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今日の一曲!BEAT CRUSADERS「LET'S ESCAPE TOGETHER」

 

レビュー対象:「LET'S ESCAPE TOGETHER」(2007)

 

 

 今回取り上げる楽曲は、お面による匿名性を持ちながらも日本人がプレイする英語詞バンドとしてシーンに確かなプレゼンスを残して散開したBEAT CRUSADERSの「LET'S ESCAPE TOGETHER」です。

 

 当ブログでは過去に「BANG! BANG!」(2005)をレビューしており、それに至った経緯やその他の細々とした言及はリンク先を参照と丸投げしますが、同記事には本曲も当時のレビュー候補だった旨が記してあるため、約5年半越しにこの布石を活かそうと思いました。もう一つの理由は言わば裏テーマで、前回の記事に引き続き「2010年に解散・休止に至ったバンド」の流れを汲む選曲です。

 

 

収録先:『EpopMAKING -Popとの遭遇-』(2007)

 

 

 本曲の収録先はメジャー2ndアルバム『EpopMAKING -Popとの遭遇-』で、後のベスト盤『VERY BEST CRUSADERS』(2009)に収録のそれよりアウトロが僅かに長い(フェードアウトしない)ところに差異があります。

 

 本作に於いては次点のお気に入りである先行シングル曲「GHOST」や、TVアニメ『BLEACH』の4thOP曲「TONIGHT,TONIGHT,TONIGHT」、初回盤のみですがASPARAGUSとの共演曲「FAIRY TALE」など幅広く全16曲+ボートラ3曲で大ボリュームの一枚です。ラストの「ZENITH」も格好良くておすすめ。

 

 

歌詞(作詞:ヒダカトオル)

 

 最後の出演となった『ROCK IN JAPAN FESTIVAL 2010』のレポの中に「森でくまさん…」の曲前MCに歓喜した思い出を残している通り、ダーク森のくまさんと形容したい一見ハッピーだけれどその実怖い寓意を感じさせる歌詞内容です。"One fine day/On my way/There's a bear/In a deep forest"と幕開けは童謡と同じで、"Run away/Hide away"(歌詞カードでの訳詞は"逃げなけりゃ/隠れなければ")と距離を置く方向に続くのも然りと言えます。

 

 ただこの点は指摘されているように元ネタの状況がそも不可解との認識で、何故くまが自ら"おじょうさん おにげなさい"との警告を発したのか?が謎ですよね。何か別の脅威があるとでも言いたげな、或いは「野性を抑えられているうちに早く逃げてくれ!」との恐ろしい懇願にも思えます。後者はその後"おとしもの"を届けに追って来るのでまず無理筋ですが、果たして本当に親切心からか?と疑えばくまが脅威そのものの線も捨て切れません。

 

 

 話を戻して本曲の"クマさん"は助言をくれないどころか何も喋らないリアルな存在っぽい上に、"There's no way/Getting where I belong"と都合の好い逃走経路もない現実的なシチュエーションに囚われます。しかしご安心を。"Here to stay/Too many people"と、この場でスタックしているのは自分だけではないみたいです。

 

 当然の反応として"We're afraid"が表れるもファーストペンギンが"Why don't we sing along?"と提案し、熊除けに音を出すのは有効とされていることから(※効果を疑問視する声もあるようです)、状況は異なれど元詞通りに"うたいましょう"と相成ります。既に出遭っているなら歌っても仕方ないのでは…の疑問は扨置き、ここまでならまだ善意がベースにある気がするものの次のスタンザからは不穏です。

 

 表題の"Everybody, let's escape together!"はまぁ良いとして、"Everybody, let's get lost together!"("このまま一緒に迷っちゃおう")に、"Everybody, let's get lost forever..."("一生 この森の中に迷い込もう…")で、俄に現実逃避の向きが出てきます。訳詞には"みんなで逃げれば怖くない!"と赤信号でお馴染みの危険な集団心理を匂わせるフレーズもあり、流石におかしくないか?と思える僕も当事者であったならどう判断するかに予断を持てません。

 

 

 これでもまだ正常性バイアスや多数派同調バイアスを背景にした誤った善意という言い訳が立つけれども、その逃げ道すら許さず悪意からの先導=煽動だった可能性が明かされるサビは衝撃です。"Cos I know/Evils in my mind"と心中の"悪魔"に自覚があって、それが"日に日に大きくなってるのを"と結ばれるところから、脅威の最中に大勢を巻き込んだのは意図的なものだったと解釈出来ます。ハーメルンの笛吹き男的な理解です。

 

 これは上記の述懐が"歌でも歌いましょうよ"と提案した人物によるものと限定した受け止めなので、例えば"クマさん"側の心理を描いていると見ればまた違ったストーリーが浮かんでくるでしょうが、"Welcome to the overture/This is the hell"に"Here comes the time..."のデスゲームっぽい結びに鑑みると、そこにはやはり欺瞞があったと考えるのが筋だと思います。奇しくも元ネタの解釈として提示した「何か別の脅威」が、熊ではなく人だったオチですね。

 

 

メロディ(作曲:BEAT CRUSADERS)

 

 以前にレビューした「BANG! BANG!」と同じくメインボーカルがカトウさんでサビだけがヒダカさんという歌い分けだからか、エフェクト強めの歌声によるポップな平歌から打って変わって美メロを極めたサビに移行するという二面性を持っており、その変わり身は歌詞内容ともマッチしています。

 

 状況説明に努めるAメロはまさに語り聞かせるような進行で、しかし"Why don't we sing along?"を合図に弾け出すBメロは状況に似つかわしくないほどに楽しげな音運びで、それを眺めつつ邪悪な内省に至るサビメロが最も流麗な展開で聴かせる楽想になっているのが皮肉です。Cメロはフラットなラインが特徴的で、これからの"地獄"を淡々と告げているのが逆に恐ろしく響きます。

 

 

アレンジ(編曲:BEAT CRUSADERS)

 

 ミュートを利かせた鳴り出しに煽られた期待が、ニューウェーブ感顕なシンセによって応じられるイントロだけでも名曲の予感を覚えるのには充分です。ポップな演奏が積み重ねられていくAメロはリズムに乗るほどに心も弾み、「歌うこと」が主軸のBメロでは主旋律を立てるようなかっちりとした伴奏に切り替わって、暴露のサビに再びのシンセサウンドで一層の狂気が演出されるというナラティブな構成に確かなアレンジ力を感じます。

 

 全体の印象としては童話らしいサウンドプロダクションと表現したく、しっかりロックなのにメルヘンでファンシーな仕上がりを見せているところに表現力の高さが窺えて技巧的です。アウトロの口笛みたいなフレージングも意味深長ですよね。