himawari / Mr.Children | A Flood of Music

himawari / Mr.Children

 Mr.Childrenの37thシングル『himawari』のレビュー・感想です。36thから約半年と、近年のミスチルにしては早い間隔でのリリースに驚きました。

himawari (初回生産限定盤)(CD+DVD)/トイズファクトリー

¥1,780
Amazon.co.jp

 本作の収録内容というか構成は前作とよく似ています。『ヒカリノアトリエ』(2017)のレビュー記事も参考にして欲しいのですが、シングルというよりはライブミニアルバムと呼称したほうが適している気がすること、過去曲のライブVer.(Performed by ヒカリノアトリエ)が多く収録されていること、隠しトラックがあることなどが共通点として挙げられますよね。

 前作のレビュー記事の中では、前作を指して「今後の方向性を占う作品と判断していいものかは迷います。一時的な特殊作品かもしれないから」と書きましたが、前述の通り類似性を感じたので少なくとも「一時的」ではなかったようです。


 とはいえ、今作に収録されている純粋な新曲2つについてはヒカリノアトリエ(のミスチル以外のメンバー)が関わっていないので、そういう意味ではやはり前作は特殊作品だったと言えると思います。※前作もそうでしたが、曲毎に詳細なクレジットが書いてあるわけではないので読み違えて変なことを書いていたらすみません。

 「今後の方向性」というのは次のアルバムを想定して出した言葉ですが、全曲ヒカリノアトリエが絡んでくるような1枚が出るかもという予想は本作の存在により外れたことになりますね。アルバム収録見送りやアルバムVer.で変わるという可能性は残りますが、まあないでしょう。

 初回限定盤付属のDVDの中には今後について匂わせる発言があったのでこのあたりのことは後ほどまとめてふれるとして、まずはCDの収録内容から見ていきますね。


01. himawari



 映画『君の膵臓をたべたい』(略称:キミスイ)主題歌。映画の公開はもう間もなくですが、原作も読んだことはないので作品から曲を読み解く類のレビューは出来ないことを先に断っておきますね。作品に絡めた記述は行いますが憶測だということです。

 また、この曲に関しては付属DVDの01.「Documentary Of himawari」で曲の成熟過程を知ることが出来るようになっているので、DVD内の発言を適宜引用していきながらレビューをします。


 まずは歌詞から。"優しさの死に化粧で/笑ってるように見せてる"というインパクトのあるフレーズから始まりますが、同じくインパクト大の映画タイトルに相応しい幕開けの仕方だと思います。

 歌詞の流れはおそらくキミスイのストーリーにも沿ったものとして機能するのでしょうけど、遠くない未来に"僕"の前から居なくなってしまう"君"へ対しての愛の告白といった趣ですね。"君"の強さと美しさ、それとは対照的な迷える"僕"の両者が、鮮やかに描写されています。

 "君"への形容としてタイトルにもある"ひまわり"が出てきますが、"暗がりで咲いてる"ことが重要であるとDVDで桜井さんは仰っていますね。「真夏に咲くひまわりだったら意味がなくて」と。「裏にある陰や哀しさが見えていて欲しい」という旨の発言からもわかるように、「対比」が歌詞のキーであるように思います。

 迷える"僕"の描き方も流石の桜井節で大好きです。2番サビの結び"そんな僕が果たしているんだろうか?"から反語的に"君"への想いの深さがわかる一方で、続く大サビの歌詞は自分を非常に冷静に分析して"邪にただ生きている"と結んでいるという、この二面性も見事としか言いようがありません。


 次にメロディ。これもDVDにおける上掲の発言が絡んできますが、「メロディだけ取ったら(中略)陰を感じにくいのかもしんないんだけど」とあるように、確かにメロだけを取り立てたら熱い想いをぶつける系の歌詞も合うんじゃないかという感じはしますね。たとえば「少年」(2008)のように。ちょうど"ひまわり"も出てくるし。

 この熱量を感じるのは主にサビのメロに対してで、Aメロはそれこそ桜井さんの言葉で言えば「甘いポップソング」らしさがあると感じます。優しい旋律。

 大サビは歌詞の文量が多いからか前半と後半に分かれているような長いメロディになっていますが、こういう自己の内面を読み解いていく歌詞に合わせたドラマチックな展開を持つ旋律というのは、「and I love you」(2005)の大サビを彷彿とさせますね。


 最後にアレンジ。DVDの内容はほぼこの「アレンジについて」が占めていると言っても過言ではありません。桜井さんは初期のアレンジに対して「オーガニックすぎる」「優しさよりも荒ぶる気持ちがもっと欲しくて」という不満を唱えていましたが、それが徐々に理想の表現に近づいていく過程を見る(聴く)ことが出来ます。

