39!SB69!!『SHOW BY ROCK!!』の音楽の魅力 ―アプリ終了によせて― Pt.2 | A Flood of Music

39!SB69!!『SHOW BY ROCK!!』の音楽の魅力 ―アプリ終了によせて― Pt.2

 【追記:2021.1.5】 本記事は「今日の一曲!」【テーマ:2019年のアニソンを振り返る】の第六弾です。【追記ここまで】


 本記事は『39!SB69!!『SHOW BY ROCK!!』の音楽の魅力 ―アプリ終了によせて― Pt.1』の続きです。従って、Pt.1に掲載したSB69関連記事(①~⑤)へのリンクや用語の解説などは省略して早速本題へと入ります。Pt.1ではプラズマジカからデモンズベノムまでの14組を紹介したので、Pt.2ではラボムンクからYokazenohorizonまでの13組がレビューの対象です。



ラボムンク / Labomunch

 「MIDICITYの住人なら誰しも一度は聞いた事がある」と形容されるメジャーバンド。バンド名はTBであるクラムボンのアナグラムで、その活動歴の長さやメンバー単体でも名前が売れていることを考慮すれば、現実での立ち位置が反映された納得の作中設定です。当ブログで直接的にクラムボンの楽曲をレビューしたのは過去に一度(⑤の記事内の番外編)しかありませんが、原田郁子さんへの言及ならこの記事に、ミトさんへの言及ならこれらの三記事()にあります。

 実装曲でいちばんのお気に入りは「JAPANESE MANNER」で、日本人として日々の生活の中で馴染みの深い言い回しの数々でもってその精神性を暴くような内容が、奇妙なメロディラインとひねくれたアレンジで放たれるところにアイロニーを感じました。次点で好みなのは「アジテーター」で、比較的複雑なアウトプットを見せることが多い彼らにしては、素直に盛り上がれるようなキャッチーな仕上がりである点で耳に残ります。


ドロップアウト先生 / Dropoutsensei


 「都立東MIDI工業高校」の生徒で組まれた学生ボーイズバンド。「恋に燃える熱いサウンドを爆発させる」の宣言通り、ソングライティングにもパフォーマンスにもストレートなエモさがあって、実にバンドらしいバンドであると飾らない表現が似合う存在です。TBは明日、照らす。

 最も琴線にふれたナンバーは「あの娘を返せ」で、冒頭の「あの娘を返せー!」だけでも、切ない背景情報がどっと雪崩れ込んで来て素晴らしいです。"返せ"と言ってはいるけれども、おそらく"あの娘"は一度たりとも"僕"のものだったことはないのだろうなと、そう察せてしまう愚鈍さが犇々と伝わってきます。綺麗な言葉に改めれば「純朴過ぎた」のでしょうが、そのピュアさは得てして暴走していくもので、"ハイウェイを飛び降りても怖くないくらい"の過激な喩え然り、"今夜あの娘のスウェットを枕にして眠りたいだけ"のリアルな妄想然り、遅きに失したからこその言葉繰りが哀しいです。想像力が逞しい点(ソースは『OTOTOY』上のインタビュー)では「僕のコートニー・ラブについて」の歌詞も愛おしく、"ヤる気はないけど/抱きしめたくなるから/好きでもないなら/「♡」は使うなよ"との絵文字勘違いあるあるに、"ハッピーセットもう/食べるの飽きたから/欲しくもないなら/「可愛い。」とか言うなよ"との放課後デートあるあるは、どちらも若く微笑ましい情景描写だと感じました。


ラペッジオート / Rapezziauto

 「MIDICITYのクラブシーンに突如現れた、4人組のエレクトロサウンドユニット」と語られているように、彼らは本作で唯一バンドの形態に囚われていません。「エレクトロ○○」という形容ならばPt.1にも幾度か出しているものの、それらはあくまで「ロックに加えて」といった意味合いが強く、しっかりとバンドアンサンブルの中に落とし込まれている点で、ラペッジオートのサウンドとは異なります。とはいえ、そもエレクトロがロックと結び付きやすいジャンルであることに鑑みれば(参考記事)、例外と論うほどでもなくなるところが絶妙なチョイスですよね。TBはyksb feat.MiLO×31STYLE(現・YKMM)で、僕が元よりダンスミュージックフリークであることも作用して、TBの中では最大のフェイバリットとなっています。ゆえに、2020年の3月で活動終了予定なのは残念です。

