SmileHunters・Enjo-G・BUBBLE-Bの魅力 ―ナードコアへの誘い―
【お知らせ:2019.7.16】令和の大改訂の一環で、本記事に対する全体的な改訂を行いました。この影響で、後年にアップした記事へのリンクが含まれる内容となっています。
イントロダクション
本記事では、SmileHunters(スマイルハンターズ)・Enjo-G・BUBBLE-Bと、3アーティストの音楽を特集します。三者は互いに密接に関わり合う存在であるため、まとめて語る次第です。
この手の特集記事は本来であれば、バンドおよびユニットの成り立ちやら各人の音楽的キャリアやらを、通時的に振り返るスタイルで書くのが適切だとは思います。しかし、ネット上で拾える情報がそう多くないことに加え、僕自身がライブや同人即売会などの生のシーンで彼らの音楽にふれてきたわけではないので、元より正確を期する内容に仕上げられる自信がありません。従って、ならば開き直って個人的な邂逅の記録をそのまま提示したほうが幾らか有益だろうと判断し、作品のリリース時期であったり紹介のし易さであったりは度外視して、シンプルに「僕がふれた順」でレビューを行うことにしました。
SmileHunters『strawberry cheese cracker』(2012)
ということで、最初に取り上げましたる出逢いの一枚は、スマハンの2ndアルバム『strawberry cheese cracker』です。以下、文字サイズの小さいセクションは本作入手までの詳しい経緯で、更に以降にはアーティスト紹介と、本記事に於ける留意点の文章が続きます。そんなのはいいから早く本題のレビューに入ってくれとお望みの方は、ここをクリックすれば当該位置までスキップが可能です。
本盤を発掘した場は、今は無きディスクユニオン津田沼店で、確か閉店の年のゴールデンウィークの頃だったと記憶しています。多量のインプットが目的で、僕は毎年のGWに関東圏のユニオンをひたすら巡る日を設けているので、その一環での津田沼店探訪でした。ゆえにスマハンを目当てにしていたわけでは勿論ないのですが、ではなぜ本作の購入に至ったのかと問われれば、ジャケ買いならぬ「曲名買い」による動機が刺激されたからだと答えます。その時にピンと来た曲名は、「仕事の合間に聴けテクノ」と「代官山は恋の香り」の二つです。具体的には、前者は曲名が示すコンセプト自体を素晴らしく感じたから、後者は東京の地名を冠していたからというのが理由となります。比重が大きいのは後者で、僕は普段から「東京」或いは「具体的な地名」をタイトルや歌詞に含む楽曲を収集しているため、そのコレクションに加えられるなと思ったのです。…と、このようにきっかけは些細なものだったのですが、それで手にした一枚がまさかここまでの名盤だとは予想外で、わざわざ棚から出して裏返した甲斐がありました。CDケースの背には何も文字情報が無く、曲名もディスクのレーベル面にプリントされたもので確認するしかなかったので、店員がこの向きで(=記録面がケース裏に来ないように)陳列してくれていたことに感謝します。笑
ただ、中古での入手には申し訳なさを感じており、せめて本記事には新品購入へのリンクを貼っておきたいと考えたものの、元々M3(有名な同人音楽即売会)でのリリース作品であるからか、Amazonにも楽天にも本作のページは確認出来ませんでした。そこで苦肉の策として、SoundCloudにある同作の試聴ページを代わりに埋め込んでおきます。ちなみに、サンクラでは1st『失脚!小癪な咀嚼公爵』(1999)が、「期間限定」とは言いつつ未だにフルで視聴が可能であるため、同盤を持っていない方にもリンク先は有益でしょう。
前置きが更に長くなってしまいますが、各曲のレビューに入る前に、スマハンについて簡単な紹介をしておきます。バンドのFacebookアカウントの最初の投稿には、リーダーたるEnjo-Gの手に成るアーティスト説明文が掲載されているので、メンバープロフィールや沿革などの基本的なことは、そちらをご覧いただければ幸いです。従って、ここには僕が個人的に抱いているアーティスト像を提示します。
スマハンの音楽ジャンルは一言では説明しにくいというか、曲毎に複数のジャンルがクロスオーバーしているように聴こえるため、非常に変幻自在なバンドであるとの印象です。スマハン側からの自己形容としては、Enjo-Gのブログでの「テクノバンド」と、前出の顔本での「エレクトロクラッシュ系ダンスミュージックバンド」があり、そのどちらも正しいと感じます。サウンドはエレクトロ志向でありながら、トラックメイキングの手法にはテクノらしい反復の美学もあるからです。この面だけを抽出すると、電子音楽に傾倒したお洒落なバンドに映るかもしれませんが、その想像を打ち砕く要素のひとつがクラッシュの部分で、綺麗目の音作りには似つかわしくない破壊的なバンドサウンドとボーカルの存在が、独自性に寄与していると言えます。加えて、サンプリングネタのチョイスがとてもナードコアしている点も考慮すると、尚更唯一無二と表すほかなく、この「アングラなごった煮感」こそが最大の魅力だと主張したいです。
また、ARTiSMにあった2003年のデータを参照したので、情報が旧いかもしれないと断っておきますが、4人編成のバンドとしては役割分担が変わっているのも特色でしょう。まず、タイプが全く異なるボーカルが3名も居ること(メイン:Shoes、女性:Rorie、汚声:Enjo-G)は、幅広い楽曲を生み出せる要因のひとつになっていると思います。更には電子制御もばっちりで、プログラミングをShoesとYamが、キーボードをRorieが担当する手厚い布陣です。インタビュー等から判断するに、Enjo-Gも打ち込みはお手の物でしょうし、電子音フリークなのは音源からも明らかゆえ、誰が何を専門で担当というよりは、全員で共作して臨機応変にプレイするといったスタイルなのではと推測します。なお、バンドメンバーではないものの、本作には後に取り上げるBUBBLE-Bも関与していまして、クレジット上では'Directed by'にお名前があり、これは顔本での投稿をソースとするに、選曲とマスタリングを氏が行ったことを意味するようです。
アーティスト紹介は以上とし、ぼちぼち楽曲毎のレビューに入りますが、その前に二つだけ留意点を書き記しておきます。本作に限らず、本記事で取り上げる全作品についての注意書きであると認識していただければ幸い。
一点目は、上述の「ナードコア」に纏わる部分です。これは比較的ニッチなネタからの、大胆なサンプリングが特徴的な音楽ジャンルの名称ゆえ、野暮だとは思いつつも、本記事には所謂「元ネタ」に言及した記述が多くあります。しかし、僕の浅学でふれるべき大ネタをスルーしていたり、全く見当違いの解釈を書いていたりする可能性もあるので、生温かい目で見てもらえると助かると、予防線を張ることをお許しください。
二点目は、歌詞の表示に関することです。レビューの上で必要であれば、その引用を行うのが当ブログの方針ですが、元々歌詞カードが付属していない、或いは配信での購入ゆえに正確な歌詞がわからないといった理由で、本記事に表示する歌詞は全て、自分で聴き取ったものである旨をご了承いただければと思います。大きく聴き違えてはいないでしょうが、漢字やひらがなの使い分けや改行位置に関しては完全に自己流であるため、アーティスト側の意向に沿うものではないかもしれないという注意喚起です。
お待たせしました。ここからが漸く『strawberry cheese cracker』への言及となります。順不同に数曲を抜粋するスタイルで書き進めていく所存です。なお、本作にはEnjo-Gによるライナーノーツ的な文章が付属しているのですが、その中に「ここに書いてある事はココだけの内緒」とあったので、そこからの情報は封印してお届けしますね。
幕開けを飾るのは、先に「曲名が示すコンセプト自体」を高く評価した、01.「仕事の合間に聴けテクノ」です。割と真面目に、テクノを聴き流しながらの仕事は捗ると考えているため、許されるのならばそうしたいという気持ちを、代弁してくれているようで気に入っています。歌詞の上では、"仕事の合間"と"仕事の間"が混在しているように聴こえ、両者で意味はかなり違ってくると思いますが、前者ならばリフレッシュ的な意味で、後者ならば効率重視的な意味で、どちらにせよ仕事に役立てられる表現であると絶賛したいです。笑
サウンドも看板に偽りなしで、シンプルなフレーズの繰り返しを軸として、次第の変化に陶酔感を宿したつくりは、まさにテクノの本質だと言えます。とはいえ、使われている音の質感は現代的だからか、旧来の硬派なテクノにあるようなストイックさから来る冗長さは感じられず、懐かしくはなるものの、古臭いアウトプットにはなっていないところも技巧的です。
