多分、風。 / サカナクション | A Flood of Music

多分、風。 / サカナクション

 サカナクションの12thシングル『多分、風。』のレビュー・感想です。今夏に発売されるはずだったものが延期となりようやくのリリース。11thシングル『新宝島』(2015)から約1年ぶりの新曲、待ち焦がれていました。

多分、風。 (完全生産限定盤[CD+DVD])/ビクターエンタテインメント

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 表題曲の01.「多分、風。」は、真木よう子が出演する資生堂「ANESSA(アネッサ)」のTVCMソングとして今年の3月からオンエアされていたので、余計に焦らされた感があります。c/wの02.「moon」も、au×HAKUTO MOON CHALLENGEの応援楽曲なのでダブルタイアップですね。

 完全生産限定盤には100分を超える大ボリュームのBD/DVDが付属。収録曲のレビューだけでは短くなってしまうので、映像作品の内容もあわせてレビューします。余談ですが、限定盤のジャケがLPサイズとは知らなかったので持ち返るのに少し苦労しました。笑


 まずはCD収録の3曲のレビューからいきます。

01. 多分、風。


 記事の公開後にフルバージョンがアップされたので差し替えました。

 キラキラしたシンセに細波のようなドラム、アクセントとなるストリングスと、爽やかな海風を思わせるようなイントロでスタート。サウンドからして本当は夏に出したかったんだろうなということがよくわかるのが心苦しい。

 Aメロは山口さんお得意の旋律だなという感じで、シンセのフレーズと絡み合ってオリエンタルな印象が醸されています。"ショートヘアをなびかせたあの子"というコロケーション的にはそぐわない組み合わせの表現が素敵です。

 Bメロはサビで弾けるための準備が着々と進められているということがわかるキャッチーさで、これぞBメロのお手本という感じ。歌詞もサビで情景描写を心理描写とリンクさせるための布石が打たれているなと思える内容で、これまたBメロらしいと思う。

 サビの場面では実際に風が吹き抜けたのと同時に心の中にも風が渦巻いたのを感じます。乱高下するメロディもまさに風といった趣。基本的には爽やかな風だけど、歌い方も加味すると熱風っぽさもあって実に夏らしい。

 2番の伴奏が大きく変わるのもサカナクションが得意とするところですね。Aメロではベースとシンセが同じフレーズで重なり低音が強調されます。1番の"アップビート"との対比で、2番では"ダウンビート"に風の性質が変わったことが音でも示されていますね。

 そのまま素直にサビに入らず間奏へ。マイクが拾う風切り音みたいなのがヒュルヒュル鳴いているのが細かい仕事で好きです。そしてCメロ的な位置取りのサビが登場。"風"がエコーして空間を埋めていくのが格好良い。そのままラスサビへ入り、熱く爽やかなまま終幕です。

 歌詞もサウンドも青春感に溢れているというか、ジュブナイルな空気を持っている良い曲なので本来の発売日を逃したのが本当に惜しいと思う。真夏一歩手前ぐらいの時期に外で聴きたかった。ただこのレビューを書いている今、10月なのに夏の高気圧が北の低気圧に引っ張られて上がってきたせいで夏日なので、気分としては夏でレビューできました。笑


02. moon

 お馴染みの旋律による"ラララ…"のボーカルはありますが、基本的にはインストです。こういうアンセムっぽい(という表現が伝わるか微妙ですが)曲はライブで体感してこそと思うのですが、リスニングでも充分格好良いと思う。

 月面探査レースと関係がある楽曲なので、サウンドからもフロンティアスピリットを感じます。もちろんスペース感もある。光が乱反射したようなというか宝石が砕けたみたいなキラキラしたシンセの音が印象的。


03. ルーキー (Hiroshi Fujiwara Remix)

 4thシングル『ルーキー』(2011)のリミックス。原曲をあまり壊さずに使っています。ちょっとダブっぽくしてるのかな?よくわかりませんが、リミックスを入れるなら「新宝島」にしてほしかったかな。「ルーキー」は既に石野卓球の良リミックスがあるし、どうせなら新しい曲のリミックスを聴きたかった。