 全曲が好みと言っても過言ではありませんが、総合的なオススメには「アッパーチューン」を推します。元々のボカロ曲としてのデジタルな趣も統一感があって悪くはなかったけれども、肉声による歌唱で血が通ったことで歌詞の具体性が浮き彫りとなり、とりわけ実在する楽曲を引用したフレーズ;"こんな日はくるりの ハイウェイとか流して/旅に出る理由とか探したり"の説得力が一段と増しているため、この人間味あふれるフレージングと電子的なサウンドとの融合こそが素晴らしいと主張したいです。ノリが良いタイプのナンバーでは他に、ご機嫌なブラスアレンジが心地好い「恋のメッセージ」と、コーラスに煽られてこそなんぼの「POPSPICE(ELECTRIC PARTY SYSTEM)」もヘビロテ率が高く気に入っています。

 一方で、バックトラックの格好良さに主眼を置いた語り口にするならば、No.1の座には「NAKED」を据えたいです。ギラギラしたシーケンスフレーズと凶暴なベースラインが絡んで、電光に眩むようなビジョンが浮かぶサウンドメイキングが、まさにクラブカルチャーらしいアプローチでワクワクします。激しい光の明滅によって、フロア全体がストップモーションの如き様相を呈するあの感じです。アウトロに来るシンセの音数の減らし方もハイセンスで、DAW上での進行としては【ノートを小刻みに分割する → それらを一部結合して長めのノートを作る → フィルターで減衰させつつ左にパンさせる】といった段階が想定され、単純にフェードさせていないところに凝り性な気質が窺えます。トラック自体にフォーカスしたいタイプでは他に、エッジィなシンセリフのグルーヴでハイになれる「イマジネイション」と、表題よろしく人形館を連想させる怪しげなラインが光る「BABYDOLL」も素敵です。


チャーミーチャプレッツ / ChammyChaplets


 「さわやかでキモチの良い、風のような曲」を得意とするインディーズバンド。TBはkiki*で、5人中3人が実の兄妹という珍しいメンバー構成が特徴です。現実の佐田三兄妹は、作中ではアスタリスク三兄妹としてキャラに起こされています。余談ですが、男女混合で三きょうだい以上の音楽グループというと、あとはフィンガー5ぐらいしか思い浮かびません。笑

 そのサウンドはキャッチに偽りなしの優しさに満ちており、同時に何処か懐かしさを感じさせるものであるため、またも他アーティストの名前を出して恐縮ですが、MY LITTLE LOVERっぽさがあって個人的には馴染みやすかったです。この視点で好みの楽曲は「アルバム」で、普遍的な音楽の良さが備わっていると評せます。キャラクターも含めたボタニカルなイメージないし西ヨーロッパ的な質感(説明文の「北西にある風と緑の町」で意識されるサウンドスケープ)に於いては、「誰も知らない小さな世界」や「Hey!morning!!」が良曲で、異国情緒が漂う癒しを求めている方には最適です。


04Tobizbits

 「MIDICITYのライブキッズ達の間で人気急上昇中」と目されているボーイズバンド。「1度聞いたら忘れられないハイトーンボイスと、超キャッチーなメロディ」は正しいバンド評で、まず耳に残るといった観点では確かなセンスを感じさせます。TBは04 Limited Sazabysで、当ブログでは⑤の記事の番外編にて同バンドの楽曲を取り立てたのが初登場です。

 音楽性の説明に適したナンバーでは「monolith」がお気に入りで、ゲンゲン(GEN)の特徴的なボーカルと過剰なまでにポップな動きのメロディラインによって、歌詞を見ると別に難しい言葉が出てきているわけでもないのに、とりわけサビには聴き取りにくさすら生まれています。それでも演奏陣の勢いの良さでもって有無を言わせぬ魅力に転化出来ているので、このガムシャラ感こそが最適解なのだと得心がいくのです。このようにパワフルなプレイに引き込まれる系のバンドではありますが、旋律そのものに注目してみると意外と美しさも兼ね備えられていて、例えば「swim」や「Terminal」のメロが持つ邦楽ロックの王道感には、青い感性を刺激されました。