前作収録曲のリマスターとなる02.「おしゃれハンター」は、アーティスト紹介のセクションで述べたような、「アングラのごった煮感」を体現せしカオスなナンバーで、端的に言って圧倒されました。曲の入りはキュート且つコミカルなので、ポップソングかと騙されそうになりますが、スクラッチを合図にヒップホップの様相を呈してきたかと思えば、凶悪に歪んだギターがインして、俄にハードな質感が顕となる展開に。基本的にはこの三要素が入り乱れるトラックメイキングながら、終盤では更にサウンドが狂暴性を増し、電子音楽に寄せた形容にするならば包括的にハードコアテクノらしい、ロックに寄せればヘビィメタルらしいと表現したい、過剰なまでの攻撃性が前面に出てきます。特に7:37~のアグレッシブなビートが好み。
サンプリングネタも混迷を極めていますが、よくよく考えると、それぞれにメッセージ性がある気がしないでもありません。キュート&コミカルの演出に寄与せし印象的なフレーズ、"おしゃれ おしゃれ アハンハン/おしゃれ めさるな"は、TVアニメ『魔法の妖精ペルシャ』の2ndOP曲・MIMA「おしゃれめさるな」(1985)からの引用で、このナードなチョイスが、「お洒落」を題材とした楽曲の中にぶち込まれていること自体にアイロニーを感じますし、終盤の暴れっぷりを彩りしプロレスラー・蝶野正洋氏の口上も、肉体美や肉弾戦の立脚地から、服飾へのアンチテーゼと解釈する余地があるかもと感じたからです。
02.がその一例であるように、本作には「テーマやモチーフにしているものを皮肉っているんだろうな」と思える曲が幾つか存在します。中でもエスプリが効いていると絶賛したいのは、04.「Human Lights」と10.「異端児」です。
04.の主人公は"不思議ちゃん"で、周りから浮いてしまっている人間の気持ちが、表題の通り"人権"に絡めて鮮やかに描き出されています。趣旨を一言で纏めれば、「おかしいのは私じゃない!周りだ!」といった内容になりますが、これに共感を覚えるもよし、反対に冷ややかな視線を浴びせる側に立つもよしで、解釈に人生経験が反映されそうな点が面白いです。サウンドの面では、トライバルなビートメイキングが心地好く、ヘビロテ必須の中毒性があります。
10.の主人公は曲名そのまま"異端児"で、正確には「自称異端児」へのカウンターでしょう。何を言わんとしているかは、古くからコピペのネタとしても定着している、「俺って異端?」という言葉のウザさでもって説明不要かと思います。自己紹介の体で、"好きな映画は"○○、"好きなブランドは"××と、いかにもなチョイスが連ねられた歌詞に、鋭い観察眼が冴え渡っており感心です。例示された○○や××自体を批判しているわけではないでしょうし、それらが好きな人は傷付くかもしれないので、ここでは具体名は伏せておきますね。笑 …と言いつつ、続く14.のレビュー中に、本曲への更なる言及を含めることになったため、この点を意識しつつ読み進めてください。
続いて紹介するのは、10.の歌詞にも登場する"代官山"つながりで、14.「代官山は恋の香り」です。上掲の動画が公式のものかどうか若干不安ですが、本作のリリースよりも前の2006年にアップされていて、バージョンも収録されているものとは異なるので、Enjo-G本人のアカだと信じて埋め込みます。
本作に於いてはラストを飾るナンバーで、癖のある収録曲が多い中、最後に普通に良い曲を持ってくるところがニクいですね。テクノポップ或いはシンセポップと表したいキュートな音遣いとグルーヴが素敵で、スマハンの芸域の広さに驚かされます。恋のワクワク感が込められている歌詞も好みで、学生の時分を思い出して懐かしくなりました。以下、文字サイズ小の部分は自分語り注意(10.への言及もあり)。
代官山は人生で数回しか訪れたことがありませんし、デートの場にした記憶もないものの、デート中の舞い上がった心持ちを増幅させる舞台装置として、優秀な街であることには全面的に同意出来ます。同じく"代官山"が出てくる10.では、歌詞中の"異端児"をクリティカルな目で見た文章を認めたので、ともすればリア充批判かと誤解されそうですが、異端ぶっているのが痛いというだけで、列挙されし諸々を好む思考に関しては、大学生ならば寧ろあるあるだろうとの認識です。僕も某映画監督および某漫画家の作品は嫌いではありませんし、服に最も気と金をかけていたのはやはり大学生の頃で、某ブランドも好みのひとつでした。僕自身はそこまでではありませんでしたが、友人にはまさに"今日も部屋をカスタマイズ 間接照明 ターンテーブル/今日も仲間と代官山へ 服には毎月10万かける"的な御仁は居ましたしね。彼は別に異端ぶってはいなかったと思うので、友達としてそこが鼻に付いたことは一度もないとフォローしておきます。総じて言わんとしているのは、これらの自己アピールは概して異性にモテたいからなので、表題の「代官山は恋の香り」は、その通りだと首肯するほかないとの主張です。
同じくラブソングに分類していいであろう11.「Eccentric Wonderful Night」も、正統派の楽曲と評して差し支えない;言わば「売れ線」なナンバーで意表を突かれました。14.とは違って片想いの向きが強いセンチメンタルな世界観が、男女ツインボーカルのドリーミーなサウンドで展開されます。バンドスタイルによるエレクトロニカ、且つ混声というファクターは、なぜにこうもエモいのだろうか。大サビにあたる、"君のあんなとこや"以降の盛り上げ方が、殊更に素晴らしいと称賛です。
あとはふと思ったことですが、本曲はボーカロイドに歌わせてもアリな気がします。特に"I want to dance, wonderful night"の部分。僕の音楽遍歴にはボカロ曲が…というかニコニコ動画文化がごっそり抜け落ちているので、何となくそう感じたというだけなんですけどね。
続いては、05.「Olympic ~road to Vancouver~」および09.「Olympic ~road to Sydney~」を、更にはサンクラにある「Olympic ~road to Athens~」や「Olympic 2012 LondonVersion」までを含めた、オリンピックシリーズに対する全般的な言及をします。何れも純粋な応援ソングと信じたいですが、そこはかとなく他意があるような。笑
各曲のアレンジはバラエティに富み、それぞれ全く異なるトラックに仕上がっていますが、歌詞内容は似たり寄ったりで、スポーツに関連する用語のオンパレードです。05.には冬季らしく"イナバウアー"や"スウィーピング"など、09.には夏季らしく"体落"や"バサロ泳法"などが出てくるといった具合。アレンジ面で好みなのは、05.の後半に登場するシンセで、まるでNHKが編集した競技ハイライトVTRのBGMのようなオリンピック感に満ちたサウンドに、感動と笑いが同時に押し寄せてきました。
スポーティーという枠で括れば、08.「SnowBoarding」も表題通りにスノーボーディングをモチーフとしたトラックなので、謎の清々しさがあります。メタルに乗せてクズクールな男の生き様が歌われる苛烈さこそが本曲の特色ゆえ、この感想は何処か可笑しく響くかもしれません。しかし、中盤のチルなセクションには、スノボのトリック集ムービーの音楽宛らのお洒落さがあり、それを加味すると爽やかに聴こえるんですよね。ちなみに本曲については、後に「今日の一曲!」の対象にしたことがあるので、当該記事へリンクしておきました。
本作の中で最もお気に入りのトラックを挙げろと言われたら、06.「Mocolotion ~aloha edit~」を推します。トラック自体の格好良さも然ることながら、ボーカルの細かい弄り込みに、半端でないセンスが窺えるからです。「全ての音に乗せてやるよ!」といった気概が感じられ、特に3:23~3:59のボーカルトラックは、チョップまたはスクラッチによって、1番とは全く別種のフロウに変化させられているのが心地好く、ぶっ壊し方が上手いなと絶賛します。
歌詞の意外性も個人的には本作随一です。初めは「何か温泉施設について歌っている?」ぐらいの感想でしたが、次第に正確な内容が知りたくなってきて、聴き取れたフレーズの中で固有名詞感が強かった「えどじょうわよいち」で検索してみると、出てきたのは『スパリゾートハワイアンズ(Spa Resort Hawaiians)』の公式サイト。「あぁ、福島にあるあの有名なやつね」と思いつつ、画面上部の「テーマパーク」タブにマウスオーバーしたら…。まさかレジャー施設のサイトを見て、楽曲の歌詞を知ることがあろうとは予想外でした。笑 実はサンクラ上の同曲のページには、この旨がきちんと書いてあったんですけどね。施設の名前は固有名詞ゆえ、聴き取れなくても仕方がないとして、他に難所だったのは、"屋内温泉公園"と"健康と美をサポート"でした。Enjo-Gの独特な歌い方による賜物でしょうが、わかれば確かにこの通りに歌っています。
