海外日本を問わず面白いMVを紹介!往年の名作からアニメまでミュージックビデオの粋を集めました。 | A Flood of Music

【MV】凄くて面白い名作傑作ミュージックビデオ40本+について語る【PV】Part.1/3

■ 主要な編集履歴
┣ 2018.5.7:記事作成日
┣ 2023.7.5:記事全体を二分割(詳細)
┣ 2024.2.3:記事全体を三分割・投稿日時を同日付に変更(詳細)
┣ 2024.11.17:過去一大規模な改訂・投稿日時を同日付に変更
┗ 2025.7.1:本記事の最終更新日(20.を改訂・幾つかの埋め込みをリンクに変更)


■ ナビゲーション
┣ 本記事「Part.1/3」:MV番号1.~20.を紹介
┣ 次記事「Part.2/3」:MV番号21.~40.を紹介
┗ 次々記事「Part.3/3」:MV番号41.以降を紹介

■ 趣旨説明と留意点

□ 個人的な琴線にふれたミュージックビデオについて短評を副えつつその魅力を語ります。小見出しを立てて紹介するMVの総数は最終更新日の時点で「84本」です。

 本記事はアメブロのブックマーク機能を用いたMVリンク集と連動しており、同ページの変更に伴い改訂されるという関係性です。その登録上限が40件なので1.~40.をPart.の「1/3」と「2/3」で、入れ替えで削除したものを41.以降として「3/3」で紹介しています。改訂の度にMV番号が変わるため、過去記事との齟齬はご寛恕ください。

□ 選出に際しては「撮影・編集技法が優れている」或いは「ストーリー・メッセージ性が強い」点を重視しました。

 必ずしも制作背景を窺えるソースに照らしていないので、撮影や編集に係る記述には事実誤認や専門用語の濫用があるかもしれません。

□ 掲載するMVは「オフィシャルにアップロードされている」且つ「映像としてフル尺である」ものに限ります。

 前者は著作物利用の観点から言わずもがな、後者はクリップ集やCS番組等でその秀逸さを知っていてもこの場に全体を提示出来ないMVは除外したの意です。

■ ラインナップ(1.~20.)

┝ MV番号. 曲名 / アーティスト名
┝ cf.=補足・補遺MV 曲名|曲名|曲名… / 〃=アーティスト名上に同じ
┝ 曲名*=後にMV番号を付しての言及あり('付き含む)

┣ 1. Kerala / Bonobo
┣ 2. YOUR LOVE AIN'T FAIR / SIMIAN MOBILE DISCO
┣ 3. ALL I NEED IS YOU / Rob Cantor
┝  cf. OLD BIKE*|PERFECT|THE RENDEZVOUS / 〃
┣ 4. No Reason / Bonobo
┣ 5. 環境と心理 / METAFIVE
┝  cf. Bambro Koyo Ganda / Bonobo
┣ 6. 原宿いやほい / きゃりーぱみゅぱみゅ
┝  cf. 最&高 / 〃
┣ 7. Fake It! / 電気グルーヴ
┝  cf. Set you Free* / 〃|べろべろ / グループ魂
┣ 8. THERAPY / group_inou
┝  cf. HEART|ORIENTATION|CATCH|HAPPENING / 〃
┣ 9. Yang 2 / avengers in sci-fi
┝  cf. この街で生きている / amazarashi
┣ 10. Star Guitar / The Chemical Brothers
┝  cf. Let Forever Be* / 〃|Declare Independence* / björk
┝    Around The World / Daft Punk
┣ 11. 空飛ぶ子熊、巡礼ス / さよならポニーテール
┣ 12. Chorus / Holly Herndon
┣ 13. INTERNET YAMERO / Aiobahn feat. KOTOKO
┝  cf. だじゃれくりえぃしょん / 名取さな
┝    Sakura Day's / さくらみこ
┣ 14. EYE / group_inou
┣ 15. Putin, Putout / Klemen Slakonja
┝  cf. Golden Dump (The Trump Hump)|Ruf mich Angela / 〃
┣ 16. Two Tribes (Video Destructo Mix) / Frankie Goes to Hollywood
┠ 16'. Two Tribes / 〃
┣ 17. Weapon of Choice / Fatboy Slim
┝  cf. Slash Dot Dash|Ya Mama / 〃
┣ 18. VOY@GER / THE IDOLM@STER FIVE STARS!!!!!
┣ 19. Walking Dream / 上原歩夢
┝  cf. 無敵級*ビリーバー / 中須かすみ|僕らのLIVE 君とのLIFE / μ's
┣ 20. flower rhapsody / さくらみこ
┝  cf. イケ贄|1135|SUNAO / 〃
┠ 20'. III / 宝鐘マリン & Kobo Kanaeru
┝  cf. パイパイ仮面でどうかしらん? / 宝鐘マリン
┝    美少女無罪♡パイレーツ|マリン出航!! / 〃
┝    SHINKIRO / GuraMarine
┠ 20''. ちきゅう大爆発 / P丸様。
┝  cf. ビビデバ / 星街すいせい
┝    てんやわんや、夏。 / 月ノ美兎・笹木咲・椎名唯華
┠ 20'''. UNDEAD / YOASOBI
└ cf. EXTRA / Ken Ishii|Kiss & Cry / 宇多田ヒカル



■ MV紹介 ―No.1~10―

1. Kerala (2017) / Bonobo


 見当識の断絶を思わせる反復編集と錯乱じみたシーンの連続が織り成す譫妄のビジュアライズにふと波長が合った途端、本来見える筈のない諸々が悪し様に映ってしまうバッドトリップの疑似体験が出来るMVです。係るファクターを抜きにして映像の仕上がりのみを評価しても一級品で、漫然と観ていては随所に鏤められた小ネタを見逃すことになる技巧性が光ります。普段の映像視聴能力が如何に脆弱かを痛感させられるも、繰り返しの鑑賞によって得られる発見は痛快です。動画のコメント欄にはタイムスタンプを付した異変チェックリスト的なものがあるので、気付きの摺り合わせに利用するとよいでしょう。

