フレデリズム(初回限定盤CD+DVD) - フレデリック
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レビュー対象:「ふしだらフラミンゴ」(2016)
今回取り上げるのは、独特なポップセンスとややレトロなサウンドメイキングで中毒性のある楽曲を連発しているフレデリックの「ふしだらフラミンゴ」です。インディーズ時代から存在するナンバーで、初期のバージョンは自主制作盤『死んだサカナのような眼をしたサカナのような生き方はしない』(2011)に収められています(MUSICAリンク)。同盤は所持していないため、本記事に於いてはメジャーデビュー後にリテイクされたバージョンがレビューの対象です。過去に曲名だけならこの記事に挙げており、特に気に入っている旨を表明しています。
収録先:『フレデリズム』(2016)
本曲の収録先は1stアルバム『フレデリズム』です。大バズり曲「オドループ」(YouTubeリンク)を含む全15曲構成で、このうち「ナイトステップ」に関しては個別記事を書いたことがあります。複数のミニアルバムから表題曲が改めて収録されていたり、「ふしだら~」の他にも『死んだ~』からの再録があったり、それでいて初出しの新曲が9曲もあるという大満足のボリューム感です。
自作のプレイリストに照らすとフレは15*3の45曲編成で、上位15曲に相当する1stに本アルバムからは「オドル~」「オワラセナイト」「ふしだら~」を、2ndには「CYNICALTURE」「オンリーワンダー」「ナイト~」「リリリピート」を、3rdには「KITAKU BEATS」「音楽という名前の服」「ハローグッバイ」を登録しており、愛聴していることの証明になるかと思います。
歌詞(作詞:三原康司)
フレの歌詞世界はそもユニークなものが多く解釈に悩みがちになるのですが、本曲については殊更にナンセンスな気がして例によって意識の流れを持ち出さないと、或いは何某かの元ネタを知らないと読み解けないのではと及び腰です。
歌詞参照先:フレデリック ふしだらフラミンゴ 歌詞 - 歌ネット
L=Line:L1~34=上掲ページの歌詞一行目~三十四行目
P=Phrase:LnP2=n行目の空白(スペース)を境に前半がP1で後半がP2
冒頭から状況が謎で、L1には「動物園かな?」、L2には「茜は草では?人名(木下茜)?」、L4には「いや、何もわからん」 …とそれぞれツッコミたくなります。ただタイトルの「ふしだら」に鑑みるとこのフラミンゴとは特定の誰かのことで、状況的に「僕」に振り向いてくれない女性に対して独り言ちている場面かなとの受け取めです。
実際あわよくばな下心を窺えるフレーズは登場していて、L9やL11には一方的な客体化の向きがあります。L5のマニアックな加虐趣味とL16の完璧主義に若干の狂気を覚え、前者はキュートアグレッション的なアレだろうかとか後者の修正ペンとはナニの隠喩だろうかとか、ふしだらな解釈が頭を擡げる始末です。
この背景に何やら因縁めいたものがありそうなのを繰り返されるL7から察し、本来群れて生活するフラミンゴから逸脱した社会性の欠如を思わせるL8と、アウトローが独り善がりな行動に出る際の動機付けとなり得るL10からは、ターゲットのフラミンゴを振り向かせるためなら危うい手段を取りかねない怖さが垣間見えます。
この路線での解釈とは無関係にL12~13は含蓄があって好きなフレーズで、集団のパワーバランスを決定付ける背後に蠢く権謀術数が一見は不可視であることのリアリティと、その蚊帳の外に置かれている自分の無能を薄っすら自覚してしまう絶望感の描き方が巧みです。
上記は色恋沙汰にも言えることではあり、意中の人がいる且つライバルもいるなら余計にASAPでトッププライオリティの座に就かないと、本曲の「僕」のように傍目から臍を噬む破目になっちゃうよとの警鐘にも聞こえます。
メロディ(作曲:三原康司)
全体を通じてコミカルな旋律が優勢である中、対照的にサビメロ(L7~)の怨嗟めいた趣が際立つ組み立てです。便宜上ここをサビと規定したもののL1~のパートをサビと見る区分も捨て置けず、事実終盤ではその両方が同時に進行して立体的な音運びになります。
L13とL15のバックコーラスには正直笑ってしまい、脳内に出てきたのはココリコの遠藤さんです(ホホホイのネタ)。歌詞の項では集団のパワーバランスだの色恋沙汰だのと真面目に語ったパートだけれど、この馬鹿馬鹿しいマウント合戦止めません?とでも言いたげな道化らしさが表れた実は意味深長な、もしくは全くの能天気で無責任な印象さえする名コーラスだと評します。
アレンジ(編曲:フレデリック)
コミカルなフレージングは編曲面でも同様で、軽妙なバンドサウンドを軸にその他装飾音の主張も強いです。ホーンセクションは豊かな音像を醸しつつもやはり何処かおどけていて、ギロの登場もジョークっぽく感じます。
一方で中盤の間奏部には皮肉じみた格好良さがあり、これを挟んで以降は全ての楽器の鳴りが噛み合いグルーヴは絶好です。特にラストのL27~でイントロがリプリーズしてくるところが良いサプライズで、冒頭に覚えたコメディのイメージがシリアスに上書きされます。
旅行記事に埋もれた「YOU RAY」のレビュー
フレは過去に何度か取り上げている存在ですが、相変わらず面白いバンドだなと興味が尽きません。中でも本曲は近年のキャリアに於けるいちばんのフェイバリットで、ボーカルを三原弟(康司さん)に委ねたことが見事に功奏した名曲との評価です。この点は『FREDERHYTHM ARENA 2022』の曲前MCでふれられており、デモを聴いたお兄ちゃんが「これは康司が歌ったほうがいい」と判断したそう。曲後MCで健司さんが自分の声に関するコンプレックスと反骨精神について語るので殊更に決断の重みが感じられます。
物憂げで童謡チックなマリンバと寂寥感を携えたストリングスのコンビネーションで楽曲の雰囲気が決定付けられ、仰けから「幽霊」が出てくるには申し分ないサウンドスケープです。往年の歌謡曲然とした進行で歌われる旋律もまた儚げで、葉も疎らな木々が立つ湖畔のベンチに腰掛け目前の水面を眺めている男のビジョンが浮かびます。
歌詞参照先:フレデリック YOU RAY 歌詞 - 歌ネット
L=Line:L1~17=上掲ページの歌詞一行目~十七行目
P=Phrase:LnP2=n行目の空白(スペース)を境に前半がP1で後半がP2
別れの瞬間を描いた冒頭のスタンザのみL3~4の描写から暖かい季節が想像されるものの、直後の間奏で文字通り時間が流れL5と共にリズミカルに動き出す弦を通じて、「喪失で止まった自分の時間」に相対する「外世界の通常の時間の流れ」が嫌に速く感じるのを表現しているふうに聴こえました。
「あなた」と共有した時間を正の数として次第に「0」へと向かう歌なのでカウントダウンと共に時間も進み、L8のような思念上の存在と化す頃にはすっかり寒空でL14をそのメタファーと捉え、愈々「0」になってようやく掛け替えのない「ray(光)」に変わったのだと結べます。