【MV】凄くて面白い名作傑作ミュージックビデオ40本+について語る【PV】Part.2/3
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┣ 2018.5.7:記事作成日
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┗ 2025.7.1:本記事の最終更新日(20.を改訂・幾つかの埋め込みをリンクに変更)
□ 本記事は「【MV】凄くて面白い名作傑作ミュージックビデオ40本+について語る【PV】Part.1/3」の続きです。
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■ 趣旨説明と留意点
┗ 前記事を参照してください
■ ラインナップ(21.~40.)
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┝ MV番号. 曲名 / アーティスト名
┝ cf.=補足・補遺MV 曲名|曲名|曲名… / 〃=アーティスト名上に同じ
┝ 曲名*=後にMV番号を付しての言及あり('付き含む)
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┣ 21. Rain / Bicep
┝ cf. 怪造人間 / バクバクドキン|女たち / YAV
┣ 22. アムロケット / BUBBLE-B
┝ cf. MOMOØWY|Cheese Burg Edit|Gyoza Kingdom / 〃
┝ Enjo-Gのぽぽぽぽ~ん / 〃 feat. Enjo-G
┣ 23. Reversed Note / 80KIDZ
┣ 24. Karaoke / Ginger Root
┣ 25. 1,2,3 / APOGEE
┝ cf. 夜間飛行|ゴースト・ソング|グッド・バイ / 〃
┝ 新宝島 / サカナクション|FLASH / Perfume
┝ N.E.O.* / CHAI
┣ 26. アヒル / APOGEE
┝ cf. Just a Seeker's Song|スプリング・ストレンジャー / 〃
┣ 27. Chance / D.A.N.
┝ cf. The Encounters / 〃|Under Neon Lights / The Chemical Brothers
┣ 28. WORLD OF FANTASY / capsule
┣ 29. Right Now / Van Halen
┝ cf. Cowgirl* / Underworld
┣ 30. Let Forever Be / The Chemical Brothers
┣ 31. Steam / Peter Gabriel
┝ cf. Sledgehammer|Big Time / 〃
┣ 32. 目が明く藍色 / サカナクション
┣ 33. Mirror Mirror / Mili
┣ 34. Parabol ~ Parabola / Tool
┣ 35. 真夏の通り雨 / 宇多田ヒカル
┣ 36. High Hopes / Pink Floyd
┣ 37. ただし、BGM / ニガミ17才
┣ 38. Black Snow / Oneohtrix Point Never
┣ 39. Leave in Silence / Depeche Mode
┝ cf. Precious / 〃
┗ 40. MUSIC VIDEO / 岡崎体育
■ MV紹介 ―No.21~30―
21. Rain (2018) / Bicep
やや注意喚起レベルの「グ○注意」と「お使いのPCは正常です」タグを付したいダークでグリッチなMVです。滑らかな映像に慣れ切った現代人には却って新鮮で、その不鮮明さは強引なマッチカットでシーンを繋ぐ際にも一役買っています。コラージュ作品としても稀有なカオティックさを誇るのでネタ元に照らす楽しみもあり、例えば映画『Jurassic Park』からのワンシーン[3:19~3:22]でさえ「こんなに首捩じってたっけ?」と不気味に映る始末です。斯様に既存の素材をマシンのスペック不足風のラグい映像世界に落とし込む手法は制作のLuke Wyattさんが元より得意としていて、曰く「Video Mulch」を標榜しているものの独自の概念らしくその定義や「根覆い:園芸で言うマルチのこと」が具体的に何を指すのかなどの詳細は調べても判然としませんでした。下記は何とか捻り出した僕なりの解釈です。
当該の語をずばり冠した過去作「Sad Stonewash: A Video Mulch」(2010)もつくりが似ているため、概要欄のこれまた謎の形容「trademark mulch melt」をヒントに意味を考えた結果、トレードマークは「版権物を利用した」の意でメルトは「粗いディゾルブ」を指すとの理解に至りました。本来meltとdissolveは固体が融けるか液体に溶けるかで区別されるけれど、映像用語と化している後者ほどのスムーズさがないというニュアンスで前者に置換したのではとの理屈です。これらを踏まえて「根となる基底のビデオを部分的に別のビデオで覆うオーバーラップで場面転換を繰り返していく様をマルチングに見立てた」のだとすれば「Video Mulch」に集約されるのにも得心がいきます。余談ですが上掲リンク先のプレビュー版ではないフルバージョンに於いては、唐突な日本語「ガバリン(映画『House』の邦題)」の登場[2:26~3:20]がサプライズでした。
補遺MVs:同じマルチの文脈で語っていいかは扨置き映像的に近しいものをお求めの方には、おひたしア○ルさん作のバクバクドキン「怪造人間」(2014)およびYAV「女たち」(2016)がおすすめです。伏字にせざるを得ない尖った監督名から察せるように、一部の素材に過激なものが含まれ且つ全体的にトラウマチックなので当該二作はストレートに「閲覧注意」としておきます。
22. アムロケット (2009) / BUBBLE-B
YouTubeリンク
21.に紹介した監督お二方の作品はコラージュとはいえ(素材自体のクリエイティビティを借用している点を勘案した逆接)、音源はオリジナルですしMVとしての完成度の高さは「プロの手に成る」と言って差し支えないとの認識です。しかし版権物を利用した動画作りに関しては寧ろ、サブカルやミームに明るい一般の投稿者が「ノンプロゆえに」ぶっ飛んだ二次創作に至る場合もあると、MADやYTPに馴染み深い方ならご存知かと思います。だからとて趣味人の成果物まで対象にするのは佳作であろうと本記事の趣旨にそぐわないため、元ネタの映像と音楽を大胆に使いつつもオリジナリティを確と発揮しているバブルビーさんの作品を貴重な橋渡し的存在として特筆します。またもタグで説明するなら単なる「音MAD」に止まらず「自作曲MAD」とか「ナードコア」とか発展形のものが付される時、そこに見出される創作性はプロのそれと同質と捉えるのが僕なりの区別です。
補足記事:SmileHunters・Enjo-G・BUBBLE-Bの魅力 ―ナードコアへの誘い―