 僕が初見時に全く感知しなかったポイントに関して省察しつつ語れば、[0:00~0:03]の火球は初っ端ゆえの傾注力不足でスルーして、[2:42~2:45]で残像の固まる男性は手前の揉合いに意識を割かれて見落とし、[2:47~2:57]のマンション火災を予言する看板は単なる背景に過ぎないと気にも留めず、[3:03~3:22]でグラデーションに変色する路駐車は二段構えの視線誘導(フライングヒューマノイドと煙火)に引っ掛かって脇目に消えた次第です。一方で[3:47~3:52]の棒立ちで天を仰ぐ人々が格子状に整列している異様な光景は直ちに把握したけれど、これは気付かないほうが良かった類の不穏当さを孕んでいることを主演女性のリアクションからも推して知れます。


2. YOUR LOVE AIN'T FAIR (2012) / SIMIAN MOBILE DISCO

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 点灯の瞬間にスポットを当てるシンプルながら味わい深いアイデアにまず感動しました。映像が進むにつれてトラックとのシンクロ度合が増していくリズミカルな画面構成が軽快です。とりわけ[3:14~3:35]のトランジションで1拍・ライティングで1拍とグルーヴィーに展開するパートには気持ち好さの極致があります。この「動」が映える背景には「静」の存在が欠かせず、音数の減少に合わせて消灯による同期に替わる[2:09~2:36]に、室内灯から街灯への視点移動で俄に映像世界が拡充される[2:37~2:52]のブレイクを経てこそのカタルシスです。

 他にもサウンドと照明のリンクにはこだわりが感じられ、ミニマルな序盤には敢えて反応の鈍いものが宛がわれていたり、全点灯までに時間を要するフロア全景のカット[1:03~1:09, 2:53~3:13]でウェイビーなシンセの鳴りを表現していたりと、元々の照明器具の性質を活かそうとする努力が窺えます。このような音ハメの観点では"Your love"のシラブルに沿った点滅をする[3:17, 3:30]の絶妙さや、ビートのタッタッタッに乗って三連点灯する[4:00~4:01]の完璧さが鮮やかです。セクション終わりにホワイトアウトする[2:06]の美しさや、ノイズの増大と共に事切れる寸前の監視カメラ映像のような不気味な画に切り替わる変化でも飽きさせません。

 補足記事:SIMIAN MOBILE DISCO その1 ―3rd『Unpatterns』まで―


3. ALL I NEED IS YOU (2014) / Rob Cantor


 ただ面白ムービーを組み合わせただけのMADと思う勿れ、その裏に会心のアイデアと言葉遊びが忍ばせてあるインテリジェンスに満ちた名作です。理解の愉しみを奪わないためにも詳説は別にアップしている下掲記事に委ねますが、助けとしてここには「口元の注視」および「同音異義語の参照」とだけ記しておきます。

 補足記事:NOT A TRAMPOLINE / Rob Cantor +α

 上掲リンク先では言及していないその他の見所については、一時停止で判読可能のパラドキシカルなサブリミナルメッセージ[2:28]や、素材全見せパート[2:16~2:27]にのみ登場する幾つかのビデオに気が付いたでしょうか。このうちクレジットから出所を探れたS. Castelloneのコントーション・Justin Flomのカードマジック・超ショートフィルム『Fred Ott's Sneeze』は扨置き、割れた瓶の逆再生と2種類ある幼児の動画は管見の限り謎です。サムネで驚いているロブをCARD MARVELER、暴発トイレットペーパーの被害者をTP PRANK VICTIM、"You"のリフレイン部で印象的な女性をPARK TRAIL VIXENとユニークに形容していたり、ヤモリとライオンの調教師の名前まで明かされていたりで読み応えがあります。

 補遺MVs:バイラル動画の申し子なだけはあってロブ・カンターさんの作品は独創性の高いものが多く、入念な下準備のワンカットで編集に依らずに多彩な変遷を映し出した感動作「OLD BIKE」(2014)、視聴覚統合を逆手に取ってハイレベルな声マネを披露している「PERFECT」(2014)、歳の差ラブロマンスの見かけは果たして真実か?…はNSFW要ログインでお察しの「THE RENDEZVOUS」(2014)も一見の価値ありです。これらに関しても先掲の特集記事内ではネタバレ込みでレビューしています。


4. No Reason (2017) / Bonobo


 不思議の国のアリス症候群然とした錯視観の映像化に資する撮影技術には関心を、アニメ『四畳半神話大系(英題:The Tatami Galaxy)』を彷彿させるパラレルな空間演出には探索心をそれぞれ刺激されました。メイキング動画をご覧いただくと、大掛かりなセットで意外とアナログに撮られていると解り一層の肝銘を受けるでしょう。特に技巧的なのはドリー用のレールを畳縁に擬装させている点で、家屋のつくりとプロップが日本文化のコンテクストを喚起しているからこそ、溝を緑に着色しただけのフロアであろうともその認識は畳となります。

 これもメイキングでふれられている通り本作の世界観はひきこもりのそれに根差しているため、終盤の悪夢じみた怖さよりもそこに至るまでの次第に場が荒れていく見せ方が解像度を上げていると思いました。別けても掛け軸が倒に飾られている部屋の異物感と、麺の零れたお椀が積まれている部屋の冒涜感は闇深いです。本来は広大無辺に分岐している筈の未来が全て暗澹に閉ざされていて、その代り映えのなさに無力感を覚えセルフネグレクトに陥り精神崩壊といった筋書きが読み取れます。


5. 環境と心理 (2020) / METAFIVE

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 服の差異は考慮せず画面中央の人物に連続性を持たせて[2:41]までを通時的に物語るなら、【誰もその場を動かない中でファーストペンギンになる → 群衆の目指す先とは逆を行き人影が消えても孤高に歩き続ける → いざ立ち止まって見下ろすとこちら側にも他の一群が居ると気付く → 目指す先が同じならと先陣を切って更なる高みへと勢い付く → 走り続けるうちにいつの間にかワンオブゼムになる → 高台から制御不能の人流を見て立ち尽くす → 勢いを失った大多数をさえ見上げるほどの低みに取り残される】というのが僕の理解です。誰もがこれを繰り返して「群(環境)」と「個(心理)」を往来しているとの真理を垣間見た気になり、種を違えてマーマレーション(ムクドリ類の集団飛行)を連想しました。

