけで、この変化部の後にきちんとピークの旋律("君と普通の話を"~)に戻ることを指しての表現です。要するに「基本を残したまま変化をつけている」点が魅力的だという意味。ラスサビの途中から大胆にメロを変えて、全く違った盛り上がりを作って曲が終わるというタイプのメロ変化もありますが、その類と対比させています。


 順番が前後してしまいましたが、2番後の変則Bから始まるCメロも切なさ爆発で堪りません。"私の入る隙間が"のパートは、メロディにもボーカルにも不安が滲んでいるかのような、揺らぎが感じられて上手いと思いますし、"君じゃなければ良かったな"からの感情的なギターソロは、ベタですが期待通りの若者らしさに満ちているというか、青春譚の音楽だなという気になります。

 三部("最後の日まで"~)のやわらかい旋律と共に、"「センパイ、さよなら。」"と別れの言葉で歌詞が結ばれ、言葉にならない"Ah"のコーラスで曲が閉じていくというのも、おさえるべきツボを全ておさえていて納得の仕事です。


【追記②:2020.6.10】



 前置きのところにも書いた通り、つい最近になって『好きになるその瞬間を。~告白実行委員会~』を視聴しました。コロナ禍の自粛ムードを少しは緩和させて久方ぶりに近所の中古ショップに赴いたところ、やけに状態の好い本作のレンタル落ちDVDを発見したので購入したという、制作サイドには申し訳ない入手経緯です。

 先に埋め込んだMVで何となくのレベルではキャラクターとストーリーラインを把握していたものの、いざアニメーションとして観ると意外に感じるポイントもあって新鮮でした。主人公の雛については僕が曲から想像したイメージと大きく違わなったのですが、意中の恋雪先輩に関してはイメチェン前のなよっとした感じが人に歴史ありの趣を醸していて、作中で虎太朗が言っていた「あんなヤツのどこが良いんだよ…」に正直共感出来ます。あくまで「この時点の虎太朗目線では」といった観方によるものですけどね。曲を通じて脳内に浮かび上がっていた先輩像に相応しいのは個人的には優だと思っていて、これは作中の雛による自己分析「私の理想は(中略)そう、お兄ちゃんみたいな!」に同調した部分もあるかもしれないけれども、ナチュラルに心身共にイケメンな人物を想定していました。笑

 お話として驚いたというか切なくなったのは恋雪先輩の恋も報われない点で、その失恋と雛が想いを告げようとするタイミングが重なってしまうのが双方にとってまず不運ですし、雛の立場からすると自分の兄が意中の先輩の恋敵だった(夏樹を巡る優vs恋雪)というのも複雑でしょうね。雛の立場から更に言えば、意中の先輩が失恋した相手の弟が自分のことを好いているわけで、運命のイタズラが過ぎるこの世界の神様を少し呪いたくなります。勿論これは作品に対する誉め言葉でして、複雑に縺れた赤い糸が織り成す人間模様が群像劇としての面白みに寄与し、本作に於いては脇役の面々にもそれぞれコンテクストを知りたくなるような描写が鏤められていたので、なるほどこうやって本シリーズ延いてはハニワの世界観にハマっていくのだなと得心がいきました。

 本作を観終えて目下気になっているのは反目から恋心に発展しそうなアリサと健の関係と、「気持ちの距離だけじゃなくなっちゃうかもしれないのにねえ」と自分のことながら他人事のように独り言ちる(実際は「友達のこと」と前置きして雛に説いている)美桜の内面です。本作を映像作品として単体で評価するならば、尺が短いせいか展開が駆け足で「好き」に至るまでの描写が不足している感は否めません。しかし、本作では言及の対象になっていない楽曲とそのMVの内容、およびその他のメディアミックス作品を通してシリーズの全体図を把握してから観れば、また違った感想が出てくるのだろうと思わせるだけのポテンシャルは確かにあったと結んでおきます。

【追記②ここまで】