ひなビタ♪・バンめし♪のₙC₅「温故知新でいこっ!」「アバンギャルド・バンドガールズ」ほか | A Flood of Music

ひなビタ♪・バンめし♪のₙC₅「温故知新でいこっ!」「アバンギャルド・バンドガールズ」ほか

 

はじめに

 

 自作のプレイリストからアーティストもしくは作品毎に5曲を選んでレビューする記事です。第10弾は【ひなビタ♪・バンめし♪】を取り立てます。普通に読む分に理解の必要はありませんが、独自の用語(nの値やリストに係る序数詞)に関する詳細は前掲リンク先を参照してください。

 

 

 本記事に先駆けてアップした上掲のセルフキュレーション記事は、これまで当ブログ上に散逸していた両IPへの言及を一箇所にまとめたものです。遅蒔きの作品認知を明かすところから始めて、個別の楽曲にふれながらの概略的な音楽評が書いてあります。各曲のレビューは何れもキャプション程度の文章量でしたので、ₙC₅の選曲ルール「過去にレビュー済の楽曲をなるべく除く」には抵触しないものとし、改めて楽曲の魅力をきちんと掘り下げようというのが以降の趣旨です。

 

 前置きは以上で、ここからひなビタ♪・バンめし♪のₙC₅を書き始めます。現時点でのnの値は60/3[=20*3]、レビューするのは「温故知新でいこっ!」「地方創生☆チクワクティクス」「ヒミツダイヤル」「アバンギャルド・バンドガールズ」「至上のラトゥーリア」の5曲です。純粋にお気に入りの上位から埋めていくなら、SC記事のタイトルに載せた「虚空と光明のディスクール」「メモリーズ」「砂漠を泳ぐ」が優先されるものの、当該3曲のエモさは聴けば瞭然なので多くを語らずとも良いと判断し今回は見送りました。

 

 

「温故知新でいこっ!」(2014)

 

 

 書き出しを物語の途中からとする不親切はご寛恕願いまして、仰けからシーズン3の楽曲「温故知新でいこっ!」を紹介します。過去の言及では「歌詞が神懸かり的な完成度の高さ」を誇ると、加えて自身の奥底に眠る「幼い少女性に深く刺さ」ったとも評していたナンバーです。なお、SC記事では「公式に埋め込める動画やアートトラックがなかった」として月ノ美兎/リゼ・ヘルエスタによるカバー(外部リンク)で代用したものの、上掲の「10分咲子」に本曲が含まれていることには今般気が付きました。後述するオケの性質からしてまり花の楽曲である印象が強く、「10分まり花」に含まれていなかったために見落としてしまった次第です。

 

 歌詞の素晴らしさについては後程語るとして、先に音楽面を見ていきましょう。ジャンル名を挙げるなら第一に据えるべきはボサノヴァで、これは作中での制作背景に親世代バンド・日向美ブルームーンの協力がある点からも得心がいきます。ひなちくん曰くの「日向美商店街の伝説のジャズバンドなんだよ~」(『Chocolate Smile Girls!!』コナミスタイル盤ブックレットp.35)を念頭に置き、ボサノヴァが史実に照らしてジャズと関係が深くその界隈のミュージシャンが広めた経緯を加味すれば、その場で選択され得る音楽性として自然です。

 

 

 第二に挙げられるのはコーラスワークから窺える渋谷系のファクターで、これはメタ的にまり花が同ジャンルの擬人化的存在である点からも導けます(『ひなビタ♪公式ガイドブック』p.89)。本曲の設定上の作曲者はまり花なので、その方法論が取り入れられていても可笑しくありません。渋谷系という概念の多義性ないし曖昧さに関しては、以前に別作品の「町かどタンジェント」(2019)をピックした際に長々と私見を述べており、そも音楽のジャンル名ではないだとか当時代性がないなら渋谷を冠する意味がないだとかの一家言を持ってはいるけれど、まり花メイン曲の特徴をワンワードで表せと言われたらこれがしっくり来るのは確かです。下掲の「10分まり花」でも裏付けられます。

