今際の死神 / 林原めぐみ | A Flood of Music

今際の死神 / 林原めぐみ

 林原めぐみの42ndシングル『今際の死神』のレビュー・感想です。椎名林檎が楽曲を提供したディスクなのでブログテーマは"椎名林檎"で書きます。

今際の死神/King Records =music=

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 椎名林檎×林原めぐみの作品は前作(41stシングル)『薄ら氷心中』(2016)以来ちょうど1年ぶり。「薄ら氷心中」はTVアニメ『昭和元禄落語心中』第一期のOP曲でしたが、「今際の死神」は現在放送中の第二期『昭和元禄落語心中―助六再び篇―』のOP曲で、タッグ再びということですね。


 CDの背には『今際の死神/命の息吹き』と書いてあるのでてっきり両A面かと思ったのですが「命の息吹き」はc/wみたいです。ということで早速この2曲を見ていきましょう。

 ちなみにアニメは観ていないのでそっち方面からのレビューは出来ないです、悪しからず。聞くところによるとかなり面白いそうですが第一期を観ていないので…。


01. 今際の死神



 仏題は「le faucheur dans le lit de mort」。"le lit de mort"、直訳で"死のベッド"ですが日本語の"死の床に就く"と同様の表現法で"臨終=今際"を指すんですね。


 イントロはなしでいきりなり歌唱開始。時計の針が刻まれる音はまさに死へのカウントダウン。ストリングスが更に緊張を煽る序盤の展開は斎藤ネコカルテットお手の物ですね。

 最低限の構成という感じの曲なので1番Aメロは2行で終わり直ぐサビへ。サビは一転して華やかな生("せい"、以降も全て"せい"です)の印象が顔を出します。歌詞もサビでは生の儚さにフォーカスを当てた内容と受け取れます。


 サビも2行で終わり再びAメロへ戻り、また死を意識させられる内容に。この構成ならヴァース―コーラス(+ブリッジ)で説明したほうがいいかもですね。ヴァースで死にコーラスで生にと、命を弄ばれているような感覚に陥ります。

 脱線してしまいますが"苟且"で"かりそめ"と読むとは知りませんでした。音読みで"こうしょ"と読んでも意味は同じだそうです。普通は"仮初"だよね。


 2番のサビの歌詞からそのまま続いて雪崩れ込むようにブリッジへ突入。"どんな刻も行当りばつたり/ぶつつけ本番の大博打、伸るか反るか"という"人生"観には凄く共感できる。

 間奏はフルートとハープがとても綺麗で天上が覗けそうな神々しさがありますね。続いて落ちサビへと移行しますが、ここの"燃え尽きてしまふぞ、消えてしまふぞ"のバックで緊迫感を持って響いているのがチューブラーベルでしょうか。同楽器の担当は椎名林檎というファンサ精神ににやり。

 ラストはピアノがとにかく格好良いですね。ここからは"愛した貴方"のことさえ思い出せないという哀しい常(だと僕は思う)について歌われています。"縋つた袂"という言葉が胸を締めつける。そのまま"有耶無耶に闇の中"へと消えて曲は終了。



02. 命の息吹き

 仏題は「souffle de vie」。"命のスフレ"なんて随分可愛いなと思ったのですが、料理のスフレが"souffler(~を膨らませる)"から来ているんですね。なるほどそれで"息吹き"と。


 こちらは01.「今際の死神」と異なり明るい生の方向へと振り切った曲ですね。楽器隊はドラムス、ベース、ピアノ、フルートの4種でその全ての演奏が素敵過ぎる。オケだけ聴いても素晴らしい出来です。

 サビ始まりの曲ですが、このイントロゆえに抑えられたアレンジと可愛いメロディの組み合わせを聴くと、椎名林檎が他アーティスト(特に女性ソロ)に提供する時のこだわりのようなものが垣間見える気がするので個人的にツボです。笑


 同日中の追記というか訂正です。この記事をアップしてから数時間、ここには最初歌詞の"尊いもの"についての感想を書いていたのですが、歌詞の意味を読み違えておかしなことを書いていたと気付いたので当該の部分は削除しました。

 入れ子構造になっている文で改行位置も独特だったので…という言い訳をはさみますが、"いつも素性を明かしてゐる"のは"花"であって、"ちやうどこの蝶のやうに/渇いた貴方"でひとくくりだったと後で気づきました。

 2番も同様、"いつも無言でかまへてゐる"のは"山"で、"ちやうどあの雲のやうに/潤んだ貴方"が正しい理解でした。物の性質を考えたら普通はこう解釈しますよね…醜態を晒してしまいました。

 しかし依然好きな表現であることに変わりはないので、むしろ誤解も楽しめて一石二鳥であったと前向きに処理します。笑



03.~04.は各曲のOFF VOCAL VERSIONです。


 以上カラオケ除く全2曲でした。個人的には前作「薄ら氷心中」とc/wの「我れは梔子」よりも今作の2曲の方が気に入りました。前作も嫌いではないけどね。

 そんな前作に引き続いて今作でも再び思いましたが、流石林原めぐみさんと言うべきなのでしょう、椎名林檎の楽曲にめちゃくちゃマッチしている歌声ですよね。何の違和感もない。ボーカルアルバムを1枚出してもいいぐらいに思います。