 補足MV:Bonobo「Bambro Koyo Ganda」(2017)の[2:00~2:16]がマーマレーションです。下掲リンク先にも関連記述があります。

 補足記事:MURMURATIONS / SIMIAN MOBILE DISCO


 とはいえ描写に鑑みると[3:33]からのカメラは別人それも鶏群の一鶴にフォーカスしていると解せるため、象徴的な[3:46]までのシーンについて濫りにハイデガーを引用しつつ解釈したものが次の通りです。淡い光にぼやけてDNA状に飛び交う烏合の衆に生を浪費するダス・マンを見て、針葉樹という存在者に対する認識を改めた([1:00~1:05]での林立と比較した孤立=残された孤樹の存在感が増した)ことで現存在即ち人間の本質を思い出し、死への存在だと先駆的覚悟を決めているからこそ双方を後目に主体的な歩みを進められるとの寓意が感じられました。

 もうひとり気になるのは物理演算のバグなのか[2:28~2:29]で側溝に転落するカルガモの雛よろしく残酷な運命に弄ばれたモブで、誰に押し出されたでも道を踏み外したでもなく唐突に半分壁にめり込みながら消えていく様に寧ろ人生の理不尽を直視させられます。恣意的な人定確認と一知半解の哲学知識と鳥へこじつけた語彙選択による牽強付会ぶりはご寛恕願いまして、様々な世界内存在のパターンが描かれていると結ばせてください。


6. 原宿いやほい (2017) / きゃりーぱみゅぱみゅ

 YouTubeリンク

 きゃりーのMVはサイケデリックで新鮮な驚きを味わえるものが多く全般的に好みなのですが、本作を特筆する理由としては同じく田中秀幸監督の手に成る前作「最&高」(2016)にも共通する要素「複数の同一オブジェクトによるシンクロ」に惹かれているからと言えます。これに加えて単体のオブジェクトそれ自体にも同一性を見出せるのが素晴らしく、例えば大量に寄り集まった歩行者用信号機やファッションアイテムの集合体のややもするとトライポフォビアに結び付きそうな気味の悪さも、日常ではまず有り得ないビジュアルが奇抜で素敵だと翻ってポップに落着です。

 真っ黒の天地に大量のオブジェクトが配されている状況はデバッグルームっぽくもあり、更にはダッチアングルで不安定なカメラワークはより異界の向きを強めています。この少し怖いけれどワクワクする感覚は現実の(裏)原宿にも通ずるものがあり、ふと迷い込んだ路地で期せずしてトキメキの源泉にふれてしまった時の衝撃はカオティックであって欲しいです。あと地味に好きなのは[0:45~0:50]と[2:36~2:40]の場面転換で、発想はアナログだけれど結果がシームレスなところに動線管理・フレーミング・編集技術の高さが窺えます。

 補足記事:CRAZY CRAZY, 原宿いやほい / 中田ヤスタカ, きゃりーぱみゅぱみゅ


7. Fake It! (2008) / 電気グルーヴ


 田中監督の傑作を続けて紹介しましょう。文化庁メディア芸術祭での受賞歴もある制作方法が気になるMVです。実際に小細工なしでこのハイペースな飛び込みが行われていたとしたら間隔の短さがあまりにも危険に思えるため、カット割りの工夫とVFXの駆使で見事にシーンを繋げたのだと推測するも、出来上がりが自然ゆえに訓練を重ねたうえでのパフォーマンスにも映ります。曲名通りのフェイクにせよリアルにせよ、[1:44]からのアクロバティックさにはハラハラすること必至です。素人考えながら着水面の白波やしぶきのコントロールはとりわけ難儀しそうなので、挙動に不自然さを感じさせないのが流石プロの仕事だと納得しています。

 補遺MVs:一転してシンプルなつくりでも心に残るものがあるグループ魂「べろべろ」(2010)も、同監督が同芸術祭でエンターテインメント部門優秀賞を獲るに至った作品です。既に終了した祭典ではありますがMVも評価対象にしていたため、公式サイトから過去の受賞作品を調べてみるとお気に入りが見つかるかもしれません。ちなみに4.で例示した『四畳半神話大系』はアニメーション部門で大賞に輝いています。話を電気に戻すと田中さんは他にも多くのMVを制作しており、後の41.で紹介する「Set you Free」(2020)もその一作です。


8. THERAPY (2010) / group_inou

 YouTubeリンク

 セラピーという題在にある意味相応しい洗脳的な内容で、非常に高い中毒性を誇る狂気に満ちたMVです。際立って頭がおかしい(誉め言葉)と感じた絵面のトップ5は、色味・キャラクター・文言の何れもが名状しがたくSAN値直葬の[2:11~2:23]、宛ら天国と地獄が衝突した謎空間を満面の笑みを湛え流れ行く亡者の列[2:33~2:36]、一見啓発ポスターのようでその実キャッチもフォントもタッチも怖い[1:50~1:54]、Sylvano BussottiやJohn Stumpの系譜を感じるアンプレイアブルな楽譜[0:46~0:52]、プロビデンスの目に睨まれて「あたりましたね?」の末尾に(威圧)が透けて見える心理テスト[1:18~1:44]です。以上は言わば意味不明な怖さですが、以下に挙げるように筋の通った怖さもあります。

 ルビが全て「いるか」の「監修 関東イルカセラピー協会」や、関係者全員にイルカの息が掛かっているTV番組のエンドテロップから漂うのは、ミームイラスト『イルカがせめてきたぞっ』的なディストピアの趣です。そして立体視の説明「ふたつの黒い点を重ねますように 目のピントがずらしてご覧になります」の崩壊した文法や、タイポを意に介してない感のある「日本女陸!」からは文化侵略系の不気味さを察せます。尤もこれらの怪しさが実際に示唆するのはプロパガンダや広告の胡散臭さだと読み取れるので、「イルカはとってもおりこうさん」に「※個人の感想です」と付す皮肉や、「無害で安全」だの「本場ヨーロッパ仕上げ」だのといった常套句は真っ当にシニカルです。