 

 

 第三には構造的或いは精神的なものとして、現実のクレジット(作詞作曲編曲:ササキトモコ/音楽プロデュース含む製作総指揮:TOMOSUKE)から、まり花の好きなジャンルでもあるラウンジポップを付与したいです。後者はShizueとのユニット・Orange Loungeの楽曲群に象徴されるような音作りへの深い理解は流石舟木さんといった補足的な話ですが、前者の佐々木さんについては個人的な嗜好遍歴と独自研究からやや込み入った話になります。当ブログ上にお名前を出してその才媛ぶりに注目したのは、これまた別作品の「キラッ!満開スマイル」(2017)に端を発した文章が初だけれど、実はこれ以前にも氏のワークスに言及したものがありました。

 

 

 この「今日の一曲!」に関連して『セガコン -THE BEST OF SEGA GAME MUSIC- VOL.2』(2001)を話題にする中で、当時のお気に入りとしてマークした「僕のマシュ…」と「勇気のでる歌」は、何を隠そうセラニポージ名義に於ける佐々木さんの代表作です。要するに僕が小学生の頃には既に「氏のサウンド=好ましいもの」でインプットされていたため、後年に再びそのプロダクションにふれて結果どストライクに感じたのは必定でした。何方も『ROOMMANIA#203』の作中世界に根差した楽曲であり、細かい説明は省きますが「人生介入型」が謳われ「覗きゲー」と評される独特なゲーム性に鑑みると、その音楽がラウンジ的な性質を帯びるのは道理です。これは「空間を支える音楽」と換言しても良く、主人公ネジの日常に当たり前に存在してその営みを彩ることに長けたジャンルと言えます。家具の音楽や単なるBGMほど裏方ではないのと同時に一般的な歌モノほど表層にも来ないという、絶妙なバランス加減がセラポの美点延いてはラウンジの効能です。但しこの視座は飽くまで精神性に基いており、元より言った者勝ちの雰囲気ジャンル名とはいえ(「目立ち過ぎず中間的」のコアは意識されるべきだけれど)、同二曲が様式的にラウンジかと問われれば当ブログの過去の使用から違うと答えます。

 

 

 閑話休題して「温故知新でいこっ!」の作中での位置付けを述べると、それは「夏祭りでの披露を見越した楽曲」です。祝祭空間は日常の対極にあるため、いくら非楽典的な話と注釈してもラウンジが出て来る余地はないように思われます。しかし本曲はそのコンセプトが「故きを温ねて新しきを知る」と「急がば回れ」なので、祭りの中に在ってゆったりとした時間の流れ(寧ろ遡ってさえいる)に寛容です。思い返せば普通の賑やかな祭囃子でさえ、立ち止まって演奏に耳を傾けたり櫓を囲んで踊ったりしない限りは、喧噪と共にBGMとして存在が希薄になります。その点にこそラウンジが入り込む隙があり、更にオケがボサノヴァに渋谷系のテイストと来れば、両者の仲介役としての意義も芽生えようとの主張です。

 

 まとめると本曲は「ジャズ ― ボサノヴァ ― ラウンジ(ポップ) ― 渋谷系」と連続性のあるラインに跨っていて、「設定上の作編曲者から想定される音楽性」が「実際の作編曲者が得意とする作家性」とマッチして説得力に満ちていると結べます。その上で真に凄いのはこの舶来のスムースな演奏を日本 ⊃ 東京 ⊃ 渋谷のお洒落な音楽と王道に繋げるのではなく*1、山陰(鳥取) ⊃ 倉野川市(消滅可能性都市) ⊃ 旧商店街(対銀座〃)で行われるお祭りのサウンドスケープに充てた点です。ボサノヴァはサンバを起源に持つためカーニバルらしさを醸す意味では納得のチョイスだけれど、和風のタッチは歌詞とメロディによってのみ賄われており、アレンジを安易に音頭や盆唄に寄せなかったところに温故知新を聴けます。

