天久聖一withギ・おならすいこみ隊の「モテたくて…」がC-C-Bと松田聖子を取り込んで進化! | A Flood of Music

今日の一曲!電気グルーヴ「21世紀もモテたくて…」

 

乱数メーカーの結果:934

 

 上記に基づく「今日の一曲!」は、電気グルーヴのセクション(934~953)から「21世紀もモテたくて…」です。詳しい選曲プロセスが知りたい方は、こちらの説明記事をご覧ください。

 

 

収録先:『The Last Supper』(2001)

 

 

 オリジナルアルバムではなくセルフトリビュート盤という位置付けの本作は、大雑把に説明すれば電気と関わりの深い面々によるリミックス集です。込み入った経緯のトラックもあるため大雑把と断りを入れましたが、今回紹介する「21世紀もモテたくて…」はその好例と言えます。

 

 まず初めにThe 天久聖一 with ギ・おならすいこみ隊の「モテたくて…」(1993)というトラックが存在し、これは雑誌『TV Bros.』の読者プレゼントに当たれば貰えた非売品シングルの表題曲です。企画モノゆえの変名だけれどおなら~のメンバーは石野卓球・ピエール瀧・まりん(砂原良徳)なので、ボーカルに天久さんを迎えた電気の楽曲と換言出来ます。下掲の別雑誌も参考になるでしょう。

 

 

 そんなギ・おならすいこみ隊の「モテたくて…」(1994)が収められているのが、電気主催レーベルのコンパイル盤(という設定の)『DRILL KING ANTHOLOGY』です。同曲では天久さんの代わりに瀧さんがメインボーカルを務めているため、尚の事メタ的には電気の楽曲として差し支えないでしょう。ただし設定上はトッポ・ポーゴ・カネやんという隊員名がありますし、後の備考欄に記す通り楽曲のクレジットも変名となっています。

 

 

 次にこれは書籍且つ未所持なので何処まで楽曲と関連があるか僕にはわかりかねますが、『TV Bros.』誌上の連載を纏めた1995年発刊の単行本のタイトルも『モテたくて…』です。著者は天久さんと椎名基樹さんで、両名共に電気と深い仲の人物であることの概説はWikipediaをご覧ください。同作の帯には石野さんがオビラーとしてコメントを寄せています。

 

 

 こうして数年に亘り「モテたくて…」という表題が保持され、更に時が流れて2001年の作品『The Last Supper』にリメイクバージョンが収録される運びとなり、変遷のわかりやすい曲名「21世紀もモテたくて…」に相成ったのでした。便宜的にリメイクと表現したものの、クレジットに則ればre-thoughtが正確なところです。この言い回しは他の収録曲では、「ドリルキング社歌2001」「カフェ・ド・鬼」「B.B.E.」「N.O. (Nord Ost)」にも見られます。

 

 また、初回限定盤のボーナスCDには「モテたくて…(天久カペラ)」も収録されており、これは非売品シングルのc/wが初出です。アカペラと掛かっていると思われる曲名の通り基本的にはボーカルのみの音源ですが、トラックからのフィードバックを若干感じられます。レコーディング時のプラクティスでしょうか。

 

 

歌詞

 

 ここまでに紹介したどのバージョンも歌詞が異なる上にカードに印字されている内容もあまり正確でないため、一部の表記は聴き取ったものを文字に起こした我流である点を平にご寛恕ください。とはいえエッセンスはどれも共通しており、モテたい一心であれこれする男の性が描かれています。『DRILL~』の解説文を借りれば、「“我がモテたいがゆえに、我在り”という基本哲学は変わりないので、ご安心のほどを」とのことです。笑

 

 歌詞カード上には"インターネットでモテたいっすね"と21世紀らしい文言(2001年ならではという意味)が存在するものの、実際にそう歌っている箇所はなく寧ろ80年代のネタが多く鏤められています。"モテたくて口裂け女ですよ/モテたくてハウスマヌカンですよ/モテたくて愛人バンクですよ/モテたくてW浅野ですよ"は、僕の年齢では知識のみの領域です。

