今日の一曲!ねごと「DANCER IN THE HANABIRA」 | A Flood of Music

今日の一曲!ねごと「DANCER IN THE HANABIRA」

 【追記:2021.1.4】 本記事は「今日の一曲!」【テーマ:春|卒業/別離】の第一弾です。【追記ここまで】

 「今日の一曲!」は、ねごとの10thシングル曲「DANCER IN THE HANABIRA」(2017)です。曲名が長いので以降は「DITH」と表記します。
 


 ねごとの単独記事を作るのは今回が初ですが、実は過去にメジャーデビュー作をごく簡単にレビューしていたり、違うバンドの記事の中で4thアルバム『ETERNALBEAT』(2017)を絶賛していたりと、密かなファンアピールはしていました。笑

 詳しくは後者の記事をご覧になっていただきたいのですが、BOOM BOOM SATELLITESの中野雅之さんつながりで手を出した4thは、ガールズバンドによるダンスミュージックアルバムの名盤と言って差し支えないという評価をしています。この流れを受け継いでリリースされた「DITH」も再び中野さんプロデュースのナンバーであったため、この時点で僕はねごとの今後に大きな期待を寄せていました。


 ところが、その後リリースされた11thシングル(2017・両A面)がまさかの「空も飛べるはず」(スピッツのカバー)だったので、次のアルバムがどういった感じになるのか一旦わからなくなりました。上掲記事の中で「ねごとが今の路線を続けるならば」と予防線を張った書き方をしたのはこのためです。

 それもあって手を出すのが遅れてしまいましたが、昨年12月にリリースされた5thアルバム『SOAK』を最近ようやく聴きました。そして抱いたのは「前作に匹敵する名盤だ」という感想です。「DITH」の良さも、アルバムの中で一層高い次元に昇華されていたと思います。1曲目ですが、最後まで通して聴いた上で戻る1曲目として扱うとより感動的でした。




 急に話は変わりますが、最近頓に暖かくなりましたよね。初春を通り越してGW頃の気温だとか。僕はこの暖かくなり始める時期が正直好きではなくて、「やっと冬が終わる」という感情よりも「また別れの季節が来た」という思いの方が強く込み上げてくるので、何処となく憂鬱な気分になります。

 平年の気温推移で考えれば、この憂鬱が顔を出すのはもう少し先の筈ですが、今だけはこの駆け足の季節に感謝です。なぜなら、この上なく映える環境および心境で「DITH」を聴くことが出来たから。シングル曲としてリリースされたのは去年の梅雨時なので、今春はこの曲が世に出てから初めて迎える春であり、春に彩りを添えるナンバーとしての真価を初めて発揮した状態にあると認識しています。


 「春に彩りを添える」と書いておいてなんですが、歌詞の中に具体的な季節を表す言葉は出てきません。しかし、"生ぬるい風"が示す暖かさと、"時が過ぎてく/追いつけない"という別離を思わせる表現を手掛かりにして、春の歌だと解釈しています。安直と思われるでしょうが、この場合の"HANABIRA"は勿論「桜の」という理解です。

 歌詞以外の点でもっと感覚的な表現をすれば、この曲から感じ取れるサウンドスケープはまさに春だと素直に思います。奔流の如きシンセや煌めきを覚えるシーケンス、温もりを感じるパッドに決意を思わせるストリングス、涙腺に刺さる切ないメロディに潜む日本的な儚さと浮遊感のあるコーラス、何れも僕のイメージする春の音と一致するという感想です。

 ここからは更に個人的な所感になりますが、この春のセンチメンタルを表現するのにダンスを持ってきたのも大いに共感出来ました。情感溢れる「DITH」というタイトルからして非常に格好良いですし、サビの"Step, Step/どうかまだやめないで/踊るあなたの影をずっと/覚えていたい 忘れたくない/Dancer in the HANABIRA"という歌詞は、旋律との兼ね合い(=音韻的なこと)も含めて完璧な内容だと評します。春の歓びよりも春の憂さをどうにかしたい人間としては、癒しのような歌詞です。

 "Answer in the これから"という部分も好きで、英語と日本語のちゃんぽんだし文法的には破綻しているものの意味はわかりますし、あくまでも音を優先したあたりがダンスミュージックのマナーだという気がするので、意外と真面目でキュートな表現だと思います。


 再度書きますが、『ETERNALBEAT』も『SOAK』も名盤です。フルアルバムを同年のうちに2枚リリースしただけでも凄いのに、そのどちらもハイクオリティなもんだから尚驚き。

 ちなみに前者では「アシンメトリ」「シグナル」「君の夢」「Ribbon」が、後者では「DITH」の他に「WORLDEND」「サタデーナイト」「水中都市」が特にお気に入りです。意識したわけではありませんが、BBSファンだからかやはり中野さんが絡んだトラックを好む傾向にありますね。