 

 ※1 ストーリー上ではこの名残というか伏線が明かされていて、本曲の方向性を決める際に咲子がリファレンスとしてリクエストしたのが、まり花作の「東京スイーツはイブの味」なるスイーツラップなので(外部リンク:2014年7月30日分参照)、源流は一舞のパーソナリティを意識して王道に都会的だったわけです(外部リンク:同年4月20日分参照)。この路線は後に対象を地元のお店に移して、「じもとっこスイーツ♪」(2016)で昇華されたのではと捉えています。

 

 

 

 作詞を手掛けた咲子の名前を出したところで漸く歌詞の話です。先述のコンセプトを素直に伝える"あらためまして温故知新でいこっ/ちょっぴり不便も楽しんでいこっ/まわっていこっまわっていこっ/急ぐと大事なもの無くしちゃう"がそのまま本曲のメッセージ性で、リリースから10年を迎える現在ではAIの発展が目覚ましくタイパが重視される風潮にあるからこそ、"SFすぎる明日にポーズして セピアの歌に耳を澄ますの/夢みてた近未来のどまんなかだけど/ひなびた街だって好きっ/それもありでしょう?"が尚の事金言として響きます。

 

 上記の感性に賛同するのはプロフ記事で攻撃的なお気持ち表明をしているくらいなので当然として、レトロ趣味に特化した解像度の高いプロップの提示が歌詞世界に深みを与えており、別けてもラップめいたAメロには他の楽曲で中々目にすることのない品々が鏤められていて却って新鮮です。"あった!まぁるい金魚鉢 青いナミナミのフチ/かびの匂い 木の匂い 物置は琥珀色の宇宙/カチリ 裸電球 夕焼け色 あったかい"にワクワクしてしまうタイプの自分は、"ホーロー製の看板が 錆びて曲がってくねって時を語る"声も延々と聞いていられます。この一節は五感を順に巡っているのも技巧的で、視覚→嗅覚→触覚→聴覚と来て「味覚は?」と補完欲が疼く中、程なくして"聞こえてくるチャルメラの音色 縁日の型抜きガム"で回収されるのが見事です。

 

 

 それぞれ回転(数)・黒電話・算盤という語彙を直接使わないのがニクい"45 33 レコードノイズ ジジジジジィ/ジーコジーコ御破算で願いましては…"や、別アーティストの記事で無電柱化構想に待ったをかけたい胸の内を明かした僕の美的センスを否定しない"ごちゃごちゃの電線"に、商標使用のリスクを度忘れの体で巧く回避した"黄色い桶のあの…えっと、ケロ、ケロ、ケロ…"と、佐々木さんの文章表現力と目の付け所には感心するほかありません。ゆるっとしたギャグも面白く、"土の歩道 野良犬 たぬき えったぬき!?"に"あの肉…わわ…時代さかのぼりすぎだよっ"と視点が自由自在です。

 

 敢えて残した少女趣味的な部分を最後に総括しまして、"サクラ散りばめた浴衣 はしゃぎ恥じらう女の子/ヤマトナデシコってわたし? なんてうっすら感じてる/未来の女子もきっと憧れる 永遠の不文律"は、未来のアラフォー男性にも自分事として(ここ重要!)刺さりましたよと心中の少女性から同意します。「リンゴの唄」(1945)からの引用を経た"カラコロ下駄で鳥居をくぐったら 一瞬で背筋がシャンとする"に日本人のDNAを見て、しかし"星屑入り少女漫画の目 ステンドグラスの西洋館"でトキメキに国境はないと匂わせるのが素敵です。"タチバナの花香る岸辺"はその花言葉①「追憶」からここに咲いているのだと思いますが、田道間守のエピソードから来ているのであろう②「不老不死」に絡めると、"岸辺"と相俟って少し怖い想像をしてしまうのも和の詩趣に富みます。

 

 

「地方創生☆チクワクティクス」(2015)

