今日の一曲!The Orb「A Huge Ever Growing Pulsating …
曲名が長過ぎて記事タイトルに収まり切らなかった「今日の一曲!」は、The Orbの「A Huge Ever Growing Pulsating Brain That Rules from the Centre of the Ultraworld」(1989)です(以降は「A Huge ~」と略)。
いくつものミックス違いが存在するため言及の対象を絞りますと、本記事で取り上げるのはデビューアルバム『The Orb's Adventures Beyond the Ultraworld』(1991)に収録されている「:Live Mix Mk 10」となります。Discogsソースだとアルバム自体にもバージョンが42もあってややこしいのですが、僕の手元にあるディスクは「ISLAND MASTERS(IMCD 234)」のものです。このシリーズの詳細に関しては、英語版のwikipediaに項目が立てられているのでそちらを参照してください。
※ 上掲リンクのディスクは、Universalから2006年にリリースされた3枚組のデラックスエディション/リマスター盤です。
当ブログでジ・オーブの単独記事を立てるのは初…どころか、言及自体が初めてだと思います。しかし、古くから好んで聴いている電子音楽グループの一組です。
ではなぜ今まで記事化してこなかったかというと、後世に多大な影響を与えたようなパイオニア・アーティストについては、既にプロのライターの手に成る通時的で簡潔な評や、よりコアなファンによる分析的なレビューが存在するため、浅学の自分が今更何を書く必要があるのだろうと自重する心理が働いていたからです。もっと時代を遡って、たとえばKRAFTWERKの単独記事を立てないのも同様の理由ではあるのですが、そのあたりのボーダーが自分の中では1990±2年ぐらいにあるようなので(おそらく自身の生年に起因する)、ちょうどその期間から名が売れ出したオーブについては、書くべきかどうかずっと逡巡の最中にあったと言えます。
少し時を進めて所謂「テクノ四天王」の世代まで来ると躊躇いが殆どなくなって、単独記事もそれなりに本数があることは当ブログをご覧いただければわかると思いますが、つい最近にこのあたりの言わば「イギリスの電子音楽事情(有名どころのみ)」について語った;同時に関連記事へリンクも多いエントリーを書いているので、この流れならオーブに言及してもいいんじゃないかとハードルが下がりました。名前が似ている(ついでに言えば「スキンヘッドの2人組」という容姿も)ことで混同されがちなOrbitalについても、キャリアを見ればデビューアルバムのリリースは1991年なのに既に単独記事にしていますし、ボーダーをここに置くのは止め時だと思い至った次第です。
個人的なこだわりや裏話から始めてしまい恐縮ですが、要するに「オーブの音楽は恐れ多いくらいに気に入っている」ということが言いたいのでした。その音楽性を語る際には「アンビエント・ハウスの始祖」であることが取り沙汰されがちですが、デビューから今日に至るまで途切れることなくコンスタントに作品をリリースし続けているリビングレジェンドであり、その飽くなき探究心に裏打ちされた科学者の如き楽曲制作姿勢と、実験の成果物と喩えたい実に様々なタイプのトラックの数々こそが、オーブの真の魅力ではないでしょうか。
今回紹介する「A Huge ~」に代表されるようなアンビエントなトラックも勿論好きなのですが、参考までに個人的に気に入っているナンバーを順不同でいくつか列挙しますと、ダブ然としたトラックの上を儚げな鍵盤が滑っていくのが美しい「High Noon」(2007)、粗いサウンドのビートメイキングとキャッチーながら何処か仄暗い主旋律との対比が鮮やかな「Hell's Kitchen」(2004)、キュートな音遣いとユニークなボーカルチョップとハウス志向の強さで聴き易い「Little Fluffy Clouds」(1990)、テクノが包括するストイックなダークさを笛の音の心地好さで宥めているような「Lunik TM」(2005)、ビートはシンプルでメインメロディもミニマルでありながらサンプリングの遊び心が面白い「Toxygene」(1997)、曲という概念が崩壊するレベルで最初から最後まで狂気に満ちている実験音楽的な「We're Pastie To Be Grill You」(1994)、ベースラインのうねりだけでトリップ出来る「Ripples」(2005)、何処かファンキーなリズムが文字通り格好良い「Cool Harbour」(2005)、『ドラえもん』をフィーチャーしたMVでもお馴染みのキラーチューン「From a Distance」(2004)、日本人(日系人?)