クリティクリスタ / Criticrista

 「聖MIDI女学園中等部『特殊芸能学科』」専攻生徒からの選抜メンバーで構成されたJCアイドルバンド。主人公格のプラズマジカと何かと因縁が付く存在で、作中の立ち位置としてはライバルポジションになるとの認識です。バンドの名前だけならPt.1のドーリィドルチの項でも出しており、そこでは可愛さを売りに出来るバンドの代表格として例示していました。フロントマンのロージアが「あざと学」の首席であることも影響して、そのサウンドはガールズアイドルバンドに求められる媚び媚びのキュートさを、余すことなく爆発させたものとなっています。

 しかし、ただ「可愛い」だけで片付けることを許さない高度なソングライティングが披露されているところがクリティクリスタの真骨頂で、僕は過去に①の記事で『言わば「本気のあざとさ」が楽曲自体の精錬にも繋がっている』と述べて大絶賛しました。その際に名曲としてリストしたのは「ループしてる」「ビビビーチ♡ビビビビーチ!」「放て!どどどーん!」の三曲で、このうち二曲目には単独レビューが存在する(④の記事)ため、ここでは残る二曲の美点を力説します。とはいえ、両曲とも既に一度は短評を載せているので、①での記述を引用しつつ補足を加える書き方になるとご了承ください。少し専門的な知識を必要とする文章も含まれるうえに長文ですが、大好きゆえに詳細に語りたいのです。

 「ループしてる」に関しては、「しっかりとしたバンドサウンド」を基本としているのを前提に、それを彩る構成要素として挙げた三つのポイント「疾走感のあるシークエンス+弾むようなピアノ+ビートを刻むストリングス」を、登場順に便宜上「α+β+γ」に置き換えて進めます。まずαは、各番のAメロ前の間奏部およびAメロとサビのバックで鳴っているピロピロした電子音(シーケンスフレーズ)を指していて、これによって演出されるスピード感と構造上の循環性(DAW上でのノート配列)が、同曲が纏う切なさを一層加速させている且つテーマにも合致していてエモいといったツボです。次にβは、主に"(恋してる、ループしてる)"の裏の【ベース → ピアノ → ギター → ドラムス】と順繰りに見せ場が来るセクションに於けるピアノを褒めた言でしたが、各サビの入りが必ず落ちサビ的なアレンジになる珍しい楽想ゆえに(定石を打つならラスサビ前の一度きりとするはず)、都度ピアノが目立つようになっている点も効果的な鍵盤使いで感心したという話です。

 最後にγは、ストリングスがAメロに沿う形でリズム的な役割(e.g. 0:29~0:32)とオカズ的な機能(e.g. 0:33~0:36)を果たしている部分と、奏法がピチカートに変わって新たなグルーヴを刻み出すCメロ("本当は触れた手を取って"~)裏とアウトロ(ラスサビの"回り続ける"の直後~)の部分が、それぞれ素晴らしいアクセントになっているとの主張です。加えて、このCメロは位置的に本来は2番のBにあたりますが、無芸に1番Bメロのリピートにしていないひねり方も好印象でした。以下に同曲の「Instrumental version」の試聴音源を埋め込んでおくので、オフボで聴けばここで言わんとしていることの何点かはわかりやすくなると期待します。



 「放て!どどどーん!」については、まず歌詞内容のいじらしさに特筆性があります。とりわけ好みなのはAメロの眠れぬ夜の対比で、1番の"とっても苦しかったこと 君が私を見てないことだよ/悔しくて泣いた 真夜中3時"が、2番では"とっても楽しかったこと 君と初めて話したことだよ/眠れなくなった 真夜中3時"と紡がれるのは、同じ"君"へと向くベクトルの下で相反する感情"苦しかった/楽しかった"を抱えて共通のシチュエーション"真夜中3時"に陥る"私"が、いかに"君"のことで頭をいっぱいにしているかを鮮やかに描き出した、文句のつけようがない名フレーズと言うほかありません。曲名の軽さとのギャップに絡めて、過去にはこれを「ポップなタイトルとは裏腹に歌われているのは切ない恋心」と表現していました。