 補遺MVs:AC部が手掛けたグループイノウのMVは本作以外にも複数あり、架空のドラマ「二子玉川メトロノーム」を通してクセ強絵柄の割に清々しい視聴後感に浸れる「HEART」(2011)、長尾謙一郎監督との共作による奇才同士のぶつかり合いと実写背景の組み合わせが「混迷極める大東京(三鷹市ならぬ王鷹市がある)」を闇深く映し出す「ORIENTATION」(2012)、学習図鑑+新聞記事のハイブリッドな紙面に描かれる肉食VS草食の対立が思わぬ帰着を見せる「CATCH」(2015)、同じ漫画表現でも縦読みなところに隔世の感を覚えるも確かにスクロールが心地好いスマホ縦画面推奨の「HAPPENING」(2023)と怪作が揃い踏みしています。それぞれ単体でも面白いですが「THERAPY」との共通要素を見つける楽しみもあり、「CATCH」以外には素材の流用が認められました。


9. Yang 2 (2012) / avengers in sci-fi


 パフォーマンスとして有名な『集団行動』や横断歩道上に展開されるレーン形成現象に美しさを見出せる方はお気に召すかと思います。前者は人為で後者は自然なので一緒くたにしていいかはともかく、6.で惹かれた点「複数の同一オブジェクトによるシンクロ」を交差する動線上に発展させた芸術性は壮観です。[2:27~2:56]で杖を突いた男性陣だけダンスがズレているのはご愛敬ということで。ほぼ定点とはいえカメラワークにも工夫が凝らされ、大勢の飛脚が降って来るタイミング[1:44~1:47]で画面を揺らす(短く引いた後にゆっくりズームする)ことにより、着地の画にダイナミクスを与えているのは論功行賞ものだと主張します。

 補足記事:avengers in sci-fiの軌跡 ―4th『D4TS』から6th『Dune』まで―

 補足MV:従前の短評ではブログパーツ『UNIQLO CALENDAR』を持ち出し「ジオラマ風の定点カメラ映像」に結び付ける文章から始めていました。しかしこの観点で本作はあまり好例とは言えなかった(人物のみ・タイムラプスあり・ティルトシフトなし・そもそも合成な)ので主文からは外し、代わりに人物+風景でTLTS共にありのamazarashi「この街で生きている」(2011)を適例として紹介します。現実の被写体がミニチュア風に処理されているのは勿論、それとは別にジオラマも登場させる重ね合わせが秀逸です。



10. Star Guitar (2002) / The Chemical Brothers


 音楽と映像が高度にシンクロしているMVの金字塔であるのは一目瞭然ですが、それは結果的にであって真に絶賛すべきは「楽曲の設計図を映像化した」と表せるシステマティックな画作りにあります。ピアノロール動画ないしMIDI Trail動画の究極版と言いましょうか、各音に対応するオブジェクトの出現やフィールドの変化によって楽曲の全体像を可視化しているため、殊にリズムパターンの研究延いてダンスミュージックの雛型を学習したいDTMerに有益です。シーケンスフレーズを煙突や塔槽の細かい大量配置で表現したり[0:17~0:44]、波を共通項として音楽に於けるフィルターの役割を映像に置き換えて濾す対象を光としたり[1:24~1:37]は、DAW上での見え方や挙動に則っていて正確だと評します。

 映像だけを取り立ててもその編集力は確かで、ハイスピードに移り変わる車窓の景色を自在に且つ自然にフィクショナライズするのは大変な作業でしょう。だからこそサビというかボーカルセクション[1:38~2:08]でのスローモーが尚の事心地好く、例えば田舎の通過駅で俄に車窓に人や町を捉え始めた途端それらに意識が向いて知覚が冴える時のような、一驚と安堵が綯い交ぜの認知から来る「この地にも生活があるんだ」の気付きと同様の視聴体験が出来ます。ここに至るまでにビートに係るオブジェクトの非現実的な乱立(或いはプラント類の無機質さ)を目撃しているので、市井の雰囲気にほっとするのかもしれません。

 補足MV:同じくMichel Gondry監督作品には本作とコンセプトの近いDaft Punk「Around The World」(1997)があります。下掲リンク先で楽曲のシンプルな性質を把握してからご覧いただくと、映像は寧ろコンプレックスへの橋渡しを担って楽曲のポテンシャルを引き出していると解るでしょう。

 補足記事:今日の一曲!Daft Punk「Around The World」【平成9年の楽曲】

 補遺MVs:このように同監督によるMVはまさに「音楽のためのビデオ」との首肯に至るものが多く、後の30.と52.で紹介するThe Chemical Brothers「Let Forever Be」(1999)およびbjörk「Declare Independence」(2007)もミシェル・ゴンドリーさんの作品です。



■ MV紹介 ―No.11~20―

11. 空飛ぶ子熊、巡礼ス (2019) / さよならポニーテール

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 古き良き4:3の時代に郷愁の念を覚えずにはいられない、当時代性の再現に確かなこだわりを感じさせるMVです。一定の年齢以上の方には思い出と共に突き刺さって曾てのTV番組やCMの存在を懐かしんだり、学校で観せられた録画や教材ビデオの記憶が蘇ったりするであろうと見通してみます。ただアスペクト比を変えてレトロなエフェクトを施しただけとか発生位置や出現頻度のおかしいフィルムノイズ使いだとか、時代考証に疑問符の付くアナログ演出が蔓延る中で本作は画質・色調・フォント・レイアウトの何れも出色の仕上がりです。

 とはいえ上記の当て擦りはリリース時に執筆したもので、直近の改訂時までに界隈を取り巻く状況は幾分改善されたと感じます。その背景にはヴェイパーウェイヴの認知度の向上やロストメディアに関心を寄せるクリエイターの増加があると分析しており、MVに限らず往年の空気感のパッケージングが上手な作品に出会す折は多くなりました。実在の旧い素材を使用またはリファレンスにする、敢えて旧い機材でアウトプットする等の手間を惜しまないことが肝要ではないでしょうか。惜しんだ結果のプリセット頼みが充分効果的な結婚式でのプロフィールムービーならまだしも、それと似たノリで作られた昔のホームビデオ風MVはアナログ処理が却ってドラマ性を棄損していると感じます。


12. Chorus (2014) / Holly Herndon

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 所謂ヴェイパーウェイヴらしいアートワークではないけれど、制作背景に照らした自分なりの解釈ではその文脈で語りたいMVです。楽曲に使われている断片的な音素材は意図的に収集したわけではなく普段のネット使いから言わば生活音としてサンプリングされたもの、加えて映像の素材であるデスク周りの写真は不特定多数から提供されたもので、何方にも高い個人性と切り貼りの美学が備わっています。更に奇妙な3Dモデル化によるグリッチな風合と監督(谷口暁彦さん)および写真の提供者が日本人ゆえに当然の日本要素がミックスされると、そこにヴェイパーウェイブ的もしくはホーン/ハウントロジー的な精神性を見出せるからというのが理由です。この辺りの視座に関しては次の13.でも言及します。