ボーカルの訛りがキュートながらもお洒落な「Once More」(2001)、ソウルフルでありつつも儚いという調和が絶妙な「A Beautiful Day」(2007)あたりの曲名が並ぶことになり、その多彩さには目を見張るばかりです。それが伝わるように敢えてジャンルの名前を出す形容にしてみましたが、認識を間違えていたらすみません。
アーティスト紹介で前置きが長くなってしまいましたが、ここからは本題である「A Huge ~」の魅力を語るセクションです。
YouTube上にあるオーブの映像/音源で公的なもの(by BE-AT.TV)がこれしかなかったので、二時間超えのライブ映像を埋め込みました。40分付近から(と58分過ぎにreprise)が「A Huge ~」ですが、コメ欄にもあるように音が悪いというか録音側が設定を間違えているっぽいですし(49分あたりで気付いたのか暫く無音になってそこから先はマシになる)、ライブ音源ではアンビエントの良さが薄れていると感じるので、あまりおすすめはしません。
本曲のことを語る際には殆ど確実にと言っていいレベルで、 Minnie Ripertonの超有名曲「Lovin' You」(1975)がサンプリングされていることが話題になります。ほぼそのまま流れてくるので、「大ネタ使い」と言っていいレベルでしょう(元の曲名が通称となっているぐらいですから)。これはかなり大胆な使用例ですが、本曲に限らずオーブの音楽に於いてサンプリングは非常に重要なファクターで、たとえばclubberiaにあるインタビューでは彼らのサンプリング論について知ることが出来ます。楽曲/レコードからの引用は当然として、様々な媒体での談話や自然の音までもを自在に取り入れて、自身の音楽へと昇華させてしまうのがオーブの特徴のひとつです。
ネット上にある「本曲に使われている元ネタに関する情報」は大体が「Loving' You」に対するものですが、細かく探していけばその他のサンプリング元に対して言及しているページを言語を問わず見つけることが出来ます。その真偽のほどは浅学ゆえ僕には判断しかねるので、気になる方は各自で深堀りしてみてください。
18分超えの大作であるため、「超有名曲がサンプリングされている」と言っても、それはひとつの要素に過ぎません。本曲の中核をなしているのは、ミニマルな主題が微妙に音を変化させながら何処までも続くことによる陶酔感と、細切れになったクワイアが刻む独特のリズム感だと思っていて、主にこの二つのファクターが「アンビエント・ハウス」という形容に寄与しているのだと分析しています。「Loving' You」を含む種々のサンプリングは、上掲の要素だけでは時に冗長と思われてしまいそうな曲の趣に、過剰ではないアクセントを付けて彩りを沿えるものだとの理解です。
このあたりのバランス感覚の素晴らしさこそがオーブの真骨頂だと主張したいので補足しますと、本曲に限らずオーブの音楽の魅力は「何気なしに聴いていて、ある日突然とてつもなく美しい瞬間があることに気付く」類のものだと捉えているので、リスナーそれぞれにお気に入りのモーメントがあるのではないでしょうか。日常の中から些細な幸福を見出した時の心地好さだとか、何かを観察していて対象がこれまでにない変化を見せた時の興奮だとか、それらに近い感覚を僕は覚えます。
好奇心から来る知的な能動性は楽曲の多彩さと科学的なアーティスト像に、アンビエントやサンプリングへのアプロ―チは我々の日常生活に、電子音楽/ダンスミュージックとの親和性は聴き易さにそれぞれつながっていると感じるので、広く一般に受け容れられなさそうな難解な要素を含んでいながら、そられが難なく受け入れられた(=オーブがヒットした)背景には、このようなレセプターの多さが関係しているのではないでしょうか。表現として正しいか微妙ですが、細胞をオーブ/膜の外側の物質をリスナーとした比喩です。