 続く「それがこの上ない美メロにのせて放たれるためキュンとくること必至」はそのまま旋律の綺麗さに言及したもので、とりわけ2番Aの変則部分"胸の中をくすぐって止まらないよ"のラインにはキュン死したくらいですが、適宜挿入される合いの手やコーラスによって、ぱっと聴いただけではこの美点に意識が向きにくくなっているところが、くろかわまさきちさん(「ループしてる」を手掛けた黒魔さんの別名)のニクい作曲術だと言えます。というのも、同曲は仮に間奏部の"(はい!はい!)"やBメロ裏の「う~~~~わぁー!」がなかったとしても、素直に名曲として成立するだけのポテンシャルを有していながら、その均衡を壊しかねない「隙あらば合いの手の精神」(プラズマジカの評にも出したワード)で楽曲が更なる進化を遂げており、この奇跡的なバランスにクリティクリスタの本気が宿っていると聴き解けるからです。また、作詞と作曲の合わせ技ではCメロへの入り方が天才的だと思っていて、再度"放てーー!!"が来るとの大方の予想を裏切り、"放"と同じ発音の"話"でワンクッション置いてから、"せば君のことばっかり"と新たなメロディに雪崩れ込む楽想に、高度な遊び心が感じられます。



 他に「Yes! アイドル♡宣言」と「コ・ア・ク・マ♡サマーモード」と「はうあーゆー?」と「にゃんばわん!ゼッタイ最強!」と「はなまるさーくれっと」(ロージアとツキノのデュエット曲)も語る腹積りでいたのですが、いちばんの推しバンドとはいえ既に相当贔屓した結果の文章量となっているので、申し訳ありませんがまたの機会とします。笑


テケバキツ荘

 「同じアパートの住人で結成された」という経緯を持つインディーズボーイズバンド。TBはウソツキで、しっかりとしたメロディラインと引っ掛かりのある歌詞で、きちんと聴かせるタイプのギターロックが持ち味と言えます。

 いちばんのお気に入りナンバーは「旗揚げ運動」で、モチーフ選びのユニークさにも感心しましたが、指示通りに動くことが肝のゲームないしレクリエーションを起点に操り人形的な風情を見出し、しかし腐らずに発展性のあるダンスチューンへと昇華された内容は、歌詞上のストーリーとしても楽曲の方向性としても未来志向で素敵です。リフ的な使われ方をしているコーラスセクション(歌詞に未記載の「ダンストゥダンスダンストゥダンス Yeah 踊らされてたって構わないさ」の部分)でのボーカルトラックに対するエフェクト使いや、サビの歌詞に意図的に促音を多く登場させて跳ねたリズム感を演出しているところ、終盤の"どうせなら"の後に来るハッピーなクラップなど、細部に込められたセンスが非常に僕好みでした。個人的趣味にマッチしている点では、東京が描かれている「新木場発、銀河鉄道」と「惑星TOKYO」もフェイバリットで、両曲ともリアルとフィクションの融合が上手だと評せます。


シロラクロスカ?

 「【渡り鳥】バンド」なる惹かれるキャッチを背負った鳥系バンド。TBはカラスは真っ白で、①の記事ではアルバムに手を出すほどに気に入った旨を記していたのですが、残念ながら2017年に解散しています。その音楽性の描写は紹介文のものが端的で、「やぎぬぱん(ヤギヌマカナさん)のウィスパーボイス」と「楽器隊のタイトでグルービーなファンキーサウンド」が合わさり「ファンキーポップな世界観」を奏でていると書けば、シロラクロスカ?のオリジナリティは説明可能です。ボーカルの心地好さとメロディのポップさに対して、ともすればミスマッチにも響きかねない演奏陣のハイスキルなプレイが、不思議と噛み合って独特の音像を形成しています。

 聴き始めてから暫くはあまり印象に残っていなかったのに、妙に中毒性があっていつの間にか大好きになっていたのは「9番目の「?」」で、各メンバーが有している技巧的な面を短いスパンで矢継ぎ早に感じ取れるつくりが魅力です。次点でハマっていると言えるのは、⑤の記事でもふれた「サヨナラ!フラッシュバック!」で、硬派な導入部から次第に複雑性を増していくカオティックな展開を予期させておきながら、サビは意外にもキャッチーに仕上げられているというギャップにやられました。2番Aに入ると再び凝ったアレンジが顔を覗かせますが、初聴時にはキャッチーなサビを経由せずに、こうしてどんどん演奏のボルテージが上がり続ける楽曲だと思っていたのです。このような比較的難解なナンバーがある一方で、「ヒズムリアリズム」や「みずいろ」などの素直に旋律が美麗なナンバーもあって、表現の幅は広いと言えます。


