夢みるアドレセンス「大人やらせてよ」のレビュー。川谷絵音×冨田恵一による名曲。『5』短評も。 | A Flood of Music

今日の一曲!夢みるアドレセンス「大人やらせてよ」~ハイポテンシャルなベスト盤『5』プチレビュー~

 

レビュー対象:「大人やらせてよ」(2016)

 

 

 今回取り上げるのは、曾ては邦ロック好きが興味を持ち易い女性アイドルグループとしてのプレゼンスを持ち、オリジナルメンバーが誰一人居なくなってからも都度体制を変えながらその屋号を2025年現在でも維持し続けている、夢みるアドレセンスの「大人やらせてよ」です。

 

 

 上掲リンクカードの通り当ブログでは過去に「舞いジェネ!」(2016)をレビューしたことがあり、【テーマ:平成の楽曲を振り返る】の連続更新に於いて「アイドルソング」を中心に語る文脈上にレペゼンさせていました。然らば今般のフォーカス理由は何かと申しますと、前回の「今日の一曲!」で取り立てた冨田恵一さんの関連ワークスとして紹介する所存です。

 

 

 

収録先:『5』(2017)

 

 本曲の収録先はキャリア唯一のベスト盤『5』で、本来この時期にリリースされるはずだったスタジオアルバムが結局発売されていないことに鑑み、実質では本作がメジャーの1stに相当すると捉えています。今改めて振り返るとクレジットが非常に豪華な一枚であると驚かされたのでまずはディスク評です。

 

 

 ※ 以降過剰なまでに出てくる本文中リンクは全て当ブログ内検索のURLに飛ぶためのもので、過去に当該存在への言及が僅かでもあればそれを示したかったのだとお含み置きください。

 

 先に「邦ロック好きが興味を持ち易い」と書いた通りの得心がいく制作陣で、後にレビューする「大人~」はゲスの極み乙女やindigo la Endを始め複数のバンドで活躍する川谷絵音さんが作詞作曲したナンバーですし、レビュー済みの「舞い~」はOKAMOTO'Sのオカモトショウさんが作詞作曲の上で演奏をバンドが担っており、それぞれ編曲はまた別のプロに委ねるスタイルです(前者は先述の冨田さんで、後者はagehaspringsの玉井健二さんと飛内将大さん)。

 

 更にはKEYTALKの首藤義勝さんが手掛けた「ファンタスティックパレード」に、個人的には毛皮のマリーズ時代のほうが馴染み深い志磨遼平さんの手に成る「おしえてシュレディンガー」と、マイフェイバリットは大体バンド畑に求められます。ヤバイTシャツ屋さんのこやまたくやさん作の「アイドルレース」も好きです。他にはMrs. GREEN APPLEの大森元貴さん提供の楽曲ゆえに、当時よりも現在のほうがレア感というかニーズが高い気がする「恋のエフェクトMAGIC」にも再注目の余地があります。

 

 

 真心ブラザーズの楽曲を下敷きに複雑な成立過程を辿っているせいか作詞作編曲の表示が込み入っている「サマーヌード・アドレセンス」にmeg rockさんとクラムボンのミトさんのお名前を見たり、「小さなストーリー」での永塚健登さんと立山秋航さんのタッグには『ゆるキャン△』が思い至ったりと、地味にアニメ界隈への導線が引かれている点も聴き逃せません。「くらっちゅサマー」と「Viva!シャングリラ」の矢野博康さんも声優への楽曲提供が多い方です。前者は僕が夢アドを知ったきっかけの一曲なので思い出深いと補足。

 

 

 また別界隈からの参加としてはレゲエ・ソカ系のSSWで殊に有名なMINMIさんによる「Love for You」および「リーダー・シップ」があり、これらも本作から醸されるフェス感に大きく寄与しています。後者は下掲の錯視によるMVも観応えがあっておすすめです。

 

 

 以上、ほぼクレジット紹介に終始していますが『5』のプチレビューでした。実質スタジオ盤との認識を示したものの内容に照らすとやはりベストアルバムで、この濃密さはグループの活動に脂が乗っていた時期を見事にパッケージングしたものと言えます。

 

 ここで言及を終えると過去を懐かしむだけになってしまうけれど、本作以降令和になってからのアルバムにも当然のようにお気に入りがありますし、妹分グループであるYUMEADO EUROPEの方向性もまたツボでしたので、体制やメンバーがどれだけ変わろうとも何か面白い音楽を届けてくれるのではないかと、自分の中では現在進行形で期待し続けている存在です。

 

 

歌詞(作詞:川谷絵音)

 

 