氏のナードなネタ使いには一日の長がある…と言ってもその主軸はアニメ系になく、素材自体は有名だけれどそれを使って楽曲や動画を作ろうとは普通思わない絶妙なところからネタを引っ張って来るのが蓋しナード感顕だと評せます。代表的に埋め込んだ本MVは元CMのラグジュアリーなイメージを損なわないままに面白く、訴求効果が依然抜群であるのが高評価の理由です。映像の出所は「Fashion×Music×Vidal Sassoon」キャンペーンの第2弾CMで、そのタイアップ曲・安室奈美恵「Do Me More」(2008)のMVを手掛けた田中裕介さんが同様にディレクションしています。非日常空間を舞台にしたショーガールのアブない魅力が、安室さん持ち前のキュートさと相俟って至近距離に放たれる意欲作です。そんな特別感から打って変わってコミカルなタイトル回収シーン[1:53~2:02]を経て(トリビア:第4弾CMの舞台は奇しくも宇宙です)、元のクワイアがチョップされずにトライバルなビートと合わさるカタルシスに「どセクシー。」を感じます。
補遺MVs:バブルビーさんが得意とするCMネタに限って更に数作を抜粋しますと、上記のような明確なおふざけがないので化粧品の宣伝として実際にギリ許されそうな気がするお洒落な「MOMOØWY」(2008)、強化されたザイアンス効果が促すシズル感に食欲を刺激される「Cheese Burg Edit」(2010)と「Gyoza Kingdom」(2015)、当時を思い返すとMADにしたくなるのも解るほど連日目にした素材だからこそ変化が新鮮な「Enjo-Gのぽぽぽぽ~ん」(2011)など何れもハイセンスです。加えて先掲の補足記事ではまとめて扱っている通り、えんじょうじさんとの黄金タッグによるパロディMVの数々にも特筆性があるため、野暮とは思いつつせめて曲名は出さずに「これ」が「こう」の形にリンクして比較検討を可能にしておきます。これがこう、これがこう、これがこうです。
23. Reversed Note (2017) / 80KIDZ
YouTubeリンク
コラージュやMADに付き物の権利問題をクリアする最善の方法が権利元から許諾を得ることだとしたら、次善は条件次第で自由に使える素材を組み合わせて堂々と自分の作品として発表することでしょう。スタイリッシュなMADの向きがある本作はおそらく後者に属し、その推測が正しいかはともかく動画素材サイトを検索すると出典っぽい映像に辿り着き易いのは事実です。ゆえに素材のひとつひとつはややウケやワンアイデア程度の情報量でも、たくさん集めて音楽に合わせれば格好良いMVとして成立するのはご覧の通りで、各動画の品質の良さというかフォーマルな統一感が流石にアマのそれとは違うと納得させてくれます。ともすればビジネス系YouTuberやトレンドブロガーが無為に多用する素材特有の不快さが滲みそうなのに、素材同士の動線が気持ち好く繋がるトランジションや共通の形や動作を緩く結んだマッチカットの妙で爽快です。
補足記事:80:05 / 80KIDZ +α(3rdアルバム以降)
24. Karaoke (2020) / Ginger Root
お次もクリエイターマインドがあればこその冴えた素材利用に注目し、その凄さはサムネのウォーターマークが雄弁に物語っています。つまりはストックフォトのパワープレイな使い方に驚いたのですが、調べても当該のURLに完全一致するサイトは見当たりませんでした。これが実在する画像素材の無断使用でないことの証明なら、それらしい文字列を拵えて態々透かしを入れたことになり芸細です。クレジットから読み解くにそもそもストックフォト風のオリジナル素材ということなのかもしれません。これにより4人分の出演料を節約したと取るのは飽くまでメタ視点だけれど、業績の悪化を示唆する前半の内容に照らすと作中視点でもまさかの人員削減手段に映って面白いです(後半のV字回復後に実写になったなら正道の解釈)。純粋にストーリーと演技を評価しても良作で、その熱唱っぷりと絶大なエンパワーメントにカラオケの効能を知り、ラストは「あれお前かよ!」で破顔します。
25. 1,2,3 (2009) / APOGEE
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22.で元CMの監督名にまで言及したのは田中さんのMVワークスにもお気に入りが多いからで、その奇妙なファンタジックさとファッショナブルな質感の両立を共通項に紹介するはインパクト大の本作です。パーツモデルが主演のショーが在ったらこんな風だろうかとの発展的な未来図にも、フェチズムの目が捉えている視界の再現と見做してクリティカルなプレゼンとも、バラバラを見たままに解釈すれば狂気のマリオネット劇にも映る想像の余地を好んでいます。ちなみに鹿の登場は当時のバンドにとりアイコニックな要素だからで以下の初期作でも確認可能です。
補足MVs:田中監督×アポジーのフィルモグラフィーを「夜間飛行」(2006) → 「ゴースト・ソング」(2006) → 「グッド・バイ」(2006)そして本作と通時的に観る限り、人体や楽器の一部だけを切り取ったりサイズの拡大縮小を行ったりするのが編集上のトレンドだったと類推出来ます。このうちGSにはSPACE SHOWER MVAでの最優秀監督賞とMTV VMAJでの最優秀特殊効果ビデオ賞という名誉のアワードがあり、楽曲もリリースから18年後にTV番組『EIGHT-JAM』で同業者から絶賛されるほど傑出しているため、もっと多くの方に届いて欲しいと願うばかりです。
補足記事:今日の一曲!APOGEE「ゴースト・ソング」【平成18年の楽曲】
補遺MVs:田中監督×○○では他にサカナクションとPerfumeも作品数が多く、丁寧丁寧丁寧な楽曲は勿論TV番組『ドリフ大爆笑』を模した内容とダンスも有名な「新宝島」(2015)に、乙張の利いたカンフーで粛然なのに躍動的という瞬間をシックに収めた「FLASH」(2016)と、そのアーティストの中で最も再生数を得ているMVを撮った手腕は穎脱しています。後の73.で紹介するCHAI「N.E.O.」(2017)も田中さんの作品で、同作の再生数もまた然りなので傑物と言わざるを得ません。
26. アヒル (2007) / APOGEE
先述の通り初期のアポジーはMVに必ず鹿要素を取り入れていて、別けても鹿使いがWonde'e'rfulなのは東弘明監督が手掛けた本作です。ダイナミックなVFXに目を奪われるのは必然で、当時の邦楽MV界では初導入のマッチムーブソフト『boujou』による精緻なトラッキングの賜物と言えます。顔の皮が剥がれて鹿の頭部が覗いたり小さい裸の女性が顔面に群がったりの絵面は漫画『GANTZ』っぽいなとか、頭のパーツが細切れになって宙を舞い回転してもなお意識は途切れず歌い続ける様はTVアニメ『ID:INVADED イド:インヴェイデッド』の第1~2話みたいだなとか、とかく時期を問わず個人的なツボに刺さる異様な演出が素敵です。
補足MVs:冒頭のドラマパートでメンバーが鑑賞しているのは前作「Just a Seeker's Song」(2007)で、他のMVを劇中劇に使用するのは地味にユニークな切り口と言えます(過去作を利用したMVについては60.にプチ特集あり)。同作は聖書の世界観に異物が混入したと表せるカオスな画作りが印象に残り、宗教的な障壁がなければ後継作に当たる「スプリング・ストレンジャー」(2009)と併せて大月壮監督の独特な感性にふれてみてください。
