Hexstatic (オーディオビジュアルパフォーマンスについて) | A Flood of Music

Hexstatic (オーディオビジュアルパフォーマンスについて)

 YouTubeの埋め込みが多いので読み込みに時間がかかります。この記事ではHexstaticの音楽を紹介します。三記事連続で海外アーティストの紹介になりますが、実は"日本語ページを充実させようシリーズ"として書いていたのでした。

Rewind/Ntone

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 前の記事二つの面々に比べればHexstaticに言及した日本語ページは多いほうです。それだけ有名だということですが、"充実"が目的なので一応アーティスト紹介をします。

 ロンドンの有名クラブレーベル・Ninja Tuneに所属するエレクトロデュオ…と、音楽だけを説明するならこれで間違いはありませんが、Hexstaticの音楽は"映像"と切り離して語ることができないので、もう少し補足をする必要があります。

 一次ソースにアクセスできなかったので正確さは保証できませんが、Pixelsurgeonのインタビューに"quirky audio visual electro"という記述があるそうです。この"audio visual"(以降a/vと表記)というのが肝で、音楽と映像の融合…もっと言えば音楽と映像のシンクロこそがHexstaticの魅力なのです。


 この記事に埋め込んだ動画を参考にしてほしいのですが、彼らがやっているのは"オーディオビジュアルパフォーマンス"と呼ばれるものだと思います。明確な定義を探すことはできませんでしたが、先述した"シンクロ"を大事にしている表現法という理解でいます。

 特定の音と映像がリンクしているので一つのシーンを耳と目で同時に楽しむことが出来る…というのが単なるMVや通常のVJプレイ等と異なるところではないでしょうか。今でこそあまり珍しくはないと思いますが、時代に先んじていたのがHexstaticの凄いところ。

 Coldcutとの共作「Timber」が収録されているシングル(エンハンスドで映像付)の発売が1998年(18年前)。この作品で彼らは評価されましたが、このようなa/v作品を制作するに至ったのは映像に対する深い興味と理解があったからこそでしょう。

 もちろんライブでは音だけなく映像もリアルタイムでミックスするというパフォーマンスが行われています。そこではDVJという機械が活躍するのですが、簡単に言えばDVDでDJが出来る代物です。DVJ-X1(Pioneer)の開発にもHexstaticは参加していて、a/v・VJ界の発展に大きく貢献しているといえますね。


 基本情報はこのくらいにして実際に作品を観ていきましょう。文章で説明するよりも観た方が理解が早いですしね。Rob Cantorの記事でも同じことを書きましたが、アーティストの性質上、曲よりも映像についての言及が多くなっています。

 Hexstaticの作品はミックスアルバム/ベスト盤/ブートレグまで含めるとそこそこの枚数があるのですが、ここでは1st~3rdまでのスタジオアルバムのみを対象とします(比較的手が出しやすいと思うので)。各アルバムから数曲ずつ、特に映像が公式にアップされているものを中心に紹介。


1stスタジオアルバム『Rewind』(2000)


03. Deadly Media

 

 いきなりの日本語に驚きますが、タイトル通りメディアが主役の曲です。各国のニュース番組キャスターの発言を切り貼りしているのだと思いますが、多言語による言葉の洪水に晒される序盤は非常に洗脳的。

 この序盤は素材を提示する役割も担っているといえます。途中からビートが入って曲らしさが出てきますが、初めに全素材を見せているのでどういう制作手法なのかがわかりやすくなっていますよね。

 気になるのは日本語のサンプリング元。"イレブン特集"という聞きとれたコーナー名でググると『NEWS MARKET 11』というテレビ東京系列の番組がヒットするのですが、放送時期が曲の発売より後なので違うっぽい。

 0:28で一瞬顔が映るのでわかる人にはすぐわかるんでしょうね。ただ、ベルファスト合意を"去年の4月"と発言しているので放送時期が1999年というのは間違いないでしょう。なぜこの素材を選んだのか経緯を知りたいですね。


04. Ninja Tune



 レーベル名を冠したレペゼンレーベルなトラック。これぞまさに「Ninja Tune」だといえる面白格好良い曲&映像です。笑 明確なストーリーがあるように思えたので元ネタは映画かなと思ったのですが、どうやら『The Ninja Showdown』(1987?)という作品かららしい。

 この作品の見所/聴所は何といってもバトルシーン(2:34~等)でしょう。刃物と手裏剣と素手による激しい技の応酬がコミカル且つクールでにやけてしまいます。ピッチの上げ下げできちんとメロディらしさを演出しているところにも拘りを感じる。

 台詞も印象的で、特にMaster Gordonの弟子達に対する心遣いが素敵です。"I know you like music, here is a gift"と言って楽器を手渡す優しさを見せたり、"Good must always win, over evil"と士気を高める発言をしたり、"Keep in mind you must always be a good ninja, understand?"と説いてくれたり、良い師匠だというのがわかる。

 一方敵のMaster Donaldは、弟子からの報告に対する返答("What?"や"Huh, are you sure?"等)の言い方がファニーでツボります。演技過剰というか現代人っぽさが出ちゃっている気がするから。笑


