昔、歴史は文学であった。
そして、あらゆる学問の母であった。
経済学も、社会学も、政治学も、倫理学も、ーー哲学すら歴史の中にあった。
歴史はこれらのさまざまなものをふくんで洋々と流れる大河であった。
社会の発展と学問の進歩によって、分化が行われたのは必然の結果であり、いたし方ないことではあるが、ぼくには古代の素朴な歴史書がなつかしい。ぼくが少年の頃から六十の半ばをこえる今日まで、史記を愛読しているのは、このなつかしさがさせるのである。
学問としての史学とは別として、歴史が一般の人に結縁し、人生の知恵になるのは、こういう史書によるとも、ぼくは思っている。
ぼくが好んで史書を書き、史伝を書く理由の一つはここにある。
(海音寺潮五郎『武将列伝』あとがきより)
この一節を読むたび、私は静かな感動をおぼえる。
ロマンチックな冒頭。
ピュアな心情に満ちた中盤。
結びは、もっとも氏らしい謙虚でひたむきな公益心がうかがえる。
そして、氏の歴史の力を信じる強い思いを感じるのだ。
私には史料を渉猟することなどできやしないが、このように歴史にはすべてのものが包み込まれていることがわかる。
これからもこうした先達にふれ、生涯の愉しみとしたい。
今まで74編に登場した人物ほか、早見リンクです。
【古代編】
平将門木像 毎日新聞ウェブサイトより
【中世編】
名のない歴史を動かすもの
【戦国時代編】
支倉常長像 Wikipediaより
【近世編】
天海
【幕末維新編】
高杉晋作 国立国会図書館ウェブサイトより
【近代】
乃木希典 山口県の先人たちウェブサイトより
【テレビドラマ・その他】
西田敏行さん NHKアーカイブスより
一年間、ありがとうございました。
それでは、よい新年をお迎えください。
※タイトル画像はtenki.jpより