27. Chance (2018) / D.A.N.
ジャンプスケア系の脅かしが来そうな雰囲気を終始醸しつつ、その実ジワジワと背筋が寒くなる展開を見せる考察し甲斐のあるMVです。果たして公衆電話は何処かに繋がったのか、発炎筒の灯りに気付いた人は居たのか。ドリンクの減りが無情の時間経過を表し、[4:07]でひとりでにワイパーが動き出してからの緊張感で一段と惹き込まれます。最終的に内容量が元に戻るカップの描写は空間のループではなく時間のループであることの証左と解せますが、何方にせよこの道路から抜け出せないのは変わりません。一昔前なら『P.T.』新しめなら『8番出口/のりば』を例に取る、謎解きないし異変をチェックしないと先に進めないホラーゲームらしい趣があります。なお本作のようなダッシュボード越しの恐怖がお好みの方は、海外のYouTubeチャンネル『Chilling Scares』内を「dashcam」で検索すると、オカルトからクライムそしてディザスターまで疑似的に味わえておすすめです。
補遺MVs:ゲームに例える流れを引き継いでダンの作品を語るなら、90年代の『LSD』にゼロ年代の『ゆめにっき』を3D化したテン年代の『YUMENIKKI -DREAM DIARY-』に2020年代の『POOLS』と、常に一定の需要と人気がある謎空間を徘徊したい欲求に適う「The Encounters」(2021)も好んでいます。同作には実際にVR作品としてのリリースもあり、PCやスマホからでも遊べるのでアクセスしてみてください。似たような試みにはケミカルブラザーズの「Under Neon Lights」(2015)もあり、このビジュアライザー的なものとは違うInteractive VR MVが後にリリースされています。
補足記事:今日の一曲!The Chemical Brothers「Under Neon Lights」
28. WORLD OF FANTASY (2011) / capsule
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車載カメラつながりで続けて紹介する本作に怖い要素はなく、エレクトロに傾倒していた時分に顕著だった都会的または近未来的なユニット像にマッチするクールなMVです。ただのドライバーズビューではドラレコ映像ないしレースゲーム画面だけれど、鏡面反射によって一段とSFらしくなったコースを走行するので新鮮な乗り心地に浸れます。[4:27~4:48]の架空CMセクションも凝っており、歌詞が企業ロゴ風に表示されるのはリリックビデオとして今尚斬新です。自動運転技術の安全性が100%に近くなれば、HUD上の広告を視聴することで高速料金が割り引かれるみたいな未来が訪れるかもと想像させられます。
補足記事:WORLD OF FANTASY / capsule
29. Right Now (1991) / Van Halen
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リリックビデオにふれたのを契機に、その時代差を示すために往年の異色作にフォーカスしましょう。厳密には本作がLVらしく振る舞うのはその一部のみで[1:48~2:05]、直前には「歌詞に注意を払うべきだろう」との予告があります。その他の大部分は映像の状況を文字で説明したもの、或いはそれから連想される皮肉めいたメッセージ、更には当時の社会問題に関する警鐘の表示です。ゆえに何れの枕詞も曲名通り「RIGHT NOW」で、例えば外に出るシーンに「YOU COULD BE OUTSIDE」、真珠のネックレスをバックに「OYSTERS ARE BEING ROBBED OF THEIR SOLE POSSESION.」(注:英語では阿古屋貝もオイスターに含まれる=pearl oyster)、ジャパンバッシングを念頭に置いたのであろう「IS NOT THE FAULT OF THE JAPANESE.」と多岐に亘ります。
その啓発的な性質と力強いフォントに拠ってポスターじみた硬さは拭えないものの、近年のスタイリッシュ一辺倒のLVにはない機能美が確かにあり、キネティックを冠さないタイポグラフィだけでも、ここまで多様な観せ方が出来ることを知っておいて損はありません。先の19.で何の説明もなくいきなりキネポと省略形を使った不親切を遅蒔きにお詫びしまして、同作およびそこで「非省エネのLV」と評した13.に代表されるクオリティが僕にとって価値のあるキネポであり、それらの水準になく文字を動かす意義が尺稼ぎや賑やかし程度に納まるなら、敢えて動かさず表示方法を工夫して格好良さを担保する道を模索しても好いのではとのサジェストです。
補足MV:後の63.で紹介するUnderworld「Cowgirl」(1994) も時代に先んじており、90年代前半のLVとして参考に値します。
30. Let Forever Be (1999) / The Chemical Brothers
10.と同じくMichel Gondry監督×ケミブラの傑作です。編集によるダイナミックなトランジションと、トリックアートの要領でそれに近しい視覚効果を持たせているカットの混在で、観ている者の次元感覚が揺さぶられます。最初の驚きは[0:21]に訪れ、そこまでの間に予期したデジタルの向きが突如アナログに裏切られる瞬間は快感です。主演の方が「えっ?ここで画面分割ですか?」と言いたげに怪訝な視線を画面端に向け始める[1:54~2:06]が解り易いと思いますが、ポスプロの映像(黒背景にカラーバーと書割のある空間)にも実は独立した世界があって…と妄想を膨らませていくと、編集者が何気なくエフェクトを適用した裏でその通りの効果を実現すべく奔走する映像内存在が居るというフィクショナルな世界観が浮かび上がって来ます。とりわけ[3:13~3:19]は切り替わりが自然で、小道具と大道具の巧みな使い方に感心しました。
■ MV紹介 ―No.31~40―
31. Steam (1992) / Peter Gabriel
性的な事柄に係る醜い側面を敢えて明るく描くことで、その異常性を強調していると解釈可能なMVです。おひねりタイムで肉体を散売りされた挙句にパンツと顔だけが残る[1:32~1:48]に、一般人のガワを被った聖母の正体が実は××な[3:09~3:18]、懐かしのヌードペン(フローティングペン)で互いに脱がせ合う[3:27~3:35]と下品さが極まっています。諂っていた存在による暗殺計画が露見する[0:26~0:46]や、実存から転写できる不思議なキャンバスとブラシ[1:15~1:31]、ポリゴンのバグとしてお馴染みの顔面崩壊[3:36~3:53]など演出上の遊び心も満載です。
補足MVs:ピーター・ガブリエルさんはその長いキャリアを通じてずっとMVへの確かなこだわりを感じさせる大家で、中でも本作を含めてStephen R. Johnson監督の手に成るものは何れも超現実的な作風が特徴であり、その変梃な表現方法の数々は現代に於いても突出しています。MTV VMAsで六冠の17.を凌駕する九冠に輝き未だに破られていないレコードホルダーの「Sledgehammer」(1986)に、手を替え品を替えのシュールな絵面の連続は8.並に頭がおかしい(誉め言葉)と感じる「Big Time」(1986)も一見どころか百見の価値ありです。
32. 目が明く藍色 (2010) / サカナクション
YouTubeリンク
地道な撮影の大変さが想像に難くない大作で、完成までに長い年月を費やした楽曲に見合う執念の映像と言えます。ストップモーションの白眉という括りでは31.の補足に挙げた2本も同様だけれど、ストーリー性に関しては本作に軍配を上げたいです。鮮やかな伏線回収の手腕には唸るほかなく、まず影響を受けるアイテムを全て提示し[0:45~2:21]、続く暗転部にそれらを変質させるツールを登場させ[2:22~4:03]、暗転開けには実際に破壊・束縛・汚損が行われるも[4:04~4:54]、パンが逆方向になると変質のためのツールが反転して修復の機能を果たし出す[4:55~5:50]、このターンアラウンドなシークエンスに心を打たれました。
補足記事:SAKANAQUARIUM 2010 (B) / サカナクション
33. Mirror Mirror (2018) / Mili
