Ken Ishii「EXTRA」レビュー 考察 'extra 意味 sunriser | A Flood of Music

今日の一曲!Ken Ishii「EXTRA」【平成7年の楽曲】

 【追記:2021.1.5】 本記事は「今日の一曲!」【テーマ:平成の楽曲を振り返る】の第七弾です。【追記ここまで】

 平成7年分の「今日の一曲!」はKen Ishiiの「EXTRA」(1995)です。アルバムとしては『JELLY TONES』に収録されています。同曲および同盤は、キャリアの中で最も有名なものだと言っていいでしょう。


 当ブログでケン・イシイを単独テーマに立てるのは、本記事が初めてのこととなります。名前や曲名を挙げただけであれば、好き勝手に更新していた第一期の頃(用語の意味はリンク先の4.を参照)にいくつか記事がありますが()、中身はほぼ無いに等しいです。昔から好んで聴いていたということの証明になればと並べただけなので、参考程度に捉えていただければ幸い。

 好きなのに今までメインで扱ってこなかった理由は、存在のレジェンドっぷりと関係があります。この発想に至るプロセスに関しては、以前にアップしたThe Orbの記事にも同様の理由に端を発した弁明が書いてあるので、詳しく知りたい方はお手数ですがそちらをご覧ください。冒頭の文字サイズが小さい、「ではなぜ ~ 次第です」までが当該部分です。



 今し方「レジェンド」なる形容を用いましたが、これは電子音楽を好む層;とりわけジャパニーズ・テクノに価値を見出している層にとっては尚更という意味で、この界隈のカルチャーや音楽性に興味がある人間ならば、何処かで必ずふれることになるであろう重要性を考慮しました。今回の振り返りの第五弾の最後にもネタバレで一足先に記した通り、日本人でありながらデビューも評価されたのも海外が先行している点からして特殊性が際立っています。

 別名義が多くある上に、あたるソースによって微妙に異なる情報が載っているため、時期が前後する包括的な書き方をしますが、デビューは1993年に集中していて、オランダのESPからRISING SUNのユニット名義で『SWITCH OF LOVE』、カナダのPlus 8からUTUの変名で『N428』、Ken Ishiiの名ではベルギーのApolloから『DEEP SLEEP』、その親にあたる名門R&Sからは『Pneuma』が、それぞれ同年内のシングルとしてのリリースです。更にアルバムでは同レーベルから出た『GARDEN ON THE PALM』が、英音楽誌『NME』上で高く評価されたこともあり、日本ではここから逆輸入ルート*でその存在が認知されていきました。

 * 今回の振り返りの第二弾では電気グルーヴの楽曲を取り上げましたが、そのメンバーである石野卓球がラジオで紹介した影響も大きかったようです。Wikipediaでは出典が表示されていませんでしたが、タワーレコードのフリーマガジン『bounce』をソースにした同社のウェブサイト上にも関連記述を発見出来たので、正しい情報だと思います。

 「海外が先行して」ということに拘らなければ、ケン・イシイより前にも後にも、電子音楽界隈で世界的な評価を得た日本出身の人物またはグループの名前を挙げることは難しくないでしょう。しかしその評価の多くには、日本人ならではのポップセンスやオリエンタルな質感が融合されているのが新鮮だったからといった側面もあると推測します。そのこと自体に他意があるわけではなく、当然ケン・イシイにもこの向きは当て嵌まるとの認識ですが、それでも個人的にはデトロイトからの本流を受け継いだ硬派な音楽を奏でているイメージのほうが強く、格好良いテクノのまま海外で受け入れられたことに特筆性があると主張したいです。異名たる「東洋のテクノ・ゴッド」は、決して誇張ではないと考えています。