いくつものミックス違いが存在するため言及の対象を絞りますと、本記事で取り上げるのはデビューアルバム『The Orb's Adventures Beyond the Ultraworld』(1991)に収録されている「:Live Mix Mk 10」となります。Discogsソースだとアルバム自体にもバージョンが42もあってややこしいのですが、僕の手元にあるディスクは「ISLAND MASTERS(IMCD 234)」のものです。このシリーズの詳細に関しては、英語版のwikipediaに項目が立てられているのでそちらを参照してください。
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当ブログでジ・オーブの単独記事を立てるのは初…どころか、言及自体が初めてだと思います。しかし、古くから好んで聴いている電子音楽グループの一組です。
ではなぜ今まで記事化してこなかったかというと、後世に多大な影響を与えたようなパイオニア・アーティストについては、既にプロのライターの手に成る通時的で簡潔な評や、よりコアなファンによる分析的なレビューが存在するため、浅学の自分が今更何を書く必要があるのだろうと自重する心理が働いていたからです。もっと時代を遡って、たとえばKRAFTWERKの単独記事を立てないのも同様の理由ではあるのですが、そのあたりのボーダーが自分の中では1990±2年ぐらいにあるようなので(おそらく自身の生年に起因する)、ちょうどその期間から名が売れ出したオーブについては、書くべきかどうかずっと逡巡の最中にあったと言えます。
少し時を進めて所謂「テクノ四天王」の世代まで来ると躊躇いが殆どなくなって、単独記事もそれなりに本数があることは当ブログをご覧いただければわかると思いますが、つい最近にこのあたりの言わば「イギリスの電子音楽事情(有名どころのみ)」について語った;同時に関連記事へリンクも多いエントリーを書いているので、この流れならオーブに言及してもいいんじゃないかとハードルが下がりました。名前が似ている(ついでに言えば「スキンヘッドの2人組」という容姿も)ことで混同されがちなOrbitalについても、キャリアを見ればデビューアルバムのリリースは1991年なのに既に単独記事にしていますし、ボーダーをここに置くのは止め時だと思い至った次第です。
個人的なこだわりや裏話から始めてしまい恐縮ですが、要するに「オーブの音楽は恐れ多いくらいに気に入っている」ということが言いたいのでした。その音楽性を語る際には「アンビエント・ハウスの始祖」であることが取り沙汰されがちですが、デビューから今日に至るまで途切れることなくコンスタントに作品をリリースし続けているリビングレジェンドであり、その飽くなき探究心に裏打ちされた科学者の如き楽曲制作姿勢と、実験の成果物と喩えたい実に様々なタイプのトラックの数々こそが、オーブの真の魅力ではないでしょうか。
今回紹介する「A Huge ~」に代表されるようなアンビエントなトラックも勿論好きなのですが、参考までに個人的に気に入っているナンバーを順不同でいくつか列挙しますと、ダブ然としたトラックの上を儚げな鍵盤が滑っていくのが美しい「High Noon」(2007)、粗いサウンドのビートメイキングとキャッチーながら何処か仄暗い主旋律との対比が鮮やかな「Hell's Kitchen」(2004)、キュートな音遣いとユニークなボーカルチョップとハウス志向の強さで聴き易い「Little Fluffy Clouds」(1990)、テクノが包括するストイックなダークさを笛の音の心地好さで宥めているような「Lunik TM」(2005)、ビートはシンプルでメインメロディもミニマルでありながらサンプリングの遊び心が面白い「Toxygene」(1997)、曲という概念が崩壊するレベルで最初から最後まで狂気に満ちている実験音楽的な「We're Pastie To Be Grill You」(1994)、ベースラインのうねりだけでトリップ出来る「Ripples」(2005)、何処かファンキーなリズムが文字通り格好良い「Cool Harbour」(2005)、『ドラえもん』をフィーチャーしたMVでもお馴染みのキラーチューン「From a Distance」(2004)、日本人(日系人?)