ブロック玩具の楽し気な見た目に反して不穏当なバックグラウンドが窺えるMVです。あからさまなのは楽屋の荒れ具合でその惨状に息を呑むこと暫く、次の厨房のシーンが輪を掛けて深刻な状態だと察せるカメラアングル;扉の向こうをチラ見せするカット[2:07~2:12]に恐怖が増幅されます。この連続性を意識して観返すと布石はホールの時点で打たれていたと気付けて、フローリングとカーペットの赤い色味と暗い照明で解り難いのがニクいけれど、楽屋から辛くもホールに逃げた誰かが結局スプラッターな目に遭ったことを示す血の履歴を床と壁に認めて慄然としました。考察ポイントとして気になるのは厨房とステージの間に仕切りがないことで(ステージ・ホール間は設計上不自然でないためOK)、演者も観客も隣で展開されている酸鼻の光景を意に介していないのがアイロニックです。曲名および歌詞通り「鏡」が隠しているのかもしれませんね。
34. Parabol ~ Parabola (2001) / Tool
言った者勝ちの域にある極端に長時間のMVには楽曲のループという裏技が、現実的に長尺MVと言える10分超えの作品には完全なる演技パートがあったりカメラが定点もしくは動いてもスローモーションだったりのカラクリが存在するものですが、リードイン曲を含む実質2曲分とはいえ最初から最後まで音楽が鳴り続け且つ明らかに映像が展開していく本作のチャレンジ精神をまずは評価します。しかしその内容は暗く不気味で視聴負荷が高く、別けても[3:25~4:08]は見たら死ぬ類の禁忌に出会してしまったかのような狂気の極みです。後半に登場する奇妙な生物もまた不安になるビジュアルで、途中でリアルな断面がどアップになるため解剖や手術の模様が苦手な方はお気を付けください。サムネは終盤のシーンにあたり、神秘体験のイメージとしてはストレートです。
35. 真夏の通り雨 (2016) / 宇多田ヒカル
YouTubeリンク
最初は見知らぬ他人の記憶を覗き見しているような一歩引いた感覚で受け取れていたのに、観続けるうちにどの場面もまるで自分が経験した出来事みたいに思えてきて、最終的に出所不明の涙に襲われました。万感交到らせることにかけては随一のMVであると絶賛します。これに関しては「画質の良さ」も重要なファクターとの分析で、映像の鮮明さが増すほどに現実との錯覚を起こし易いのは道理です。撮影技術の発達には日常をただ切り取るだけでアートにしてしまう魔力が宿っていますね。本作にグッと来る方はTV番組『ドキュメント72時間』も好きなのではと勝手にこじつけてみます。
補足記事:Fantôme / 宇多田ヒカル
36. High Hopes (1994) / Pink Floyd
感動のタイプとしては35.と同様のものを覚えるけれど、こちらはより心象風景寄りで誇張されたサイズ感が印象的です。Syd Barrettさんの巨大胸像が象徴するように、この場に居ない者へ想いを馳せる未練が窺えます。経験に訴えかけるアプローチをご寛恕願えれば、モラトリアムから解き放たれようとしている時、もしくは夢破れて故郷に戻って来たタイミングで本作を観たら号泣必至でしょう。多くを語る必要はなくその良さは観れば解ると感性に委ねて短評は文字通り短く済ませます。
37. ただし、BGM (2018) / ニガミ17才
独立したドラマパートとライブパートを交互に提示するだけのありふれた構成かと思いきや、両者に関連性と通時性を持たせることでバンドの存在をドラマの背景に甘んじさせていない良作です。これを踏まえても尚「別々の場所に居た人間が最終的に合流するだけ」のベタ演出と言えなくもないけれど、開幕から異様な雰囲気を漂わせて鑑賞への動機付けを行う、複数の登場人物に意図の掴みにくい行動をさせストーリーへの期待を煽る、スタジオにリズム隊だけをスタンバイさせて補完欲求を刺激するなど、合流の暁にスッキリ出来る下準備に抜かりがないので陳腐には感じません。
38. Black Snow (2018) / Oneohtrix Point Never
YouTubeリンク
予言じみた内容を真面目に考察すれば、防護服・科学者・地球の写真・廃棄物・枯れた大地・バイオハザードマークの諸要素から、曲名は「死の灰」を指すと推察されます。あらゆるカタストロフの詰め合わせといった趣で、そう考えるとデスク上の品々も意味深です。教育映像『Radioactive Waste Disposal: The 10,000-Year Test』や映画『Habitat』などVHSのラインナップからは地球の破滅が想起させられますし、クトゥルフ神話の魔道書『ネクロノミコン』が置いてあるのは宇宙に逃げても恐怖から逃れる術がないことを突き付けられているように感じます。悪魔に喩えられているのが何かとは敢えて申しませんが、廃棄物をバックに笑顔でポーズを決めた後の[2:43]で見せる「おいおいこいつらアホだわ」と聞こえて来そうな嘲りの表情が恐ろしいです。
39. Leave in Silence (1982) / Depeche Mode
YouTubeリンク
赤いフェイスペイントつながりで続けて選出した本作はともすれば何処を切り取ってもダサいとネガティブな感想を許し得るけれど、閉塞感のある歌詞とダウナーなシンセポップをBGMにするとその前衛的な世界観に何やら暗示めいたものが滲んで来るところを僕は気に入っています。訳有りの子供向け番組っぽい違和感と言いましょうか、一見楽しそうに見えても疑念と憤怒が渦巻いているのを隠せない危うさです。これをメタ的にバンドからの抗議と解釈するのは個人の感想に過ぎませんが、DMは本作を含めてJulien Temple監督が手掛けたMVに不満を抱いていたらしいとの情報があり、そのせいか当時のクリップ集『Some Great Videos』からもオミットされています。おそらく先述のダサさのみに目を向けたのだろうと邪推すれども、40年以上を経た感性では「逆に」を合言葉に支持されることもありますからね。とはいえ動画のコメント欄は楽曲の先進性を褒めるものばかりで映像は依然不遇のままです。
補足MV:デペッシュ・モードがMVに一家言あるのは後の作品からも感じ取れ、例えば瀟洒で幻想的な独特の映像美を誇る「Precious」(2005)を比較対象とすると、再生数に桁違いの差が出るのも残念ながら頷けてしまいます。
40. MUSIC VIDEO (2016) / 岡崎体育
テーマそのものがミュージックビデオという自己言及的なMVなので締め括りは本作を措いて他にないと最初から決めていました。その内容はカラオケ用の映像まで対象にしてMVあるあるを連発していくもので、よく研究されていると腹落ちの体系化された提示には感服させられます。制作手法がある程度テンプレ化している現状に於いて、オリジナルとは何ぞやと問うイシューイングにも秀でた作品です。従前には楽曲の歌詞に照らして本記事内に要素が当て嵌まるMVがどれだけあるかを、正確には「余り当て嵌まるものはない」との結果を以て1.~39.の独創性を再確認する確証バイアス丸出しの検証を行っていたけれど、MVを追加する度に再検証するのが面倒になったので2021年の改訂時に全カットしています。ともあれつまりは僕の評価基準で「あるある」はマイナス要因*だということです。
※ 本人がディスの意図を否定しているため一応は素直に"クリエイション"讃歌と捉えているものの、"わざと"・"無意味に"・"適当に"・"とりあえず"などの御座なりな副詞表現や、使役の言い回しが「させる」→「しとく」→「しとけ」と投げ遣りに変化していくのには刺を感じます。他にも"気に入っている歌詞を画面いっぱいに貼り付けて感受性揺さぶれ"の迂遠さは29.で論ったようなスタイリッシュLVへの当て擦りに思えますし、"なんのメッセージ性やねんコレ"で現代アート路線を封じたり、"外でギター弾いているけど電源は引いてない"で細部の甘さを指摘したりのツッコミは批評的な視座に在ってこそではないでしょうか。ラストの「はいカット(実はカットしていない)」への言及「ようあるんすよそういうMVね」もトーンがクリティカルに聞こえます。何にせよここまで念入りに指摘してディスでないと言う岡崎さんの感性を僕は支持したいです。
□ Intermission
No.41以降は続きの記事「【MV】凄くて面白い名作傑作ミュージックビデオ40本+について語る【PV】Part.3/3」をご覧ください。20.以前は「Part.1/3」にて。
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■ ラインナップ(21.~40.)
