無限未来 / Perfume | A Flood of Music

無限未来 / Perfume

 Perfumeの25thシングル『無限未来』のレビュー・感想です。前作『If you wanna』(2017)から約7ヶ月ぶりのシングルリリースとなります。


 表題曲は先日封切になったばかりの映画『ちはやふる -結び-』の主題歌でもあるので、レビューの前に『ちはやふる』という作品について少し語らせてください。

 …と言っても、僕は現在放送中のTVアニメ『ちはやふる 秀歌撰』(セレクション再放送+OAD初放送)にて初めて同作品にふれたという日が浅いファンなので、作品内容に対する突っ込んだ感想は書けません。しかし、数話抜粋形式にもかかわらず面白いと思えていることから、それだけエピソードやキャラクターが丁寧に描かれているのだろうという所感を抱いています。

 それらの良さを踏まえての話ですが、山下康介さんによる劇伴も素晴らしかったです。特に『「ちはやふる」メインテーマ』は曲名に違わぬ印象的なフレーズを携えており、旋律を共有するいくつかのアレンジナンバーとあわせて、シーン毎の色付けの違いを楽しむような聴き方が出来る作りになっているところが良かったと言えます。ちなみにキャラソン集としては、奏ちゃんの「乙女の恋は蝶結び」(『第2首』に収録)が好みでした。『ちはやふる2』のサントラにもいずれ手を出そうと思っています。


 媒体はアニメと映画で異なれど、メディア化に於いては音楽にも恵まれているというのが、『ちはやふる』の長所だと言えるでしょう。映画は副題に「結び」を冠する今作が三作目にあたり、過去には「上の句」及び「下の句」が公開されていますが、この前二部作の主題歌「FLASH」(2016)もPerfumeによるナンバーであったため、連続起用という事実からも制作陣の音楽に対する本気度を窺い知ることが出来ますよね。ということで、ここからは具体的に楽曲の中身を見ていきます。


01. 無限未来



 『秀歌撰』ではEDの後にスペシャル映像として、毎回異なる「結び」の宣伝ムービー(8回目の放送にはPerfumeも出演)が流れるのですが、この手の映像で主題歌を流す場合は、普通サビにあたるパートが印象的に使われるものだという理解でいます。しかし本曲に関しては、Aメロ部分が目立つような使用法になっていることが多い印象です。邪推ですが、これは広報担当が一般受けを意識したからではないかと思っています。

 いきなり回りくどい説明から始めていますが、要するに本曲は「J-POP的なマナーで作られておらず、EDM的なトラックメイキングになっている」ということを主張したいがゆえの書き出しです。先に「Aメロ」という言葉を出したように、本曲を【A/B→サビ】のオーソドックスなJ-POPの楽想と分析することも勿論可能ではあります。しかし個人的には、Bメロはビルドアップ/サビはドロップと表現したい;つまりはEDMの用語で説明したほうが据りが良いとの解釈です。


 「EDMに於けるサビをドロップと呼ぶ」のは説明としては外していないと思いますが、「EDMのドロップを一般的なJ-POPのサビと同じ」とすることには違和感を覚える方も多いのではないでしょうか。散々言われていることだという気もしますが、ダンスミュージックは必ずしもサビで主旋律(ボーカルライン)を盛り上げる必要がないんですよね。むしろサビの主役はバックトラック(たとえば特徴的なシンセリフや派手なリズムパターン)という場合もままあるかと思います。こういうケースを区別するためにも「ドロップ」という言葉は便利です。

 「無限未来」にもこの傾向が当て嵌まるという理解から、「EDM的なトラックメイキング」と表現しました。聴けば瞭然ですが、歌詞としてもメロとしてもいちばん情報量が多くてメロディアスなのはAメロです。Bとサビは歌詞を一部共有しているところからもわかるように連続性を備えていて、それがまさに【ビルドアップ→ドロップ】の演出になっていますよね。そして肝心のサビは、最も目立つサウンドは何かと問われれば、歌よりもシンセと答える人が多いであろうと予想出来るくらいには、印象的なトラックメイキングだと思います。

 この「サビで敢えてボーカルの情報量を減らすドロップ的なアプローチ」は、中田ヤスタカひいてはPerfumeが積み上げてきたものがあるからこそのチャレンジ精神に立っているのだと、ファンとしては即座に理解出来る試みですが、興行収入やらの具体的な数字を意識しなければならない映画製作サイドとしては、一般受けも考えるというのは至極当然のことです。…と、このような流れがあったかどうかは妄想の域を出ませんが、諸々を鑑みて「Aメロパートを推そう」という結論に至ったのではないでしょうかね。結果としては、美麗な緊迫感の漂う予告映像にもよくマッチしていましたし、個人的にも「なにこの清廉なAメロ!」とAに惹かれたのがファーストインプレッションであったため、好判断であると評価しています。




