今日の一曲!capsule「Starry Sky」【平成19年の楽曲】 | A Flood of Music

今日の一曲!capsule「Starry Sky」【平成19年の楽曲】

 【追記:2021.1.5】 本記事は「今日の一曲!」【テーマ:平成の楽曲を振り返る】の第十九弾です。【追記ここまで】

 平成19年分の「今日の一曲!」はcapsuleの「Starry Sky」(2007)です。8thアルバム『Sugarless GiRL』収録曲。小文字時代のトラックなので、アーティスト名は表記揺れではありません。

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 一昨年に更新した「今日の一曲!」では、この前年にリリースされた7th『FRUITS CLiPPER』(2006)の表題曲をレビューしました。そこに記した「初期のフレンチポップやラウンジっぽい雰囲気だった頃からバッキバキのエレクトロにシフトしてく過渡期の作品のひとつ」との言は、本作にも適用されると考えています。

 当時のダンスミュージック界隈の流行として、エレクトロはキーワードたり得るものであるとの認識で、後にEDMが台頭してくることも踏まえた悲哀については、別アーティストの特集記事の冒頭部に詳しい持論を載せてあり、そこにはカプセルへの言及も含まれるため(文脈としては後年の作品に対するものですが)、参考までにリンクしておきます。


 僕がカプセルの音楽に惹かれたタイミングは意外と古く、先に「初期」とした期間に含まれる2002年;具体的には5thシングル『プラスチックガール』からのファンです。このことは今までにもそれとなく匂わせていて、自分の音楽的ルーツの紹介が含まれる記事に於いては「●中学時代」に名前を載せていますし、9年前のMEGの記事にも「ヤスタカ好きもcapsuleがエレクトロ転向する前から」と書いています。

 ここから更にルーツを辿ると、リリース年が平成より前の楽曲にふれることになりますが、幼い頃に親の影響で耳にしていたフレンチポップの王道、France GallやSylvie Vartanに行き着くことになるでしょう。特に後者は、有名曲「Irrésistiblement」(1968)が2001年の映画『ウォーターボーイズ』の影響で再ヒットしたことで、中学生の時分に再び多く聴く機会に恵まれたため(校内放送でもヘビロテされていた思い出がある)、その延長線上で初期のカプセルの音も気に入ったのではと推測します。当時はこのような背景まで意識していなかったはずなので、私事ながら曖昧な表現ですみません。また、今回の振り返りの第十二弾でも、音楽遍歴に纏わる自分語りを披露しているのですが、そこに述べた「電子音楽好き」の面も加味すると、過渡期のカプセルはまさにドンピシャのサウンドを奏でていた存在だと言えます。


 こうして詳細に振り返ったのは、本作がリリースされた当時に僕が受けた衝撃を鮮明にしたかったからです。カプセルが本格的にエレクトロに傾倒したと言えるのは、同年中にリリースされたリミックス作品『capsule rmx』(2007)および9th『FLASH BACK』(2007)だと捉えているので、音から判断可能な感覚的な理解にあわせるならば、この辺りにボーダーを設けるのが正確なのではと思います。

 しかし、初期カプセルの「レトロフューチャリスティックでお洒落なイメージ」を好んで聴いていた自分が、その要素を確かに感じさせつつも全く新しい世界観が提示されていると、感銘を受けたアルバムが『Sugarless GiRL』で、これを象徴するトラックが「Starry Sky」であったと強く印象に残っているため、個人的には8thこそが精神性としてのエレクトロの萌芽にあたるとの考えです。


 ここまでが全て前置きという間怠こしさで恐縮ですが、ぼちぼちトラック自体の掘り下げに入るとしましょう。散々エレクトロを連呼しておいて何ですが、本曲のつくりにはロック的なアプローチが窺え、それを最たる特徴と見做しても過言ではない気がします。

 冒頭にリンクした7thの記事にも、その次に挙げた別アーティストの記事にも関連記述がある通り、エレクトロにロックを掛け合わせるスタイルが、ゼロ年代後半のダンスミュージック界隈では流行していた記憶があるので、狙い目と言えばそれまでかもしれません。このクロスオーバーの性質上、以降でギターとして表示する音は、実際はシンセによるものである可能性も否定は出来ず、「演奏装置としてはギターが想定される」程度の意味合いになると留意してください。別アーティストの記事になりますが、過去にこの手の同定のややこしさに関する一考を載せたことがあるため、気になる方は参照していただければ幸いです。


 イントロおよびアウトロのシンプルながら力強いギターサウンドには、ロックを通して覚えるような衝動と高揚感がありますし、表題の"Starry sky"の後に来るギターソロも、そのメロディアスなライン自体をサビだと認めたいような大きな存在感があり、後年のEDM用語を使えばドロップと呼ばれるセクションかもしれませんが、この頃の感覚としてはロック的なマナーの楽想であると僕は捉えていました。

 歌詞のある部分を文字通りヴァース(A/Bメロ)として、ソロの部分をコーラス(サビ)とする分解の仕方、もしくは歌詞のある部分全体をサビとして、それを印象的なリフで繋いでいるという見方もあるかもしれませんが、いずれにせよこの展開にはロック性を感じます。"Today, starry sky"の裏から伏線的にギターがインしてくるのも、らしいよなと。

 一部歌詞を引用したので補足しますと、本曲が収められている8thからカプセルは歌詞カードを完全に排するようになったので(厳密には7thからですが、同盤は帯の裏に歌詞が載っていました)、本記事に示す歌詞は聴き取ったものを自分流で文字に起こしただけに過ぎないことをご了承ください。複数の有名な歌詞検索サイトには一応本曲のページはありましたが、引用元にはしませんでした。


 とはいえこれはあくまでも楽想への言及で、加えていちばん目立っている音を取り立てただけに過ぎません。その実トラックの骨子自体はきちんとエレクトロしていますし、踊れるダンスチューンであることには間違いないでしょう。ベースの分厚さもキックの強さも申し分なく、序盤に登場する歪んだボーカルトラック(0:30~1:30)の挿入も、目指す先に電子音楽があるからこそだなと思います。

 これらが混然一体となってグリッターなサウンドスケープを生み出し、表題に偽りなしの「星空感」が醸されている点が殊更に素敵です。星や銀河をモチーフとするダンスミュージックは、クラブシーンに於ける普遍的な感性に由来している(=暗いフロアに輝く照明が宛ら宇宙を思わせる)からか世に多く存在するイメージですが、「Starry Sky」が燦然たるマスターピースであることに疑いの余地はありません。