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┝ MV番号. 曲名 / アーティスト名
┝ cf.=補足・補遺MV 曲名|曲名|曲名… / 〃=アーティスト名上に同じ
┝ 曲名*=後にMV番号を付しての言及あり('付き含む)
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┣ 21. Rain / Bicep
┝ cf. 怪造人間 / バクバクドキン|女たち / YAV
┣ 22. アムロケット / BUBBLE-B
┝ cf. MOMOØWY|Cheese Burg Edit|Gyoza Kingdom / 〃
┝ Enjo-Gのぽぽぽぽ~ん / 〃 feat. Enjo-G
┣ 23. Reversed Note / 80KIDZ
┣ 24. Karaoke / Ginger Root
┣ 25. 1,2,3 / APOGEE
┝ cf. 夜間飛行|ゴースト・ソング|グッド・バイ / 〃
┝ 新宝島 / サカナクション|FLASH / Perfume
┝ N.E.O.* / CHAI
┣ 26. アヒル / APOGEE
┝ cf. Just a Seeker's Song|スプリング・ストレンジャー / 〃
┣ 27. Chance / D.A.N.
┝ cf. The Encounters / 〃|Under Neon Lights / The Chemical Brothers
┣ 28. WORLD OF FANTASY / capsule
┣ 29. Right Now / Van Halen
┝ cf. Cowgirl* / Underworld
┣ 30. Let Forever Be / The Chemical Brothers
┣ 31. Steam / Peter Gabriel
┝ cf. Sledgehammer|Big Time / 〃
┣ 32. 目が明く藍色 / サカナクション
┣ 33. Mirror Mirror / Mili
┣ 34. Parabol ~ Parabola / Tool
┣ 35. 真夏の通り雨 / 宇多田ヒカル
┣ 36. High Hopes / Pink Floyd
┣ 37. ただし、BGM / ニガミ17才
┣ 38. Black Snow / Oneohtrix Point Never
┣ 39. Leave in Silence / Depeche Mode
┝ cf. Precious / 〃
┗ 40. MUSIC VIDEO / 岡崎体育
■ MV紹介 ―No.21~30―
21. Rain (2018) / Bicep
やや注意喚起レベルの「グ○注意」と「お使いのPCは正常です」タグを付したいダークでグリッチなMVです。滑らかな映像に慣れ切った現代人には却って新鮮で、その不鮮明さは強引なマッチカットでシーンを繋ぐ際にも一役買っています。コラージュ作品としても稀有なカオティックさを誇るのでネタ元に照らす楽しみもあり、例えば映画『Jurassic Park』からのワンシーン[3:19~3:22]でさえ「こんなに首捩じってたっけ?」と不気味に映る始末です。斯様に既存の素材をマシンのスペック不足風のラグい映像世界に落とし込む手法は制作のLuke Wyattさんが元より得意としていて、曰く「Video Mulch」を標榜しているものの独自の概念らしくその定義や「根覆い:園芸で言うマルチのこと」が具体的に何を指すのかなどの詳細は調べても判然としませんでした。下記は何とか捻り出した僕なりの解釈です。
当該の語をずばり冠した過去作「Sad Stonewash: A Video Mulch」(2010)もつくりが似ているため、概要欄のこれまた謎の形容「trademark mulch melt」をヒントに意味を考えた結果、トレードマークは「版権物を利用した」の意でメルトは「粗いディゾルブ」を指すとの理解に至りました。本来meltとdissolveは固体が融けるか液体に溶けるかで区別されるけれど、映像用語と化している後者ほどのスムーズさがないというニュアンスで前者に置換したのではとの理屈です。これらを踏まえて「根となる基底のビデオを部分的に別のビデオで覆うオーバーラップで場面転換を繰り返していく様をマルチングに見立てた」のだとすれば「Video Mulch」に集約されるのにも得心がいきます。余談ですが上掲リンク先のプレビュー版ではないフルバージョンに於いては、唐突な日本語「ガバリン(映画『House』の邦題)」の登場[2:26~3:20]がサプライズでした。
補遺MVs:同じマルチの文脈で語っていいかは扨置き映像的に近しいものをお求めの方には、おひたしア○ルさん作のバクバクドキン「怪造人間」(2014)およびYAV「女たち」(2016)がおすすめです。伏字にせざるを得ない尖った監督名から察せるように、一部の素材に過激なものが含まれ且つ全体的にトラウマチックなので当該二作はストレートに「閲覧注意」としておきます。
22. アムロケット (2009) / BUBBLE-B
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21.に紹介した監督お二方の作品はコラージュとはいえ(素材自体のクリエイティビティを借用している点を勘案した逆接)、音源はオリジナルですしMVとしての完成度の高さは「プロの手に成る」と言って差し支えないとの認識です。しかし版権物を利用した動画作りに関しては寧ろ、サブカルやミームに明るい一般の投稿者が「ノンプロゆえに」ぶっ飛んだ二次創作に至る場合もあると、MADやYTPに馴染み深い方ならご存知かと思います。だからとて趣味人の成果物まで対象にするのは佳作であろうと本記事の趣旨にそぐわないため、元ネタの映像と音楽を大胆に使いつつもオリジナリティを確と発揮しているバブルビーさんの作品を貴重な橋渡し的存在として特筆します。またもタグで説明するなら単なる「音MAD」に止まらず「自作曲MAD」とか「ナードコア」とか発展形のものが付される時、そこに見出される創作性はプロのそれと同質と捉えるのが僕なりの区別です。
補足記事:SmileHunters・Enjo-G・BUBBLE-Bの魅力 ―ナードコアへの誘い―
氏のナードなネタ使いには一日の長がある…と言ってもその主軸はアニメ系になく、素材自体は有名だけれどそれを使って楽曲や動画を作ろうとは普通思わない絶妙なところからネタを引っ張って来るのが蓋しナード感顕だと評せます。代表的に埋め込んだ本MVは元CMのラグジュアリーなイメージを損なわないままに面白く、訴求効果が依然抜群であるのが高評価の理由です。映像の出所は「Fashion×Music×Vidal Sassoon」キャンペーンの第2弾CMで、そのタイアップ曲・安室奈美恵「Do Me More」(2008)のMVを手掛けた田中裕介さんが同様にディレクションしています。非日常空間を舞台にしたショーガールのアブない魅力が、安室さん持ち前のキュートさと相俟って至近距離に放たれる意欲作です。そんな特別感から打って変わってコミカルなタイトル回収シーン[1:53~2:02]を経て(トリビア:第4弾CMの舞台は奇しくも宇宙です)、元のクワイアがチョップされずにトライバルなビートと合わさるカタルシスに「どセクシー。」を感じます。
