
今日の一曲!相対性理論「YOU & IDOL」~シングルバージョンも紹介!~
レビュー対象:「YOU & IDOL」(2013)

今回取り上げる楽曲は、流動的なメンバー編成により都度異なる音像を見せるも中毒性のあるポップな音楽性は変わらない相対性理論の「YOU & IDOL」です。前回の「今日の一曲!」が別アーティストの「YOU & I」だったことによる連想で選曲しました。実際この曲名はそういう洒落だと思います(後述)。
収録先:『TOWN AGE』(2013)
本曲の収録先は4thアルバム『TOWN AGE』です。オリジナルメンバーである真部脩一さんと西浦謙助さんが脱退して、新たに吉田匡さんと山口元輝さんとItokenさんを加えた新体制後初のリリースということもあり、良くも悪くも注目度が高かった記憶があります。
同盤からは過去に「BATACO」をレビュー済みです。加えて、旧体制時にライブで披露された「ほうき星」への言及が『解析Ⅱ』のレポにあります。更にはItokenさんが所属しているd.v.dとやくしまるえつこさん名義での『"Blu-Day" release party』の記事も存在し、我ながら貴重な記録を残しているのではと顧みました。
自作のプレイリストに照らすと【相対性理論・やくしまるえつこ】は20*3の60曲編成で、上位20曲までに「BATACO」「YOU & IDOL」「キッズ・ノーリターン」を、上位40曲までに「帝都モダン」「ほうき星」を、上位60曲までに「上海an」「ジョンQ」「たまたまニュータウン」を登録しています。収録曲の8/10を登録している事実から見えてくるのは、僕が本作延いて新体制のサウンドも好意的に受け取っている人間だということです。
歌詞(作詞:ティカ・α)
記事冒頭で「そういう洒落」と述べた通り、YOU & Iから発展させて& IDOLと置いてみたというのが曲名の着眼点だと思います。こう書くとIがIDOLかのような印象をまず受けますが、"あなたそれはYOU 有名人なの"に於けるスペースをイコールとするなら、アイドルであるのは"あなた"のほうで& IDOLはYOUを補足する追加情報と受け取るのが第一の理解です。
第二の理解はストレートにIがIDOLとの前提に立つもので、その場合"あなたそれはYOU"とは「あなたそれは(英語で)YOU」を意味するに止まり、別の文として「(わたしは)有名人なの」に導かれて"わたしそれはI"に繋がると解釈します。歌詞は特記がなければ一人称目線で綴れられるものと素直に捉えると、"キスしたいなら貢いじゃってね/段違いな夢 見せてあげるわ"の視座は、"わたし"がアイドルの立脚地に居てこそです。
もうちょっとオッカムの剃刀を利かせるべきでは?との指摘はご尤もでして、特定せず何方かがアイドル=有名人という身分違いの関係性が描かれていると見ればその実理解に子細はなく、"お茶して笑い合って喧嘩する/あたりまえの青春に恋してた"に窺える普通への憧れは蓋しアイドルと言えます。特別が普通を求めるのと同様に普通が特別を求める、無い物強請りのYOU & Iの歌と結びましょう。
話変わってわたし=I=愛の延長線上に表れる"愛の戦士な"からは、セーラーヴィーナスが思い浮かびます。愛野美奈子にはアイドルの追っかけが趣味で自身の夢もアイドルというパーソナリティがある以上、意外とこれも本質に関わる言葉選びなのではとティカ・αさんの遊び心に感心しました。
関連ワークスの紹介をしますと、後に『美少女戦士セーラームーンCrystal 第3期<デス・バスターズ編>』のOP曲に起用された、やくしまるさんソロ名義の「ニュームーンに恋して」(2016)も大のお気に入りです。同曲については2016年のアニソン振り返り記事の中で少しだけふれているけれど、その魅力を伝えるには記述が不十分なのでいつか単独でレビューするかもしれません。
また、やくしまるさんが歌う「乙女のポリシー」が収録されているカバーアルバム『美少女戦士セーラームーン THE 20TH ANNIVERSARY MEMORIAL TRIBUTE』(2014)には、後藤まりこ×アヴちゃん(女王蜂)による「愛の戦士」もラインナップされておりこれもまた情熱的で素敵です。
メロディ(作曲:ティカ・α)
本曲のとりわけサビメロを聴いた際に脳内を過ったのは、古いCMソング「ジャノメの湯名人♪」でした。或いはホテル三日月の「ゆったりたっぷりの~んびり♪」にも掠っている気がして(某県民並感)、片やバスユニット片や開運風呂に象徴される類のリラックスした雰囲気を漂わせつつ、昭和感の残る*キャッチーなラインが紡がれているところにそれっぽさを聴いたとの主張です。旋律が似ているとかではなく。
* 三日月のCMは80年代~なのでいいとして、湯名人のCMは90年代~なので「残る」と表現しました。
そんな気が付けば口遊んでしまう圧倒的なポップ性が中軸に据えられているからこそ、試すようにフラットなAメロから躊躇い勝ちな花占いの如く進行するBメロを経てのカタルシスが一段と心地好いです。もどかしいわもどかしいわ、だってあなたがあなただから!の意図を作曲上に聴き出せます。
コンパクトながらに完成度の高いCメロにも特筆性があり、飾らない本音が明かされるパートとして過不足がありません。2番Bメロとラスサビの間に突如現れる楽想も意外性があって良く、前後に間奏部を挟む間々ある形式の【2番B → 間奏 → C → ラスサビ】もしくは【2番B → C → 間奏 → ラスサビ】だったなら冗長と感じていたことでしょう。
アレンジ(編曲:やくしまるえつこ・永井聖一・山口元輝・Itoken・吉田匡)
何と言ってもスティールパンが論功行賞ものです。このサウンドがメロディの項に書いた「リラックスした雰囲気」をより深く演出し、ビーチないしリゾートらしいスケープの創出にも繋がっています。"グラス空ける"、"夏のエンドロール"、"夕日に隠れた"のビジョンはその一例です。
他にはBメロバックのまさに"ラビリンス"な演奏も好きで、ボーカルが左右にパンして空き気味のセンターに螺旋迷宮を描いています。最終的に中央に戻ってくるボーカルがその内部に囚われた光景を浮かばせる技巧的な定位センスです。
cf. 「YOU & IDOL (single ver.)」(2013)
本曲には後発のライブ会場限定シングルに収録の別バージョンも存在するため一緒に紹介します。全体的にライブ感の顕なサウンドプロダクションに変化したことで新鮮な聴き味を供しているものの、歌終わりまでは基本に忠実と言って差し支えのないアレンジです。ラフいので上述の迷宮感や定位による魅せはありませんけどね。
顕著に異なるのはアウトロで、ラスサビ後に色付き始めるギターがとてもナラティブで感動します。涙を拭って駆け出すエンディングが似合うような切ない疾走感を纏っており、擦れ違いの向きを一層強く覚えて貰い泣きしそうです。