 長々と書いていますが、あまり楽曲自体のレビューをしたという気がしないので、最後はストレートな言及を。

 上にも書いた通りですが、本曲で最も好きなのはAメロ部です。旋律の美しさやアレンジの神秘性も然ることながら、情報量の多い歌詞がとりわけ印象に残ります。冒頭の"時間を止めて 瞬きも見える/目を凝らす未来 印象 連続 天の上"からしていきなり格好良い。特に後半部は、助詞の省略というか体言の連続が旋律を一層勢い付けているので、鮮やかな聴き心地を誇っているところが好みです。

 "光"と"加速"に纏わる表現も出てきますが、これは「FLASH」の歌詞に登場する"Lighting Speed"を彷彿させますね。先の"時間を止めて"もそうですが、競技かるたというハイスピードなスポーツの一瞬一瞬を見事に切り取っていると言えます。


02. FUSION



 c/wは、NTTドコモとのコラボプロジェクト「FUTURE-EXPERIMENT VOL.01 docomo×Perfume 距離をなくせ。」のタイアップソングです。埋め込んだ動画がまさに企画の産物なので、観れば趣旨もなんとなくは理解出来るとは思いますが、簡単に言えば遠く離れた三都市に点在するPerfumeメンバーのダンスを、ドコモの最先端通信技術で同期させ、あたかも同一ステージでパフォーマンスしているかのように見せるという試みです。この模様はインターネットで生中継され話題を呼びました。僕は去年の暮れにNHK総合でO.A.された『Perfume × TECHNOLOGY 2017』という番組で観たのが初だったかと記憶しています。

 このような企画の性質上…とまで言うのはやや飛躍した分析かもしれませんが、映像作品として観た場合のメインはダンスパフォーマンスであることから、そのために書き下ろされた「FUSION」もダンスに重きを置いたトラックという感じで、一応ボーカルは存在するものの、半インストナンバーとして扱った方が適しているような楽曲です。それはc/wに「- Original Instrumental -」バージョンが収録されていないことからも裏付けられると思います。

 「半インスト」という括りの中で言うなら過去にも「Speed of Sound」(2009)みたいな曲はありましたが、「FUSION」のほうがよりストイックだと言えますし、何よりここまでダーティーなサウンドを携えているナンバーは今までになかったと思うので新機軸ですね。イントロの段階では「A面のタイアップ先にあわせて和風か?」という予感が頭を過ったのですが、ベースラインが主張を強めてからは、同じヤスタカ作品で言えば『LIAR GAME』のサントラに入っていそうな緊張感があるなという感想に変わりました。笑


 楽曲自体は非常に好みで、なんなら01.よりも好きかもしれないというぐらいですが、01.の項でも書いたように「無限未来」はEDM寄りのナンバーで、所謂J-POP的なキャッチーさを備えているとは言えないものでした。それもあって、てっきりc/wには素直にポップな楽曲が収録されると予想していたのですが、まさかA/B面共にサウンドをダンスに全振りしてくるとは意外だという感想です。

 中田ヤスタカというプロデューサー兼コンポーザーの嗜好や狙い、或いはPerfumeが築き上げて来たアーティスト像を考慮すれば何も意外に思うことはないのでしょうが、セールスを意識するならばなかなかに攻めたディスク内容だと思います。Perfumeの対外的な認識としては、「芸能事務所に所属するアイドルグループである」というのも事実のひとつですが、この認識に近い側の権力者からの申し出;有り体に言えば「もうちょっとキャッチーに出来ない?」といった類の注文が存在して、A/B面のバランスが決定することもあるのかなと認識しているので、「無限未来」と「FUSION」とは別のキャッチーな曲(過去曲のリミックスでも可)を収録しそうなものなのにと、素人考えながら予想していたので。


03.は、01.の「- Original Instrumental -」です。


 以上、インストを除いて全2曲でした。02.の項の終盤で書いた内容がそのまま本作に対するまとめとしても機能するので、それをもって総評の代わりとします。

 結局のところ楽曲を気に入ったのかどうかがわかりにくいレビュースタイルになってしまった気がしますが、01.も02.もPerfume/ヤスタカファンとしてというより、いちダンスミュージックフリークとして好みだったという感想です。これを是とするかは見解が分かれるでしょうが、個人的には良しとしています。