BUD VIRGIN LOGIC


 「所属不明、目的不明、正体不明」の三拍子揃った謎のガールズバンド。TVアニメ2期に於ける主要バンドの一組で、敵役として設定されている存在です。プラズマジカの対バン相手であることは勿論、フロントマンのアイレーンはシンガンクリムゾンズの某メンバーとも浅からぬ関係にあるので(一応ネタバレ回避)、主人公格に等しいレベルの扱いを受けているとしていいでしょう。当ブログで初めて本格的にSB69を取り上げたのが①の記事で、その主軸に据えたのは同バンドのミニアルバム『Monologue』でした。従って、同盤の収録曲は既にレビュー済、更に「今日の一曲!」で「断罪のソリテュード」もピックアップ済(②の記事)であるため、現時点でふれていない楽曲は「×旋律-Schlehit Melodie-」「Serve a Master」「Please Please Christmas」の三曲しかないことになります。

 ということで、まずは「×旋律-Schlehit Melodie-」への言及から。ゴシックな雰囲気とドイツ語の組み合わせというと、同じくリズムゲームが主体の別の某プロジェクトのバンドを連想する方が現在では多そうですが、僕は断然BUD VIRGIN LOGICの虜です。①の中で「ダークでフェティッシュ(原義の呪物的な意味)な音楽こそBVLの真骨頂」と述べた通り、歌詞も旋律も演奏も自傷的且つ嗜虐的でありながら、根底に救済への希求が僅かに窺えるソングライティングである点で、同曲もまた「聴く者の闇を貪り、論理的な純血の香りがその魂を支配する」と引用するに相応しい闇のレクイエムだと形容出来ます。"見下してあげる"も、"調律は狂ったまま歌い続けよう"も、"その心壊して愛してあげる…"も、全てが魅惑の提案に映ったならばあなたも立派な「下民」です。

 上でネタバレとした点とも関わってきますが、中二病的な感性で歌詞を見てもゾクゾクする一節のオンパレードで、"私だけの不可侵の音域/他の誰にも理解るはずがない…"、"幻想-Fantasy-は真っ黒に染まって…/残酷な不幸終焉-UnHappyEnd-を/純潔-Keuschheit-の少女はこうして血塗られる"、"歪んだその顔に毒物の接吻-Baiser-"あたりの、文学的な当て字や響き優先の多言語ちゃんぽんに格好良さを見出せます。言葉と旋律との調和といった観点では、"「サア地獄ヘ…共ニ円舞曲ヲ踊ロウ…"依存"ノ淵デ」"の部分が最も好きで、不意に現れる流麗なラインにのせられたカタストロフィックな言辞が美しいです。



 「Serve a Master」は曲名の通り、アイレーンの従者であるペイペインとハンドレッコのデュエットソングで、これでもかとメタルな質感が強められていることに鑑みると、BUD VIRGIN LOGICのサウンドをゴシックに纏め上げているのは、やはりアイレーンなのだなとわかります。ハンドレッコはミューモロイドゆえ演奏家に専念するものとして、アイレーンとペイペインの音楽性や嗜好の違いに思いを馳せてみるのも一興です。可憐と苛烈が綯い交ぜになって、闇の旋律が生み出されているのだと得心がいきます。一転して、ラストにふれし「Please Please Christmas」はタイトルから明らかなように、まさかの王道クリスマスソングで意表を突かれました。徹頭徹尾ハッピーなサウンドと温かみにあふれた歌詞で、あらゆる悪意が浄化されていく奇跡を味わえます。大げさな表現も愛おしく、"年に一度の夜だから 靴下100kg分のWish"や、"ファンタジーの幕開け 真っ赤なお鼻が照らすユニバース"には、子供心をくすぐられました。


ARCAREAFACT

 トライクロニカと同じ「超大手レーベル【ジューダス】」からのデビューを飾った金満家ボーイズバンド。BUD VIRGIN LOGICと同じくTVアニメ2期の敵役バンドで、メインで対峙するのはシンガンクリムゾンズです。その過程でシュウ☆ゾーとロムの過去話(これも一応ネタバレ回避)も明らかになるため、やはり主人公格と等しい扱いとしていいでしょう。「若手イケメンアーティストを多数擁する」レーベル出身ながら「アイドル全否定宣言」をかましただけはあって、そのサウンドは確かにアーティスティックです。同バンドも過去にミニアルバム『エンブレム』をリリースしており、そのうち「マイラスファイ」と「ステイリアル」に関しては、2017年のアニソン振り返り記事【アニソン+編】の中にレビューがあります。今でもこの二曲が、同バンドに於けるお気に入りのワン・ツーです。