 

 

 続いてはシーズン4の楽曲「地方創生☆チクワクティクス」にフォーカスです。SC記事ではめうメイン曲のトップに推して、「軍艦マーチ風プログレッシブチップチューン(≒パチ屋のBGM)とカオスな形容をしたくなる広告宣伝歌」と表していました。音楽面はこれを区切って具体的にしていきましょう。

 

 まず「軍艦マーチ風」は主にAメロについての言で、この聴き覚えのある進行は正しく「軍艦行進曲」(1900)を連想したというより、「パチ屋のBGM」とニアリーイコールさせたように古の"じゃんじゃんばりばり"のイメージです(つまりこの歌詞は布石)。本曲にはめうが「倉野川=ちくわ」を定着させるために「ちくわ軍」を嗾けるバックストーリーがあるので(下掲の有志制作サイトの2015年11月6日以降分参照)、軍楽要素の取り込みはこれに係っています。サビメロのリズミカルさや落ちサビの合唱風もそれらしいエッセンスです。

 

 

 次の「プログレッシブ」はロックがどうこう言いたいのではなくハチャメチャな楽想に対する全体的な感想で、上記の軍歌らしさと後述するチップチューンの向きを繋ぐはずのBメロに「メタルないしパンクな前半*2とシンフォニックでゴシックな後半*3のコンビネーション」を聴かされると、この「なんでもあり」が成立するのは電波ソングならではだなとジャンル分け不能に陥ります。

 

 *2, 3 楽曲解釈的にアレンジャーの想定はメタルだと思うのですが、聴こえは軽くシンプルなのでパンクっぽくもあるなと。「滅亡天使†にこきゅっぴん」(2014)の流れを汲む"滅亡天使りんりん"は、その(凛にとって)不本意な肩書が示す通りに神聖的且つ退廃的なので両立します。

 

 最後の「チップチューン」は厳密に8bitのそれと限定せず、随所に聴こえるゲームっぽいサウンド全般のことです。上掲MVがまさに解釈一致で「START」が押される前のタイトル画面よろしくイントロから真っ先に鳴り出して全力で楽しさをアピールして来るのにも、立板に水のマイクパフォーマンスと軍艦マーチの裏で騒がしく動き回って益々昭和のパチンコ店の音風景と化すのにも遊び心を刺激されます。"大陸間めつぼう波動砲"のグリッチなSEは歪みが翻って耳に心地好いですし、2番Aで余計な装飾をオフって俄に本格的な仕上がりとなる魅せ方にも唸らせられました。Cメロ後半から登場する目立つシンセのラインに、一度目[3:21~3:24]と二度目[3:27~3:30]で変化を付けているところもツボです。

 

 

 

 ちくわで地方創生と景気復活を成さんとする"チクワクティクス"を主軸に据えた本曲の歌詞もまた独自性が非常に高く、係る分野のビジネス・マーケティング用語のオンパレードになっています。はっきりとした初出は不明ながら昔から言われている地域活性化に資する三者"熱き魂を持ったよそもの・わかもの・ばかものよ 集まるめうーっ!"に始まり、倉野川に於けるちくわは確かにそれだと言える"こっこっコアって コンピタンス"、この種のワードを歌詞に使う場合のアルファベット4文字系と言えば「PDCA」や「B to B/C」ぐらいが関の山*4のところに"ちょっと ほんと SWOT"を持って来るセンスに、"ジニ係数がなかなか下がらないめう…… 敵は東名阪にありーっ!"の的確な彼我戦力差分析と、語彙選択の見地で本曲からしか摂取出来ない成分が多分にあります。

 

 *4 『J-Lyric.net』の歌詞検索(本文)調べで"PDCA"は4件、"B to B"または"B2B"の単体使用はDJ用語の「Back to Back」が殆どなので"B to C"との共時に絞って2件、"SWOT"は本曲のみ1件でした。思い付く限り色々調べて"VUCA"が1件あったことにも驚き、その他歌詞に使える見込みがありそうな0件の狙い目は「BANT」「CTPT」「SOHO」あたりですかね。

