&DNA / パスピエ | A Flood of Music

&DNA / パスピエ

 パスピエの4thアルバム『&DNA』のレビュー・感想です。去年は3枚のシングルと映像作品のリリースのみで、2010年から数えて初めてアルバム(ミニ含む)の発売がない年だったので満を持してという感じがしますね。

&DNA(初回限定盤)/ワーナーミュージック・ジャパン

¥3,500
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 初回限定盤を買ったのでDisc 2のMV集についても紹介しますが、通常盤が安く設定されているとはいえ20曲分の映像が入って3,500円とは随分良心的だなと思います。もう千円高くても納得だし、普通ならクリップ集として独立したプロダクトにしそうなものなのに。


 それはさておき、当ブログにおけるパスピエの初登場は8thシングル『メーデー』(2016)のレビューにてでした。ごく簡単なアーティスト紹介もリンク先で済ませてあるので参照してください。

 ということで珍しく前置きなしで早速レビューに入ります。まずはDisc 1の全12曲を見ていきましょう。


01. 永すぎた春

 7thシングル(両A面)で、お得意の和の作風が前面に押し出された曲。特にAメロの祭囃子のような雰囲気は実にパスピエらしいです。

 歌詞は諸行無常や盛者必衰がテーマでしょうか。何れにせよ取り残された側の心情が歌われている気がします。特に印象に残ったのは"等身大の自分なんて何処にも居なかった"という一節。

 "等身大の自分"という言葉は通常ポジティブな意味合いだと思うので、それが"居なかった"となるとネガティブな発見のように聞こえますが、"等身大の自分"に自分の限界を悟るといった諦観の念が含まれているとしたら、そんな自分を縛る枠はなかったと解釈すれば前向きなフレーズではないでしょうか。


02. やまない声

 心をかき乱すようなピアノが切ないナンバー。別れの予感を覚えつつも関係が続いているときのヒリヒリした空気が表現されていると思います。

 "やまない声"というのは何か決定的なフレーズのリフレインのことでしょうかね。ラスサビ前Bメロの歌詞からすると、"言いかけて"実際には発せられていない言葉のことかもしれません。

 最後の言葉や表情というのは強く脳裏にこびり付きますからね。それまでを水泡に帰すようなところはまさに"毒"。せめて"傷になれ"という想いはよくわかります。ここの文脈からすると、タイトルは"病まない"も掛けているような気がする。


03. DISTANCE

 本作の中でいちばん気に入りました。少し古い年代のJ-POPを思わせるメロディラインに懐かしい気分にさせられましたが、バンドサウンドで巧く再構築されているので古臭い印象は受けません。

 特にキーボードが良い味を出していて、落ちサビ前("届かない"の後)で醸される孤独感・空虚感が堪らなく好きです。ここから僅かにディストーションされた落ちサビに入る流れも素敵。

 古いJ-POPと表現したこととも関係しますが、全体的にシティーの空気を纏った曲だと感じました。"賑やかな静寂"というのも大都市ならではの一節に思えます。

 街や人波のど真ん中に居ながら周囲が消失したような気分になる…あれが"一人きりのディスタンス"じゃないかな。実際の距離ではないから"形のない"や"ありもしない"と表現され、"感じているのは言い訳"や"決めつけることの方が楽"と結ばれるのでしょう。


04. ハイパーリアリスト

 7thシングル(両A面)。ここまで切ない曲の連続だったので、ここで未来志向の明るい曲が据えられるという流れはナイスです。シングル曲が流れの中で化けるパターンの一つ。

 歌詞と照らすと「ハイパーリアリスト」ってタイトルが面白いと思う。"もっとリアルに鮮明に描くよ"とあるので美術用語のハイパーリアリズムは意識されていると思いますが、単純にリアリストをハイパーで強化した語だと捉えると、夢想家のような内容とのギャップに皮肉めいたものを感じます。

 まぁハイパーを"超"と訳せば"~を超えて"ということになるので「ハイパーリアリスト」の主張が夢想家めいたものになるは自然だと思いますが、訳しちゃうと超現実主義者(=シュールレアリスト)と混同しそうになるので英題のままのほうが吉かな。統語構造が違う("超|現実主義者"と"超現実|主義者")とわかっていてもね。


05. ああ、無情

 ユゴーの『レ・ミゼラブル』(1862)ですか。自己顕示欲に塗れた現代人の哀れということで付いた題かな。このブログも見る人によっては哀れな産物に映ることでしょう。"過剰な賛美が欲しくて"とまで思っちゃうと怖いですけど。