 ここでは未だレビューしていない楽曲にスポットライトをあてることとし、手始めに『エンブレム』でスルーしてしまったナンバーに言及するとしましょう。表題曲の「エンブレム」は弦遣いに妙味があり、ヴァイオリニストのオリオンがリーダーを務める設定が存分に活かされた楽曲です。「アンノウン」も好みの上位に入り、前出の振り返り記事に書いたバンド評「ボーカルがピアノを兼任していることとバイオリン担当がいることが大きい(中略)ラグジュアリーな編曲を見せているところが魅力的」を、見事に体現せし楽曲だと評します。"どうやったって僕ら/『最高』にしかなれない"と、高らかに宣言する自信のほども流石です。「ブレイカウェイ」もストリングスの美しさに特筆性のあるナンバーですが、弦がなぞるラインと同じくらいにボーカルが歌うラインも美麗で、より立体的なトラックメイキングに酔い痴れられます。「エルプライド」はアルバムの〆に据えらているだけはあって、切なさが醸されつつも明るい展望で終わる納得のラストナンバーです。

 続いてアニメ関連の楽曲にふれますと、シングル曲の「ジャスタウェイク」はひたすらに爽やかさが印象に残り、バンドサウンドにピアノとストリングスを合わせている点では実に「らしい」つくりでありながら、ゴテゴテに豪華な装飾を施すことだけがオレ達のサウンドではないとでも言いたげな、丁度好い塩梅が披露されています。c/wの「イッツノットオーヴァー」も中々に良曲で、一度聴いただけでは地味にも思えるサビメロの全体像を、繰り返し聴くことで充分に把握するに至ってから、俄に好みに傾くタイプの楽曲です。最後にふれる「アドレイション」は、緊張感に満ちた弦および鍵盤使いが特徴的で、従来の楽曲よりも複雑な機微が表現されていると感じます。小ネタ的な情報ですが、同曲はバンド名によく似た名前の音楽制作プロダクション・Arte Refact所属のクリエイターが作編曲を担っており、面白い巡り合わせだなと思いました。笑




フカシギミック


 「名も無き格闘道場で日々音楽の修行に励んでいた」ところにルーツがあるボーイズバンド。その出発点も充分に謎ですが、「道場破り的な流れ」(「道場破り」とは言っていない)でメンバーが加入したり、「そのまま弟子入りする事に。だが断られる。そんな流れで結成された」と詳細がフワフワしていたり、バンド名通りの不可思議さが売りです。極め付きは「そのキャッチーなメロディーはカニカマ的な完成度」というパワーワードで、およそこれまで音楽に対して使われたことがないであろう用語の登場に驚かされます。TBはバンドごっこで、この敢えての偽物感が滲むバンド名から、実像がよくわからない系のキャラクターが起こされたのでしょうか。笑

 04Tobizbitsと同じく、ボーカルの独特な声質がまず耳に残るタイプのバンドなので、どの曲も掴みはばっちりのキャッチーな仕上がりです。最も好みのナンバーは「未練リフレイン」で、失恋から時間の経過と共に広がる傷口の様子を通時的に描写した後に、"大好きだ 大好きだ まだ/忘れたい 忘れたくない"とサビで決壊するシークエンスが、みっともないけれど実にリアルな男性心理で共感を覚えます。次点のお気に入りは「おにさんこちら」で、目隠し鬼と『泣いた赤鬼』のコンビネーション的な世界観の下、誤解に苦しむ人の悲哀が切実に歌われていてグサっときます。他に「かくれんぼ」や「後ろの正面」という楽曲も実装されており、子供の遊戯をモチーフにして普遍的な人間性を描き出しているところは、バンドごっこ(遊び)を冠しているだけはあるなと納得です。


Spectrenotes

 「音楽と芸術の都BrifranCity」出身のバンド。その幅広い音楽性を一概には説明しにくいのですが、わかりやすく解説可能な要素としては、「ロックとクラシックを融合したRoclassick(ロックラシック)」が挙げられます。TBはBIGMAMAで、同バンドのユニークポイントとして真っ先に言われるのはヴァイオリニストをメンバーに抱えていることであるため、作中でも紅一点のマオッティは特に印象に残る存在でした。

