
今日の一曲!しぐれうい「ういこうせん」
レビュー対象:「ういこうせん」(2024)

今回取り上げる楽曲は、ハイパーつよつよイラストレーター・しぐれういさんの「ういこうせん」です。本業での活躍は勿論VTuberとしての人気も圧倒的で国内個人勢トップに君臨、音楽活動でも目覚ましい成果を上げておりまさに才媛と評せるものの気取らないスタンスで親しみ易くリスナーとの距離が近い方だとの認識でいます。本曲に関しては待ちに待ったMVが先週に公開されたばかりなので、音源リリースは去年ですが目下のレビューはタイムリーと言えるでしょう。
収録先:『fiction』(2024)
本曲の収録先は2ndアルバム『fiction』です。1stと異なり全曲がオリジナルで構成された意欲作で、ヒット曲「うい麦畑でつかまえて」(YouTubeリンク)も収められています。同曲もかなりのお気に入りではありますが、本作で最も印象に残った且つ過去曲と比較してもNo.1に推したいのはこの「ういこうせん」で、個人的なツボに刺さりまくったナンバーでした。
その理由は楽曲制作をにゃるら×Aiobahn +81の鉄板タッグが手掛けていることに拠る部分が大きく、当ブログのMV紹介記事の13.に取り立てたAiobahn feat. KOTOKO「INTERNET YAMERO」(2023) および さくらみこ「Sakura Day's」(2024)を甚く好んでいるのと同様のマインドが働いています。何れも根底にあるのは古き良きオタク精神で、今尚それを忘れまいと足掻く姿勢に矜持と共感とを覚える系譜です。
歌詞(作詞:にゃるら)
まずタイトルの「ういこうせん」について考えますと、元々「ういビーム」というミームがあることは知っていて、聴く前は「うい光線…ってコト!?」と思っていました。しかしいざ聴いてみるとそれほどビーム要素がなく、強いて言えば"光る指先 照らす行き先"という歌詞とエッジィなシンセの質感がビームっぽく、ライブ演出でもレーザーが飛び交いそうだなと感じたのが初聴時の感想です。
その後繰り返し聴くうちに"大きな船" "労働" "あれる波"といったワードが気になり始め、加えてサビメロの規則的な音運びから窺える作業の趣に意識が向いた途端、「蟹工船か!」と一気に疑問が氷解したのがカタルシスでした。これに気付くと曲頭の"おい!おまえら天国行くぞ!"や、ラスサビの"もう一回!"も元ネタを踏襲していると分かり感心します(青空文庫リンク)。
同じくにゃるらさんが作詞した「INTERNET YAMERO」冒頭の歌詞が宮沢賢治『春と修羅』の序文をパロっている点や、別のクリエイター制作ながら「うい麦畑~」がJ・D・サリンジャー『ライ麦畑でつかまえて』をもじっている点など、文学的ファクターを導き出すヒントは外部にもありましたね。
蟹工船は地獄行きですがうい工船は天国行きを謳っているので、歌詞に描かれているのはしぐれういというバーチャルな存在が見せてくれるオタクたちの夢です。つらいリアルとの対比で歌詞が展開していくのは王道と言え、"オタクたちは ういの夢見る たすかる"はリスナーとの関係性を端的に表しています。ここまでならまだ「日々の息抜きにVTuberを見て楽しむ」といった純粋なエンタメの向きが強いけれど、"どうせリアルは監獄 あなたとなら堕ちていく地獄"と現実の惨状はそのままに電子の海に天国を創造する誘惑はより共依存的です。「天国の正体が単なる現実逃避でも構わない地獄の住人のみ乗船しろ!」の気概が感じられます。
以降はこうして「一方通行だけれど一蓮托生」の奇妙な距離感が深化していく描写が巧みです。架空のキャラクターとは違ってガワと密接な魂が存在する以上"恋焦がれ高まる官能"とガチ恋の心理に一定の正当性があるように見えても、"残念ね お触りはNO"と結局は次元の壁に隔てられている事実を突き付けられ、それでもなお"制服の内に秘めた感情"を知りたいと願うのは哀しき性…と、安易なオタク像で片付けたくない純粋さが次のスタンザにはあります。あまりにも詩趣に富み詞華が咲き誇っていて感動したので丸々引用しますと ――
虹色つけたラブレター/ヤギは読まずに食べた
マシュマロ ふわり 隠した/想い 告げずに 泣いた
ドレミ 甘くて苦いモンスター/黒い砂糖と飲んだ
ソラシレ さめない夜に流れた/季節外れの時雨に
―― ファンシーな言辞の中に鏤められた「痛み」がとても印象深いです。VTuberの文脈を考慮して一行目はスパチャを二行目は匿名質問サービスのそれを指すと解せば、自我を出したメッセージがスルーされても自我を出せないメッセージは送れないという線引きに承認欲求の虚しさを感じます。そのもどかしさに折り合いが付けられないままに肥大した恋心を服毒*で制するような自己矛盾がオクシモロンに表れている三行目と、"さめない夜"の永遠に降る"季節外れの時雨"が袖を濡らして唯々侘しい四行目で以て、夢中に死せる明日の希望と絶望を伝えるには充分です。
* ここで言わんとする「毒」とは過剰な糖分のことで、当該の"モンスター"がエナドリを指すならという理解に立っています。とはいえあまり強い確証は持てなかったため別解釈として制御不能の恋心を怪物に見立てた説を主軸に据えたのですが、MVにそれらしい缶が描かれている[1:18~1:22]と判明したのでエナドリ説も俄に有力です。