08. The Horn

 公式に映像は上がっていませんが好きな作品なので紹介。タイトル通りホーンが印象的なお洒落な曲なのですが、サンプリングされているのがアダルトな内容なのであまりおおっぴらには薦められません。タイトルは"The Porn"のほうがしっくりくる。笑

 映像は付属のCD ROMで鑑賞できますが、思わず感心してしまう出来でした。おそらくダイレクトにアダルトな映像を流しているのだと思いますが、モザイク処理の妙で綺麗な電飾アートを観ているかのような仕上がりになっています。


09. Auto



 車の音が効果的に使われている曲というとKRAFTWERKの「Autobahn」が超有名なのでどうしても連想してしまうのですが、同じ車が題材でもこちらはクラッシュ(テスト)やスクラップの瞬間に焦点を当てた破壊的なサウンドです。

 それらが骨太でダーティなトラックに乗せられているので、印象としてはかなりワルな曲に聴こえます。このアングラ感こそが格好良いポイントなのですが、同時に車に恨まれているような気分にもなりますね。


その他のお気に入り

 07.「Vector」, 10.「Machine Toy」, 11.「Bass Invader」…重くなるので割愛しますが全てYouTube公式chに映像があります。基本的にレトロゲームや玩具等のチープな音が好きなんだとわかるラインナップですね。

 07.はシンプルなシューティングゲームのような映像で、サウンドもそのBGMとSEといった雰囲気。10.は音の鳴る玩具が効果的に使われている作品で、子供心をくすぐられて懐かしい気分になれます。11.はモロに『スペースインベーダー』が題材なので世界観も掴みやすいです。

 

2ndスタジオアルバム『Master-View』(2004)


05. Perfect Bird



 元々はGuitar Vaderというバンドの曲なので正確にはリミックスで、同バンドのMIKIがボーカルを務めた日本語の曲です。このような背景があるからか、Hexstaticにしては遊び心控えめでゆったりとした心地好い癒しソングになっています。

 といっても終盤の鳥が暴れ出すスクラッチパートは急にらしさ全開になるのでギャップに笑ってしまう。この部分、鳥が発している音なのかトランジション時のノイズをいじっているのか普通にそれっぽい音をあてているだけなのかわからなくてもやもやする。

 DVDには「Astro Boy remix」(『鉄腕アトム』リミックス)も収録されています。タイトルに偽りなしで、アトムの映像が添えられているだけでなく歌唱しているのもアトムの声優(津村まことさん)という徹底ぶり。日本盤にはボートラとして音源も一緒に収録されているのでおすすめです。


06. Salvador



 映像でわかると思いますがブラジルの音楽ですね。普段聴かないジャンルなので僕にとっては新鮮でした。ライナーノーツによると「ほぼ全部サンプリング」だそうなので、このサウンドは本物ということでしょう。延々と流していたい魅力があります。

 1:04~鳴っているゴリラの鳴き声とでも表現したくなる音…様々なところで使われているのを聴くので昔から疑問でした。前に一度調べて答えに辿り着いたのですが失念してしまったので再度調べたところ、クイーカという楽器の音のようですね。

 今はサングラスの男性が弾いている楽器の名前が気になっています。右手に持っているのはシェイカーの一種だと思いますが左手のは何なんだろう。合わせて一つの楽器なのかな。


09. That Track

 この曲と次に紹介する11.「Pulse」の映像は同じようなタイプで、CGによるデザインアートといった趣。似たような映像が続くのも何なのでこちらは割愛しますが、お洒落なエレクトロニックミュージックとして曲だけでも素敵なので紹介します。

 『Master-View』には3D SPECS(3Dメガネ)が付属していて、作品のいくつかは3Dに対応したバージョンも収録されています。この曲もそうなのですが、映像がシンプルなだけに立体視すると文字通り奥深い味わいが出ますね。

 ただこの3Dメガネは目に良くないと思う。観ている最中はあまり気にならないけど、外した後にクラクラするから。長時間の使用は控えた方がいいかもしれません。


11. Pulse



 ライナーノーツによると映像が先行で音は後から考えたそうです。09.「That Track」と同じく、ユーモアは控えめにして映像と音楽の同期にストイックに向き合った作品という感じがします。異なるのはこちらは色鮮やかであるという点。

 題の通り、明滅する光の波動(パルス)がネオンサインのようで美しい映像です。音もこのイメージに合わせて波打つようなうねりを持っていますね。近未来を思わせるサウンドで、どこか哀しげなところはディストピアな世界観を連想させます。
 

その他のお気に入り

 01.「Extra Life」, 03.「Telemetron」, 10.「Toys Are Us」…01.と10.は前作にも見られた路線の曲で相変わらずピコピコしたのが好きなんだなという感想ですが、僕の好みとも一致しているので良し。03.は気の抜けたというか能天気な感じがする音と旋律の曲ですが、それが独特のグルーヴを醸している感じが好みです。

 この3曲は映像もお気に入りで、01.はレトロゲーム好きには堪らない映像のシークエンス、03.は楽器ごとに画面が分割されていて曲の作りがよくわかる構成、10.はミュージカルトイのチラシがモチーフの楽しい映像で高い広告効果がありそうですね。