 

 2番サビの歌詞はとりわけ自己言及的で、"われらの権勢 ユビキタス 大地を分かつ 金の斧/ジオグラフィックセグメンテーション/経営拡大 ガバナンス わが世の春に 株の花/メイドインヒナビテーション"には、インターネットを通じて物語と音楽を届ける『ひなビタ♪』の作品性が反映されており、現実には分かたれている地理的変数に左右され難いウェブ空間の強みを活かしてのアプローチは、成程made in Hinabitationでこそ見られる未来志向のビジョンです。

 

 

 …と、このように意識高く読み解ける一方でアホみたいなフレーズ(誉め言葉)も踊っているのがめうらしく、例えば"どんどんデケデケ ドンブラコ ぺんぺんポコポコ ディスイズペン"のテキトーな場繋ぎ感は聴く度に笑えて、続く"経済ぐんぐん 景気ぴょんぴょん 乗ってけほいほい ビッグウェーヴ"も1番ではパチ屋のマイクパフォーマンスに思えたのに、2番ではキャバクラのコールじみて聞こえます。他にはマーケティングの4Cならぬ"チクワクティクス理論の4C"が"ちくわ・ちくパ・チャスコ・シャノワール"なのも、作中で象徴的なイニシャルCを過不足なく集めているので不自然ではありません。このパートはQ&A形式だからかクイズ番組のシンキングタイムを思わせるコード感でユニークです。ラストは安定の爆発オチ。笑

 

 

「ヒミツダイヤル」(2016)

 

 

 『ひなビタ♪』への言及は本項で最後なので焦点をここなつに移しまして、3曲目にはシーズン5の楽曲「ヒミツダイヤル」を据えます。先んじて「ここなつ観」を語るため本題までが長いです。SC記事でのアーティスト評は次の通り、「ガールズバンドに対するライバルポジのサウンドがデジタル志向に傾くのは王道」、「テクノポップにエレクトロニカにEDMといったジャンル名で表せる作風」、「音楽の持つ享楽性に反して読み解き甲斐のある歌詞世界」でした。当初からずっと非バンドサウンドの方向性を主に打ち出している点は変わりませんが、主人公サイドとの和解前(S3)と後(S4~6)そして名義が2.0になってからとではそれぞれ印象が異なります。

 

 このうち和解前と2.0以降は日向美ビタースイーツ♪との差別化が顕著で、前者はストーリーの都合上対比が意識されるのは当然、後者は本筋の物語が一区切り付いてからの言わば再始動なので、両者とも電子的で未来的なファクターが水際立つサウンドデザインです。対して和解後だけは日向美商店街との交流が活発な時期であるため、2人が中華料理屋でアルバイトを始めた点に代表されるように、別の商店街とはいえ主人公達と近しい市井に生きる現実的な立脚地を得たことで楽曲への許容度が増しています。

 

 

 その好例がローカルCMソング「ロンロンへ ライライライ!」(2015)や、和風の世界観を押し出したソロ曲「キリステゴメン」および「シノビシノノメ」(共に2017)で、加えて「みんなでここなつをプロデュース!」関連の幾つかも新機軸です。リンクカードの文字化けは扨置き下掲がその企画ページで、同人クリエイターにも理解のある『SOUND VOLTEX FLOOR』上で一般に公募されたテーマ選択式の楽曲制作コンテストを通しているがゆえに多様な作風が許容されています。その中では「なつひソロ」に「ロック」で挑んだ「モラトリアムノオト」(2016)がエモくて好きです。全体ではシーズン6に於いてめうがプロデュースした設定でこここが歌った「シノビ~」が一推しで、その可愛さは必聴とばかりに予め埋め込んでおきました。

 

 