最後にふれし07.「バイク泥棒2004」は、前作収録の「バイク泥棒99」のアンサーソングです。サンクラ上の後者のページにある解説文に記してある通りですが、サンプリングでナードコアに仕立てられていた「99」に対して、「2004」は一応オリジナルとなっています。ただ、歌詞はネタ元と同じなため、本曲につられてしまうと、元の二曲を巧く口遊めなくなるというね。笑
以上、「数曲を抜粋」と言いつつ、14曲中11曲に言及するほぼ全曲レビューでした。本作は一時期狂ったようにヘビロテする愛聴盤となっていて、家でリスニング志向で聴くもよし、外出時のお供にアウトドアマインドで聴くもよしで、対応力の幅広さに感心した次第です。数多くのナードなネタが鏤められていたり、陰キャ視点で陽キャを皮肉ったような裏を感じさせる歌詞内容であったりしながら、内面にはパリピ精神やユーモア性が確かに窺えるからか、決して後向きなアルバムになっていないのが美点だとまとめます。
Enjo-G『Enjo-Gのシャッシャッシャッぷらす』(2011)
『strawberry~』でスマハンの魅力を知った僕は、当然とここから更に音源を掘り下げようとするわけですが、CDのリリース自体がそう多くなく、広く流通しているとも言えない存在であったため、前作『失脚!~』が現物で入手出来ないかと奔走する以外に、同バンドの作品蒐集に於いて取れる選択肢はあまりありませんでした。結局、2019年の改訂時でも未だ前作はゲットならずですし、唯一の収穫と言えば、殺害塩化ビニールからのリミックスコンピ盤『毒王』(2003)に収録されている「トルコンドー~トルコの殺し屋~」を、iTunes Storeで購入したくらいです。
しかし、バンドのリーダーたるEnjo-Gが関わりしディスコグラフィーにまで目を向けてみると、なかなかにディグり甲斐があることがわかってきます。そこで入門編として次に手にしたのが、これから紹介する『Enjo-Gのシャッシャッシャッぷらす』(2011)です。ディスク名に「ぷらす」とあるように、本作は前年にリリースされた同名1stアルバムの「オマケ付き」盤で、現在は再入荷見込みなしの状態ですが、以前はAmazonで普通に売っていたので入手が容易でした。
まずはEnjo-Gと言えば…の有名曲、01.「Enjo-Gのシャッシャッシャッ」をレビューします。曲の冒頭でも宣言されている通り、BUBBLE-B feat. Enjo-Gによるトラックです。BUBBLE-Bの名前は、スマハンのアーティスト紹介のセクションにも出しましたが、Enjo-Gとはバンドでもソロでも、古くから交流がある方ということでしょう。後にBUBBLE-B名義での作品も取り上げるので、この点を頭に留めておいてくださると助かります。
さて、「レビューします」とは言ったものの、本曲の魅力は上掲のMVをご覧いただければ、直感的に理解出来る類のものであるため、詳細に言語化するのは得策ではありません。それでも敢えて修辞を弄してみますと、元ネタのLMFAO featuring Lil Jon「Shots」(2009)を知っていれば、再現度の高さとオリジナルよりグルーヴィーになったシンセリフの心地好さに酔い痴れられますし、純粋に別個の新たなナンバーとして聴いても、サウンドの格好良さに対する絶妙なワードチョイスのセンスに可笑しさを抑えられない、つまりは魅力的な取っ掛かりの多い楽曲だと結べます。
上掲の試聴動画も公式のものか若干不安ですが、本作をリリースしたレーベル、MOB SQUAD TOKYOのアカだと信じて埋め込みました。本作で最も気に入っているのは、04.「俺はえんじょうじだ」です。DJ JET BARONG(高野政所)によるプロデュースで、彼が得意とするファンコットに根差した、緩急のあるアレンジがとにかくクール。特に3:05~のダウンビートからじわじわと熱量が上がっていき、3:26~で一気に解放されるシークエンスの気持ち好さと言ったら、ジャンル自体への興味の拡充に繋がるレベルだと思います。本曲の成立過程はやや込み入っていまして、その詳細も含めた本作収録曲の裏話を知りたい方は、『ピコピコカルチャージャパン』上の連載;DJイオによる「はぐれDJ道」の第18回をご覧になるのがおすすめです。
ここで言及を終えると、シンプルに格好良いファンコットトラックに映ることでしょう。しかし、実際にはナードなエッセンスもしっかりと取り入れられています。本曲でEnjo-Gの会話相手としてサンプリングされている台詞のネタ元は、『仮面ライダーアマゾン』の登場人物である岡村まさひこ君のもので、哀愁漂う遣り取りににやにやすること請け合いです。笑
同じく会話形式…というか正確にはインタビュー形式ですが、07.「Enjo-Gのハードボイルド☆☆☆」も、応答が面白いタイプのナンバーとなっています。お洒落なサウンドに乗せられ、次々とイケボで放たれる硬派な言葉繰りに、思わずキュンとしてしまうのも已む無しです。前出の「はぐれDJ道」の中では、DJイオの口から地獄のミサワの名前が出ていますが、僕もやはり『女に惚れさす名言集』を思い浮かべました。
DJイオも本作に参加していまして(所属レーベルのLBT名義)、06.「Enjo-Gのテクノ大好き!」がそれにあたります。表題通り、テクノ好きなら押さえているであろう有名ミュージシャンの名前が歌詞に登場するだけでなく、代表曲の一部が合いの手的にサンプリングされており、宛らテクノカタログです。登場ラインナップの中で、当ブログ上に単独のテーマを用意してあるのは、Ken Ishiiと電気グルーヴだけですが、Kraftwerkもイエロー・マジック・オーケストラもJeff MillsもAphex Twinもしっかり通ってはきているので(当ブログ内を検索すれば、ジェフミルズ以外への言及は確認出来ます)、テクノ好きとしても嬉しいナンバーでした。そこに肩を並べるように、スマハンの「おしゃれハンター」が入れられているのもニクいですね。
他にも、列挙するのが億劫なほどに種々のパロディがごちゃ混ぜとなっていて楽しいヒモ男のラブソング、02.「Enjo-Gの「I LOVE YOU」」や、破滅的なサウンドと自害を仄めかす歌詞が強烈に印象に残る、05.「Enjo-G To Consume -Enjo-Gは屍体を貪り喰う-」、実際に催眠効果があるらしく外では迂闊に聴けないヒプノティックトラック、10.「Enjo-Gの催眠テクノ」なども、リピート率が高めとなっています。
BUBBLE-B feat. Enjo-G『レジャーやくざは君に語りかける』(2012)
スマハンからEnjo-Gのソロを経て次に気になったのは、両者もしくは両盤共に関係性が深い、BUBBLE-Bの存在でした。Enjo-Gの圧倒的な存在感は言わずもがな、他のスマハンメンバーもそれぞれがハイスキルな人物であることは、ここまでに紹介した2枚だけでも充分に理解が可能です。しかし、何処か危うさのある彼らを、巧く同じ方向に導いているという点に関して言えば、BUBBLE-Bの功績も大きいのではと感じたので、そこをもう少し突っ込んでみようとの動機付けで、BUBBLE-Bの名前が表に来ているディスクに手を出しました。
それがこの『レジャーやくざは君に語りかける』(2012)です。リリースのタイミングはスマハンの『strawberry~』と同じで、一般発売の前にM3で頒布されていた作品となります。こちらも現在、フィジカル盤はAmazonでも再入荷見込みなしの状態ですが、デジタル盤があるので入手は最も容易でしょう。僕も本作については、iTunesで音源だけ購入しました。
本作にも「Enjo-Gのシャッ~」は収録されているため、それを除けばという但し書きは必要ですが、本作の中で最も有名な楽曲は、14.「走りのセダン -Driving Pleasure-」かと思います。これも聴けばわかる系で、m.o.v.e感のあるユーロビートが堪らない、セダン愛に溢れたダンスナンバーです。歌詞の"東名 名神 首都高 C1 オービス光りっぱ"にも、ミーム的な魔力を感じます。笑
ちなみに、この8年後には本曲の続編とも取れる「爆走ミニバン ~Highway Star~」(2017)が発表されており、同曲に対しては新譜でレビューした際の記事があるので、詳しくはリンク先を参照してください。更にちなむと、同記事はBUBBLE-B本人のTwitterからリンクされたことがあり(2017年6月17日付)、一時期はアクセスが多かったと自慢しておきます。めっちゃ嬉しかった。
