今日の一曲!B'z「もう一度キスしたかった」【平成3年の楽曲】 | A Flood of Music

今日の一曲!B'z「もう一度キスしたかった」【平成3年の楽曲】

 【追記:2021.1.5】 本記事は「今日の一曲!」【テーマ:平成の楽曲を振り返る】の第三弾です。【追記ここまで】

 平成3年分の「今日の一曲!」はB'zの「もう一度キスしたかった」(1991)です。後にリリースされる幾つかのベストにも都度収録されているので、シングル曲だと認識している方もいらっしゃるかもしれませんが、5thアルバム『IN THE LIFE』にて初出のナンバーとなります。

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 斯く言う僕も本曲を初めて聴いたのは『B'z The Best "Treasure"』(1998)にてで、当時は小学生で未だディスコグラフィックなことにまで意識が向く年齢ではなかったため、「こんなに良い曲だしベストに入っているんだからシングルに違いない!」と疑いもしませんでした。笑 以前にアップしたB'zの記事にも書いていますが、これと似たようなパターンには「いつかのメリークリスマス」(1992)も挙げられ、アルバムの中に隠しきれなかったシングル級のポテンシャルが爆発した人気曲として、両者には共通性があると分析します。

 上掲記事は当ブログで初めてB'zを単独テーマに立てたものなので、その出逢いについても簡単に記しているのですが、親の影響で好きになったところが大きいアーティストの一例です。聴き始めたきっかけ自体は『名探偵コナン』のOP曲「ギリギリchop」(1999)か、もしくは『Beautiful Life~ふたりでいた日々~』の主題歌「今夜月の見える丘に」(2000)を、それぞれアニメ・ドラマを観ていた影響で自ら気に入ったからだと記憶していますが、そこから深掘りが出来たのは、その時点までにリリースされていたアルバムやシングルが全て家にあったおかげだと言えます。

 ベスト盤にもその過程でふれたのですが、上掲の二曲をおさえて当時いちばん気に入っていたナンバーが、何を隠そう「もう一度キスしたかった」でした。小学生にしては(だからこそ?)ませた嗜好であることは否めないものの、本曲が抱く激しい切なさには強く惹かれるものがあったのだと、顧みてもそう思えます。その後大人になってからの僕の人生に、本曲が真に刺さるようなシチュエーションは幾度か訪れましたが、それらを差し置いて小学生の頃に受けた衝撃のほうが大きかったと言えるので、ピュアな時分だからこそ捉えられた素直な何かがあったのかもしれないと遠い目です。



 このままだと主観が過ぎる自分語りレビューで終わってしまうので、以降では曲の内容を具体的に見ていくとしましょう。まずは歌詞の技巧性から。

 小学生でも何となく良さを見抜けたということは、つまり歌詞がわかりやすかったとも換言可能かと思います。わかりやすいにも色々あるのでもう少し絞りますと、本曲は「物語性の強さ」こそが容易な理解につながっているとの認識です。それが端的に表れているのが季節感の描写で、1番では"眩しい夏につかまえた"、2番では"秋の扉たたくまで"、ラスサビでは"木枯らしが過ぎようとする頃"と、曲の進行と展開がリンクしているため、時間軸の迷子にならない親切設計となっています。


 この類の通時的な情景描写は稲葉さんの得意とする作詞スタイルのひとつだと考えていて、本曲に於ける夏~冬のようにそこそこ長いスパンの積み重ねが光るものもあれば、以前に稲葉浩志ソロワークスの記事で取り上げた「静かな雨」(2003)のように"ほんの数分間"を切り取ったがゆえの儚さが冴え渡るものもあって、こと男女の出会いから別れにフォーカスさせたら、秀逸なセンスを有しているよなと絶賛です。

 「いや、寧ろ王道の描き方では?」というツッコミが来ることは想定済みで敢えて書きましたが、本曲については表題でもある"もう一度キスしたかった"が、登場する度に役割を変えている点も考慮した上で折紙を付けています。男女の出会い~別れを描いた楽曲の多くがエピソディックな思い出の例示だけに終始してふらふらしがちな中、ライナーな時間の進行は維持しつつも主題に据えるフレーズを形式上は一切変えない(=それなのにきちんと変化を生んでいるのが巧い)といった芯の強さが、稲葉さんの書く歌詞の素晴らしさであるとの主張です。曲名から滲む女々しさの裏に、男らしさをきちんと感じさせるところが奥深いとまとめます。