 上記は何れも新しいユニット像を打ち出そうとした結果の産物でそれには勿論成功していると言えますが、従来の切なく電子的な音作りを維持しつつもオリエンタルな風を取り込んだハイブリッドなナンバーが、個人的にはここなつの真骨頂だと捉えています。それを体現せし「ヒミツダイヤル」は夏陽が下掲ラジオ内で『これもまた「これぞここなつ!」って胸を張って言える曲よ!』と述べているのにも腹落ちで、且つ「温故知新~」のケースと同様に制作を手掛けたクリエイターの作家性が物語にぴったりハマった良曲です。当ブログにYunomiさんのお名前を出すのは今回が初だけれど、2020年のアニソン振り返り記事の皮算用(結局書いていない)をした際の候補に「恋のうた feat. 由崎司」(2020)を挙げているくらいには、和エレクトロの扱いが上手な方との好感触を抱いていました。

 

 

 ダンサブルなトラックにもポップなメロディにも和漢折衷的な美学が垣間見え、そこにスペイシーな歌詞が合わさると七夕伝説が連想されます。その心は「離れていても繋がっている」で、姉妹アイドルの絆の深さを描くには持って来いの題材です。"砂漠にいても月の裏でも/迷わぬようG・P・S/ひとりの夜も寂しくないよ/もう同腹一心です"と序盤からかなりの遠距離が仮定されるも、"天の川 あふれるような空を/離れ離れの夢模様をかき集めて万華鏡/星空に散りばめてみせてよ"と星月夜に目印を描いて、"遠い銀河で迷った僕を導く君のテレパシー"があれば無問題、それどころか"ふたり描いた思い出はやがて大きな星座に/1000年後も輝いていますように…ああ!"と遥か未来にも希望を託す、「ここなつよ永遠なれ」のスケール感にノックアウトされます。

 

 一応はAメロBメロサビとJ-POP的な区分が可能だけれど、実質的な盛り上がりのピークは[1:10~]のドロップで、EDMのマナーを踏襲するフロア志向のつくりです。そのドロップも唐突に新出するものではなく、イントロとBメロ裏で段階的に慣らされているのでスッと身体が動きます。それでいて二度目のドロップ[2:45~]はバリエーションなのがトリッキーで良く、1番とは異なるノリでより一層大きなモーションを引き出すビートメイキングが印象的です。あとはニッチな観点として、心菜の"けどきっと同じ"の発声と譜割りには不思議な浮遊感を覚えました。

 

 

「アバンギャルド・バンドガールズ」(2019)

 

 

 ここから作品を続編の『バンめし♪』に切り替えます。主人公バンド・Blanc Bunny Banditのワークスでは、「アバンギャルド・バンドガールズ」がいちばんのフェイバリットです。例によってSC記事から短評をセルフ引用すると、「アホ毛と黒アリのぶっ飛んだ掛け合いが特徴的」、「ご機嫌なロックンロールを基本としながらも個人にフォーカスするセクションではキャラクター由来のサウンドに寄ってジャンルを横断していくプログレッシブなつくり」、「歌詞の面白さも相俟って底抜けにノリが良く、音を奏でる楽しさの初期衝動に触れたかのような高揚感」と描写され、タイトルに偽りなしの太鼓判を捺せます。作編曲を担ったのは「地方創生~」と同じくIOSYSのARMさんなので中毒性の高さはお墨付きです。

 

 

 公式ブログから本曲に纏わるエピソードを探そうとするも直接曲名が出ているものはなく、文脈的に上掲の夜風の投稿と同日の亜理紗の投稿が伏線になっているものと解釈しました。「ロシア風のメロ」と「バンドアレンジ」の融合は、"黒アリ インダ・ハウス"のパートで実現しています。因みに曲名ではない形容としての「アバンギャルド」なら都合4回登場(外部リンク)していて、日付の新しい2回はBBBに対するものだけれど(この点でも夜風と亜理紗の共通認識が窺える)、古い2回は何方も千代の家出先の内装に関するアホ毛の感想です。前後の投稿を読めば解るようにこれは廃ラブホの婉曲表現で、アリーシャ様が回顧したロシア民謡「長い道を」(1924)と絡めた余談を開示すると、アニメ映画『心が叫びたがってるんだ。』にもこの両方が登場します。もなかの反応は順のそれと同じです。笑