補遺MVs:バブルビーさんが得意とするCMネタに限って更に数作を抜粋しますと、上記のような明確なおふざけがないので化粧品の宣伝として実際にギリ許されそうな気がするお洒落な「MOMOØWY」(2008)、強化されたザイアンス効果が促すシズル感に食欲を刺激される「Cheese Burg Edit」(2010)と「Gyoza Kingdom」(2015)、当時を思い返すとMADにしたくなるのも解るほど連日目にした素材だからこそ変化が新鮮な「Enjo-Gのぽぽぽぽ~ん」(2011)など何れもハイセンスです。加えて先掲の補足記事ではまとめて扱っている通り、えんじょうじさんとの黄金タッグによるパロディMVの数々にも特筆性があるため、野暮とは思いつつせめて曲名は出さずに「これ」が「こう」の形にリンクして比較検討を可能にしておきます。これがこう、これがこう、これがこうです。
23. Reversed Note (2017) / 80KIDZ
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コラージュやMADに付き物の権利問題をクリアする最善の方法が権利元から許諾を得ることだとしたら、次善は条件次第で自由に使える素材を組み合わせて堂々と自分の作品として発表することでしょう。スタイリッシュなMADの向きがある本作はおそらく後者に属し、その推測が正しいかはともかく動画素材サイトを検索すると出典っぽい映像に辿り着き易いのは事実です。ゆえに素材のひとつひとつはややウケやワンアイデア程度の情報量でも、たくさん集めて音楽に合わせれば格好良いMVとして成立するのはご覧の通りで、各動画の品質の良さというかフォーマルな統一感が流石にアマのそれとは違うと納得させてくれます。ともすればビジネス系YouTuberやトレンドブロガーが無為に多用する素材特有の不快さが滲みそうなのに、素材同士の動線が気持ち好く繋がるトランジションや共通の形や動作を緩く結んだマッチカットの妙で爽快です。
補足記事:80:05 / 80KIDZ +α(3rdアルバム以降)
24. Karaoke (2020) / Ginger Root
お次もクリエイターマインドがあればこその冴えた素材利用に注目し、その凄さはサムネのウォーターマークが雄弁に物語っています。つまりはストックフォトのパワープレイな使い方に驚いたのですが、調べても当該のURLに完全一致するサイトは見当たりませんでした。これが実在する画像素材の無断使用でないことの証明なら、それらしい文字列を拵えて態々透かしを入れたことになり芸細です。クレジットから読み解くにそもそもストックフォト風のオリジナル素材ということなのかもしれません。これにより4人分の出演料を節約したと取るのは飽くまでメタ視点だけれど、業績の悪化を示唆する前半の内容に照らすと作中視点でもまさかの人員削減手段に映って面白いです(後半のV字回復後に実写になったなら正道の解釈)。純粋にストーリーと演技を評価しても良作で、その熱唱っぷりと絶大なエンパワーメントにカラオケの効能を知り、ラストは「あれお前かよ!」で破顔します。
25. 1,2,3 (2009) / APOGEE
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22.で元CMの監督名にまで言及したのは田中さんのMVワークスにもお気に入りが多いからで、その奇妙なファンタジックさとファッショナブルな質感の両立を共通項に紹介するはインパクト大の本作です。パーツモデルが主演のショーが在ったらこんな風だろうかとの発展的な未来図にも、フェチズムの目が捉えている視界の再現と見做してクリティカルなプレゼンとも、バラバラを見たままに解釈すれば狂気のマリオネット劇にも映る想像の余地を好んでいます。ちなみに鹿の登場は当時のバンドにとりアイコニックな要素だからで以下の初期作でも確認可能です。
補足MVs:田中監督×アポジーのフィルモグラフィーを「夜間飛行」(2006) → 「ゴースト・ソング」(2006) → 「グッド・バイ」(2006)そして本作と通時的に観る限り、人体や楽器の一部だけを切り取ったりサイズの拡大縮小を行ったりするのが編集上のトレンドだったと類推出来ます。このうちGSにはSPACE SHOWER MVAでの最優秀監督賞とMTV VMAJでの最優秀特殊効果ビデオ賞という名誉のアワードがあり、楽曲もリリースから18年後にTV番組『EIGHT-JAM』で同業者から絶賛されるほど傑出しているため、もっと多くの方に届いて欲しいと願うばかりです。
補足記事:今日の一曲!APOGEE「ゴースト・ソング」【平成18年の楽曲】
補遺MVs:田中監督×○○では他にサカナクションとPerfumeも作品数が多く、丁寧丁寧丁寧な楽曲は勿論TV番組『ドリフ大爆笑』を模した内容とダンスも有名な「新宝島」(2015)に、乙張の利いたカンフーで粛然なのに躍動的という瞬間をシックに収めた「FLASH」(2016)と、そのアーティストの中で最も再生数を得ているMVを撮った手腕は穎脱しています。後の73.で紹介するCHAI「N.E.O.」(2017)も田中さんの作品で、同作の再生数もまた然りなので傑物と言わざるを得ません。
26. アヒル (2007) / APOGEE
先述の通り初期のアポジーはMVに必ず鹿要素を取り入れていて、別けても鹿使いがWonde'e'rfulなのは東弘明監督が手掛けた本作です。ダイナミックなVFXに目を奪われるのは必然で、当時の邦楽MV界では初導入のマッチムーブソフト『boujou』による精緻なトラッキングの賜物と言えます。顔の皮が剥がれて鹿の頭部が覗いたり小さい裸の女性が顔面に群がったりの絵面は漫画『GANTZ』っぽいなとか、頭のパーツが細切れになって宙を舞い回転してもなお意識は途切れず歌い続ける様はTVアニメ『ID:INVADED イド:インヴェイデッド』の第1~2話みたいだなとか、とかく時期を問わず個人的なツボに刺さる異様な演出が素敵です。
補足MVs:冒頭のドラマパートでメンバーが鑑賞しているのは前作「Just a Seeker's Song」(2007)で、他のMVを劇中劇に使用するのは地味にユニークな切り口と言えます(過去作を利用したMVについては60.にプチ特集あり)。同作は聖書の世界観に異物が混入したと表せるカオスな画作りが印象に残り、宗教的な障壁がなければ後継作に当たる「スプリング・ストレンジャー」(2009)と併せて大月壮監督の独特な感性にふれてみてください。