 CD収録曲については以上です。まとめは後で書くので、このまま続けてBD/DVDの内容にいきます。こちらはレビューというより紹介と感想です。一応メモを取りながら観たので大きく間違っていることはないと思いますが、通して観たのはまだ一度きりなので細部に間違いがあるかもしれません。概要はこの埋め込み動画でもわかると思いますが、大きく分けて2つのコンテンツが収録されています。



 1つ目は、今年の6月21日にLINE LIVEで放送されたセッションの模様です。ぼくのりりっくのぼうよみをフィーチャーした「フクロウ」(1stアルバム『GO TO THE FUTURE』(2007)収録)と、「スローモーション」のMVに出演していたLUKAをフィーチャーした「「聴きたかったダンスミュージック、リキッドルームに」」(11thシングル『新宝島』(2015)収録)の2曲が収録されています。

 「フクロウ」(Fukurou Session)は、1番の後にぼくのりりっくのぼうよみによるラップが入っています。段々とメロディアスになっていくのが心地好いです。

 「「聴きたかったダンスミュージック、リキッドルームに」」(Kikidroom Session)は、女性視点で追加された歌詞のパートをLUKAが担当し、山口さんとデュエットするスタイルになっています。歌詞の世界観がより具体的になり、サカナクションとは関係ありませんが6年程前に行ったLIQUIDROOMでの記憶が甦ってくるようでした。

 最後はミキサールームにて山口さんとセッションのお相手両名による締めの挨拶。今回のセッションのちょっとした裏話や、お互いの出逢いの経緯について語られていました。LUKAとNew Orderのライブで逢ったという話がいちばん印象に残った。笑


 2つ目は、BAR サカナクションと題された山口一郎プレゼンツのメンバー想いの企画の様子です。ここにはチャプター名と番号が割り振られているので、それに沿って書いていきます。

1. 開店

 「新宝島」のMVから自然に突入し、山口さんがバーのマスターという設定。丁稚として3代目ディレクターの杉本さんを横に置き、何も事情を知らないバンドメンバー4人が客として座る。企画の趣旨は、この4人について掘り下げようというもの。普段メディア担当は山口さんひとりですからね。笑


2. 思い出の曲、聞いちゃいます!

 企画その1。サカナクションの曲の中で思い入れの深い曲はどれ?というもの。結果だけ載せると…草刈さん:「「聴きたかったダンスミュージック、リキッドルームに」」、江島さん:「セントレイ」、岩寺さん:「白波トップウォーター」、岡崎さん「三日月サンセット」でした。やはり初期の曲が多いですね。

 理由は割愛しますが、それぞれのバックグラウンドが反映された選曲でしたね。流れの中で、あの曲のあの部分は元々別の曲だったという話がいくつか出てきて興味深かったです。いちばん面白かったエピソードはドクダミ刈りかな。笑


3. あの時、君は若かった

 企画その2。メンバーの若い頃の写真を見ようというコーナー。写真セレクトは親御さん。2枚ずつの紹介かと思いきや、トリの江島さんの写真だけ異常に枚数が多いという。笑

 面影がかなりある写真や若い頃から音楽が好きなんだとわかる写真が多くてほのぼのしました。面白かったのは江島さんがお父様のバイクと写っている写真で、メンバーからもつっこまれていましたが、実際に撮られた年代より遥か昔の写真に見える。笑


4. プレゼンツ from 山口一郎

 企画その3。山口さんがメンバーへの日頃の感謝を込めたプレゼントを用意。ただし貰えるのはゲームに勝った1名のみで、負けたら用意されたプレゼントを自腹で買わなければいけないというバラエティ番組的なリスクをはらんだ企画。笑

 ゲームの前にプレゼントの内容についてのVTRがあり、草刈さんにはエステのオーダーメイドコース、岡崎さんには引っ越しのレディースパック、岩寺さんにはビール1年分、江島さんには車が用意(全て予約済)されていることが明らかに。

 山口さんが持てるコネクションを活用し自ら用意したもので、VTRには各企業の人が出演するという本気のプレゼン内容。江島さんのだけ他と桁が違うハイリスクなものですがリターンもいちばん大きいということで、ビールは買ってやるからわざと負けるようにと岩寺さんに取引を持ちかけたのが面白かった。笑


5. SAKANACTION カルト"S"

 カルトQならぬSということで、ゲームの内容はサカナクションに関するカルトクイズ全3問。フリップで回答し正解数を重ねていくスタイル。ネタバレするのもあれなのでここではクイズの内容だけ書きます。

 Q1. 2ndアルバム『NIGHT FISHING』(2008)の発売日は?
 Q2. 上記アルバム制作に使用したスタジオ・ミルクの店長のフルネームは?
 Q3. 1988年の中日ドラゴンズのバッティングオーダー・1番の選手のフルネームは?