 さて、斯様な小難しさは抜きにしても本作から受けるインパクトは抜群と言わざるを得ません。デスク上の品々について「輪郭が曖昧に抽象化されている」と述べればまだ美術の範疇だけれど、融解と凝固の痕跡を思わせる欠損や癒着が僕に怖い想像をさせます。一方で動画のコメント欄にはユニークな捉え方もあって、Google Mapsの描画遅れに喩えた視点やゲーム『塊魂』の世界観に結び付ける意見には成程と膝を打ちました。後者に関しては乱れ飛ぶ商品群の質感からも実にそれらしいと言え、見慣れたパッケージデザインを介して日本人に通有の日常を再発見するのも一興です。


13. INTERNET YAMERO (2023) / Aiobahn feat. KOTOKO

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 従前は本作を後の18.から続く美少女アニメーションMVセクションにて、アニメーターの頑張りが感じられるものの一例として紹介していました。この「頑張り」に諸々の前提条件が付くことは18.~20.で説明しますので、ここでは取り敢えず鍵括弧内の讃辞を素直に観たままの印象とさせてください。なお通りの良さから主体を「アニメーター」という役職名に集約させていますが、正確にはクレジットにお名前のある少数精鋭の努力を評価しているの意です。前田地生監督によるディレクションは勿論、コンポジットを担ったTOHRU MiTSUHASHiさんの手腕にも非凡さが窺えます。この素材の嵐をよくコントロールしたなと。

 上記の点を扨置きこの位置に移し替えた理由は11.と12.にあって、楽曲の歌詞から抜き出せば"忘れないでいてね"の機微を強化したいからです。ゲーム『NEEDY GIRL OVERDOSE』の価値基準で概観されるネット史・オタク史はカオスに満ちており、TikTokを模して実際にもバズったダンスシーンと古の2ch用語が飛び出すシーンとを対照させた時の振れ幅の大きさはまさに双極性だと、差別的な意図はなく文脈に沿った語彙を使って含みを持たせたくなります。デバイスの発達に伴うネット空間の変容を受けても我々は"インターネットがやめられない!"と喚き続けていて、ここに憑在論が謳うところの存在の曖昧さと生死の不確かさ=ネット上の仮想人格とそれに付随する正体不明の履歴を見た思いです。経る年月に忘れ去ったリアルを懐古するのに直接レトロな画を多用せず、ホーントロジックなヴェイパーウェイヴのエッセンスで補うのが今風と言えます。

 補足MVs:本作と共通点は多いのにある意味対極の例として注目したいのは、名取さな「だじゃれくりえぃしょん」(2022)です。ゲームネタ中心のネットカルチャー/ミームおよびヴェイパーウェイブの要素を多く含んだ素材の嵐でディレクターとコンポジター(共にyonayona graphicsさん)が大変そうな点では同じですが、本人の信条に根差した間奏の台詞"丁寧なインターネット生活をしろ~!"が象徴するように向き合い方次第で動画配信者ライフの快適度が変わると腹落ちさせられます。他方で楽曲の作詞作曲編曲者が同じという理由から類同に属すMVもあり、さくらみこ「Sakura Day's」(2024)もまた失われたメモリーを懐かしむばかりのエモいつくりです。VTuberのMVについては後の20.でプチ特集をするため興味のある方は終盤付近までスクロールしてください。


14. EYE (2015) / group_inou


 12.でグーグルマップにふれた流れでストリートビューを利用した秀作を紹介します。ハイパーラプスとストップモーションの合わせ技による凄まじい疾走感と没入感に寄与した膨大な作業量にまず脱帽です。この熱狂はきちんと公に認められており、7.と同じ芸術祭での受賞歴(エンタメ部門新人賞)があります。8.でグループイノウのMVはコミカルなものばかりと思ったかもしれませんが、本作のようにスタイリッシュなものも存在するのです。景色と速度の関係性から知覚に強く訴えて来るとの観点からは10.を、[2:21~2:33]の世界の裏側へ突き抜けたかのような演出からは6.を;そのグリッチなビジュアルからは12.を連想する余地があり、個人的なツボのオンパレードで構成されていると言えます。

 ハイパーラプスはその字面から察せる通りタイムラプスの一種で、カメラが定点ではなく長距離を移動するのが特徴であり差異です。要はストビューの画像を繋ぎ合わせて移動を動画化すればそれはハイパーラプスとなり、これを可能にするTeehan+Lax Labsによるサービスの名称もそのまま「Hyperlapse」で、本作にはその公開ソースコードを引用したソフトが使われています。そうして出来上がった背景にストップモーションで撮影した人物を合成することで、普通のタイムラプス動画とはまた違ったダイナミックな画作りに成功しているわけです。


15. Putin, Putout (2016) / Klemen Slakonja

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 僕が本作を認知したのは2022年の3月で、発表からの6年間はまだカリカチュアの文脈で語れたものが誇張に非ずの現実によってアネクドートと化したため、笑えない状況が続けば続くほど風刺として熟成していく今もその最中にあるMVだと言えます。ニコライ2世の着衣をPussy Riotメンバーの肩にかける帝国式煽り行為[0:39~0:41]、天然資源と宇宙開発を人質にしたエネルギー脅迫[1:03~1:09]、サンタクロースを襲って冬戦争と継続戦争または小説『6/12』的なリスクを表現した[2:24~2:27]、ツチカマで出来た鉄の玉座に就いて共産主義の覇権を目論む[2:41~2:43]あたりは、演技・演出・美術・カメラの全てが高いレベルで調和しておりハラショーです。狙ったわけではありませんが黒背景にホパークは6.も同じと気付いて画的に好みなのかもしれません。