27. Chance (2018) / D.A.N.
ジャンプスケア系の脅かしが来そうな雰囲気を終始醸しつつ、その実ジワジワと背筋が寒くなる展開を見せる考察し甲斐のあるMVです。果たして公衆電話は何処かに繋がったのか、発炎筒の灯りに気付いた人は居たのか。ドリンクの減りが無情の時間経過を表し、[4:07]でひとりでにワイパーが動き出してからの緊張感で一段と惹き込まれます。最終的に内容量が元に戻るカップの描写は空間のループではなく時間のループであることの証左と解せますが、何方にせよこの道路から抜け出せないのは変わりません。一昔前なら『P.T.』新しめなら『8番出口/のりば』を例に取る、謎解きないし異変をチェックしないと先に進めないホラーゲームらしい趣があります。なお本作のようなダッシュボード越しの恐怖がお好みの方は、海外のYouTubeチャンネル『Chilling Scares』内を「dashcam」で検索すると、オカルトからクライムそしてディザスターまで疑似的に味わえておすすめです。
補遺MVs:ゲームに例える流れを引き継いでダンの作品を語るなら、90年代の『LSD』にゼロ年代の『ゆめにっき』を3D化したテン年代の『YUMENIKKI -DREAM DIARY-』に2020年代の『POOLS』と、常に一定の需要と人気がある謎空間を徘徊したい欲求に適う「The Encounters」(2021)も好んでいます。同作には実際にVR作品としてのリリースもあり、PCやスマホからでも遊べるのでアクセスしてみてください。似たような試みにはケミカルブラザーズの「Under Neon Lights」(2015)もあり、このビジュアライザー的なものとは違うInteractive VR MVが後にリリースされています。
補足記事:今日の一曲!The Chemical Brothers「Under Neon Lights」
28. WORLD OF FANTASY (2011) / capsule
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車載カメラつながりで続けて紹介する本作に怖い要素はなく、エレクトロに傾倒していた時分に顕著だった都会的または近未来的なユニット像にマッチするクールなMVです。ただのドライバーズビューではドラレコ映像ないしレースゲーム画面だけれど、鏡面反射によって一段とSFらしくなったコースを走行するので新鮮な乗り心地に浸れます。[4:27~4:48]の架空CMセクションも凝っており、歌詞が企業ロゴ風に表示されるのはリリックビデオとして今尚斬新です。自動運転技術の安全性が100%に近くなれば、HUD上の広告を視聴することで高速料金が割り引かれるみたいな未来が訪れるかもと想像させられます。
補足記事:WORLD OF FANTASY / capsule
29. Right Now (1991) / Van Halen
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リリックビデオにふれたのを契機に、その時代差を示すために往年の異色作にフォーカスしましょう。厳密には本作がLVらしく振る舞うのはその一部のみで[1:48~2:05]、直前には「歌詞に注意を払うべきだろう」との予告があります。その他の大部分は映像の状況を文字で説明したもの、或いはそれから連想される皮肉めいたメッセージ、更には当時の社会問題に関する警鐘の表示です。ゆえに何れの枕詞も曲名通り「RIGHT NOW」で、例えば外に出るシーンに「YOU COULD BE OUTSIDE」、真珠のネックレスをバックに「OYSTERS ARE BEING ROBBED OF THEIR SOLE POSSESION.」(注:英語では阿古屋貝もオイスターに含まれる=pearl oyster)、ジャパンバッシングを念頭に置いたのであろう「IS NOT THE FAULT OF THE JAPANESE.」と多岐に亘ります。
その啓発的な性質と力強いフォントに拠ってポスターじみた硬さは拭えないものの、近年のスタイリッシュ一辺倒のLVにはない機能美が確かにあり、キネティックを冠さないタイポグラフィだけでも、ここまで多様な観せ方が出来ることを知っておいて損はありません。先の19.で何の説明もなくいきなりキネポと省略形を使った不親切を遅蒔きにお詫びしまして、同作およびそこで「非省エネのLV」と評した13.に代表されるクオリティが僕にとって価値のあるキネポであり、それらの水準になく文字を動かす意義が尺稼ぎや賑やかし程度に納まるなら、敢えて動かさず表示方法を工夫して格好良さを担保する道を模索しても好いのではとのサジェストです。
補足MV:後の63.で紹介するUnderworld「Cowgirl」(1994) も時代に先んじており、90年代前半のLVとして参考に値します。
30. Let Forever Be (1999) / The Chemical Brothers
10.と同じくMichel Gondry監督×ケミブラの傑作です。編集によるダイナミックなトランジションと、トリックアートの要領でそれに近しい視覚効果を持たせているカットの混在で、観ている者の次元感覚が揺さぶられます。最初の驚きは[0:21]に訪れ、そこまでの間に予期したデジタルの向きが突如アナログに裏切られる瞬間は快感です。主演の方が「えっ?ここで画面分割ですか?」と言いたげに怪訝な視線を画面端に向け始める[1:54~2:06]が解り易いと思いますが、ポスプロの映像(黒背景にカラーバーと書割のある空間)にも実は独立した世界があって…と妄想を膨らませていくと、編集者が何気なくエフェクトを適用した裏でその通りの効果を実現すべく奔走する映像内存在が居るというフィクショナルな世界観が浮かび上がって来ます。とりわけ[3:13~3:19]は切り替わりが自然で、小道具と大道具の巧みな使い方に感心しました。
■ MV紹介 ―No.31~40―
31. Steam (1992) / Peter Gabriel
性的な事柄に係る醜い側面を敢えて明るく描くことで、その異常性を強調していると解釈可能なMVです。おひねりタイムで肉体を散売りされた挙句にパンツと顔だけが残る[1:32~1:48]に、一般人のガワを被った聖母の正体が実は××な[3:09~3:18]、懐かしのヌードペン(フローティングペン)で互いに脱がせ合う[3:27~3:35]と下品さが極まっています。諂っていた存在による暗殺計画が露見する[0:26~0:46]や、実存から転写できる不思議なキャンバスとブラシ[1:15~1:31]、ポリゴンのバグとしてお馴染みの顔面崩壊[3:36~3:53]など演出上の遊び心も満載です。
補足MVs:ピーター・ガブリエルさんはその長いキャリアを通じてずっとMVへの確かなこだわりを感じさせる大家で、中でも本作を含めてStephen R. Johnson監督の手に成るものは何れも超現実的な作風が特徴であり、その変梃な表現方法の数々は現代に於いても突出しています。MTV VMAsで六冠の17.を凌駕する九冠に輝き未だに破られていないレコードホルダーの「Sledgehammer」(1986)に、手を替え品を替えのシュールな絵面の連続は8.並に頭がおかしい(誉め言葉)と感じる「Big Time」(1986)も一見どころか百見の価値ありです。
32. 目が明く藍色 (2010) / サカナクション
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地道な撮影の大変さが想像に難くない大作で、完成までに長い年月を費やした楽曲に見合う執念の映像と言えます。ストップモーションの白眉という括りでは31.の補足に挙げた2本も同様だけれど、ストーリー性に関しては本作に軍配を上げたいです。鮮やかな伏線回収の手腕には唸るほかなく、まず影響を受けるアイテムを全て提示し[0:45~2:21]、続く暗転部にそれらを変質させるツールを登場させ[2:22~4:03]、暗転開けには実際に破壊・束縛・汚損が行われるも[4:04~4:54]、パンが逆方向になると変質のためのツールが反転して修復の機能を果たし出す[4:55~5:50]、このターンアラウンドなシークエンスに心を打たれました。
補足記事:SAKANAQUARIUM 2010 (B) / サカナクション
33. Mirror Mirror (2018) / Mili
