
今日の一曲!Aqours「少女以上の恋がしたい」~ₙC₅解体-4~
※ 「ₙC₅解体」の意味および趣旨説明はこの記事の前置きをご覧ください。
レビュー対象:「少女以上の恋がしたい」(2017)

今回取り上げる楽曲は、『ラブライブ!サンシャイン!!』からAqoursの「少女以上の恋がしたい」です。過去三日連続でリズム重視のラブライブ楽曲を取り立ててきましたが、本曲については反対に充実の旋律性を高く評価しています。
二度以上登場するメロディはシンプルなJ-POPの楽想に当て嵌めることが出来ますが、それらとは別に一度しか登場しないメロディが三種類もあり、最終的にEメロまで進む点でユニークです。
Aメロ: "知りたい 触れたい"~
1番Bメロ: "ときめきたいって思ってたから"~
1番Cメロ: "腹が立っちゃった"~
1番サビ: "見てよ見てよホンキで 傷つけたってかまわない"~
2番Bメロ: "みた目がちょっと大人しくて"~
2番Cメロ: "なにもかもが素敵!は創作の世界にしかないね"~
2番サビ: "来てよ来てよトナリに 禁じられた夢見たいの"~
Dメロ: "ひとり想う ひとり願う ひとりだけじゃできないことを"~
ラスサビ: "見てよ見てよホンキで 傷つけたってかまわない"~
Eメロ: "会いたいからきっと 次は"~
この楽想は当ブログに於けるメロディ区分のルールでは扱い難いケースで、直感的には上記のBメロがその実Aメロらしい振る舞いをしていると考える方が殆どだと思います。しかしだとすると冒頭スタンザの呼称に困り、○○始まりで説明を付けようにもサビでもフックでもコーラス(β)でもないため、基本に忠実にそこをこそAメロと規定するほかありません。ゆえにアルファベットが直感的な理解から一つ進んでいるわけです。下記のDメロも直感的にはCメロでしょう。
呼称の問題は扨置き純粋にメロディの良さを語るなら、感情を見事に揺さぶってくるDメロがその白眉です。ソロとユニゾンの歌い分けが旋律の持つ切なさを浮き彫りにし、"ひとり"を重ねる度にどんどん"恋"への熱量が大きくなっていくのが伝わってきます。
巻き戻ってAメロも恋の幕開けに似合う覚醒的な進行が素敵で、祝福のストリングスと相俟って雄弁です。加えてEメロのラインが序盤の間奏[0:16~0:32]で先出しされている技巧的も素晴らしく、新出だけれど実は既出という布石の打ち方に唸ります。結びの"あなたも恋に触れて"の音運びに、一歩を踏み込む愛おしさを察せるのも感動的です。
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歌詞解釈の上では前述した「一歩を踏み込む」はマイルドな言い回しで、曲名が匂わせるように「一線を越えようとする」ちょっと過激な内容と見るのが理解に即しています。ラブライブにしては、の但し書き付きですけどね。
"腹が立っちゃった/私がこんな激しい性格だと気づかないなんて/あなたを責めたい気分だ!"の理不尽な転嫁も、"見てよ見てよホンキで 傷つけたってかまわない/ただ普通の会話じゃつまんないよ/だってあなたを知りたい"の危険な好奇心も、"少女以上の恋がしたい"なら向き合わなければならないステップと言えます。
別けても攻めたなと感じる歌詞は、"なにもかもが素敵!は創作の世界にしかないね/だったらせめてスリルを求めようかな"で、フィクション作品の楽曲でこれを言って退けるのが翻って作品にリアリティを生むメタ認知です。
収録先:『HAPPY PARTY TRAIN』(2017)
本曲の収録先はAqours名義の3rdシングル『HAPPY PARTY TRAIN』です。表題曲は下掲MVサムネの通り果南がセンターを務めており、明るい曲名の割にはややセンチメンタルなメロディおよびサウンドプロダクションで特徴付けられます。希望に満ち溢れた初めての旅立ちではなく、旅の酸いも甘いも知って尚旅に出る経験者の目線だからこそのビター加減とすれば果南らしいと腹落ちです。
もう一方のc/w曲「SKY JOURNEY」もまたタイトル通り旅の歌で、しかしこちらでは完全に切ない方向性に終始しています。そも目線が異なりまして、旅する人の歌ではなく旅人と出会った人の歌ですよね。この点から表題曲と対になっているのかなと想像を巡らせる余地があります。