 特にドラムの音に関してのこだわりは強く、リバーブの調整をしたりスネアやタムを交換したりと、試行錯誤を繰り返して桜井さんの脳内イメージに近づけようとする努力が垣間見えるシーンが多いです。

 ギターアレンジについて饒舌な田原さんも印象的でした。「歌だけが強い」ことに対して納得のいっていない桜井さんに対しメンバー全員でサジェストしていくシーンは、「バンドっていいな」と羨ましくなりますね。担当楽器以外にも意見を言えるだけの豊富な知識量と気の置けなさにベテランバンドの風格あらわです。

 会話の内容を断片的に拾った推測にすぎませんが、桜井さんが頻りに音が広がらないように注文をつけていたり中川さんがプレべを持ち出そうとしてきているところなどから、骨太なサウンドを志向していたのかなという気がします。


 リスナーとしての率直な感想ですが、確かに「himawari」は今までのミスチルであったらもうちょっとやわらかいアレンジになっていた曲だと思います。しかし歌詞のくだりで書いた通り陰のある曲ですから、それに見合う音というのはか弱いものではないでしょう。

 ストリングスを排しているわけではないので、骨太と言っても渇いたロックは目指していないであろうところに一層のこだわりを感じます。これが直球のロックアレンジだったら、それこそ前掲した「少年」のような真夏感が出てしまう気がするしね。

 個人的にアレンジで最も好きなのは大サビ後のギターソロです。めちゃくちゃ格好良い。そこからラスサビ入りの"だから"に繋がるところがメロディ的にもいちばん好みです。



 以降の3曲は「Hall Tour 2017 ヒカリノアトリエ」からのライブトラックです。ということで当然ですがPerformed by ヒカリノアトリエ。『音楽ナタリー』によると、三重で行われたファイナル公演の音源だそうですよ。

02. メインストリートに行こう

 3rdアルバム『Versus』(1993)からの懐かしい一曲。オリジナルの時点でブラスアレンジが映えている曲だったので、ヒカリノアトリエによる演奏もよく馴染んでいますね。

 歌詞には流石に時代を感じます。笑 …が、そんな中でもお気に入りなのは、1番Aメロの"仲間達がいう程 君って/クールじゃないのがいいね"というフレーズ。この「俺だけが知ってる」という優越感は不変だからね。


03. PIANO MAN

 お次はアルバム10枚分飛んで13th『HOME』(2007)から。そんなに昔の曲だというイメージはないのですがもう10年前か。この曲もヒカリノアトリエによるアレンジを想定した場合にはラインナップに自然に入ってくるであろうと納得できますね。元々サックスの山本さんが参加している曲なので当然かもですが。

 スタジオ音源も勿論素晴らしいけれどライブで更に魅力が増す曲だと思うので、今作に収録されているライブトラックとしてはいちばん好きです。グルーヴが堪らない。

 なかなかメロディが面白い曲ですよね。A/Bメロはスピーディーなんだけど、サビに入ると詰まるような感じになるというか、気だるい感じになるというギャップが好きです。歌詞もその旋律にあわせてか、切羽詰まった感じとリラックスムードが交互に出てくるスタイルになっていて巧い。


04. 跳べ

 1枚戻って12th『I ♥ U』(2005)から個人的に大好きな曲の登場。こういう自己洗脳的な前向きソングこそ僕が最も好きなミスチルです。笑

 特に1番Bメロの"おばあちゃん"のくだりは天才的な歌詞だと思っています。"どういった理由かは分からない/実際 そうだったんだからそれでいい"というプラクティカルな締め方は、割と考えることに終始してしまいがちな僕にとっては金言として響きます。

 2番Bの"ビール"のエピソードも共感出来ますね。ここのくだりも締め方は1番Bと同じなのですが、スピリチュアル寄りの1番とは対照的に非常に現実的な内容を持ってきているのが技巧的だと思います。1番Bで取りこぼしてしまった人をきっちりさらっていく感じがするから。

 年齢を重ねて、"通りを我が物顔して/馬鹿騒ぎしてる若人に/実際はちょっとジェラシー感じていたりします"という一節がとてもよくわかるようになりました。笑 年齢的には僕はギリ"若人"の範疇だと思いますが、大学生の頃にあったような根拠の無い万能感はもう失せたので歌詞の重みが違います。というか、だからこそ自己洗脳が必要なのかもと思うようになりました。


 メロディ構成も変わっていて好きです。2番までは普通に[A→B→サビ]で説明がつくのですが、以降は[変則A→変則サビ]とでも表現したくなるようなユニークな旋律ですよね。異なるメロが出てきているので[C→D(大サビ)]としてもいいのですが、どちらにも既出の旋律(Aとサビ)の面影が残っているから完全に新たなメロとするのもどうかという面白さがある。