 間奏やソロで楽器隊が奏でる旋律がサビのメロと同じ(一部を共有している)曲というのは疾走感を生みやすいと思いますが、この曲も最初から最後まで一気に突っ走る感じが出ていますね。"でもそれでも言葉は/止まってくれないんだよ"というコンセプトがサウンドにも出ているみたい。

 
06. メーデー

 8thシングル曲。レビュー済なのでここでは割愛します。リンク先を参照してください。


07. マイ・フィクション

 本作の中では地味な印象で箸休め的な曲だと思いました。派手な装飾はない落ち着いたサウンドで、"マイ・フィクション"らしさというか"現実"らしさをイメージしているのかもですね。

 "フィクション"に憧れているのに"現実"に邪魔されるというもどかしい内容ですが、"マイ・フィクション"をどうするかは自分次第という夢は残してあるように思います。"熱が冷めても誠実だよ"という表現も両者への揺らぎを見事に捉えていて素敵。


08. スーパーカー

 "ドラマか映画のような話"と歌詞にあるようにSFじみた世界観が印象的な曲。"なあそうだろ"と男性目線を思わせる言葉遣いにも意表を突かれた。"スーパーカー"というのも男っぽいチョイスではある。

 こういうサビのメロディは地味なのにアレンジに疾走感がある曲は大好物です。ここでいう地味とはAメロ→Bメロの積み重ね方から予想されるサビのメロディと比べてという意味なので、地味じゃないじゃんという反論があったとしてもごもっともです。


09. 夜の子供

 パスピエお得意の童謡っぽい曲。"子供"を含むタイトルにテーマが"影踏み"なので本当にありそう。優等生なメロディというか聴いていて安心できる旋律です。

 "影踏みできない夜の子供は/夕やけこやけを想って泣いた"という歌詞、純粋さに成程と思いつつも何処か怖い印象も持ったので、こういうところも童謡らしいと思いました。

 間奏のキーボードソロがすごく好きです。音は可愛らしいけど旋律からは日が落ちていく時の焦りが感じ取れるよう。ぽわーんと響くギターからも傾いた日の映像が目に浮かんできます。熱の揺らぎを思わせるからでしょうか。


10. おいしい関係

 楽器隊が楽しげで良い意味で子供っぽいアレンジの曲ですが、反して歌われている内容は大人の関係についてというギャップ。"ご都合主義で甘さ控えめがいい/ふたりの関係"とは上手く描写したなと感心。

 ギブ&テイクというか持ちつ持たれつというか、そういう割り切りや許容する気持ちというのが実は"スープ"を冷まさない秘訣だということをお互い分かっている感じが逆に純愛的なね?笑


11. ラストダンス

 イントロからしてニューウェイヴ全開って感じですね。"あなたが居なくなって"から始まるのを考えると、10.「おいしい関係」が意味深に思える曲順。

 ラストを冠していることからも事実上はこの曲がアルバムのストーリーの最後を飾っていると思います。次の12.「ヨアケマエ」は新章のプロローグという感じがするので。

 01.「永すぎた春」から抜け出して02.~10.まで色々あったけれど結局"わたし一人になった/なっちゃったみたいだな"と結ばれるのは切ないですが、サビの歌詞は確固たる自己は見失っていないぞという強さを伴って響いてくるので孤高な印象を受けました。

 "終わりが先にやってくる/明けない夜に横たわる"。この二行が文脈上繋がっているかは定かじゃないですが、12.で登場する"正しい夜明けを迎え"るためにはまず"終わり"が必要だということでここに配置されたダンスナンバーだと解釈。


12. ヨアケマエ



 6thシングル曲。11.でもふれましたが本作中では"正しい夜明けを迎え"るための新たな始まりの歌という役割を担ったと思います。革命前夜の歌と言ってもいいでしょう。

 シングルで初めて聴いた時はあまりピンときませんでしたが聴けば聴くほど好きになっていった曲で、こうしてアルバムの最後に据えられて尚良いなと高評価です。

 勇壮な旋律とアイロニックな歌詞が合わさって焚きつけられたような気分になるAメロも好きだし、歌詞通り"スマート"で美しい流れを持ったメロディのサビも大好き。障害を颯爽と躱していく様が目に浮かぶようです。



 以上全12曲でした。パスピエといえば和+ニューウェイヴのイメージですが、今作はニューウェイヴに比重が置かれているなと思いました。和を感じたのは01.「永すぎた春」と09.「夜の子供」ぐらい。