 補遺MVs:本短評を以て特定のイデオロギーを主張するつもりはなく、その証拠(?)にクレメン・スラコニャさんによる国家元首パロディ作品は他にもあるとフェアに紹介しておきます。語録が過激なのでそれを基にした歌詞もその映像化も過激という至極当然の帰結に至った「Golden Dump (The Trump Hump)」(2016)にMAGAな未来を想像し、多方面のセンシティブに土足で踏み込み失うものなど何もないと感じさせる「Ruf mich Angela」(2017)に一糸纏わぬFKKの精神を見て、多角的な視点を養う一助とするのが良いでしょう。何れも率直に捉えれば対象人物を揶揄する意図なのだと思いますが、描かれている内容を当人の理想や本音を代弁し得るものと解釈すれば、必ずしもディスとは言えなくなるのがニクいです。


16. Two Tribes (Video Destructo Mix) (1985*) / Frankie Goes to Hollywood

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 政治ネタというか時事ネタの名作をもう1本だけピックアップします。…と言って警告通り年齢制限のせいでログインが求められますので、代替に制限のないバージョンを以下に16'.としてリンクしておきました。コアとなる映像のアイデアは何方でも変わりませんが、別ミックス音源に合わせた長尺版*である16.のほうが外部素材の援用が多く、より当時のひりついた空気感に浸れます。その主旨は米ソ冷戦(特にアフガニスタン侵攻以降の新冷戦)と核戦争の脅威で、寧ろ目下の寸善尺魔の世界情勢でこそ一層アイロニックに響くかもしれません。新冷戦という言葉が1979年~1985年頃を指していたのは昔で、今に連なる対立をそう呼ぶケースも多いと感じるからです。両者を第二次と第三次で区別することもありますが、後者を第二次と表現する人もいるため一応注釈しておきます。

 ※ 実は16.の映像としての初出年には確証が持てておらず、英語版Wikipediaの記述『ロングバージョンは「Hibakusha Mix」に基く』を信じて、その収録先である日本限定盤『Bang!』のリリース年を根拠に1985年としました。しかしMUSIC AIRのTV番組『Video Killed The Radio Star』にてKevin Godley監督は、16.が本来の形で16'.はシングル用のエディットと取れる旨の発言をしているため、16.も1984年の時点で世に出ていた可能性があります。輪をかけてややこしいのが「Video Destructo Mix」の表記で、これは16.に使われた音源の最終的なタイトルらしく、その初収録先は『Twelve Inches』(2001)のドイツ流通盤です。従って1986年以降の可能性も否定出来ないものの、ネタの鮮度を考えると1984年2月13日~1985年3月10日の間でないと面白さ半減なので、期待を込めて遅くとも1985年にしたかったとの私情も明かしておきます。

16'. Two Tribes (1984) / Frankie Goes to Hollywood


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 先に示した米ソ冷戦というキーワードとやけに具体的なネタの賞味期間に照らせば、リング上で闘っている二人の男が誰と誰に扮しているかの理解は簡単でしょう。15.でも曲名は例外としてダイレクトに人名を書くのは避けたためここでもそれに倣い、本作とのシンクロニシティを感じさせる漫画『ウォッカ・タイム』もヒントとして挙げておきます。両名の白熱した取っ組み合いに観客もヒートアップして場外乱闘、全世界を巻き込んで最後には地球がボン!と実に解り易いプロットです。Hi-NRGな楽曲もボルテージの上昇を煽っており、画面越しでも興奮が伝って来ます。

 この16'.に平和的ないし反戦的なファクターを適宜挿入したのが16.で、例えば冒頭の演説集は「外交努力によって和平を主導した」人選ですよね。ガンマイクを持った男性(バンドのベース担当の方)が着ている文字Tには「FRANKIE SAYS WAR! HIDE YOURSELF」と書いてあり、これは80年代の海外MV界隈によく表れ人気を博した「CHOOSE LIFE」Tシャツと同じくKATHARINE HAMNETTがデザインしています。その高いメッセージ性は「We must dream! / War! Hide yourself / Death is dung / Thou shalt not kill」の形でも表れ、連続顔面パンチで画面が真っ赤になるところに挿入されるのが警世的です。それでも結局地球爆発は不可避なのだけれど、終末まで[3:51]だった16'.に比べると16.は[6:00]なので少しは長生き出来ました。ちなみに破滅直前の核実験映像集の中には3.にも出てきたものがあります。


17. Weapon of Choice (2000) / Fatboy Slim


 映像の内容はともかくヘビーな解説が続いたのでここで清涼剤の投入です。クセになるダンスと解放感のあるワイヤーワークで誰が観ても楽しい本作にはMTV VMAsでの燦然たる受賞歴があり、プロフェッショナル部門をほぼ総嘗め(Best Visual Effects以外の5つ全部にアワード)した上に曾て在ったBreakthrough Videoを加えて六冠に輝いています。とりわけ重要度の高いBest Directionと旧BVでの受賞がMVとしての質を保証していますし、Best Choreographyでの受賞は主演のChristopher Walkenさんによる振り付けに独創性があることの証左です。個人的に大好きなのは[2:03~2:23]のコレオで、凡そスーツを着た人物がしそうにない動きが笑いを誘います。続く[2:24~2:30]の合わせ鏡を使った自己拡張の表現も、[2:31~2:47]のエレベーターホールでの逡巡が好タイミングで破られる全能感も、冒頭で疲れ切った状態を見せているからこそ爽快です。

 補遺MVs:このようにファットボーイ・スリムのMVはネットスラングで言うところの「キ○ゲ発散」的な筋書きを得意としている印象で、グラフィティ・デスマッチ・イン・ザ・バスルームとキャプションしたい「Slash Dot Dash」(2004)や、不随意運動を誘発する音楽で大混乱に陥るマーケットのカオスを描いた「Ya Mama」(2000)もおすすめです。


18. VOY@GER (2021) / THE IDOLM@STER FIVE STARS!!!!!


 錦織敦史監督自らが「密なフォーメーションダンス、移動も手描き、一曲ずっと踊りっぱなし」である本作の内容を歌詞に照らして「無謀」と形容していることから推して知れるように、本気のリソースが注ぎ込まれたアニメMVは斯くあるべしと言える力作です。1番サビ終わりまではまだエンジンを温めているといった具合で冷静に観ていられますが、舞台装置が本領を発揮し始める[3:19]以降に一段と画面が立体的となり、現実の存在を挙げればPerfumeのライブ演出みたいな驚きとワクワクで俄に惹き込まれます。2番は各人の歌い継ぎが鮮やかまたはダンスの動線が非常に有機的で、カット割りとPANの妙も相俟ってキャラが何割か増しで魅力的です。この高揚が導く先の[4:12]からのパートに最も制作陣の本気を感じ、ここで地面を消してカメラを全球に解放するのは控えめに言って天才だと思いました。