本作にはMVのあるトラックが多く、04.「Chimpo on the Beach」のそれも傑作ゆえ、是非とも埋め込みたかったのですが、SJW的な人から本記事にクレームが入らないとも限らない内容のため、リンクは割愛します。気になるという方は、上掲の埋め込み動画(SPEEDKING PROD. TVのチャンネル)から辿ってください。それにしても、元ネタより直接的なワードが連呼されているのに、あまり猥褻に感じられないのは凄いと思います。笑
裏話:2016年に本記事をアップした段階では、04.は曲名すら伏せていたものの、2019年の改訂時には明示させました。アメブロであけすけな表現を使うと、機械もしくは人の目による検閲で、「この記事は表示できません」の扱いにされることがあるのですが、Amebaさん的に「Chimpo」はセーフのようなので、表示してもいいかと判断しました。いちユーザーの僕が運営側の基準を正確に把握する術はありませんが、「Ameba検索」で結果が表示されないワードはアウトなのではと推測しています。例えば、「Chimpo」をひらがな・カタカナにしたものはヒットしませんし、元ネタたるSPANKERSの曲名を明らかにしていないのも、最初の一語が問題っぽいからです(カクテル名なのに)。「エ〇」も「ア〇ルト」もアウトの潔癖さで、正直不便ですが仕方ありません。更に言うと、先の「Enjo-G To~」の項で「自害を仄めかす」と回りくどい表現をしたのも、「自害」と同じ意味の一般的な言葉が表示されないからなのでした。
タブー路線で括ると、07.「Enjo-Gのぽぽぽぽ~ん」にも五月蠅く言う人がいるかもしれませんね。ゆえにまたもMVの埋め込みは自重しますが、前出のチャンネルでは最も再生回数の多い動画ゆえ、見る価値は充分とだけ主張しておきます。
ここまでの3曲もそうであるように、BUBBLE-Bの作品については、共通のテーマ下にある単語のリストアップでゴリ押す歌詞が味のひとつです。03.「プカプカスモーキング」では煙草の銘柄、05.「N.R.G.」では栄養ドリンクの名前、06.「酔っパラダイス」ではチェーンの居酒屋名…といった具合。
また、BUBBLE-BにはB級グルメ愛好家としての一面もあり、食に纏わるトラックが多いのも特徴です。とりわけ、10.「ぞっこん!バーベキュー」から15.「Anarchy in the ODWR」までのガストロノミックシークエンス(14.は除く)を経ると、外食したい欲が刺激されます。笑 この中で特に好みなのは、チャイナオリエンテッドな11.「ENJOY!中華」、ファンキーディスコな12.「セットでドリンクバー」、ジャンキージャングルな13.「バリバリスナック」の3曲で、いずれも中毒性が高くお気に入りです。なお、13.は後に「今日の一曲!」で取り上げたことがあるので、参考までにリンクしておきます。
BUBBLE-B『ガモリ2』(2010)
BUBBLE-Bの手腕を深堀りしようと手を出した『レジャーやくざ~』は、良盤と評していい出色の出来栄えでしたが、言ってもfeat. Enjo-G名義での作品であったため、Enjo-Gの強大な存在感による影響を、完全に排した判断を下すのは困難でした。そこで、ならば次はBUBBLE-B単独名義でのディスクを聴いてみるしかないと思い至り、手にしたのが『ガモリ2』(2010)です。本作も中古での入手で申し訳ありませんが、津田沼店とは別のユニオンで発掘しました。店内で不意にこのジャケ写を見た時は、元ネタのほうかと思って一度スルーしてしまったことを白状します(関連記事)。笑
「BUBBLE-B単独名義」とは言っても、本作にもfeat. Enjo-Gのナンバーは多く収録されていますし、そのリミックスも豊富な一枚なので、ここでは記事の流れの都合上、Enjo-Gが関わっていない楽曲を幾つか紹介します。BUBBLE-Bの作品は、映像も込みで鑑賞するのが理解への近道かとは思いますが、音源だけを取り立ててもそのクオリティは高く、下掲の試聴動画でもそのことは伝わるでしょう。
本作の中でいちばんツボだったのは、15.「ZANSHIRO(キイロミックス)」です。Mad Yellowによるリミックストラックで、調べると氏はどうも沖縄の出身らしく、泡盛のローカルCMがサンプリングされた本曲を弄り回すのには、まさに打って付けの存在と言えますね。オリジナルより琉球のグルーヴ感が強調されている;即ちネタ元の活用が巧く聴こえ、気持ち良く踊れるつくりとなっているのは、流石ウチナーンチュといったところでしょうか。僕自身が沖縄フリークゆえ、その影響もあるとは思いますが、琉球音楽と電子音楽の融合は昔から好みです。RYUKYUDISKOや琉球アンダーグラウンドも聴きますし、久石譲の『Sonatine』(1993)も良盤と評しています。
リミックスでは他に、14.「Anarchy in the ODWR(探検!ぼくのハマチmix)もフェイバリットで、同曲はsalchok from JASCOによるワークスです。先の「Enjo-Gのハード~」の項ではふれませんでしたが、salchokのサウンドメイキングにはガチな格好良さがありますよね。
名義がBUBBLE-Bのみのトラックでは、06.「Shinsuke」のふざけっぷりが大のお気に入りです。メインのネタは某芸人・司会者の謝罪会見ですが、それに負けない『朝まで生テレビ!』のテーマソング【Jeff Newmann「Positive Force」(1988)】と思しきシンセリフの主張の強さと、最後にダメ押しで出てくる「富士サファリパークCMソング」(1980?)で腹筋崩壊。
他にも、元ネタの趣を強化したタイプの楽曲も面白く、ポップさがブラッシュアップされて一層のコマーシャル効果向上が図られている、02.「Cheese berg edit」や、迫力と凄みがエンファサイズされてアッパーな緊張感が醸し出されている、07.「Mandahan」も、それぞれBUBBLE-Bの素敵な感性が炸裂していると絶賛します。
アウトロダクション
以上、SmileHunters・Enjo-G・BUBBLE-Bと、3アーティストの特集でした。三者とも幅広いトラックメイキング力を有しているため、サウンドの方向性を一概に語ることは出来ませんが、ここまでに何度か「ナード」という言葉を出している通り、三者に共通するファクターに「オタク的な精神性」があるのは間違いないと考えています。ただ、それは決してネガティブな意味合いではなく、多くのミュージシャンが手を付けない領域に遊び心を見出すことの出来る達人、もしくは自由人的な評価が優勢です。
「ナードコア」というと二次元界隈との親和性も高く、可愛いキャラクターが描かれたジャケットのものも多い印象ですが(下に参考画像あり)、実際に扱われているネタの種類はもっと多岐に亘っています。この「あらゆるものを素材としてしまうスタンス」には、柔軟な心と卓越した観察眼と引き出しの多さが肝要なので、何にでも凝り性を発揮する「古き良きオタクマインド」を持つ人ならではの音楽なのだなと、尊敬の念を抱かずにはいられませんでした。
実際にこの三者がきっかけで、僕はナードコアというかハードコアテクノ界隈自体に興味を持ったため、その筋ではスピードコアの担い手として有名なm1dyの最新作『THE MIDI ANARCHIST』(2012)と、彼が主催の一人を務めしMOB SQUAD TOKYOからの'新型'アーリーハードコアシリーズ『PARALLEL HARDCORE』(2015~)にも手を出したくらいです。先に言及しませんでしたが、m1dyは『えんじょうじの~』収録曲「EnjoのG☆SPOT」を手掛けた方ですし、同盤がMSTからのリリースであるのは既に述べたことなので、がっつり関連付けた紹介であることを補足しておきます。
それにしても、この手のジャケ絵には単なるアニメ絵とは違った独特な魅力がありますよね。萌え系と言えばそうなのかもしれないけれど、その実そういうのが好きな層(=二次元趣味の範疇から出て来ないクローズドなオタク)には、絶妙に刺さらなさそうな毒気のある感じが好みです。僕も二次元趣味を持つ人間ではありますが、それは数多くある興味・関心のうちのひとつというだけなので、少し外してきているイラストのほうが響きます。
本記事は副題に「ナードコアへの誘い」と付しはしましたが、その外周をなぞるような内容であることは自覚済みです。同ジャンルが最も盛り上がっていた頃にはフォーカスしていませんし、著名アーティストへの言及もないので。間接的には、BUBBLE-Bでカラテクノへ、高野政所でLEOPALDONへ、「Enjo-Gの催眠~」でSHARPNELへの導線は敷いておきましたが、僕自身がまだまだ勉強中ゆえ、名前を出すことしか出来ないのです。