 ぼちぼち本題の「EXTRA」のレビューに入りましょう。同曲が殊更に有名であるのには、『AKIRA』に作画監督補として携わった森本晃司によるMVのインパクトも欠かせない要素です。めちゃくちゃクールゆえ動画を埋め込みたかったのですが、残念ながら公式にアップされているものは探せなかったので、代わりにBOILER ROOMにアップされていた1時間半超えのDJプレイを埋め込んでおきます。オリジナルはセットに入っていませんが、48:18からは「EXTRA (LUKE SLATER REMIX)」です。

 先日アップしたUnderworldの記事でも奇しくも『AKIRA』に言及しているのですが、同作品と本曲のMVに共通するエッセンスとしては、SF或いはサイバーパンクな世界観が挙げられます。そこで実際に流れていたら素敵な音楽という観点に於いて、これ以上の正解は無いと言えるサウンドスケープが披露されているのが大いなる魅力です。


 潜在的な不安を煽られるようなSEとエッジィなシンセサウンド、渇いたドラムパターンによるトライバルなビートメイキング、グルーヴィーなベースラインによるサグい疾走感、それらが混然一体となって次第に東洋思想然とした陶酔性(=瞑想や経に馴染みそうな感覚)を帯びてくる不可思議、後半から(4:27~)のインダストリアルな展開が醸すメガロポリタンな趣。90年代半ばのトラックを2019年の今聴いてもなお、意識は近未来へと即座にトリップ可能です。

 本曲も9分近くある長尺トラックのため、上掲のアンダーワールドの記事のように、ブロック毎に細かく分解していく通時的なレビューを行ったほうがより詳細に楽曲の魅力に迫れるとは思います。しかしあれこれと言葉を尽くすよりも、MVも含めて感じたままの良さに身を委ねるのがベストな味わい方だと信じているので、敢えてこれ以上の掘り下げはしないでおきましょう。



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 とはいえせっかくケン・イシイの単独テーマを立てたので、もう少しだけお気に入りのワークスについて語らせてください。最も愛聴しているのはこの『SUNRISER』(2006)で、中でも「Organised Green」「Time Flies」「Reflexion」「Cubitos de Hielo」は特に好みです。次点で高く評価しているアルバムは『Future In Light』(2002)で、同盤にも「Awakening」「Visionary World」「Auburnia」「Fadeless」とツボなトラックが多くあります。

 あとは雑多にふれますが、今回ピックアップした『JELLY TONES』では「EXTRA」の他に「Cocoa Mousse」「Ethos 9」「Endless Season」、『SLEEPING MADNESS』(1999)では「Misprogrammed Day」「Khaotic Khaen」「Misted」、『FLATSPIN』(2000)では「ICEBLINK(main mix: album cut) 」「GRAB IT ATTACK IT」、加えてFlare名義の『Grip』(1996)では「Cycling Round」「Grip」が、それぞれフェイバリットです。



 小ネタ①:今回新たに気が付いたのですが、m-flo loves DOPING PANDA「she loves the CREAM」(2006)の0:37~のドラムループは、「EXTRA」からのサンプリングですかね?もっと古い共通のネタ元がある可能性も否定出来ませんが、近い音に聴こえます。下掲MVの「-Amazing Nuts! Ver.-」に於いては0:51~の音のことですが、アニメーションであることも含めて寄せてきている気がしません?



 …と思って映像のクレジットを調べたところ、制作を手掛けた会社が同じSTUDIO 4℃でした。道理で。


 小ネタ②:以前にこの記事でも軽くふれていますが、Enjo-Gの「Enjo-Gのテクノ大好き!」(2010)にも、ケン・イシイの名前と共に「EXTRA」の一部が取り入れられています。また、同記事にてあわせて紹介したBUBBLE-Bの『ガモリ2』(2010)は、ジャケットのパロディです。笑


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【追記:2019.3.12】

 先日の日付が変わるギリギリ前に軽い推敲のみでアップしてしまったのですが、午前0時を跨いでからもそのまま推敲を続けたため、内容や表現がアップ当初のものからは多少改善されました。しかし深夜に更新通知が行くのは申し訳ないと思ったので、寝て起きてから朝に再度公開した次第です(更新日時はそのまま)。