とことんヒロイックに堕ちたところで注意喚起"逃避行の果てに広がる黄金のうい麦畑"が近いと知らされ、"救済も楽園もきっとあるんだよ"の言葉を信じて"ボクたち毎日働く/少女を夢見て輝く"と地獄を生き残れば、工船は光線に導かれるままに進んで行きます。
続く一節では視点を一旦客観にするのがニクくて、"他人からすれば出来の悪いシュール/それでも生きてる 一夜限りのアバンチュール"と、バーチャルに熱狂する集団の異様さを認めた上でレゾンデートルとする強かさにうい船長の頼もしさを見ました。雑記事でも述べた通り長らくV界隈を奇異の目で見て避けていた自分にとっては、"ヒト"ではなくなった途端にシュールから超が取れてリアルとなった経験そのものが"踊れば天国"を証明しています。
メロディ(作曲:Aiobahn +81)
歌詞の項でも少しふれたように、規則的な音運びから窺える作業の趣はひとつのキーでしょう。ルーチンワークの表現に派手な展開は似つかわしくないからか、労働にフォーカスしている1番Aメロと各サビ前半は敢えてネガティブに表現するなら単調です。しかしそのミニマルさは同時にダンスミュージックとの高い親和性を誇るので、アレンジと合わさることでキャッチーなラインとして聴き心地の好いものに昇華されています。
だからこそサビ後半でややラップ調になる変化が際立っており、徹底したライミング【「ル/る」の脚韻、単語単位の押韻「コメント|メメント」「即BAN|画板」、「く」の脚韻】と相俟ってノリの良さは抜群です。"チャット欄へ放つボトルメール"の歌詞を見ないと全て英語らしく聴こえる流麗なフロウが格好良い。あと"オタクたちは"の歌い方が「オタクたちわhぁー⤴」なの可愛い。
一方でBメロとCメロは共に切なくメロディアスなつくりで上記との対比を見せており、多めの台詞インサートとミニマルなラインだけでは表現しきれない複雑な感情の機微を伝えるのに役立っています。とりわけ先に歌詞の素晴らしさを絶賛したCメロについてはその美メロっぷりにも感銘を受け、この完成された旋律を前に心が無防備になって袖時雨不可避でした。歌詞解釈に述べたようなガチ恋の心理を持ち合わせているわけではないけれど、「我ながら思ふか物をとばかりに…」と錯覚させるだけの高山流水ではあると評せます。
アレンジ(編曲:Aiobahn +81)
メロディの項に言及したような視点はアレンジ面でも当てはまり、反復の美学でルーチンとミニマルにアプローチするダンサブルな仕上がりです。全体を通じて印象的な力強く鳴り渡るシンセリフはサビメロをなぞった(先取りした)ものなので、フロアで初めて聴いたとしても即踊れる親切設計となっています。別けても1番サビ前台詞パートのバックで断続的にピチカートっぽい響きになるフィルター使いが、熱狂直前の危うい雰囲気を巧みにコントロールするDJ冥利に尽きたプレイで好みです。これも含めてテクノポップなベースラインに跳ねまくったピアノが特徴的な1番のほうがトラックとしては耳に残ります。
2番はそのままサビに入らず曲調的には異質なCメロが割り込んでくるため、その布石としてかサウンドは抑制気味です。詩歌の素敵さを立てる情緒纏綿な伴奏はMVの世界観[2:45~2:58]が解釈一致で、一音一音に光の粒を幻視するような空間への広がりはまるで宇宙だと感じていました。以降は王道のアンセム展開で、マイクパフォーマンスで煽られビルドアップで焦らされてからのドロップインで昇天です。
オタ活記録:しぐれうい編
去る3月9日からついこの間6月1日まで開催していた、初音ミク×国際通り(=県道39号線)のイベント「CHURA MIKU STREET」の写真をシェアします。画像の通りメインビジュアルをしぐれういさんが担当しており、至る所でイラストが使われていました。このコラボを知ったのは沖縄に来てからで、一つ潰れた予定の代わりに急遽満喫した次第です。
那覇オーパのPOP UP SHOPに赴きグッズを買った後は限定ポラロイドカードを幾つか集めようと決意し、軽食がてらナンポー那覇国際通り店とパーラー星ヶ丘ぽったま国際通り店でコラボメニューを頂きました(どれも美味しかった)。メインの食事はタイミングでなかったため、やっぱりステーキはチラシを撮っただけでスルーです。右下のはコラボ無関係なのですが、ライカムで見つけたフリューくじの販促POPがちょっと凝っていて驚きました。
購入品やらノベルティやらはこんな感じです。オーパ以外に国際通りのお店や那覇空港で買ったものもあります。ポラロイドは全8種中半分の4種をゲット。どれもビジュとシチュ良!ちなみに下掲エイプリルフール配信の[12:59~13:23]では、うい先生が小学生の頃に描いたミクちゃんのイラストを拝むことが出来ます。才能のある方が努力を怠らなかった軌跡の一端にふれましょう。
最後は所持しているういママ関連のグッズをまとめて紹介します。くじ景品類は上記のライカムで引いたものではなく、近所で5枚だけ引いた結果です。C賞のぬいと9さいのカードにやや当たりの感を覚えるも、地味に嬉しかったのは缶バッジの可愛さでした。
スイパラのアクスタとスバルのパネルは以下のもので(マケプレ注意)、どちらも気に入っており普段から飾っています。