 このライブアレンジも格好良くて好きなのですが、"離陸せよ"と"跳べ"のコーラスワークがないのは寂しいかな。笑 そこまで含めてひとつのメロディだという認識でいるので。



 次の1曲もライブトラックなのですがタイトルには日付と場所しか書いていないので「?」でした。またも『音楽ナタリー』に頼りましたが、どうやらONE OK ROCKの横浜アリーナ公演にゲストで出演した際の音源のようですね。それで「2017.4.23 YOKOHAMA」と。

05. 終わりなき旅

 ミスチルの代表曲のひとつで説明不要の名曲ですが一応基本情報を書きますと、15thシングルでオリジナルアルバムとしては7th『DISCOVERY』(1999)に収録されている曲です。

 ライブではお馴染み(?)の歌詞の人称変更が行われており、2番Aの"自分"は"あなた"に変わっています。状況にあわせて歌詞を変えるという細かい気配りにほっこり。

 落ちサビならぬ落ちAメロ(ラスサビ前)部分もかなりアレンジが強いですね。随分ためるなぁと正直当惑しましたが、その場に居たら感動するやつですね。


 歌詞はどこを取り立てても胸に響く完璧なものだと思いますが、現状で最も共感できるのは"心配ないぜ 時は無情な程に 全てを洗い流してくれる"というフレーズです。昔から好きな一節ではあるのですが、これも年齢を重ねれば重ねるほどに深みが増す類だと思うのでより一層沁みます。

 Cメロの"時代は混乱し続け その代償を探す/人はつじつまを合わす様に 型にはまってく"という歌詞も現代でこそより突き刺さるなと感じました。「終わりなき旅」というタイトルに偽りなしだということが、こういう社会を歌った部分にも表れていますね。
 


 ここまでライブトラックが4曲続きましたが、(表記上の)ラストを飾るのはスタジオ音源の新曲です。また、この曲のみ編曲にHiroko Sebu(世武裕子)さんが参加しています。

06. 忙しい僕ら

 以前からライブで披露されていた曲なので満を持しての音源化です。メロディ自体はとても優しくどちらかといえばシンプルなものですが、世武さんによる幻想的なアレンジが力強い彩りを与えているので、全体的には凄くドラマチックな印象を覚える曲ですね。

 歌詞がとても良いです。サビの身近なたとえで表現される無常観も素敵ですが、最も気に入ったのはAメロの"決めて でも迷って/うやむやにして また明日/だらしない僕だが/尚も希望は捨てない"という部分です。"尚も希望は捨てない"まで言及しているのを高く評価します。"だらしない僕"だ、で終わっていたら「まだその段階かよ」と思ったことだろう。

 アレンジ面でのお気に入りは、2回目のサビで"次の場所に"の直前から小刻みになる笛系(フルート?)の音です。先ほど「幻想的なアレンジ」という言葉を使いましたが、この音にいちばん非日常を刺激されます。"次の場所"が美しいところであると予感させるのには充分。


08. 隠しトラック(ファスナー with スガシカオ)

 冒頭にも書きましたが本作にもライブ音源の隠しトラックが存在します。07.の無音トラックを挟んで収録されているのは、スガシカオをゲストに迎えて披露された「ファスナー」です。オリジナルは10thアルバム『IT'S A WONDERFUL WORLD』(2002)に収録。

 スガシカオとの関りが深い楽曲としても有名な「ファスナー」ですが、調べたところ「スガフェス!」(2017.5.6)の音源らしいですね。wikipediaにはソースが載っていませんでしたが、『Musicman-NET』にあるライブレポ記事とも一致する発言があるのであっているはず。


 「ファスナー」という言葉が持っているエロティックな面を綺麗に切り取った大人な楽曲で、歌詞にあるような体験をリアルでしていなかった時分から好きな曲です。笑 初めて聴いた時はまだ中学生だったからね。

 特に"帰り際 リビングで僕が上げてやるファスナー/御座なりの優しさは 今一つ精彩を欠くんだ"という歌詞は、常にではないもののそういう気持ちの時もあるなと大人になってわかりました。

 たとえに"ウルトラマン"や"仮面ライダー"が登場することもそうですが、この曲の歌詞は非常に男性的なのが良いと思います。そこを隠さない歌詞を書けるのも桜井さんの強みだと、男としては支持したいです。"欲望が苦し紛れに/次の標的(ターゲット)を探している"なんて結構ひどいよね。笑

 これも女性には申し訳ないですが、"でもそれが君じゃないこと/今日 僕は気付いてしまった"という嫌な発見は確かに存在します。まぁこれは女性から男性に対しても同じくでしょう。"僕の背中にも"、"君の背中にもファスナーが付いていて"というテーマですから、お互い様ですね。