ただ一点、日本には確かな実力を持ちながら、扱う音楽性ゆえに表通りには顔を覗かせないミュージシャンも多くいるのだということが、本記事を通じて少しでも伝われば幸いと結びます。
イントロダクション
本記事では、SmileHunters(スマイルハンターズ)・Enjo-G・BUBBLE-Bと、3アーティストの音楽を特集します。三者は互いに密接に関わり合う存在であるため、まとめて語る次第です。
この手の特集記事は本来であれば、バンドおよびユニットの成り立ちやら各人の音楽的キャリアやらを、通時的に振り返るスタイルで書くのが適切だとは思います。しかし、ネット上で拾える情報がそう多くないことに加え、僕自身がライブや同人即売会などの生のシーンで彼らの音楽にふれてきたわけではないので、元より正確を期する内容に仕上げられる自信がありません。従って、ならば開き直って個人的な邂逅の記録をそのまま提示したほうが幾らか有益だろうと判断し、作品のリリース時期であったり紹介のし易さであったりは度外視して、シンプルに「僕がふれた順」でレビューを行うことにしました。
SmileHunters『strawberry cheese cracker』(2012)
ということで、最初に取り上げましたる出逢いの一枚は、スマハンの2ndアルバム『strawberry cheese cracker』です。以下、文字サイズの小さいセクションは本作入手までの詳しい経緯で、更に以降にはアーティスト紹介と、本記事に於ける留意点の文章が続きます。そんなのはいいから早く本題のレビューに入ってくれとお望みの方は、ここをクリックすれば当該位置までスキップが可能です。
本盤を発掘した場は、今は無きディスクユニオン津田沼店で、確か閉店の年のゴールデンウィークの頃だったと記憶しています。多量のインプットが目的で、僕は毎年のGWに関東圏のユニオンをひたすら巡る日を設けているので、その一環での津田沼店探訪でした。ゆえにスマハンを目当てにしていたわけでは勿論ないのですが、ではなぜ本作の購入に至ったのかと問われれば、ジャケ買いならぬ「曲名買い」による動機が刺激されたからだと答えます。その時にピンと来た曲名は、「仕事の合間に聴けテクノ」と「代官山は恋の香り」の二つです。具体的には、前者は曲名が示すコンセプト自体を素晴らしく感じたから、後者は東京の地名を冠していたからというのが理由となります。比重が大きいのは後者で、僕は普段から「東京」或いは「具体的な地名」をタイトルや歌詞に含む楽曲を収集しているため、そのコレクションに加えられるなと思ったのです。…と、このようにきっかけは些細なものだったのですが、それで手にした一枚がまさかここまでの名盤だとは予想外で、わざわざ棚から出して裏返した甲斐がありました。CDケースの背には何も文字情報が無く、曲名もディスクのレーベル面にプリントされたもので確認するしかなかったので、店員がこの向きで(=記録面がケース裏に来ないように)陳列してくれていたことに感謝します。笑
ただ、中古での入手には申し訳なさを感じており、せめて本記事には新品購入へのリンクを貼っておきたいと考えたものの、元々M3(有名な同人音楽即売会)でのリリース作品であるからか、Amazonにも楽天にも本作のページは確認出来ませんでした。そこで苦肉の策として、SoundCloudにある同作の試聴ページを代わりに埋め込んでおきます。ちなみに、サンクラでは1st『失脚!小癪な咀嚼公爵』(1999)が、「期間限定」とは言いつつ未だにフルで視聴が可能であるため、同盤を持っていない方にもリンク先は有益でしょう。
前置きが更に長くなってしまいますが、各曲のレビューに入る前に、スマハンについて簡単な紹介をしておきます。バンドのFacebookアカウントの最初の投稿には、リーダーたるEnjo-Gの手に成るアーティスト説明文が掲載されているので、メンバープロフィールや沿革などの基本的なことは、そちらをご覧いただければ幸いです。従って、ここには僕が個人的に抱いているアーティスト像を提示します。
スマハンの音楽ジャンルは一言では説明しにくいというか、曲毎に複数のジャンルがクロスオーバーしているように聴こえるため、非常に変幻自在なバンドであるとの印象です。スマハン側からの自己形容としては、Enjo-Gのブログでの「テクノバンド」と、前出の顔本での「エレクトロクラッシュ系ダンスミュージックバンド」があり、そのどちらも正しいと感じます。サウンドはエレクトロ志向でありながら、トラックメイキングの手法にはテクノらしい反復の美学もあるからです。この面だけを抽出すると、電子音楽に傾倒したお洒落なバンドに映るかもしれませんが、その想像を打ち砕く要素のひとつがクラッシュの部分で、綺麗目の音作りには似つかわしくない破壊的なバンドサウンドとボーカルの存在が、独自性に寄与していると言えます。加えて、サンプリングネタのチョイスがとてもナードコアしている点も考慮すると、尚更唯一無二と表すほかなく、この「アングラなごった煮感」こそが最大の魅力だと主張したいです。
また、ARTiSMにあった2003年のデータを参照したので、情報が旧いかもしれないと断っておきますが、4人編成のバンドとしては役割分担が変わっているのも特色でしょう。まず、タイプが全く異なるボーカルが3名も居ること(メイン:Shoes、女性:Rorie、汚声:Enjo-G)は、幅広い楽曲を生み出せる要因のひとつになっていると思います。更には電子制御もばっちりで、プログラミングをShoesとYamが、キーボードをRorieが担当する手厚い布陣です。インタビュー等から判断するに、Enjo-Gも打ち込みはお手の物でしょうし、電子音フリークなのは音源からも明らかゆえ、誰が何を専門で担当というよりは、全員で共作して臨機応変にプレイするといったスタイルなのではと推測します。なお、バンドメンバーではないものの、本作には後に取り上げるBUBBLE-Bも関与していまして、クレジット上では'Directed by'にお名前があり、これは顔本での投稿をソースとするに、選曲とマスタリングを氏が行ったことを意味するようです。
アーティスト紹介は以上とし、ぼちぼち楽曲毎のレビューに入りますが、その前に二つだけ留意点を書き記しておきます。本作に限らず、本記事で取り上げる全作品についての注意書きであると認識していただければ幸い。
一点目は、上述の「ナードコア」に纏わる部分です。これは比較的ニッチなネタからの、大胆なサンプリングが特徴的な音楽ジャンルの名称ゆえ、野暮だとは思いつつも、本記事には所謂「元ネタ」に言及した記述が多くあります。しかし、僕の浅学でふれるべき大ネタをスルーしていたり、全く見当違いの解釈を書いていたりする可能性もあるので、生温かい目で見てもらえると助かると、予防線を張ることをお許しください。
二点目は、歌詞の表示に関することです。レビューの上で必要であれば、その引用を行うのが当ブログの方針ですが、元々歌詞カードが付属していない、或いは配信での購入ゆえに正確な歌詞がわからないといった理由で、本記事に表示する歌詞は全て、自分で聴き取ったものである旨をご了承いただければと思います。大きく聴き違えてはいないでしょうが、漢字やひらがなの使い分けや改行位置に関しては完全に自己流であるため、アーティスト側の意向に沿うものではないかもしれないという注意喚起です。
お待たせしました。ここからが漸く『strawberry cheese cracker』への言及となります。順不同に数曲を抜粋するスタイルで書き進めていく所存です。なお、本作にはEnjo-Gによるライナーノーツ的な文章が付属しているのですが、その中に「ここに書いてある事はココだけの内緒」とあったので、そこからの情報は封印してお届けしますね。
幕開けを飾るのは、先に「曲名が示すコンセプト自体」を高く評価した、01.「仕事の合間に聴けテクノ」です。割と真面目に、テクノを聴き流しながらの仕事は捗ると考えているため、許されるのならばそうしたいという気持ちを、代弁してくれているようで気に入っています。歌詞の上では、"仕事の合間"と"仕事の間"が混在しているように聴こえ、両者で意味はかなり違ってくると思いますが、前者ならばリフレッシュ的な意味で、後者ならば効率重視的な意味で、どちらにせよ仕事に役立てられる表現であると絶賛したいです。笑
サウンドも看板に偽りなしで、シンプルなフレーズの繰り返しを軸として、次第の変化に陶酔感を宿したつくりは、まさにテクノの本質だと言えます。とはいえ、使われている音の質感は現代的だからか、旧来の硬派なテクノにあるようなストイックさから来る冗長さは感じられず、懐かしくはなるものの、古臭いアウトプットにはなっていないところも技巧的です。