 クラシックを大胆に取り入れてヴァイオリンも目立つナンバーとの観点では「Swan Song」が好みで、小刻みなドラムスとパワフルなスラップベースを序奏に、チャイコフスキーによるバレエ音楽『白鳥の湖』から最も有名なフレーズ(「情景」のオーボエソロ)が飛び出してくるアレンジを聴くだけでも、彼らの得意とするサウンドが一発で理解出来ます。ドヴォルザークの交響曲第9番『新世界より』の第4楽章を下敷きにした「荒狂曲”シンセカイ”」も格好良く、原曲に潜むロック的なファクターが巧く抽出されていて聴き易いです。


Yokazenohorizon

 『4人の「B」達(弁護士、美容師、ブロガー、バーテンダー)』が『穴場BAR「夜風」』で出逢い『夜はバンドマンの「B」に変貌する』という何処までも「B」推しのバンド。いきなりメタ的な視点に移しますと、ゲームに最も遅く実装されたことが災いして、今のところ持ち曲が4曲しかない不遇の存在です。設定からしてターゲットにしているのはある程度上の年齢層で、その音楽性に顕著なのはバンドサウンドよりも電子的なアプローチに基くトラックメイキングなので、ストレートにロックを好むようなリスナーには刺さりにくいかもしれません。

 見当違いかもしれないのは扨措き続けますと、ここまでの26組と被らないタイプとして現実から引っ張って来れる要素を考えた場合に、表立ってアイドル的な売られ方をしていない;あくまで楽曲でガチる系のメンズダンスボーカルユニットがまだいないと思えたため、Yokazenohorizonが目指す方向性はこの辺りではないかと踏んでいます。トライクロニカはドル売り優位ゆえに除外して、近い役割はARCAREAFACTでも担える気はしますが、彼らのサウンドにはダンスミュージック的な趣がないので、この空位を埋める存在として用意されたのではというロジックです。なお、目下の文脈での「ダンス」とは音楽性に限った話で、パフォーマンスとしてのそれは考慮に入れていないため、設定としてYokazenohorizonがダンスユニットでない点には突っ込まないでください。

 何にせよ、エレクトロニックなアウトプットで踊れるナンバーを奏でているバンドには違いないので、その手のサウンドに好意的な僕は4曲全てがお気に入りでした。mustie=DCが手掛けた楽曲では、ギターロックを効果的に装飾する形でのキラキラとした電子音遣いが光る「Awakening World」と、じわじわと音を積み重ねていく王道のトラックメイキングの諸要素としてバンドサウンドが巧く配されている「夜風に揺れて」とで、異なる攻め方を味わえます。HAMA-kgn(Felion Sounds)の手に成る「幻Forest」は、ヒリヒリした疾走感を纏ったメロディをしっかりと軸にして、その主旋律を際立たせるために全ての音が奔走している感じが堪らない名曲です。「イメージノ」はPt.1で度々絶賛したTime Files, incの鉄板トリオが手掛けた楽曲で、他の3曲よりもアニソンらしいキャッチーさが付与されたことで、Yokazenohorizonの新境地を開いています。野暮な比較ですが、忍迅雷音が歌っても良さそうな仕上がりですよね。笑





 以上、Pt.1の14組から続いて13組の紹介を終え、都合27組のバンドが鳴らした音楽の網羅的なレビューでした。『SHOW BY ROCK!!』の音楽に真正面から向き合う文章を執筆して改めて思ったのは、①の記事に述べた「どこまでもダイバーシティが尊重されているところが流石世界のサンリオだという気がします」とのプロジェクト評が、何一つ誇張のない表現だったということです。それはここまでに紹介した27組の音楽性やキャラクター性が実に多岐に亘っているという事実だけで、充分に証明されていると期待します。

 単純に数字だけを見ても、半数が現実の存在からの流用とはいえ、常設で27組ものバンドが用意してあるところは、音楽ゲームの中でも稀有だと言えるでしょう。単位がバンドではなく楽曲であるならば、もっと多くのミュージシャンが関わっている作品も別に珍しくなくなりますが、ゲーム内に生きるキャラクターとして起用されているかどうかに着目すると、SB69以上の存在はちょっと思い付きません。他ゲーに於ける、参加アーティストに多数の名前が名義貸しラインナップされていることや、幅広いカバー楽曲で水増しを売りにしていることなどとは、根本的に性質が異なるんですよね。作品オリジナルのバンドは勿論、TBであってもSB69主催のライブやリアイベに出演するケースがあるわけですから。