 スガシカオに関しては4thアルバムの『SIMLE』(2003)と19thシングルの『19才』(2006)しか持っていないのでなんとなくでしか語れませんが、「ファスナー」がスガシカオっぽい曲だというのはとてもよくわかります。それこそエロティシズムが漂うあたりが。

 アンニュイな感じのコード感とメロディも共通要素でしょうか。斜に構えている感じが出ているというか、或いはダークサイドに落ちかけているのを良しとしている感じというか…明るすぎず暗すぎずの絶妙なラインをついていると感じます。



 以上、新曲2・(隠しトラック含めて)ライブトラック5の計7曲でした。『ヒカリノアトリエ』のレビュー時と同じことを書きますが、収録時間的にはミニアルバムぐらいの分量なのでシングルとしてはお得な内容かと思います。しかも今回は新曲が2つあったからより嬉しい。

 01.「himawari」と06.「忙しい僕ら」は、両曲ともじわじわ来るタイプの良い曲だと思います。一発でドーンと心に響くというよりは、噛み締めたくなるような良さを持っているなと。歌詞の素晴らしさは相変わらずですし、制作のこだわりについてもDVDで確認できたので満足です。

 ライブトラックの選曲も個人的には嬉しい内容でした。『ヒカリノアトリエ』収録のライブトラックとあわせると、なかなかモンスター級の曲が揃い踏みしたなという感じですよね。



 以降は初回限定盤付属のDVDの内容を見ていきます。収録されているのは、01.「Documentary Of himawari」および02.「君がいた夏 (25th Anniversary Day - 2017.5.10 NAGOYA -)」の2つです。

01. Documentary Of himawari

 CDの01.「himawari」の項で書いたことと重なりますが、曲の成熟過程を知ることが出来るようになっているドキュメンタリーです。アレンジ面に対するこだわりがメインですね。

 具体的な内容についてはほとんどCDのところでふれてしまったので、ここでは冒頭に書いた「今後について匂わせる発言があった」という件について書こうと思います。01.のイントロダクションにあたる部分で桜井さんの口からこの件について語られているので。


 発言を要約しますと、「ホールツアーの曲は手作りのあったかさを目指していて、それを通じてバンドとして成長できたのだけれど、ずっとそれをやっていると飽きちゃう」というものでした。

 これは「今後の方向性」に関する重要なヒントですよね。冒頭の段階では深く切り込みませんでしたが、「全曲ヒカリノアトリエが絡んでくるような1枚」という表現は、僕としては「そうなったら嫌だな」という含みを持たせていました。

 決してヒカリノアトリエによるアレンジが嫌だというわけではないんですよ。それは本記事および『ヒカリノアトリエ』のレビュー記事をご覧いただければわかると思います。ただ、もしも次のアルバム全体がこの「手作りのあったかさ」に満ちていたとしたなら、おそらく僕は違和感を覚えたはずです。

 実際にどうなるかはわからないのでこの話をこれ以上拡げることはしませんが、ヒカリノアトリエによるパフォーマンスはホールツアーだからこそ活きるものであったというのは確かだと思います。

 その成果の一部をこうしてc/wにパッケージすることで区切りとし、次アルバムでは更に別次元へとシフトしたミスチルが見られることを期待しています。「次の僕らが楽しみ」という桜井さんの言葉は、ファンとしても同じです。


02. 「君がいた夏 (25th Anniversary Day - 2017.5.10 NAGOYA -)」

 5月10日といえばミスチルのメジャーデビュー記念日。2017年は25周年目にあたります。ということで「Anniversary Day」なわけですね。

 場所は名古屋ですが、本来3.16に行われるはずだった公演が延期となったためその振替公演からの一曲だという側面もあり、ドラマチックな日に行われたというスぺシャル感に満ちています。

 ということで特別に披露されたのは1stシングル曲の「君がいた夏」(1992)です。アルバムからのリカットなのでメジャーデビュー作というわけではありませんが、メジャーデビューアルバムのリードトラックということで代表的といえますね。


 25年前の曲ですが今のミスチルが演奏しても特に違和感がないのが凄いと思います。楽曲が元から持っているポテンシャルが高いゆえでしょう。

 歌詞の内容は5月10日はそぐわないものですが、リカット日は8月21日なので当時はタイムリーだったと思われます。しかし現在は残暑が厳しすぎるからこの曲が似合うシーズンはまだまだ先だな…と思えてしまうあたりに時の流れを感じますね。笑

 そんな2017年現在、奇しくも25周年同士ということでミスチルとNTTドコモのコラボCMが流れていますが、この「君がいた夏」も25周年ムービーに提供された楽曲のひとつとなっているので、また新鮮な気持ちで聴くことが出来るようになっているのが上手いです。

 それにしても25年を経てタイアップがつくとは。これは長く愛されているからこそ出来ることなので、いちファンながら感動も一入です。