 引き続き歌詞を掘り下げていきましょう。既に小学生でも理解出来たわかりやすさの観点からは遠退いてしまっている気がしますが、大人になってから一層の重みを伴って響いてくるような、深みのある言葉繰りが披露されているのも本曲の魅力です。

 とりわけ感銘を受けた一節は、ラスサビの"痩せてしまった二人の灯に/誘われてあなたはやってきた 決断を吹きかけるため"で、コロケーションとしては珍しい"決断"と"吹きかける"の結び付きが、"灯"によって成立していることに鮮やかさを覚えました。この時点では未だ決断は下されていないにも拘らず、"吹きかける"という言葉の存在によって、"あなた"が"僕"との関係に確実に終止符を打ちに来たことが暗示されているのが、残酷なれど美しいですよね。

 もう一点、2番サビの"逢えない日々がまた始まる/安らぎと偽りの言葉を 何一つ言えないままに"も、解釈のし甲斐がある歌詞だと思っています。着目したいのは"偽りの言葉"で、これが二人の関係性の進展のために打算的に繰り出すであろう台詞のことなのか、或いは表題に代表されるような種々の願望(=○○したかった)を押し殺したことの表れか、もしくは現実逃避の意味合いを多分に含んだ空虚な安息(="安らぎと")を補強するための語なのか、将又これら全てに伴う感情が複雑に絡み合って盲目になりつつある己を自虐的に見た結果で出た表現か、いくつも筋道が立てられる意味深長なワードチョイスです。



 歌詞解釈だけで九割方は満足してしまいましたが、作編曲面に関する言及も雑多にですが行うとしましょう。

 またもわかりやすさの見地に立つと、本曲のサビメロのキャッチーさというかシンプルさは、一度聴いただけでも曲全体の良さを判断出来る好材料となっているため、ゆえに幼い自分の耳にもすっと馴染んだのであろうと推測します。この旋律の聴き易さをまず評価したい。

 お次はイントロとアウトロおよびサビ裏の鍵盤アレンジについて。これはサビメロを踏襲したものとなっており、この手の編曲はもう少しアッパーなトラックであれば疾走感の増強につながりますが、本曲のようなミディアムバラード系の楽曲では淡々とした展開の補助として機能し、ともすれば単調に(悪い言い方をすれば手抜きに)聴こえてしまいかねない扱いの難しさがあると思いますが、本曲に於いては容赦無く進んでいく時間の厳しさの演出に寄与しているとも言えるので、歌詞内容に寄り添った結果だとポジティブに解釈します。


 最後にロック要素を語ると、直近に「バラード」という単語を出していることからもわかるように、その点では比較的控えめな仕上がりです。後に出たバラード集『The Ballads ~Love & B'z~』(2002)にも本曲は収められているため、このカテゴライズに異を唱える方は少ないかと予想しますが、それでもエレキサウンドによるエモさはしっかりと取り入れられています。

 2番後間奏の努めて冷静で居ようとしているのがわかるメロディアスなギターソロも、アウトロの抑えていた想いが堰を切ったように溢れ出したのが伝わる憂いを帯びた泣きのソロも、それぞれが違った表情で響いてくるので、きちんと日本人らしい感性を反映させた松本節が効いている;ひいてはこれがB'zの美点だと感じ取れる、マスターピースたりうるナンバーだと結びましょう。


 余談:当ブログでB'zの楽曲を取り上げるのは本記事で三曲目となりますが、一度目が「SNOW」(1996)二度目が「GOLD」(2001)であったため、立て続けに三曲バラードを紹介したことになります(ちなみにこの二曲も上掲のバラベスに収録)。「SNOW」の選曲理由は「今日は何の日?」に、「GOLD」は「ランダム」に由来しているので、いずれも偶々でしかないのですが、B'zのバラードナンバーだけが好きなのかと誤解されそうなラインナップになってしまっているので、ロックが前面に押し出されている楽曲もしっかり好きなのだということは補足しておきますね。笑 今後の「今日の一曲!」でB'zの曲を取り上げる機会があった際は、流石にバラードは自重すると約束します。