
今日の一曲!group_inou「LAMP」
レビュー対象:「LAMP」(2010)
今回取り上げる楽曲は、ポップだけれど何処かシニカルなサウンドに乗せて唯一無二の歌詞世界を展開するgroup_inouの「LAMP」です。同ユニットのトラックをレビューするのは5年前にアップした下掲記事以来で、これは割と真面目なというか他アーティストや小説にまで広範に言及する内容でした。
初めての単独記事は「SAFE」(2015)のそれで、それ以前に名前を出していたのはこの記事およびMV紹介記事です。このうち後者ではAC部が手掛けたものを元々特集していたのですが、2024年末の大改訂時にはまさかの新譜「HAPPENING」(2023)について組み込んだほか、別枠で「EYE」(2015)にも小見出しを立てて充実を図っています。
収録先:『_』(2010)
本曲の収録先は2ndアルバム『_』です。読みは「アンダーバー」で、歌詞カードやジャケット裏に「group_inou - group - inou = _」だったり部首としての「心」(したごころ:本来は「㣺」のみをそう呼ぶらしいのは扨置き)だったり、関連のありそうな言葉遊びが記されています。沖縄だけが書かれていない都道府県名一覧はそれだけでは意図がよくわからず、しかしCDを外すとポツンと沖縄だけが別に書かれていることに気付き、「天気予報に於ける日本地図的な?」とバーで区切られているあの略図が浮かびました。
本作にはMVも有名な「THERAPY」および「HEART」が収録されているため、まず手を出す一枚としては打って付けだと思います。この言わばメジャーな2曲に次ぐと今回レビューする「LAMP」が隠れたお気に入りゆえ、その良さをお伝え出来ればなと筆を執った次第です。
歌詞(作詞:group_inou)
グループイノウの歌詞をロジカルに考えることのナンセンスさに関しては先掲「CRISIS」(2012)の記事にて詳細に考察済みなので、今回も全体の整合性がどうこうよりも意識に留まったフレーズを好き勝手に読み解いていきます。とはいえ本曲の主軸は「テレビ番組」に置かれているとの理解で、これは後にアレンジの項でも語るキーポイントです。
"続きはCMの後で/なんて言っちゃう このご時世"および"続きはCMの前に/次の商品はこちら"が唯一直接的な一節で、これを合図に以降は通販っぽい表現のオンパレードになります。これを番組の描写とするかCMの描写とするかは迷えるけれど、CMを挟みまくって中々本筋に戻らないどころか都度少しロールバックさせて時間を稼ぐ番組の終盤だったり、普通のドキュメンタリー番組らしく始まって途中俄に商品が登場して結局CMでしたみたいな手法だったり、CMの後も前もないような放送姿勢に対する皮肉と捉えれば、その実何方でも同じことかもしれません。
"硬い殻から剥き身の棒肉/大ぶり 濃厚 繊細 食べ頃/迫力抜群 期待も大"に、"厳選 高級 豊富なミネラル/熟成してる この新食感/ボリューム満点 歯応え良し"と、美味しく健康にも良さそうな常套句が並んだ後に、"だけど訳あり さぁどうだ!"と安かろう悪かろうのリスクが顔を覗かせてくるのもあるあるです。その後フードからおそらくファッションにトピックが替わってからの、"どなたにでも合う定番中の定番/これでダメならもうダメです/人間じゃない"の辛辣さには笑ってしまいました。
断片的に実在の番組を連想させる言葉選びもあり、"オープンザプライス"には『開運!なんでも鑑定団』が、"さぁ レジへどうぞ"には『はねるのトびら』のコーナー「ほぼ100円ショップ」が脳内を過りました。冒頭の"何問解けるかな?"もクイズ番組ではお決まりのフレーズですよね。
一方でタイトルの「LAMP」は"こすれば出る出る魔法のランプ"の形で現れます。"出る出る"と言っておきながら歌詞にない部分で「…あれ?出ねーなこれ…」 → 「出ないっ!」 → 「あ゛ー何回こすっても出ないねこれ、あぁ~…」と否定してくる描き方は、「SAFE」の"すれ違い様に聞こえたセリフ"に続く「聞こえないーよ」と同様のツボにハマって好きです。
このランプ周りの描写にはテレビ番組との繋がりがいまいち見出せないため妄想度を上げて語りますと、不安げな「出ねーなこれ…」からイライラが募っての「出ないっ!」を経て誰かに助けを求めた結果で別人が「出ないねこれ」と言っている風の流れから、ランプは小道具で新人ADが先輩Dに指示を仰いでどうにかしようとしている場面かなと想像しています。
ラストの"それをやっちゃーおしまいか/それを言っちゃーおしまいか/ドロンと消えます ちょちょいのちょい/ばいばい"も、「ランプの魔人」を思わせるという意味ではこの流れの延長線上にある気がしますが、通販番組のコアを引き継ぐなら悪徳販売業者の雲隠れ的な意味にも解釈可能ですし、"おしまい"への葛藤に鑑みて「魔法のランプ(欠陥品)」を優良誤認させる算段を練っていると見るのもありではないでしょうか。
メロディ(作曲:group_inou)
辛うじて旋律性を感じられるのは入りの"何問解けるかな?/指紋の迷路が難しいよ"だけで、あとは節回しで聴かせるタイプです。順当にラップ然としている"オープンザプライスです"のセクションをAメロ、叩き売りのリズム感を有している"だけど訳あり さぁどうだ!"の畳み掛けをBメロ、表題を含む"こすれば出る出る魔法のランプ"のスタンザをサビと規定出来なくもないけれど、特段区分することなく何処を切り取っても奇妙なジャパニーズフロウが披露されているとまとめられます。
アレンジ(編曲:group_inou)
ある意味いちばんシェアしたかったのがこの気付きです。先に「テレビ番組」がキーであると掲げた通りに歌詞の項にはその根拠を連ねましたが、その意識の下で本曲のファンシーだけれど微妙に不安定で悪夢じみたオケに耳を傾けていた時に、ふと「これって『ごきげんよう』でサイコロ振る時のジングルじゃない!?」と記憶が呼び起こされ、番組名を正しくは『ライオンのごきげんよう』のメインコーナー「サイコロトーク」のパロディなのではとの認識でいます。
そして調べて個人的に驚いた事実は、あのジングルないしBGMは番組の完全オリジナルではなくサンプリング元があるという点です。ずばり薬師丸ひろ子さんのEP『紳士同盟』(1986)のB面曲「ハードデイズ ラグ」が元ネタで、下掲アートトラックで確認を取れば瞭然の聴き覚えで納得に至ります。
つまり正確には同曲のパロディとするべきかもしれないものの、やはりテレビ番組を軸に考えるなら『ごきげんよう』のそれでしょうと言わせてください。なぜならこのジングルに合わせた司会の小堺一機さんお馴染みの台詞と言えば「何が出るかな?何が出るかな?」で、"こすれば出る出る魔法のランプ"に繋がるからです。まぁ出ないんですけど。笑