 補足MV:厳密にはMVではなく作中のライブシーンと断りまして、アニメ映画『劇場版マクロスΔ 激情のワルキューレ』で「チェンジ!!!!!」(2018)を鑑賞した際にも近しい感動に覚えがあります(リンク先の予告動画冒頭で5秒だけ観られます ※ BGMは別の曲です)。同作では目まぐるしく動き回る立方体群を使って天地を曖昧にしていたため、空を飛ぶとか宙に舞うとかではなく地面が地面でなくなる演出が好みなのだと再確認した次第です。

 補足記事:ワルキューレは裏切らない / ワルキューレ


 本作の凄さはTVアニメのOPに引けを取らない完成度でフル尺に挑んだところに端的に表れています。EDでも主流たる静的なもの(一枚絵のPAN・静止画の連続・SDキャラがGIF画像っぽく動く etc.)でないならOPと同じ天秤に据えて構いません。ともかくTVアニメのOP/EDを短尺のMVと見做す立脚地から語ると、その全てを新規映像で構成するほどの熱量や工数は1分30秒のそれらに割かれて当然です。ゆえにフルサイズの楽曲に合わせたアニメMVは意外なエアポケットで、制作にあたっては「省エネ」に資する手法が散見されます。例えば本編そのものやバンクなど既にある素材から流用したり、単純に作動画枚数を減らしたりです。前者は主題歌のMVならそれが手っ取り早く効果的ですし、後者は殆どのクリエイターにとって現実的な落としどころでしょう。なのでTVアニメのOPと同等のクオリティでフル尺に挑んだMVは依然として数が少ないとの認識です。この「無謀」と「省エネ」の話は次の19.と20.に続きます。


19. Walking Dream (2023) / 上原歩夢

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 ここで反例として18.ではディスと言わないまでも下げる書き方をしている「省エネ」でありながら、スマートなテクニックで特筆性を持たせたレアケースを紹介しましょう。公式がMusic VideoではなくLyric Videoと謳っている通りのつくりなので、アニメーションとして目覚ましい動きはありません。中には13.のように非省エネのリリックビデオも存在するけれどそういう類でもなく、リズムゲーの背景映像や音源試聴動画などによくある「複数のキービジュアル+リリック+エフェクト」で間を持たせたタイプです。それらは普通短尺であるにも拘らず素材不足が祟って絵面の変化に乏しいのに、フル尺なら猶更と言いたくなるところで本作には絶妙に飽きさせない工夫が凝らされています。

 少ない素材でいかにリッチに見せるかが肝心なためキネポは基本としても、常に多彩な表示方法で目に楽しく歌詞を追えて別けてもスマホのUIを模したパート[1:40~1:56]が素敵です。歌詞以外の文字情報が豊富なのも発想が柔軟で、キャラのステータスや歌詞に紐づく英単語が良い賑やかしになっています。係るデザイン性の高さはレイアウトにも表れ、そこまでの映像すら素材化してBGに落とし込む入れ子構造には感心しました。このお蔭で歌唱部分ではない歌詞の再利用が可能となり、文字情報の件も含めて「今歌っている歌詞のみを表示すべし」の制約を逃れているのが革新的です。しかし本作を真に白眉たらしめているのはキービジュの恐ろしい使い方で、Most Replayedのピークにも納得の[3:29~3:37]には「ひぐらしかな?」と別作品が過ります。可愛い絵をマスキングで怖くする意外性と、それが成立するキャラクター性が噛み合った産物ですね。度々表示されるQRコードでプロフィールページに飛べるギミックも愛が重くて解釈一致です。

 補遺MVs:同じ『ラブライブ!シリーズ』からは「無敵級*ビリーバー」(2020)を18.に記した「TVアニメのOPに引けを取らない完成度でフル尺に挑んだ」例として大書します。とはいえ「無謀」さが売りの18.とはスタイルが異なり、「2Dの中での動静」と「2Dと3D間での動静」の切り替えが上手なハイブリッドタイプです。前者は所謂アニメらしく動くパートと止め画との対比を指し、それらをまとめて2Dでの表現とした時に3Dの滑らかな動きがまた別次元の表現として対比されるのというのが後者にあたります。無印の頃からこの種の融合に挑戦し続けている長期シリーズゆえの集大成らしさに敬意を表し、最も初期の「僕らのLIVE 君とのLIFE」(2010)から通時的に追うと有意義です。中でも『虹ヶ咲学園スクールアイドル同好会』の特出さについては後述します。


20. flower rhapsody (2024) / さくらみこ


 最後はVTuber界隈をメインに据えて、18.から続くフル尺アニメMVに於ける「無謀」と「省エネ」の話を、本記事のラストに相応しい長文で締め括りましょう。VのMVにリスナーが求めることは多種多様でしょうが、王道延いてひとつの正解は3D体を使ったパフォーマンスだと思います。或いはそのままL2D体またはイラストを利用したものも考えられるけれど、何れも普段の配信で見慣れている形態だからこそ、特別を感じられるのはやはりオーソドックスにアニメーションされることですよね。

 これを前提にすると業界大手のホロライブはアイドル路線に強いだけはあって言わばアニメ体にも力を入れているメンバーが多く、別けても13.の補足にお名前を出したさくらみこさんが2024年に発表したMVの幾つかはトップティアの観応えを誇ります。本作はその集大成として申し分のない八面玲瓏の出来で、ハイクオリティを維持し続けているアニメの素晴らしさも然ることながら、実際とリンクして成長の物語を描いた桜花爛漫の軌跡に感動を覚え、熱いものが込み上げてきました。