 「大人やらせてよ」とは「夢みるアドレセンス(思春期)」の言い換えではなかろうかとの気付きを得られる見事な表題にまず賛辞を送ります。手元の辞書に拠るとadolescenceには「子供から大人への成長」との概念的な意味合いもあるそうで、本曲の歌詞世界はそれに纏わる「なりたい・なれない・なりたくない」の感情全てが綯い交ぜになったものと受け取りました。

 

 "近付く過去を振り切る/されど追いきれないからさ"の相対的な釘付けと、"大人になれない演技/上手に少し見切れてた"の狙った中途半端さからは、思春期に悩み勝ちな「何方でもない」の苦悩が滲みます。前者に対し"諦めるのとは違う"と未来を放棄していないのが大人の停滞とは異なる点に感じ、後者に対する"カッコ悪いの慣れてるの/それが一番カッコ悪い"は、未熟ゆえの不格好それ自体は子供らしいけれどその客観視は大人の視座に思え、こうして煮え切らない言い回しに支配されているところも実に思春期らしいです。

 

 続く一節は更に端的で、"どう見ても間違いじゃないけど/決めるのは私じゃない"に窺える強い断定から繰り出された主体性のなさは、子供の意外に鋭い洞察力と自覚のある無力感を同時に浮き彫りにしています。この扱いの難しさを見て見ぬふりして"私と一緒にいれる?"と問われたら、大人とて正しい対処には難儀することでしょう。心の取説として"離さなければ怖くない"が開示され、係る願望の"離さないから/主役で大人やらせてよ"を加味すると、宙ぶらりんの恐怖から一刻も早く解放されたい心理が見えてきます。

 

 2番では"筆談する夢"に"夢親さん"と、夢みるアドレセンスというグループ名にとって示唆的な言辞が印象深いです。1番の流れを汲むならここの描写は一般に大人への想いを綴ったものと解せますが、ファンとの関係性について詠っていると読み解ける節もあります。ファンネームの「ユメトモ」つまり夢友から一歩踏み込んでの"夢親"および"無理しないでください"は、推し活で破滅するタイプのファンを諫めるような切り口にも映るからです。或いは"持ちつ持たれつ"ですので、ファンの期待に圧し潰されるアイドルへの自戒も込みかもしれません。

 

 「アイドルであれ」ということは実際の年齢は問わずにある意味で「大人にならないで」の身勝手を含むと考えられるため、それへの反発として"主役で大人やらせてよ"の思いがアイドルとしてではなく一個の人間として出てくるのは自然です。とはいえ実際にアイドルを続けていく以上はこれをおおっぴらにするわけにはいかず、せめて"どこかにいるなら私を見るだけでいいから"に"離れないなら/私をよく見ててよ"と、子供と大人の狭間に留め置かれた奇跡を目撃せよと望む姿勢は合理的だと思います。無論ファンにとっても。

 

 

メロディ(作曲:川谷絵音)

 

 川谷さんが所属するバンドの音楽にはミーハー以上の知識がないので的外れな指摘になるかもしれませんが、全体的に嫋やかな旋律であるところにらしさを感じました。アンニュイな音運びのAメロからしてそうですし、やや感情的になるも美しい儘に展開するBメロも素敵です。サビメロで派手になり過ぎないどころか寧ろダウナーに振れるのも意外性があって良く、平歌部に比べてシンプルな歌詞内容に秘めた想いの根深さを悟られないように努めて平静を装っている風の進行が胸の奥に響きます。

 

 2番は1番と全く異なる楽想を有しており、Cメロを挟んでAメロを省略して変則Bメロの後にサビに移行していると区分したいです(変則Bは最早Dメロかも)。とはいえプログレッシブな印象は受けず、揺れ動く心情に沿って必要な音符がメロディアスに紡がれた結果ナラティブになったという感じなので、そこに作為的なものは感じられません。ラストのスタンザでのみ"怖くはない"と一音増えることによって僅かに生じるメロディの変化も聴き所です。

 

 

アレンジ(編曲:冨田恵一)

 

 マルチプレイヤーである冨田さんはその編曲スタイルも様々ですが、打ち込みが主体の本曲ではキーボディストとしての側面が強いと言えます。アイドルの文脈で語るなら80年代後半っぽい作風と言えるけれど、それにしてはビートの複雑性や音の配し方に先進的なものを感じるため、コンテンポラリーR&Bまで時を進めるべきかもしれません。間奏とラスラビでの声ネタも然りです。

 

 ビートは当然としてシンセもリズムを刻んでおり、加えて細やかに動き回るベースラインによってオケには常に騒がしさがあります。だけあって旋律の美麗さが一層水際立ち、ふとした静寂に顔を覗かせるピアノとストリングスの生っぽさがそれに更なる説得力を与えるという、メロディに対するアレンジの方法論としての足し算と引き算を同時に成立させている流石の手腕です。