細かい計算ができるような状態ではありません。ただ1kmごとのラップが9分を切ってさえいれば90km関門に引っかかることはありません。9分を切ることだけを考えて足を進めました。
しかし足の状態はもはや限界です。両膝の痛みに加えて、ふくらはぎもパンパンになっています。おかしな力が加わると、すぐに攣ってしまいそうです。ここで攣ってしまっては、その時点で完走の夢は遠ざかってしまうでしょう。足底も痛みを増しています。両足首とも腫れあがっているのか、足首の可動域がかなり狭まっている感じでほとんど動かすことができません。足首を動かさず、ただ足を前に運ぶだけというフォームになっていました。残り10kmあまり。せっかくここまで来たというのに、ここでトラブルが発生して進めなくなるなんていうことはまっぴらです。
やがて90km関門を通過しました。関門制限時間までは9分ほどありました。80km関門を通過したときより少し余裕が広がっています。
ちょうどそのとき、反対側を駆けてきたランナーが係員に止められていました。
「ここから90km関門まで3kmくらいあるよ。残り10分を切っているし、もう間に合わないでしょう」
そんな係員の言葉が耳に入ってきます。手を伸ばせは届く距離にいるというのに、私と彼の間には3kmもの距離があるのです。ここまで87kmもの長丁場を走ってきながら・・・彼の無念は、もしかすると数km先の私の無念となるかもしれません。
90km関門を通過してからも、反対側を歩いているランナーを数人見かけました。一様に疲れきった表情で歩いていましたが、もはや関門を通過できないことはわかっているはずです。だというのに、前に向かって進まなければならないという、悲しいランナーの性をそこに見ました。
私にはまだゴールするチャンスが残されています。ここまできていながらゴールゲートをくぐらないというわけにはいきません。歩みを緩めることなく、私はゴールを目指しました。
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1.無言の抗議
2.思い上がり
3.初フルでの挫折
4.ホームページ開設
5.北海道マラソン、奇跡の完走
6.そしてサロマへ・・・