ボーカルの訛りがキュートながらもお洒落な「Once More」(2001)、ソウルフルでありつつも儚いという調和が絶妙な「A Beautiful Day」(2007)あたりの曲名が並ぶことになり、その多彩さには目を見張るばかりです。それが伝わるように敢えてジャンルの名前を出す形容にしてみましたが、認識を間違えていたらすみません。
アーティスト紹介で前置きが長くなってしまいましたが、ここからは本題である「A Huge ~」の魅力を語るセクションです。
YouTube上にあるオーブの映像/音源で公的なもの(by BE-AT.TV)がこれしかなかったので、二時間超えのライブ映像を埋め込みました。40分付近から(と58分過ぎにreprise)が「A Huge ~」ですが、コメ欄にもあるように音が悪いというか録音側が設定を間違えているっぽいですし(49分あたりで気付いたのか暫く無音になってそこから先はマシになる)、ライブ音源ではアンビエントの良さが薄れていると感じるので、あまりおすすめはしません。
本曲のことを語る際には殆ど確実にと言っていいレベルで、 Minnie Ripertonの超有名曲「Lovin' You」(1975)がサンプリングされていることが話題になります。ほぼそのまま流れてくるので、「大ネタ使い」と言っていいレベルでしょう(元の曲名が通称となっているぐらいですから)。これはかなり大胆な使用例ですが、本曲に限らずオーブの音楽に於いてサンプリングは非常に重要なファクターで、たとえばclubberiaにあるインタビューでは彼らのサンプリング論について知ることが出来ます。楽曲/レコードからの引用は当然として、様々な媒体での談話や自然の音までもを自在に取り入れて、自身の音楽へと昇華させてしまうのがオーブの特徴のひとつです。
ネット上にある「本曲に使われている元ネタに関する情報」は大体が「Loving' You」に対するものですが、細かく探していけばその他のサンプリング元に対して言及しているページを言語を問わず見つけることが出来ます。その真偽のほどは浅学ゆえ僕には判断しかねるので、気になる方は各自で深堀りしてみてください。
18分超えの大作であるため、「超有名曲がサンプリングされている」と言っても、それはひとつの要素に過ぎません。本曲の中核をなしているのは、ミニマルな主題が微妙に音を変化させながら何処までも続くことによる陶酔感と、細切れになったクワイアが刻む独特のリズム感だと思っていて、主にこの二つのファクターが「アンビエント・ハウス」という形容に寄与しているのだと分析しています。「Loving' You」を含む種々のサンプリングは、上掲の要素だけでは時に冗長と思われてしまいそうな曲の趣に、過剰ではないアクセントを付けて彩りを沿えるものだとの理解です。
このあたりのバランス感覚の素晴らしさこそがオーブの真骨頂だと主張したいので補足しますと、本曲に限らずオーブの音楽の魅力は「何気なしに聴いていて、ある日突然とてつもなく美しい瞬間があることに気付く」類のものだと捉えているので、リスナーそれぞれにお気に入りのモーメントがあるのではないでしょうか。日常の中から些細な幸福を見出した時の心地好さだとか、何かを観察していて対象がこれまでにない変化を見せた時の興奮だとか、それらに近い感覚を僕は覚えます。
好奇心から来る知的な能動性は楽曲の多彩さと科学的なアーティスト像に、アンビエントやサンプリングへのアプロ―チは我々の日常生活に、電子音楽/ダンスミュージックとの親和性は聴き易さにそれぞれつながっていると感じるので、広く一般に受け容れられなさそうな難解な要素を含んでいながら、そられが難なく受け入れられた(=オーブがヒットした)背景には、このようなレセプターの多さが関係しているのではないでしょうか。表現として正しいか微妙ですが、細胞をオーブ/膜の外側の物質をリスナーとした比喩です。