前作収録曲のリマスターとなる02.「おしゃれハンター」は、アーティスト紹介のセクションで述べたような、「アングラのごった煮感」を体現せしカオスなナンバーで、端的に言って圧倒されました。曲の入りはキュート且つコミカルなので、ポップソングかと騙されそうになりますが、スクラッチを合図にヒップホップの様相を呈してきたかと思えば、凶悪に歪んだギターがインして、俄にハードな質感が顕となる展開に。基本的にはこの三要素が入り乱れるトラックメイキングながら、終盤では更にサウンドが狂暴性を増し、電子音楽に寄せた形容にするならば包括的にハードコアテクノらしい、ロックに寄せればヘビィメタルらしいと表現したい、過剰なまでの攻撃性が前面に出てきます。特に7:37~のアグレッシブなビートが好み。
サンプリングネタも混迷を極めていますが、よくよく考えると、それぞれにメッセージ性がある気がしないでもありません。キュート&コミカルの演出に寄与せし印象的なフレーズ、"おしゃれ おしゃれ アハンハン/おしゃれ めさるな"は、TVアニメ『魔法の妖精ペルシャ』の2ndOP曲・MIMA「おしゃれめさるな」(1985)からの引用で、このナードなチョイスが、「お洒落」を題材とした楽曲の中にぶち込まれていること自体にアイロニーを感じますし、終盤の暴れっぷりを彩りしプロレスラー・蝶野正洋氏の口上も、肉体美や肉弾戦の立脚地から、服飾へのアンチテーゼと解釈する余地があるかもと感じたからです。
02.がその一例であるように、本作には「テーマやモチーフにしているものを皮肉っているんだろうな」と思える曲が幾つか存在します。中でもエスプリが効いていると絶賛したいのは、04.「Human Lights」と10.「異端児」です。
04.の主人公は"不思議ちゃん"で、周りから浮いてしまっている人間の気持ちが、表題の通り"人権"に絡めて鮮やかに描き出されています。趣旨を一言で纏めれば、「おかしいのは私じゃない!周りだ!」といった内容になりますが、これに共感を覚えるもよし、反対に冷ややかな視線を浴びせる側に立つもよしで、解釈に人生経験が反映されそうな点が面白いです。サウンドの面では、トライバルなビートメイキングが心地好く、ヘビロテ必須の中毒性があります。
10.の主人公は曲名そのまま"異端児"で、正確には「自称異端児」へのカウンターでしょう。何を言わんとしているかは、古くからコピペのネタとしても定着している、「俺って異端?」という言葉のウザさでもって説明不要かと思います。自己紹介の体で、"好きな映画は"○○、"好きなブランドは"××と、いかにもなチョイスが連ねられた歌詞に、鋭い観察眼が冴え渡っており感心です。例示された○○や××自体を批判しているわけではないでしょうし、それらが好きな人は傷付くかもしれないので、ここでは具体名は伏せておきますね。笑 …と言いつつ、続く14.のレビュー中に、本曲への更なる言及を含めることになったため、この点を意識しつつ読み進めてください。
続いて紹介するのは、10.の歌詞にも登場する"代官山"つながりで、14.「代官山は恋の香り」です。上掲の動画が公式のものかどうか若干不安ですが、本作のリリースよりも前の2006年にアップされていて、バージョンも収録されているものとは異なるので、Enjo-G本人のアカだと信じて埋め込みます。
本作に於いてはラストを飾るナンバーで、癖のある収録曲が多い中、最後に普通に良い曲を持ってくるところがニクいですね。テクノポップ或いはシンセポップと表したいキュートな音遣いとグルーヴが素敵で、スマハンの芸域の広さに驚かされます。恋のワクワク感が込められている歌詞も好みで、学生の時分を思い出して懐かしくなりました。以下、文字サイズ小の部分は自分語り注意(10.への言及もあり)。
代官山は人生で数回しか訪れたことがありませんし、デートの場にした記憶もないものの、デート中の舞い上がった心持ちを増幅させる舞台装置として、優秀な街であることには全面的に同意出来ます。同じく"代官山"が出てくる10.では、歌詞中の"異端児"をクリティカルな目で見た文章を認めたので、ともすればリア充批判かと誤解されそうですが、異端ぶっているのが痛いというだけで、列挙されし諸々を好む思考に関しては、大学生ならば寧ろあるあるだろうとの認識です。僕も某映画監督および某漫画家の作品は嫌いではありませんし、服に最も気と金をかけていたのはやはり大学生の頃で、某ブランドも好みのひとつでした。僕自身はそこまでではありませんでしたが、友人にはまさに"今日も部屋をカスタマイズ 間接照明 ターンテーブル/今日も仲間と代官山へ 服には毎月10万かける"的な御仁は居ましたしね。彼は別に異端ぶってはいなかったと思うので、友達としてそこが鼻に付いたことは一度もないとフォローしておきます。総じて言わんとしているのは、これらの自己アピールは概して異性にモテたいからなので、表題の「代官山は恋の香り」は、その通りだと首肯するほかないとの主張です。
同じくラブソングに分類していいであろう11.「Eccentric Wonderful Night」も、正統派の楽曲と評して差し支えない;言わば「売れ線」なナンバーで意表を突かれました。14.とは違って片想いの向きが強いセンチメンタルな世界観が、男女ツインボーカルのドリーミーなサウンドで展開されます。バンドスタイルによるエレクトロニカ、且つ混声というファクターは、なぜにこうもエモいのだろうか。大サビにあたる、"君のあんなとこや"以降の盛り上げ方が、殊更に素晴らしいと称賛です。
あとはふと思ったことですが、本曲はボーカロイドに歌わせてもアリな気がします。特に"I want to dance, wonderful night"の部分。僕の音楽遍歴にはボカロ曲が…というかニコニコ動画文化がごっそり抜け落ちているので、何となくそう感じたというだけなんですけどね。
続いては、05.「Olympic ~road to Vancouver~」および09.「Olympic ~road to Sydney~」を、更にはサンクラにある「Olympic ~road to Athens~」や「Olympic 2012 LondonVersion」までを含めた、オリンピックシリーズに対する全般的な言及をします。何れも純粋な応援ソングと信じたいですが、そこはかとなく他意があるような。笑
各曲のアレンジはバラエティに富み、それぞれ全く異なるトラックに仕上がっていますが、歌詞内容は似たり寄ったりで、スポーツに関連する用語のオンパレードです。05.には冬季らしく"イナバウアー"や"スウィーピング"など、09.には夏季らしく"体落"や"バサロ泳法"などが出てくるといった具合。アレンジ面で好みなのは、05.の後半に登場するシンセで、まるでNHKが編集した競技ハイライトVTRのBGMのようなオリンピック感に満ちたサウンドに、感動と笑いが同時に押し寄せてきました。
スポーティーという枠で括れば、08.「SnowBoarding」も表題通りにスノーボーディングをモチーフとしたトラックなので、謎の清々しさがあります。メタルに乗せて
本作の中で最もお気に入りのトラックを挙げろと言われたら、06.「Mocolotion ~aloha edit~」を推します。トラック自体の格好良さも然ることながら、ボーカルの細かい弄り込みに、半端でないセンスが窺えるからです。「全ての音に乗せてやるよ!」といった気概が感じられ、特に3:23~3:59のボーカルトラックは、チョップまたはスクラッチによって、1番とは全く別種のフロウに変化させられているのが心地好く、ぶっ壊し方が上手いなと絶賛します。
歌詞の意外性も個人的には本作随一です。初めは「何か温泉施設について歌っている?」ぐらいの感想でしたが、次第に正確な内容が知りたくなってきて、聴き取れたフレーズの中で固有名詞感が強かった「えどじょうわよいち」で検索してみると、出てきたのは『スパリゾートハワイアンズ(Spa Resort Hawaiians)』の公式サイト。「あぁ、福島にあるあの有名なやつね」と思いつつ、画面上部の「テーマパーク」タブにマウスオーバーしたら…。まさかレジャー施設のサイトを見て、楽曲の歌詞を知ることがあろうとは予想外でした。笑 実はサンクラ上の同曲のページには、この旨がきちんと書いてあったんですけどね。施設の名前は固有名詞ゆえ、聴き取れなくても仕方がないとして、他に難所だったのは、"屋内温泉公園"と"健康と美をサポート"でした。Enjo-Gの独特な歌い方による賜物でしょうが、わかれば確かにこの通りに歌っています。
最後にふれし07.「バイク泥棒2004」は、前作収録の「バイク泥棒99」のアンサーソングです。サンクラ上の後者のページにある解説文に記してある通りですが、サンプリングでナードコアに仕立てられていた「99」に対して、「2004」は一応オリジナルとなっています。ただ、歌詞はネタ元と同じなため、本曲につられてしまうと、元の二曲を巧く口遊めなくなるというね。笑