 Q1は熱心なファンなら覚えているレベルでそこまで難しくないかもですね。デビューアルバムならともかく、こういうのは当事者のほうが忘れがちなのかもしれません。

 Q2はだいぶ制作サイドに寄った問題ですが、山口さんが「SONGS観てないのか」と仰っていたので、番組の中で取り上げられていたのだろうと思います。恥ずかしながら僕は観ていないので全然わからなかったです。

 Q3はもはやジャンルが違うという感じですが、山口さんが竜党なのは有名ですし「ラジオで100回言ってる」らしいのである意味サービス問題…なのかな?特別に応援している球団はないのですが、強いて言うならパではロッテ、セでは中日が好きなのでわかるかもと思ったんだけど…昔過ぎてダメでした。笑

 余談ですが、山口さんが始球式を務めることになった旨を報じた2011年8月23日の『東京中日スポーツ』はたまたま見かけたのを未だに取っておいてあります。


6. 閉店~これからのサカナクション~

 しばらくカルトクイズに関する不平不満で尺が埋まります。presents(名詞・複数)じゃなくてpresents(動詞・単数)だからという言葉遊び的な責任回避ロジックには感心しました。笑

 今後については、山口さんの持つビジョンとして、ファンサイト限定ライブの実施やサカナクション展の開催が挙げられていました。後者については回顧展ということではなく新作でやりたいそうです。インスタレーション的なことかな?面白そう。

 家電の音を作るというアイディアもいいですね。確かにもっとSFサウンドに溢れていたら日々の暮らしが少し楽しくなる気がする。PSVRも発売になったばかりですが、VRについてもふれていましたね。VRかどうかはともかく、サカナクションがサウンドを担当したゲームがあったらやりたいかも。PS2の『Rez』(2001)みたいな。
 
 ラストは山口さんと杉本さんによる締めの挨拶。このブログを休んでいる間にもサカナクションは更に大きな存在へと成長し、山口さんのメディア露出も激増しましたよね。そりゃシャイじゃなくなるのも頷けます。でもそれを「音楽に魂を売った」と表現するところが流石です。若い人に新たな音楽との出逢いを提供しようと積極的に動いている人は尊敬します。

 以上BD/DVDの内容紹介と感想でした。最後に全体のまとめを書いて終わりとします。


 CD収録曲については、表題曲の01.「多分、風。」は想像よりも良かったです。爽やかなまま通す曲かと思いきや、凝ったアレンジで色んな表情を見せる曲だなと思いました。初聴でも充分良いと感じましたが、聴けば聴くほど良さが増していきますね。

 ただ、全体的には少し物足りないかなという印象です。発売が延期になって一年ぶりの新作ということで僕が勝手にハードルを上げていたせいだと思いますが、01.「多分、風。」はいい曲だし細部へのこだわりも感じるものの大作という感じではありませんし、02.「moon」もいいんですが"ラララ…"のメロディは既知のものだったので新作感が薄かったです。リミックスについてもレビューのところでふれた通りです。

 長く待たされた分、c/w含めてかなり凝った曲が来るのではと予想していたから余計にこう感じるんでしょうね。だから単に僕の予想が外れたというだけの話なんですが、もう1曲ボーカル(歌詞)ありのc/wがあったら嬉しかったと思う。ただ、そのかわりBD/DVDの内容が濃かったので、完全生産限定盤を買ってよかったと思います。

 不満を書き連ねてしまいましたが、それも全て発売が延期されたということに起因すると思うので、内容自体が悪いわけではないということは明言しておきます。

 なんにせよ久々のサカナクションの新曲なので、TVでの露出も含めしばらく楽しみが続きますね。色々新しい試みがあるのは嬉しいですが、そろそろ次のオリジナルアルバムを出してほしいな。