 

 

 先には本曲の中核ジャンルについて「ご機嫌なロックンロール」と書いたけれど、上掲生放送をソースとするに舟木さんの想定はより細分化した「ロカビリー」でブライアン・セッツァーが引合いに出されています。僕の不勉強でネタを拾えないのがもどかしいですが、他にも洋楽のパロディが色々と入っているそうです。また、亜理紗が参与する楽曲にブラスが入っているのは「"げぼく"に吹奏楽部(マーチングバンド)がいるから」という設定も明かされていて(「全力ドラマティック」の試聴部分)、本曲のラグジュアリーな音装飾を小学生が頑張っていると思うとアリーシャ帝国の層の厚さに驚かされます。どうか"味噌ピロシキ"で労ってもろて。このようにカオス極まる楽しいナンバーでありながら、夜風の歌い方が殆ど淡々としているのも味わい深いです。しかしこれは全て2番ソロパートまでの前振りと言え、一転した剥き出しのエモさには感情を強く揺さぶられます。

 

 

 「温故知新~」と「地方創生~」の項ではその歌詞が如何に独創的かを力説したけれど、本曲のそれも負けず劣らず変わっており自由度の高さでは随一です。事実上の起点は"「おにぎりの具なら鮭よね」/「ハイドロキシアパタイト」/「ハァ?」/「そう 人間の歯の主成分/キラキラ光る 魚の鱗」/「鮭も ハイドロキシアパタイト/つまりおにぎりは 人間の歯」/「毎日きれいに 歯を磨こう/歯茎が元気で メシがうまい」"で、これほど珍無類な導入を僕は他に知りません。"なにかに意味を 持たせようとする/だけじゃ くたびれてしまう"の気付きがあるからこそ、"常識の カラをやぶ"った言葉が殊更痛快に響きます。

 

 学べるロシア語その1「великий("ヴィリーキイ")」は、歌詞通り"でかいは偉大"双方の意味を持ち、「大帝」を指す語でもあるらしいです。その2「Поехали("パイェーハリ")」は"ボストーク"と関連付けられるように、ユーリイ・ガガーリンによる宇宙進出時の言葉で、「さあ行こう」的なニュアンスを持ちます。正確な訳ではない「地球は青かった」や実は言っていない「神はいなかった」が広く知られていますが、本場ではこの"パイェーハリ"のほうがメジャーらしいです。音声も残っていてWikipedia(外部リンク)から聞けます。

 

 

 
 

「至上のラトゥーリア」(2020)

 

 

 『バンめし♪』からのもう一曲はライバルバンドを取り立てまして、Vanitas Lacrimosaの「至上のラトゥーリア」で終幕です。SC記事では「(作品に)手を出して最初に心に電撃が奔ったナンバー」と特筆し、その後の記述はやや長めなので以下に引用のフォーマットで再掲します。

 

 独語を象徴的に扱うゴシックロックは一種の様式美となっており、近しい雰囲気の楽曲なら他のいくつかの音楽系IPでも聴いてきているけれども、音作りないし音像への並々ならぬこだわりを感じさせる本曲によってそれら比較対象は一切の過去となりました。闇に轟く刺々しいバンドサウンドが空間を支配してヤワな音の付け入る隙を排し、そこから唯一浮かび上がる正道でのみ許された祈りの如き歌声とコーラスワークの美しさたるや、蓋し「♰シスター3人組による神も悪魔も宿る最強ゴスバンド♰」のスケープです。

 