以上、「数曲を抜粋」と言いつつ、14曲中11曲に言及するほぼ全曲レビューでした。本作は一時期狂ったようにヘビロテする愛聴盤となっていて、家でリスニング志向で聴くもよし、外出時のお供にアウトドアマインドで聴くもよしで、対応力の幅広さに感心した次第です。数多くのナードなネタが鏤められていたり、陰キャ視点で陽キャを皮肉ったような裏を感じさせる歌詞内容であったりしながら、内面にはパリピ精神やユーモア性が確かに窺えるからか、決して後向きなアルバムになっていないのが美点だとまとめます。
Enjo-G『Enjo-Gのシャッシャッシャッぷらす』(2011)
『strawberry~』でスマハンの魅力を知った僕は、当然とここから更に音源を掘り下げようとするわけですが、CDのリリース自体がそう多くなく、広く流通しているとも言えない存在であったため、前作『失脚!~』が現物で入手出来ないかと奔走する以外に、同バンドの作品蒐集に於いて取れる選択肢はあまりありませんでした。結局、2019年の改訂時でも未だ前作はゲットならずですし、唯一の収穫と言えば、殺害塩化ビニールからのリミックスコンピ盤『毒王』(2003)に収録されている「トルコンドー~トルコの殺し屋~」を、iTunes Storeで購入したくらいです。
![]() | えんじょうじのシャッシャッシャッぷらす Amazon |
しかし、バンドのリーダーたるEnjo-Gが関わりしディスコグラフィーにまで目を向けてみると、なかなかにディグり甲斐があることがわかってきます。そこで入門編として次に手にしたのが、これから紹介する『Enjo-Gのシャッシャッシャッぷらす』(2011)です。ディスク名に「ぷらす」とあるように、本作は前年にリリースされた同名1stアルバムの「オマケ付き」盤で、現在は再入荷見込みなしの状態ですが、以前はAmazonで普通に売っていたので入手が容易でした。
まずはEnjo-Gと言えば…の有名曲、01.「Enjo-Gのシャッシャッシャッ」をレビューします。曲の冒頭でも宣言されている通り、BUBBLE-B feat. Enjo-Gによるトラックです。BUBBLE-Bの名前は、スマハンのアーティスト紹介のセクションにも出しましたが、Enjo-Gとはバンドでもソロでも、古くから交流がある方ということでしょう。後にBUBBLE-B名義での作品も取り上げるので、この点を頭に留めておいてくださると助かります。
さて、「レビューします」とは言ったものの、本曲の魅力は上掲のMVをご覧いただければ、直感的に理解出来る類のものであるため、詳細に言語化するのは得策ではありません。それでも敢えて修辞を弄してみますと、元ネタのLMFAO featuring Lil Jon「Shots」(2009)を知っていれば、再現度の高さとオリジナルよりグルーヴィーになったシンセリフの心地好さに酔い痴れられますし、純粋に別個の新たなナンバーとして聴いても、サウンドの格好良さに対する絶妙なワードチョイスのセンスに可笑しさを抑えられない、つまりは魅力的な取っ掛かりの多い楽曲だと結べます。
上掲の試聴動画も公式のものか若干不安ですが、本作をリリースしたレーベル、MOB SQUAD TOKYOのアカだと信じて埋め込みました。本作で最も気に入っているのは、04.「俺はえんじょうじだ」です。DJ JET BARONG(高野政所)によるプロデュースで、彼が得意とするファンコットに根差した、緩急のあるアレンジがとにかくクール。特に3:05~のダウンビートからじわじわと熱量が上がっていき、3:26~で一気に解放されるシークエンスの気持ち好さと言ったら、ジャンル自体への興味の拡充に繋がるレベルだと思います。本曲の成立過程はやや込み入っていまして、その詳細も含めた本作収録曲の裏話を知りたい方は、『ピコピコカルチャージャパン』上の連載;DJイオによる「はぐれDJ道」の第18回をご覧になるのがおすすめです。
ここで言及を終えると、シンプルに格好良いファンコットトラックに映ることでしょう。しかし、実際にはナードなエッセンスもしっかりと取り入れられています。本曲でEnjo-Gの会話相手としてサンプリングされている台詞のネタ元は、『仮面ライダーアマゾン』の登場人物である岡村まさひこ君のもので、哀愁漂う遣り取りににやにやすること請け合いです。笑
同じく会話形式…というか正確にはインタビュー形式ですが、07.「Enjo-Gのハードボイルド☆☆☆」も、応答が面白いタイプのナンバーとなっています。お洒落なサウンドに乗せられ、次々とイケボで放たれる硬派な言葉繰りに、思わずキュンとしてしまうのも已む無しです。前出の「はぐれDJ道」の中では、DJイオの口から地獄のミサワの名前が出ていますが、僕もやはり『女に惚れさす名言集』を思い浮かべました。
DJイオも本作に参加していまして(所属レーベルのLBT名義)、06.「Enjo-Gのテクノ大好き!」がそれにあたります。表題通り、テクノ好きなら押さえているであろう有名ミュージシャンの名前が歌詞に登場するだけでなく、代表曲の一部が合いの手的にサンプリングされており、宛らテクノカタログです。登場ラインナップの中で、当ブログ上に単独のテーマを用意してあるのは、Ken Ishiiと電気グルーヴだけですが、Kraftwerkもイエロー・マジック・オーケストラもJeff MillsもAphex Twinもしっかり通ってはきているので(当ブログ内を検索すれば、ジェフミルズ以外への言及は確認出来ます)、テクノ好きとしても嬉しいナンバーでした。そこに肩を並べるように、スマハンの「おしゃれハンター」が入れられているのもニクいですね。
他にも、列挙するのが億劫なほどに種々のパロディがごちゃ混ぜとなっていて楽しいヒモ男のラブソング、02.「Enjo-Gの「I LOVE YOU」」や、破滅的なサウンドと自害を仄めかす歌詞が強烈に印象に残る、05.「Enjo-G To Consume -Enjo-Gは屍体を貪り喰う-」、実際に催眠効果があるらしく外では迂闊に聴けないヒプノティックトラック、10.「Enjo-Gの催眠テクノ」なども、リピート率が高めとなっています。
BUBBLE-B feat. Enjo-G『レジャーやくざは君に語りかける』(2012)
スマハンからEnjo-Gのソロを経て次に気になったのは、両者もしくは両盤共に関係性が深い、BUBBLE-Bの存在でした。Enjo-Gの圧倒的な存在感は言わずもがな、他のスマハンメンバーもそれぞれがハイスキルな人物であることは、ここまでに紹介した2枚だけでも充分に理解が可能です。しかし、何処か危うさのある彼らを、巧く同じ方向に導いているという点に関して言えば、BUBBLE-Bの功績も大きいのではと感じたので、そこをもう少し突っ込んでみようとの動機付けで、BUBBLE-Bの名前が表に来ているディスクに手を出しました。
![]() | レジャーやくざは君に語りかける 1,620円 Amazon |
それがこの『レジャーやくざは君に語りかける』(2012)です。リリースのタイミングはスマハンの『strawberry~』と同じで、一般発売の前にM3で頒布されていた作品となります。こちらも現在、フィジカル盤はAmazonでも再入荷見込みなしの状態ですが、デジタル盤があるので入手は最も容易でしょう。僕も本作については、iTunesで音源だけ購入しました。
本作にも「Enjo-Gのシャッ~」は収録されているため、それを除けばという但し書きは必要ですが、本作の中で最も有名な楽曲は、14.「走りのセダン -Driving Pleasure-」かと思います。これも聴けばわかる系で、m.o.v.e感のあるユーロビートが堪らない、セダン愛に溢れたダンスナンバーです。歌詞の"東名 名神 首都高 C1 オービス光りっぱ"にも、ミーム的な魔力を感じます。笑
ちなみに、この8年後には本曲の続編とも取れる「爆走ミニバン ~Highway Star~」(2017)が発表されており、同曲に対しては新譜でレビューした際の記事があるので、詳しくはリンク先を参照してください。更にちなむと、同記事はBUBBLE-B本人のTwitterからリンクされたことがあり(2017年6月17日付)、一時期はアクセスが多かったと自慢しておきます。めっちゃ嬉しかった。
本作にはMVのあるトラックが多く、04.「Chimpo on the Beach」のそれも傑作ゆえ、是非とも埋め込みたかったのですが、SJW的な人から本記事にクレームが入らないとも限らない内容のため、リンクは割愛します。気になるという方は、上掲の埋め込み動画(SPEEDKING PROD. TVのチャンネル)から辿ってください。それにしても、元ネタより直接的なワードが連呼されているのに、あまり猥褻に感じられないのは凄いと思います。笑