 補足MVs:本作と異なりコミカルに主軸を置いているけれど、アニメの頑張り具合では「イケ贄」(2024)もおすすめです。20.と同じくその人の配信内容や別の配信者との関係性を把握すればするほど小ネタや細部の描写に理解が及んでいくタイプで、箱推しほど楽しいアプローチを取れるのが大手企業勢の得手かもしれませんね。みこち含め黎明期からのVは元より3D体の場合があるため、3DCGを使ったMVに於いてはL2D勢よりも新鮮味を欠く潜在的なビハインドが存在します。それが意識されてか「1135」(2024)ではやや海外っぽいモデリングのマットな質感が目新しい一方、楽曲のテーマ性に即してか「SUNAO」(2024)のそれはベースに忠実な素直なデザインに安心するので、絶対的な評価は難しいけれど何方も力作には違いありません。

20'. III (2024) / 宝鐘マリン & Kobo Kanaeru


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 ホロからはもう一人、宝鐘マリンさんのMVもキャリアを通してずっと質が高いです。3Dも駆使しつつ従来のアニメ表現に注力したものが多く外連味があります。近年のものほど表現力と技術力が洗練されているとの受け止めで、ソシャゲのCMに使われる気合の入ったムービーのみで構成されたような鮮烈さがある本作はその一例です。

 補足MVs:見事なトゥーンレンダリングで3Dと2Dが違和感少なく調和している「パイパイ仮面でどうかしらん?」(2024)に技術力の向上を見たり、20.と同様に本人の世界観に根差した内容且つ箱推しにも嬉しい「美少女無罪♡パイレーツ」(2023)から窺える船長のエンタメ精神に感心したりと、どのMVも何度となくリピートしたくなる魅力を有しています。アニメらしさのみに着眼するなら遡って「マリン出航!!」(2022)GuraMarine「SHINKIRO」(2023)が適例な気がするとはいえ、僕の感性では映像が強過ぎるとMVというよりアニメ+BGMに分離して宛ら挿入歌が流れる台詞なしシーンと捉えてしまうため言及を後にしました。

 改めて述べますが目下の文脈ではTVアニメのOP/EDに於いてすらかなりの上澄みを理想に、予算・人員・尺の全てでハードルを高く設定しています。2D/3Dを問わず「省エネ」のアニメMVを須く手もなく作ったと軽視はしないけれど、スライドショーや紙芝居に毛が生えた程度の2DMVや、それなりの背景でそれなりにキャラが動くだけの3DMVでは満足に至りません。以降、個人的な価値基準を更に明かしていきます。

20''. ちきゅう大爆発 (2021) / P丸様。


 上記で言うそれなりに当て嵌まらず、確かな「無謀」さを感じさせる一例です。13.の補足に紹介した名取さなさんのMVに対する感想と重複するのがある意味答えですが、ミームを取り込みヴェイパーウェイブで吐き出しコンポジットに負荷を掛けると、途轍もなく画面が賑やかになって電子ドラッグの向きが芽生えます。

 名取さんの『プリパラ』好きとP丸様。の『ひみつのアイプリ』タイアップから勝手に紐付けて語りますと、アイドルものやバンドものなど「パフォーマンスシーンを3Dに委ねたタイプ」の作品と親和性がある方のMVは、その延長線上で視聴者のニーズに応えているとの分析です。作中で大抵は1コーラスのみのライブがフルで続いたら…?或いは背景やエフェクトの制作にTVシリーズ以上の時間が掛けられたら…?等々、思いはするけれどアニメの枠組みでは実現性に乏しいと諦めていたものでも、VTuberのMVやライブ演出でなら実現し易く夢があります。

 補足記事:今日の一曲!P丸様。「ちきゅう大爆発」
       :プリティーシリーズの神曲たち・その1 ~プリパラ編~

 補足MVs:ここでも厳密にはMVではなく作中でのパフォーマンスシーンの話と断りまして、3Dでのライブ中にも2Dのインサート(回想や本筋の映像ではなく演出として新規のもの)を充実させると、MVと扱った時にも見栄えが良くなると主張したいです。この点では19.の補遺でふれたアニガサキがMVは勿論、作中のダンスシーンも僕の求める正解に限りなく近いと言えます(e.g. 1期7話, 2期4話, OVA)。この手の次元往来が制作に有効なのはVTuberの例で示した通りで、両次元の中間体であるVは表現方法の自由度が高く、星街すいせい「ビビデバ」(2024)月ノ美兎・笹木咲・椎名唯華「てんやわんや、夏。」(2024)のように、2D/3Dとの対立軸に実写を持ち出すことすら許容されるのが強いです。


20'''. UNDEAD (2024) / YOASOBI

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 フル尺アニメMVに可能性がある界隈としては他に覆面アーティストが挙げられます。覆面とは便宜的なもので必ずしも正体不明とは限らず、ネット発とか若者・SNSを中心にバズっているとかの形容をされがちな面々のことです。アーティストイメージが二次元と結び付いているケースが散見され、その場合はMVのモチーフに小説や漫画やアニメやゲームが採用されることがあります。その源流を動画投稿サイトのアマチュア創作に見るなら、当然の「省エネ」は絵本のようなコンパクトさやミニマルな中毒性に向けられるのが常套です。乱暴に喩えてTV番組『みんなのうた』ぐらいの塩梅であればかなり上等なほうと感じます。

 補足MVs:しかし中にはTVアニメのOP/EDと比しても負けないアニメMVを連発する有名どころもおり、例えばYOASOBIは本来「省エネ」である筈の「本編からの流用」の域を超えて、言わば拡張版OP/EDに昇華させられるだけの爆アドを有しており貴重です。その流動的なメンバー編成に拠って多様なアニメ表現にふれられるずっと真夜中でいいのに。もプレゼンスがありますね。もしくは特段二次元と密接ではないアーティストが本気のアニメMVに挑戦する例も当然あり、その傾向は「SFないしサイバーパンクに名作あり」です。時代に鑑みて色褪せない好例はKen Ishii「EXTRA」(1995)で、後の22.で周辺的に接点が出てくる安室奈美恵「Dr.」(2009)や、60.で再び本編流用の視点にふれて例示する宇多田ヒカル「Kiss & Cry」(2007)も好みの世界観で没入出来ます。

 補足記事:今日の一曲!Ken Ishii「EXTRA」【平成7年の楽曲】
       :今日の一曲!宇多田ヒカル「Kiss & Cry」【テーマ:即席ラーメン】



□ Intermission

 No.21以降は続きの記事「【MV】凄くて面白い名作傑作ミュージックビデオ40本+について語る【PV】Part.2/3」をご覧ください。41.以降は「Part.3/3」にて。