 とはいえその他の曲にも和の要素はあると思います。厳密にいうと現代日本という意味での和。歌詞の内容は現代に根差したものが多いように思うし、ニューウェイヴを前面に出したサウンドこそ今の時流や現代人に合っていると主張したいので。

 シングル曲を除くといちばん好きなのはレビュー中でも書いた通り03.「DISTANCE」で、次いで11.「ラストダンス」、05.「ああ、無情」、08.「スーパーカー」が好きです。

 距離を感じる切ないダンスチューンがツボだということがありありとわかってしまうラインナップで我ながらわかりやすいわ。笑


Disc 2

 続いてDisc 2のMV集をレビューというか紹介。あまり記事を長くしすぎるのも何なので各曲の映像についてのみなるべく手短に言及するようにしました。

 記事を重くするのも嫌なので埋め込みは最低限に。気になる方は直接YouTubeへ飛んでください。ほとんど(というか全部?)あります。また、多くの作品がDirected by 松本剛さんなので特筆がない限りは松本さん監督作です。


01. 電波ジャック

 ボーカル・大胡田さん監督作。コマ数の少なさや紙の汚れが見えるような自主製作感が堪らないです。笑

02. トロイメライ

 これも大胡田さん監督ですが、背景が綺麗になっただけで一気に商品らしさが増したので01.と比べると面白い。共作に松本さんを迎え入れたのが功を奏していますね。

03. プラスティックガール

 監督はらくださん。切ないストーリーが描かれていますがハッピーエンドで何より。前に埋め込んだからここでは割愛。

04. デモクラシークレット

 監督はuttoriさん。謎の父娘バトルモノ。

05. 脳内戦争



 大胡田さん単独監督作再び。01.と比べるとかなりブラッシュアップされているのがわかります。天使も悪魔も可愛い。

06. フィーバー

 ここでようやくメンバーが登場するMVらしいMVの登場。しかしイラストを取り入れる手法は継続されています。

07. 最終電車 featuring 泉まくら (FragmentのREMIX)

 これ実は聴いたことなかったからここで聴けて良かった。原曲より好きかも。大胡田さんと大島智子さんの合作(+共作:松本さん)で、両者とも魅力的なイラストを描かれますね。

08. S.S

 画面のどこに注目していいのか迷う作品。笑

09. とおりゃんせ

 障子とカラフル照明の相性の良さよ。ドキドキ感も格好良さも演出できるんだね。

10. MATATABI STEP

 光を効果的に使用した映像がアッパーなダンスチューンによくマッチしていると思います。こうして観返すとあまり顔隠しを徹底していないのがわかる。笑

11. トーキョーシティ・アンダーグラウンド



 いちばん好きなMV。何が良いってアニメ作画というか塗りがアニメで洗練された印象になったから。手作り感は薄くなったけどね。

12. 七色の少年

 万華鏡のような編集は凝っていますが素材は直球勝負のMVだなという印象。

13. 贅沢ないいわけ (lyric video)



 やっぱPOVは良いよねと言わざるを得ない。且つリリックビデオになっているのは珍しいんじゃないでしょうか。歩行者から車の視点にシフトするところがあまりにも自然でいつの間に?って驚きました。

14. トキノワ

 監督は松本さんなんですが、creative directorは川村佳央さん。曲のイメージ通りのくるくる回る映像です。

15. 裏の裏

 スクリーンをバックに夜景が投影されるスタイリッシュな映像。映像の格好良さならいちばんだと思う。

16. つくり囃子



 スーツ+狐面の破壊力が凄くて何かに目覚めそう。笑

17. ヨアケマエ

 Disc 1のレビューで埋め込んだやつです。監督はyuki wakisakaさん。これは布にプロジェクションしているのかな?綺麗。

18. 永すぎた春

 複製(残像)ワンカットとでも表現したくなるような編集の妙が光る映像。それともこういう撮影技法がある?

19. ハイパーリアリスト

 口元(手元)アップのワイプが後ろに表示されるのっていいですね。ライブで映えそうな技術。

20. メーデー

 監督はスミスさんで、チャイナ・オリエンテッドな作品。露崎さんが運搬されているカットがシュール。笑



 本当にごく簡単な紹介で歌にはほとんどふれていなくて申し訳ありませんが、パスピエの映像世界を一気に堪能できる素晴らしいディスクです。これだけで商品としてリリースしてもいいと思うのに太っ腹だね。どのみちYouTubeで公開しているしいいかって感じなのかな。


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