3rdスタジオアルバム『When Robots Go Bad』(2007)


01. Red Laser Beam



 まさに「Red Laser Beam」だという感じの赤と光が印象的な映像。頭からギターを登場させているのが象徴的ですが、ロックを基調としたエレクトロニックミュージックという当時流行りを見せていたサウンドですね。

 これを一曲目に置くことでアルバムの方向性を明確にさせたのだと思いますが、このアルバムは過去二作と比べるとキャッチーで聴きやすい作品だといえます。普通のボーカル曲もいくつか収録されているので、こういう音楽に馴染みのなかった層も取り込もうとしたのでしょうかね。


03. Tokyo Traffic

 東京を冠したポップでデジタルなトラックです。ハイテク, ハイスピード, ハイフローといったイメージをそのまま音に起こしたようなピコピコ感と疾走感が素敵なハイな曲で、ハイウェイがよく似合いそうです。はい、もう"ハイ"は十分ですね。笑

 ロボットボイスのパートは何を連呼しているんだろう。そのまま"Tokyo Traffic"にも聴こえるけどザラザラし過ぎてて判然としない。正確には"トーキオー・トラフィック"と聴こえる。

 3:13で一瞬だけ鳴るのは歩行者用の音響装置付信号機の音(カッコーのやつ)だと思いますが、これが一曲の中のわずかな一瞬でしか使われないというのが実によく分かっているなと思いました。
 

11. Newton's Cradle



 この装置の名前が"ニュートンのゆりかご"だというのはこの曲で知りました。装置自体が単純な構造なので、音と映像のシンクロがわかりやすい作品になっていますね。

 細やかで激しいビートが耳に刺激的で音楽だけでも格好良いのですが、映像のメタリックな質感も込みで聴くと、工場っぽい印象が強くなってシステマティックな趣を感じられます。


13. Bust



 一歩間違えればダサいと思われかねない映像と曲だと思いますが、これは絶妙なバランスのダサ格好良さ。笑 全体的にコミカルなサウンドのエレクトロナンバーですが、大音量で聴くとめちゃくちゃ気持ち良いです。

 所々で入るボイスサンプルも印象的で、特に"Yeah"の持つ半端ないYeah感が好み。セクシーなボイスもあることやピッチリスーツの映像から「Bust」ってもしかして"胸"の方?とも思うのですが、サウンド的には"破裂"だと思いたい。
 

その他のお気に入り

 06.「Tlc」, 08.「A Different Place」, 12.「Newaves」…どれも音楽として好きな作品群です。06.は凝ったアレンジのIQの高い電子音楽といった感じで聴き応えがあり、特に掠れて詰まるような処理を施されたボーカルが素敵。08.はB+をフィーチャーしたボーカル曲で、心地好い浮遊感に満ちています。12.はじわじわ盛り上がるタイプのお洒落なトラックで、音の微妙な変化を楽しむとより深く味わえますね。



 Hexstaticの作品紹介は以上です。ごちゃごちゃと説明を読まなくてもいくつか映像を観れば良さは伝わると思います。Hexstaticはある程度有名とはいえ、もっと多くの人に存在を知られて評価されるべきアーティストだと思うのでこの記事で少しでも広められたらいいな。




 最後に関連のある話題を挙げてお終いとします。僕がこのようなオーディオビジュアルパフォーマンスと出逢ったのはHexstaticが初だと思っていたのですが、記憶と当ブログをサルベージしてみると…

 2009年は相対性理論と/2010年はやくしまるえつことの共演で観たd.v.dと、EMI ROCKSで観たHIFANAの公演はどれも音と映像の同期が印象的なものだったので、オーディオビジュアルパフォーマンスと呼べるものだったのではないでしょうか。昔の拙い文章で恥ずかしいのですが、一応レポとして残してあったので参考までにリンクしておきます。


追記(2016.12.24)


 この記事をアップした日、たまたま『TECHNE 映像の教室』(Eテレ)のテーマが「シンクロ2」でして、音と映像を同期させた作品としてかなり古いものが取り上げられていたのでここでも紹介します。

 Oskar Fischingerの『Composition in Blue』(1935)という作品で、『「ヴィジュアル・ミュージック」の先駆的な作品』という解説が添えられていました。"visual music"という言葉は直感的に理解しやすそうでいいですね。


 Hexstaticの作品は音と映像がシンクロしている…というのは当たり前で、音と映像に関連性があるというところが新しかったのだと思いますが、こういう手法は今でいえばMAD(動画)に近いんでしょうかね。

 実際はもっと複雑な手法がとられていると思うのでMADとは別物でしょうが、映像と音をセットでサンプリングして再構成したら映像の仕上がりは似てくると思うんですよね。

 つまりMAD的になるよねと換言してもいいのですが、冒頭の引用の中で"quirky(一風変わった)"という形容詞が出てきたのも、"mad"という単語が持つイメージと共通するところがあるように思えます。

 このMADに関する一考は本文中に上手く組み込めなかったので一度書いて消していたのですが、期せずして追記をすることになったのでついでに復活させてみました。