ブロック玩具の楽し気な見た目に反して不穏当なバックグラウンドが窺えるMVです。あからさまなのは楽屋の荒れ具合でその惨状に息を呑むこと暫く、次の厨房のシーンが輪を掛けて深刻な状態だと察せるカメラアングル;扉の向こうをチラ見せするカット[2:07~2:12]に恐怖が増幅されます。この連続性を意識して観返すと布石はホールの時点で打たれていたと気付けて、フローリングとカーペットの赤い色味と暗い照明で解り難いのがニクいけれど、楽屋から辛くもホールに逃げた誰かが結局スプラッターな目に遭ったことを示す血の履歴を床と壁に認めて慄然としました。考察ポイントとして気になるのは厨房とステージの間に仕切りがないことで(ステージ・ホール間は設計上不自然でないためOK)、演者も観客も隣で展開されている酸鼻の光景を意に介していないのがアイロニックです。曲名および歌詞通り「鏡」が隠しているのかもしれませんね。
34. Parabol ~ Parabola (2001) / Tool
言った者勝ちの域にある極端に長時間のMVには楽曲のループという裏技が、現実的に長尺MVと言える10分超えの作品には完全なる演技パートがあったりカメラが定点もしくは動いてもスローモーションだったりのカラクリが存在するものですが、リードイン曲を含む実質2曲分とはいえ最初から最後まで音楽が鳴り続け且つ明らかに映像が展開していく本作のチャレンジ精神をまずは評価します。しかしその内容は暗く不気味で視聴負荷が高く、別けても[3:25~4:08]は見たら死ぬ類の禁忌に出会してしまったかのような狂気の極みです。後半に登場する奇妙な生物もまた不安になるビジュアルで、途中でリアルな断面がどアップになるため解剖や手術の模様が苦手な方はお気を付けください。サムネは終盤のシーンにあたり、神秘体験のイメージとしてはストレートです。
35. 真夏の通り雨 (2016) / 宇多田ヒカル
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最初は見知らぬ他人の記憶を覗き見しているような一歩引いた感覚で受け取れていたのに、観続けるうちにどの場面もまるで自分が経験した出来事みたいに思えてきて、最終的に出所不明の涙に襲われました。万感交到らせることにかけては随一のMVであると絶賛します。これに関しては「画質の良さ」も重要なファクターとの分析で、映像の鮮明さが増すほどに現実との錯覚を起こし易いのは道理です。撮影技術の発達には日常をただ切り取るだけでアートにしてしまう魔力が宿っていますね。本作にグッと来る方はTV番組『ドキュメント72時間』も好きなのではと勝手にこじつけてみます。
補足記事:Fantôme / 宇多田ヒカル
36. High Hopes (1994) / Pink Floyd
感動のタイプとしては35.と同様のものを覚えるけれど、こちらはより心象風景寄りで誇張されたサイズ感が印象的です。Syd Barrettさんの巨大胸像が象徴するように、この場に居ない者へ想いを馳せる未練が窺えます。経験に訴えかけるアプローチをご寛恕願えれば、モラトリアムから解き放たれようとしている時、もしくは夢破れて故郷に戻って来たタイミングで本作を観たら号泣必至でしょう。多くを語る必要はなくその良さは観れば解ると感性に委ねて短評は文字通り短く済ませます。
37. ただし、BGM (2018) / ニガミ17才
独立したドラマパートとライブパートを交互に提示するだけのありふれた構成かと思いきや、両者に関連性と通時性を持たせることでバンドの存在をドラマの背景に甘んじさせていない良作です。これを踏まえても尚「別々の場所に居た人間が最終的に合流するだけ」のベタ演出と言えなくもないけれど、開幕から異様な雰囲気を漂わせて鑑賞への動機付けを行う、複数の登場人物に意図の掴みにくい行動をさせストーリーへの期待を煽る、スタジオにリズム隊だけをスタンバイさせて補完欲求を刺激するなど、合流の暁にスッキリ出来る下準備に抜かりがないので陳腐には感じません。
38. Black Snow (2018) / Oneohtrix Point Never
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予言じみた内容を真面目に考察すれば、防護服・科学者・地球の写真・廃棄物・枯れた大地・バイオハザードマークの諸要素から、曲名は「死の灰」を指すと推察されます。あらゆるカタストロフの詰め合わせといった趣で、そう考えるとデスク上の品々も意味深です。教育映像『Radioactive Waste Disposal: The 10,000-Year Test』や映画『Habitat』などVHSのラインナップからは地球の破滅が想起させられますし、クトゥルフ神話の魔道書『ネクロノミコン』が置いてあるのは宇宙に逃げても恐怖から逃れる術がないことを突き付けられているように感じます。悪魔に喩えられているのが何かとは敢えて申しませんが、廃棄物をバックに笑顔でポーズを決めた後の[2:43]で見せる「おいおいこいつらアホだわ」と聞こえて来そうな嘲りの表情が恐ろしいです。
39. Leave in Silence (1982) / Depeche Mode
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赤いフェイスペイントつながりで続けて選出した本作はともすれば何処を切り取ってもダサいとネガティブな感想を許し得るけれど、閉塞感のある歌詞とダウナーなシンセポップをBGMにするとその前衛的な世界観に何やら暗示めいたものが滲んで来るところを僕は気に入っています。訳有りの子供向け番組っぽい違和感と言いましょうか、一見楽しそうに見えても疑念と憤怒が渦巻いているのを隠せない危うさです。これをメタ的にバンドからの抗議と解釈するのは個人の感想に過ぎませんが、DMは本作を含めてJulien Temple監督が手掛けたMVに不満を抱いていたらしいとの情報があり、そのせいか当時のクリップ集『Some Great Videos』からもオミットされています。おそらく先述のダサさのみに目を向けたのだろうと邪推すれども、40年以上を経た感性では「逆に」を合言葉に支持されることもありますからね。とはいえ動画のコメント欄は楽曲の先進性を褒めるものばかりで映像は依然不遇のままです。
補足MV:デペッシュ・モードがMVに一家言あるのは後の作品からも感じ取れ、例えば瀟洒で幻想的な独特の映像美を誇る「Precious」(2005)を比較対象とすると、再生数に桁違いの差が出るのも残念ながら頷けてしまいます。
40. MUSIC VIDEO (2016) / 岡崎体育
テーマそのものがミュージックビデオという自己言及的なMVなので締め括りは本作を措いて他にないと最初から決めていました。その内容はカラオケ用の映像まで対象にしてMVあるあるを連発していくもので、よく研究されていると腹落ちの体系化された提示には感服させられます。制作手法がある程度テンプレ化している現状に於いて、オリジナルとは何ぞやと問うイシューイングにも秀でた作品です。従前には楽曲の歌詞に照らして本記事内に要素が当て嵌まるMVがどれだけあるかを、正確には「余り当て嵌まるものはない」との結果を以て1.~39.の独創性を再確認する確証バイアス丸出しの検証を行っていたけれど、MVを追加する度に再検証するのが面倒になったので2021年の改訂時に全カットしています。ともあれつまりは僕の評価基準で「あるある」はマイナス要因*だということです。
※ 本人がディスの意図を否定しているため一応は素直に"クリエイション"讃歌と捉えているものの、"わざと"・"無意味に"・"適当に"・"とりあえず"などの御座なりな副詞表現や、使役の言い回しが「させる」→「しとく」→「しとけ」と投げ遣りに変化していくのには刺を感じます。他にも"気に入っている歌詞を画面いっぱいに貼り付けて感受性揺さぶれ"の迂遠さは29.で論ったようなスタイリッシュLVへの当て擦りに思えますし、"なんのメッセージ性やねんコレ"で現代アート路線を封じたり、"外でギター弾いているけど電源は引いてない"で細部の甘さを指摘したりのツッコミは批評的な視座に在ってこそではないでしょうか。ラストの「はいカット(実はカットしていない)」への言及「ようあるんすよそういうMVね」もトーンがクリティカルに聞こえます。何にせよここまで念入りに指摘してディスでないと言う岡崎さんの感性を僕は支持したいです。
□ Intermission
No.41以降は続きの記事「【MV】凄くて面白い名作傑作ミュージックビデオ40本+について語る【PV】Part.3/3」をご覧ください。20.以前は「Part.1/3」にて。