 

 このパートはバリエーションが豊富で(以降"モテたくて"は割愛)、元々の93年版では"夢飛行っスよ/涙雨ですよ/港町ですよ/死化粧っスよ"と哀調帯びた雰囲気が醸されていたものが、94年版では"待ち伏せっスよ/バンダナっスよ/パーマネントっスよ/ジューサーミキサーっスよ"と具体的なモーションやアイテムに変化していき、01年版で何故か80年代に回帰しています。

 

 どれもモテたくて空回りしているフレーズだと思うので実効性には疑問符が付くけれど、そんな中で異質に現実的だと感じたのが"都会の女にモテたいっすよ/雑煮の味付け違うじゃないっすか"です。生まれが東京ゆえか潜在的に地方出身者に惹かれる節(或いは逆に好かれる傾向)が僕にはあり、実際の交際経験もこの個人的法則に合致しているため、その反動としてなら"都会の女に~"の願望が自分にもある気がします。まあ僕の倒錯は扨置き、この差異を"雑煮の味付け"に見出す日本人ならではの着眼点に共感です。

 

 

メロディ

 

 トラックで聴かせるタイプというかバックのサウンドが賑やかなので、敢えてボーカルラインだけを取り立てるとその旋律性は抑制的と言えます。放蕩感のあるフレージングにボコーダー的なエフェクト処理が相俟って、歌詞は聴き取り辛くメロの動きも掴み難いです。"モテたくて"のパートは台詞ですし、女声のコーラスが最もメロディアスに振る舞っています。

 

 93年版は"(カムイ)"のパートに発展性が感じられ、94年版はトラックが比較的ストイックでテクノ志向だからか01年版よりは旋律に意識が行き易くなっているため、バージョン毎に魅せ方を変えている印象です。

 

 

アレンジ

 

 

 誤解を恐れずに言えば、本曲のサウンドの中核は別アーティストの楽曲が担っています。C-C-Bの「Romanticが止まらない」(1985)はクレジットにも明記されており、だけあってキャッチーでわかりやすい使われ方をしていますが、松田聖子の「天使のウィンク」(1985)もまた大胆な取り込まれ方で、どちらも有名なだけにこの扱いの差は何故だろうと不思議です。

 

 電気の領分としてはその名の通りグルーヴ作りが巧い;つまりサンプリング使いに妙味があり、イントロに据えられた「天使~」はシンセの近未来感が確かに21世紀然としていますし、間奏に来る「Romantic~」はテクノポップでクールでしかしキュートに極めておりモテそうな気配は感じられます。

 

 

 

 
 

備考:クレジット一覧

 

 通例であれば各見出しには括弧書きで作詞者と作編曲者の名前を表示するのですが、歌詞カードには作家陣がひとまとめで記載されていることに加えて、元ネタの元ネタ…と遡れるのがややこしいのと変名の問題、更にはサンプリング元の制作者の扱いまで絡んで複雑極まりないので、本項に情報を集約させます。一部情報の不足や表記揺れがありますが、クレジットに忠実にした結果です。

 

■ The 天久聖一 with ギ・おならすいこみ隊「モテたくて…」(1993)

    作詞/天久聖一 作曲・作曲・プログラミング/石野卓球

 

■ The 天久聖一「モテたくて…(天久カペラ)」(1993)

    written by the amahisa masakazu / takkyu ishino

    ※ 『The Last Supper』での表記を採用

 

■ ギ・おならすいこみ隊「モテたくて…」(1994)

    作詩:天久聖一&ミスターMOTTE 作曲:山田山男

 

■ 電気グルーヴ「21世紀もモテたくて…」(2001)

    written by takkyu ishino / pierre taki / the amahisa masakazu

        re-thought by denki groove

 

■ C-C-B「Romanticが止まらない」(1985)

        作詞:松本隆 作曲:筒美京平 編曲:船山基紀・C-C-B

 

■ 松田聖子「天使のウィンク」(1985)

    作詞・作曲:尾崎亜美 編曲:大村雅朗