 打ち消し線で毒づいてみたものの、別にどういった経緯であれ「音楽的な興味関心の拡充」に繋がるのであれば、名義貸しだろうがカバーだろうが何ら優劣はないとフォローはしておきます。ただ、そのためにはやはり「ある程度のパッケージ」で提示するのが最善と僕は考えるので、バンドという大きな単位を基本として、ゲームで遊ぶだけでも当該バンドの音楽性を掴めるつくりとなっているSB69は、音楽好きとして贔屓したくなるのです。この構図は現代風に「各バンド沼への案内が親切である」とも換言可能で、大して音楽好きでもない音ゲーマー/リズムゲーマー(音楽よりもキャラクターや作品内容やキャスト陣やゲーム性を重視している層)が、ゲーム内の楽曲だけを取り立てて音楽に精通した気になっているといった、他ゲーでは割とよく見られる光景がSB69界隈では比較的レアであることも、その証左になっていると主張します。これは一概にゲーマー側の性質によるものとは言えず、先述した「名義貸し的な提供楽曲やカバー楽曲の選択肢だけが外部の沼への入口」であるならば、当該ゲーム内だけで閉ざされてしまうのも無理がないと思うのです(元より音楽は二の次な層には尚更)。

 話が拗れてきましたが、要するにSB69erには真に音楽好きな人が多いと、もしくはひとつのコンテンツやジャンルに止まらないオープンな人が多いと分析していて、その高い期待に応えられるだけの選択肢が、全く音楽性の異なる27組のバンドという形で提示されており、需要と供給が一致しているといった誉め言葉なのでした。これを別の側面から見れば、ゲームだけに執心する人が少なかったばかりに、サ終となってしまったのかなという気もします。例えば、TBの音源がいくらビッグセールスを記録しようとも、宣伝効果があるだけでSB69関連の直接的な利益が出るわけではありませんからね。有償のくじ引き権に相当するメロディシアンが売れないと、つまりブロマイドを魅力的に感じてガチャを回しまくる人がいないと、他にどんな美点があったとしても、それだけでサービスを続けることが難しいのは当たり前です。ついでに邪推を開陳すれば、あの古いゲームデザインのまま2019年の末まで生き残ってこれたのは、サンリオという後ろ盾があったからだと思っています。その生存戦略にもいよいよ限界がきて、次の10年(ソシャゲ界隈的にはもっと短いスパンかもしれません)で戦えないことが確定したからこそ、このタイミングでの新規アプリ立ち上げなのでしょう。



 本記事の投稿日時は2019年12月31日19時15分ですが、このまとめにあたるセクションは2020年の1月3日に追記したものなので、投稿日時の45分後にTOKYO MXで放送がスタートした『SHOW BY ROCK!! 年末特番』は既に視聴が完了しています。番組内で公開されていた『SHOW BY ROCK!! Fes A Live』(『ショバフェス』)のプレイ動画を見るに、来る20年代の斬新さは感じられずとも10年代後半の水準にはあると思えたので(リズムゲーム部分がというより、ホーム画面の挙動やブロマイドの幅広感がといった意味で)、実際のリリースまでに更にブラッシュアップされることを期待したいです。まあ初代のアプリを比較対象にすれば、現時点での開発状況でも充分に驚きの進化を遂げていると言えますけどね。笑 

 新作アニメ『SHOW BY ROCK!! ましゅまいれっしゅ!!』も先行で第1話が放送され、ネタバレ回避で感想を載せることは自重しますが、新たに加わる3バンド「Mashumairesh!!、DOKONJOFINGER、REIJINGSIGNAL」がそれぞれどのようなサウンドを響かせてくれるのかには、弥が上にも日々期待が高まります。初代アプリとボンズ版アニメが果たしていた「二次元作品から音楽好きを生み出す導線の敷設」の役割を、二代目アプリとキネマシトラス版アニメが受け継いでくれたら嬉しいです。勿論、サンリオによるキャラクタープロジェクトとしても、多方面への後押しがあればいいなと期待しています。