裏話:2016年に本記事をアップした段階では、04.は曲名すら伏せていたものの、2019年の改訂時には明示させました。アメブロであけすけな表現を使うと、機械もしくは人の目による検閲で、「この記事は表示できません」の扱いにされることがあるのですが、Amebaさん的に「Chimpo」はセーフのようなので、表示してもいいかと判断しました。いちユーザーの僕が運営側の基準を正確に把握する術はありませんが、「Ameba検索」で結果が表示されないワードはアウトなのではと推測しています。例えば、「Chimpo」をひらがな・カタカナにしたものはヒットしませんし、元ネタたるSPANKERSの曲名を明らかにしていないのも、最初の一語が問題っぽいからです(カクテル名なのに)。「エ〇」も「ア〇ルト」もアウトの潔癖さで、正直不便ですが仕方ありません。更に言うと、先の「Enjo-G To~」の項で「自害を仄めかす」と回りくどい表現をしたのも、「自害」と同じ意味の一般的な言葉が表示されないからなのでした。
タブー路線で括ると、07.「Enjo-Gのぽぽぽぽ~ん」にも五月蠅く言う人がいるかもしれませんね。ゆえにまたもMVの埋め込みは自重しますが、前出のチャンネルでは最も再生回数の多い動画ゆえ、見る価値は充分とだけ主張しておきます。
ここまでの3曲もそうであるように、BUBBLE-Bの作品については、共通のテーマ下にある単語のリストアップでゴリ押す歌詞が味のひとつです。03.「プカプカスモーキング」では煙草の銘柄、05.「N.R.G.」では栄養ドリンクの名前、06.「酔っパラダイス」ではチェーンの居酒屋名…といった具合。
また、BUBBLE-BにはB級グルメ愛好家としての一面もあり、食に纏わるトラックが多いのも特徴です。とりわけ、10.「ぞっこん!バーベキュー」から15.「Anarchy in the ODWR」までのガストロノミックシークエンス(14.は除く)を経ると、外食したい欲が刺激されます。笑 この中で特に好みなのは、チャイナオリエンテッドな11.「ENJOY!中華」、ファンキーディスコな12.「セットでドリンクバー」、ジャンキージャングルな13.「バリバリスナック」の3曲で、いずれも中毒性が高くお気に入りです。なお、13.は後に「今日の一曲!」で取り上げたことがあるので、参考までにリンクしておきます。
BUBBLE-B『ガモリ2』(2010)
BUBBLE-Bの手腕を深堀りしようと手を出した『レジャーやくざ~』は、良盤と評していい出色の出来栄えでしたが、言ってもfeat. Enjo-G名義での作品であったため、Enjo-Gの強大な存在感による影響を、完全に排した判断を下すのは困難でした。そこで、ならば次はBUBBLE-B単独名義でのディスクを聴いてみるしかないと思い至り、手にしたのが『ガモリ2』(2010)です。本作も中古での入手で申し訳ありませんが、津田沼店とは別のユニオンで発掘しました。店内で不意にこのジャケ写を見た時は、元ネタのほうかと思って一度スルーしてしまったことを白状します(関連記事)。笑
![]() | ガモリ2 Amazon |
「BUBBLE-B単独名義」とは言っても、本作にもfeat. Enjo-Gのナンバーは多く収録されていますし、そのリミックスも豊富な一枚なので、ここでは記事の流れの都合上、Enjo-Gが関わっていない楽曲を幾つか紹介します。BUBBLE-Bの作品は、映像も込みで鑑賞するのが理解への近道かとは思いますが、音源だけを取り立ててもそのクオリティは高く、下掲の試聴動画でもそのことは伝わるでしょう。
本作の中でいちばんツボだったのは、15.「ZANSHIRO(キイロミックス)」です。Mad Yellowによるリミックストラックで、調べると氏はどうも沖縄の出身らしく、泡盛のローカルCMがサンプリングされた本曲を弄り回すのには、まさに打って付けの存在と言えますね。オリジナルより琉球のグルーヴ感が強調されている;即ちネタ元の活用が巧く聴こえ、気持ち良く踊れるつくりとなっているのは、流石ウチナーンチュといったところでしょうか。僕自身が沖縄フリークゆえ、その影響もあるとは思いますが、琉球音楽と電子音楽の融合は昔から好みです。RYUKYUDISKOや琉球アンダーグラウンドも聴きますし、久石譲の『Sonatine』(1993)も良盤と評しています。
リミックスでは他に、14.「Anarchy in the ODWR(探検!ぼくのハマチmix)もフェイバリットで、同曲はsalchok from JASCOによるワークスです。先の「Enjo-Gのハード~」の項ではふれませんでしたが、salchokのサウンドメイキングにはガチな格好良さがありますよね。
名義がBUBBLE-Bのみのトラックでは、06.「Shinsuke」のふざけっぷりが大のお気に入りです。メインのネタは某芸人・司会者の謝罪会見ですが、それに負けない『朝まで生テレビ!』のテーマソング【Jeff Newmann「Positive Force」(1988)】と思しきシンセリフの主張の強さと、最後にダメ押しで出てくる「富士サファリパークCMソング」(1980?)で腹筋崩壊。
他にも、元ネタの趣を強化したタイプの楽曲も面白く、ポップさがブラッシュアップされて一層のコマーシャル効果向上が図られている、02.「Cheese berg edit」や、迫力と凄みがエンファサイズされてアッパーな緊張感が醸し出されている、07.「Mandahan」も、それぞれBUBBLE-Bの素敵な感性が炸裂していると絶賛します。
アウトロダクション
以上、SmileHunters・Enjo-G・BUBBLE-Bと、3アーティストの特集でした。三者とも幅広いトラックメイキング力を有しているため、サウンドの方向性を一概に語ることは出来ませんが、ここまでに何度か「ナード」という言葉を出している通り、三者に共通するファクターに「オタク的な精神性」があるのは間違いないと考えています。ただ、それは決してネガティブな意味合いではなく、多くのミュージシャンが手を付けない領域に遊び心を見出すことの出来る達人、もしくは自由人的な評価が優勢です。
「ナードコア」というと二次元界隈との親和性も高く、可愛いキャラクターが描かれたジャケットのものも多い印象ですが(下に参考画像あり)、実際に扱われているネタの種類はもっと多岐に亘っています。この「あらゆるものを素材としてしまうスタンス」には、柔軟な心と卓越した観察眼と引き出しの多さが肝要なので、何にでも凝り性を発揮する「古き良きオタクマインド」を持つ人ならではの音楽なのだなと、尊敬の念を抱かずにはいられませんでした。
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実際にこの三者がきっかけで、僕はナードコアというかハードコアテクノ界隈自体に興味を持ったため、その筋ではスピードコアの担い手として有名なm1dyの最新作『THE MIDI ANARCHIST』(2012)と、彼が主催の一人を務めしMOB SQUAD TOKYOからの'新型'アーリーハードコアシリーズ『PARALLEL HARDCORE』(2015~)にも手を出したくらいです。先に言及しませんでしたが、m1dyは『えんじょうじの~』収録曲「EnjoのG☆SPOT」を手掛けた方ですし、同盤がMSTからのリリースであるのは既に述べたことなので、がっつり関連付けた紹介であることを補足しておきます。
それにしても、この手のジャケ絵には単なるアニメ絵とは違った独特な魅力がありますよね。萌え系と言えばそうなのかもしれないけれど、その実そういうのが好きな層(=二次元趣味の範疇から出て来ないクローズドなオタク)には、絶妙に刺さらなさそうな毒気のある感じが好みです。僕も二次元趣味を持つ人間ではありますが、それは数多くある興味・関心のうちのひとつというだけなので、少し外してきているイラストのほうが響きます。
本記事は副題に「ナードコアへの誘い」と付しはしましたが、その外周をなぞるような内容であることは自覚済みです。同ジャンルが最も盛り上がっていた頃にはフォーカスしていませんし、著名アーティストへの言及もないので。間接的には、BUBBLE-Bでカラテクノへ、高野政所でLEOPALDONへ、「Enjo-Gの催眠~」でSHARPNELへの導線は敷いておきましたが、僕自身がまだまだ勉強中ゆえ、名前を出すことしか出来ないのです。
ただ一点、日本には確かな実力を持ちながら、扱う音楽性ゆえに表通りには顔を覗かせないミュージシャンも多くいるのだということが、本記事を通じて少しでも伝われば幸いと結びます。