 全体的な音楽評は上記の後半で割と端的に言いたいことを言えているため、ここでは前半について具体的にしていきます。「比較対象は一切の過去」と角が立つ言い回しをしたので「いくつかの音楽系IP」とボカしていたのですが、この時に「独語を象徴的に扱うゴシックロック」の例として想定していたのは、『SHOW BY ROCK!!』のBUD VIRGIN LOGICや『BanG Dream!』のRoselia、バンド単位でなければ『アイドルマスター シンデレラガールズ』のRosenburg Engelあたりです(全て薔薇モチーフですね)。音楽系IPという括りに拘らなければ、Sound Horizonの『Märchen』(2010)も同様にコンセプチュアルと言えます。

 

 何れも飽くまでアニソン周辺界隈での話で、元を辿ってドイツ語圏のゴスロックと比べたわけではないと断りつつ、歌詞に複数の独語が積極的に鏤められている点と、本格志向のバンドサウンドで確固たる音像を結べている点で、本曲には抽んでたものがあるとの評価です。聴いた際に受ける「重み」が頭抜けていると感じ、"このベースが聴こえますか?"と祈るベーシストのアンナを中軸とする楽曲であるだけに、魂を奥底から震わせるものがあったのでしょう。

 

 

 引用部のダガーで囲んだキャッチはヴァニラ公式XのBioに書いてあったもので、これとは別に上掲のFGP特設サイトには「聖歌を取り入れたゴシックテイストの王道メタルサウンド」なる形容もあります。僕が本曲に見出した革新性はその内の神聖的な要素で、退廃的な歌詞世界と苛烈な演奏の中に在って尚美しさを保っている旋律とコーラスに、堕落の甘美な誘惑に負けまいとする修道女のジレンマが宿っていて、闇落ち上等のキャラクター性を脱しているのが先例とは趣の異なるところかなとの分析です。

 

 この視座に関しては「比較対象」へのフォローを通じた補強も出来まして、本曲の作編曲を務めた藤田淳平さんと同じElements Garden所属の竹田祐介さんの手に成るロゼリアの楽曲「Blessing Chord」(2021)は、ウエディングイベント用ということもあってその歌詞やメロディは祝福に溢れています。同バンドにとってメルクマールたり得る同曲(外部リンク)もまた甚く気に入っていて、係る好きの根源は共通の「神聖性」です。

 

 

おわりに

 

 以上、ひなビタ♪・バンめし♪のₙC₅でした。両作ともWeb連動型音楽配信企画という特性上種々のプラットフォームにストーリーが散らばっており、本記事に於いては外部リンクや動画の埋め込みを通じて、更にはガイドブックや特別版ブックレットの存在を挙げて、参照すべきコンテンツが多くあることを示したつもりです。他にも小説・漫画にドラマCDそしてライブと、作品世界を拡張するメディアミックスは多岐に亘ります。僕もまだその全てを把握しきれていません。

 

 

 ガイドブック冒頭の作品解説文を借りれば、「物語を通して楽曲が完成するまでの過程を楽しむ」ことが醍醐味であるのは間違いなく、過程も見せる以上は必然的に音楽的な知識がふんだんに盛り込まれることになります。上掲「あのね!」シリーズもその一端で、現実に通用するハウツーと密接なアウトプットで世界観を敷衍する試みは意義深いです。

 

 今後ゲキチュウマイのₙC₅の番が回ってきたら書きますが、僕は『イロドリミドリ』にも同種のコンテンツ的魅力から惹かれており、両者でアプローチの仕方は異なるけれど「楽曲本位」の面では共通しています。自作のプレイリストに作品名で登録しているタイプの音楽系IPは、「ひなビタ♪・バンめし♪」と「ゲキチュウマイ」を含めて現時点で17作品あって、そのそれぞれに好む理由が勿論別個にあるとはいえ、当該の2作品ほど「身近」に感じるものはありません。上手く言語化出来ないというか他の15作品との差別化を文章で図るのは難しいものの、「楽曲本位」で「身近」はキーだと思うので取り敢えず提示しておきます。より核心を突いた指摘は未来の自分がしてくれると信じて、ₙC₅では二度目となる限界文字数の壁を前に強制脱稿です。